サンクトペテルブルクからの帰途、ミュンヘンで乗り継ぎの間にロマンティック街道に連なる諸都市の内、ネルトリンゲン、ドナウヴェルト、アウグスブルクの3都市を訪れた。鉄道では、ミュンヘンからもっとも遠いネルトリンゲンまでは、ドナウヴェルト経由で約2時間かかる。雪の積もったロマンティック街道、もちろん氷点下で寒い。しかし厳寒のサンクトペテルブルクから来ると、本当に暖かく楽園のように感じてしまう。<br /><br />「ロマンティック街道」という名称は多くの人に誤解を与えていると思うが、「ロマンティック」な街道という意味ではなく、もともとローマ人により「ローマへの巡礼の道」として作られた街道である。近年これを見事にドイツでもっとも人気のある観光地に仕立て上げた。全長はヴュルツブルクからフュッセンまで366kmあり、ヨーロッパバス運営の観光バスが、夏の間のみ主要都市に停車しながらゆったりと走る。少々観光化し過ぎているためか、現在世界遺産には登録されていないが、実際ここに連なる多くの町は、中世の面影を残した魅力を備えている。鉄道は平行しては走っていないので制約がある。ミュンヘンから日帰りで訪れるのはこの3都市までが限度であり、またヨーロッパバスではドナウヴェルトのようなマイナーな町を訪れることはできない。<br /><br />ロマンティック街道で人気スポットは、ノイシュヴァンシュタイン城、ローテンブルク、ディンケルスビュール、ヴュルツブルクなどであり、私も20年以上の昔に訪れた。しかしドイツで手に入れたガイドブックによれば、この街道沿いには27ヶ所が観光スポットとして紹介されている。体力があるうちにいつかこの諸都市を自転車でのんびりと巡って見たいものだ。<br /><br />前置きが長くなったが、ネルトリンゲンは1500万年前に落下した隕石による、直径約24kmのクレーターであるネルトリンガー・リースに築かれた町である、ということに驚かされる。折しも2月15日に、ロシアのチェリャビンスクに落下した隕石のエネルギーは原爆の25倍だと報道されていたが、少なくともアリゾナやネルトリンゲンのようなクレーターは形成されていない。ネルトリンゲンに落下した隕石の直径は約1.5km 、推定エネルギーは原爆1800万個分であったというから桁違いだ。人口密集地に落下することを想像すると、これはまさにハリウッド映画の世界である。隕石については市壁の北部のバルディンガー門の近くに、リース・クレーター博物館に展示があり、大変興味深い。かつてアポロ宇宙船の飛行士も訓練に訪れたそうで、隕石のみならず、化石類や月の石などの展示もある。<br /><br />ネルトリンゲンの美しい旧市街は、直径約1kmのほぼ円形の市壁の中にある。1327年に建造された市壁は、5つの楼門と11の塔と2つの堡塁を持ち、建造当時の原型を保っている。この市壁の部分がクレーターの跡かと思ってしまうが、クレーターは直径24kmほどあり、この窪みの中心近くに町が築かれた訳である。<br /><br />ネルトリンゲン駅から歩くと、市壁の北東にあるダイニンガー門をくぐって町にはいる。ネルトリンゲンの中心には、町の象徴である聖ゲオルグ教会が見える。1427年から1505年に建造されたゴシック教会で、愛称ダニエルと呼ばれる高さ90mの教会塔がある。この塔に登ると、赤い屋根に積もった雪のコントラストが美しい街並みを見下ろせる。この塔の最上階に受付があり、テレビでも紹介されたという人気者の猫君がいる。拙いドイツ語でお願いすると、気軽に撮影に応じてくれた。

ロマンティック街道冬の旅No.1：隕石のクレーターに築かれた町ネルトリンゲン（改訂版）

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2013/01/26 - 2013/01/27

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#遺跡・歴史

ハンクさん

サンクトペテルブルクからの帰途、ミュンヘンで乗り継ぎの間にロマンティック街道に連なる諸都市の内、ネルトリンゲン、ドナウヴェルト、アウグスブルクの3都市を訪れた。鉄道では、ミュンヘンからもっとも遠いネルトリンゲンまでは、ドナウヴェルト経由で約2時間かかる。雪の積もったロマンティック街道、もちろん氷点下で寒い。しかし厳寒のサンクトペテルブルクから来ると、本当に暖かく楽園のように感じてしまう。

「ロマンティック街道」という名称は多くの人に誤解を与えていると思うが、「ロマンティック」な街道という意味ではなく、もともとローマ人により「ローマへの巡礼の道」として作られた街道である。近年これを見事にドイツでもっとも人気のある観光地に仕立て上げた。全長はヴュルツブルクからフュッセンまで366kmあり、ヨーロッパバス運営の観光バスが、夏の間のみ主要都市に停車しながらゆったりと走る。少々観光化し過ぎているためか、現在世界遺産には登録されていないが、実際ここに連なる多くの町は、中世の面影を残した魅力を備えている。鉄道は平行しては走っていないので制約がある。ミュンヘンから日帰りで訪れるのはこの3都市までが限度であり、またヨーロッパバスではドナウヴェルトのようなマイナーな町を訪れることはできない。

ロマンティック街道で人気スポットは、ノイシュヴァンシュタイン城、ローテンブルク、ディンケルスビュール、ヴュルツブルクなどであり、私も20年以上の昔に訪れた。しかしドイツで手に入れたガイドブックによれば、この街道沿いには27ヶ所が観光スポットとして紹介されている。体力があるうちにいつかこの諸都市を自転車でのんびりと巡って見たいものだ。

前置きが長くなったが、ネルトリンゲンは1500万年前に落下した隕石による、直径約24kmのクレーターであるネルトリンガー・リースに築かれた町である、ということに驚かされる。折しも2月15日に、ロシアのチェリャビンスクに落下した隕石のエネルギーは原爆の25倍だと報道されていたが、少なくともアリゾナやネルトリンゲンのようなクレーターは形成されていない。ネルトリンゲンに落下した隕石の直径は約1.5km 、推定エネルギーは原爆1800万個分であったというから桁違いだ。人口密集地に落下することを想像すると、これはまさにハリウッド映画の世界である。隕石については市壁の北部のバルディンガー門の近くに、リース・クレーター博物館に展示があり、大変興味深い。かつてアポロ宇宙船の飛行士も訓練に訪れたそうで、隕石のみならず、化石類や月の石などの展示もある。

ネルトリンゲンの美しい旧市街は、直径約1kmのほぼ円形の市壁の中にある。1327年に建造された市壁は、5つの楼門と11の塔と2つの堡塁を持ち、建造当時の原型を保っている。この市壁の部分がクレーターの跡かと思ってしまうが、クレーターは直径24kmほどあり、この窪みの中心近くに町が築かれた訳である。

ネルトリンゲン駅から歩くと、市壁の北東にあるダイニンガー門をくぐって町にはいる。ネルトリンゲンの中心には、町の象徴である聖ゲオルグ教会が見える。1427年から1505年に建造されたゴシック教会で、愛称ダニエルと呼ばれる高さ90mの教会塔がある。この塔に登ると、赤い屋根に積もった雪のコントラストが美しい街並みを見下ろせる。この塔の最上階に受付があり、テレビでも紹介されたという人気者の猫君がいる。拙いドイツ語でお願いすると、気軽に撮影に応じてくれた。