1995/04/13 - 1995/04/15
80位(同エリア111件中)
北風さん
昨日熱弁を振るったホテルの親父のキャメル・ツアーへの勧誘は、今日はさらに激しさを増した。
インド入国当初ならば、そのしつこさに根負けした所だろうが、既にインドに首まで浸かった現在では、インド流にのらりくらりとはぐらかすぐらいの話法は習得済み。
俺はそれほどキャメル・ツアーに興味は無かった。
(ラクダは、オーストラリアの牧場暮らしで調教しもしたし、乗ってもいたし、蹴り飛ばされてもいた)
しかし、その夜、親父が勝負に出てきた。
2人の娘と妻を連れてドアをノック!
ベッドに座った俺の左右にキラキラと目を輝かすインド美少女、正面には親父と奥さんというフォーメーションだ。
「でも、興味はないし・・・」
と、踏ん張る俺の視界に、ドアの後ろのおばあちゃんとおじいちゃんの姿が!
この夜、俺は、ホテルの親父のショットガン・フォーメーション(総力戦)に負けた。
降伏宣言は、2泊3日のサム砂漠へのキャメル・サファリ申込書へのサインだったのは言うまでも無い。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス
-
とうとう、ホテルの客引きに負けて、らくだツアーに参加する事になった。
ツアーと言っても、客は俺一人、ガイドは地元の小僧だけなのだが・・
ルートは、ジャイサルメールから西へ40km所にある「サム砂漠」までらしいが、2泊3日で行けるのだろうか? -
ガイドの小僧が、らくだを連れてやって来た。
俺のはどちらなんだろう? -
このらくだには、背中に一つこぶがあった。
つまり、「ひとこぶラクダ」と言う種類だ。
俺はこのタイプを知っている。
オーストラリアの牧場で、さんざん世話させられた奴と同じタイプだから。 -
このひとこぶは、乗り心地は悪いし、意地も悪い。
以前、腹に思いっきり膝蹴りをもらって吹っ飛んだ思い出が蘇る。
・・・嫌な予感がする。 -
ラクダに乗せる荷物は驚くほど多かった。
しかも、重い!
そしてその中で一番重いのは、ラクダのえさだった。 -
そう、座り心地は悪くない。
問題は、動き出したら、つかまる所が無い事だ。
そして、ラクダは現存する動物の中で最も乗り心地が悪い動物だった。
・・・2コブがいいんだが・・・ -
街からのびる車のわだちに沿って、ラクダが動き出した。
風景は、あっという間に荒野へと変貌していく。
何処までも何処までも、乾ききった世界が広がる。 -
ラクダは、ゆっくりゆっくりと西を目指す。
-
周囲の風景から、少しずつ草木が消えていく。
いつしか景色は砂色に変わってきていた。
そして、俺の尻も、少しずつ赤く腫れてきた。 -
旅日記
『水』
あれほどじりじりと照りつけていた太陽が、気がつくとだいぶ西の空に傾いていた。
ラクダも疲れたらしく、足取りも重い。
もうそろそろ、今夜の野営地にたどり着いてもよさそうなもんだが、肝心のガイドは「まだだ」としか言わない。
日中、このガイドの小僧が話した事は、チップの事と水が足りないと言う事だけだった。
確かにこのツアーは、噂通り、ガイドの質は最悪らしい。
全くひどいガイドだった。
「どこそこの白人は、これだけチップをくれた」
「お前は日本人だから、これだけくれ」等々、、
金をせびる話は、とめどなく話すくせに、肝心のガイドに関しては「知らない」「まだだ」の2つの言葉しか話さない。
挙句の果てに「水が足りない」などと、とんでもない事を言い出した。
この荒野で一日分の水も用意しないでツアーに出るなんて普通では考えられない。
(まぁ、インド人ならありかもしれないが・・)
太陽が地平線にダイビングする頃、ラクダが急に足早に歩き出した。
その方向には草木が茂っている。
植物が育つと言う事は、どうやら水があるらしい。
ガイドの小僧が、久々に違う言葉を言った。
「あの泉で水を補給したら、もう少しでキャンプ地だ」
・・・おい、まだ進む気か? -
泉で水のタンクに茶色く濁った水をぎりぎりまで詰め込む間、ラクダ達も背中のタンクにガブガブ水を溜め込んだ。
これでどうにか水の心配はなくなった。
その後、なんか一回り大きくなった様なコブに揺られ、太陽が沈む頃、やっとガイドが「あそこで寝よう」と言い出した。
指差す先にあるのは、どう見てもただの砂山だ。
あれなら、ここまで来る間、いくらでも似たような場所があったはずなのだが・・・
まぁ、とにかく夜になる前にキャンプできるのはありがたい。
ここは何も言わないでおこう。
チップと水の事しか知らないと思っていたガイドの小僧が、思いの他素早く夕食の用意を始めた。
砂の上に、簡単なかまどを作り、器用に火を起こすと、フライパンでカレーを炒めだす。
あっという間に飯の時間がきた。
あれほど食いなれたカレーでも、たとえ砂が混じっていようとも、これほどのオープンスペースで食うのは美味い! -
噛み千切ったチャパテイの穴の向こうで、太陽が砂の地平線に消えようとしていた。
-
旅日記
『砂の世界の夜』
昨夜、食事が終わると、ガイドの小僧はそそくさと寝袋にくるまってしまった。
(どうやら、チップの話をしても無駄だとわかったらしい)
日が沈むと、気温は一気に下がり始めた。
砂漠を渡る風が、昼間に溜め込んだ熱気を、いとも簡単に引っぺがしていく。
片足を縛られて遠くに行けないようにした、ラクダの不器用な足音以外、聞こえるのは砂が流れるサラサラという音だけだ。
砂漠に夜が訪れた。
砂の上に寝袋を敷いて、その中で見上げる空には、数え切れないぐらいの星が輝いている。
息を呑む瞬間。
久しぶりに星がどれほど美しいかを思い出していると、意識は深い眠りの中に引きずり込まれていった。 -
ごそごそと、動き回る足音に目が覚めた。
音のする方向に首を廻すと、5m程向こうで、ラクダが朝飯をあさっている。
そして、その向こうの地平線に陽が昇り始めていた。
すごい朝焼けと共に、砂漠の朝が始まっていた。
さて、今日の俺のサファリも始まろうとしている。
ガイドの小僧は、もう飯を作っているのだろうか?
見回すと、ガイドの小僧が寝返りを打っているのが目に入ってきた。
・・・うーん、どこまでもワンダフルなガイドだ! -
旅日記
『らくだレース』
俺のラクダの名前は、「ボア」と言った。
現在ボアは、口から泡を飛ばしながら、荒野を突っ走っている。
まるで、テレビで観たロデオだった。
上下左右に激しく視界が揺さぶられる!
身体の方は、ふっと宙に浮きあがったかと思えば、次の瞬間、腰骨が砕けそうな勢いで鞍の上に叩きつけられる!
5分で胃下垂になってしまいそうな気がする。
ふたコブなら、前方にしがみつくこぶがあるのだが、ボアの奴はけちって、ひとコブしか背負ってない。
しかも、このひとコブが、背後から俺の背中にぶち当たる!
世界中で一番乗り心地の悪い車は、戦車だと言うが、一番乗り心地の悪い動物は、走るラクダじゃないだろうか?
せめて馬のような軽やかなストロークで走ってくれれば、少しは振動も収まる気がするのだが、このラクダと言う動物は、前足と後ろ足を交互に「ハの字」に広げて走る。
前から見たら、ずいぶん間抜けな走り方だ。
しかし、この状態でこの高さから振り落とされ、蹴りこまれたら生存できる気がしない。
嫌だ!
あんな間抜けなストロークで踏み潰されるのだけは嫌だ!
ブレーキのはずのたずなを引き絞る。
が、しかし、前方を疾走するガイドのラクダを追いかけるのに忙しいらしく、全く止まろうとしない。
あのくそったれのガイドが、あまりにもチップの話しかしないので、「うるさい!」と叫んでから、このレースは開始された。
あのガイドは意地悪のつもりでやっているんだろうが、こんな事ぐらいでチップなんか払うつもりはもうとうない!
こんなに荒れた地面を走っていれば、ラクダの方で疲れて止まるだろう。
小高い丘を越えると、砂地が地平線の彼方まで続いていた。
・・・嫌な予感がする。
案の定、ボアはさらにスピードを上げやがった。 -
前方に牛の残骸が出現した。
ガイドの小僧が、「村が近い」とつぶやく。
そんなこと言わなくても、遠くに見えているのだが・・ -
村に入ると、何処からともなく子供たちが集まってきた。
-
世界中のどんな辺境でも、子供の笑顔は変わらない。
「グッド・モーニング」と声をかけると、
「ハロー、10ルピ!」と手を差し出された。
インドでは、どんな辺境でも子供のあいさつは変わらない。 -
苦みばしったインド人のおやじは、おもむろにボトルの水を差し出し、定価の3倍の値段から懐を探ってきた。
うーん、この環境で考えるならば、良心的なほうかもしれない。 -
らくだが、砂の風紋に足跡を残す。
-
急激に地面がもろくなってきた。
とうとう「サム砂漠」に到着! -
-
感無量!
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