1994/09/16 - 1994/09/21
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北風さん
中国の広州を出発した列車は意外な程のスムーズさで香港へと南下していった。
さすが、中国でも3本の指に入る程の都会広州と、アジア経済の一端を担う香港を結ぶルート!
これまでの東南アジアの景色とは正反対の、コンクリート・ジャングルが続く。
まるで、山手線に乗っているようだった。
これもやはり、イギリス資本の力で整備されているのだろうか?
そう、時は1996年!
1997年7月以降、香港は中国へ返還される。
イギリス領の香港は、世界で最も格安で航空券を購入できる国として、世界を旅するバックパッカーには非常に貴重な国だった。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス 船
-
<九龍から香港島を望む>
香港とは一つの島国だと思っていた自分の世界観がもろくも崩れていた。
香港は、中国大陸の一部の半島と、その周辺の島を含めてそう呼ぶらしい。
香港の中で、中国大陸の半島先端に位置しているのが、「九龍」市だった。
ここと、香港島に経済の中心があるらしい。
確かに、大陸では普通の大河ぐらいの川幅の海峡をはさんで、高層ビルの摩天楼がそびえていた。
この埠頭は、島を結ぶ「スターフェリー」の乗り場であるだけでなく、市内バスのターミナルもかねていた。 -
市内バスは、なんと2階建て!イギリスのロンドンバスそっくりだ。
さすが、旧イギリス植民地だけある。 -
旅日記
『中国美人』
暴走する中華思想の看板のトンネルの下には、しゃれた小物で飾られたショーウインドーが並んでいた。
スーツに身を包んだ人波に揉まれる内、久しく感じた事のなかった倦怠感が襲ってきた。
どうやら、人酔いしたようだ。
メインストリートを真っ直ぐに下り、埠頭まで来た時は、さすがに座り込んでしまった。
この街並みの中、サンダル履きでペタペタ歩く自分の姿は、かなり浮いているみたいだ。
まぁ、タイで買った民族シャツにサンダルでは、仕方ないかもしれない。
これほど、見事な摩天楼の光景などお構いなしに、すれ違う人々の視線は、俺の足元に注がれている。
俺の視線も、先程から摩天楼など見てはいなかった。
瞳のピントは、向こうからやって来る中国美人固定されて動いてくれない。
ただの美人ではなかった。
なんと、そのフルボリュームのバディを、ボディコンで包んでいた。
例えるなら、具沢山の餃子が透けるような薄い皮に包まれて出てきたかのようだ。
彼女は海風に髪を抑えてふと立ち止まった。
なにげに涼しげな視線を摩天楼に投げかける。
まさに絵になる風景だった。
しかし、その後、彼女の肩が震え出す。(泣いているのか?)
大きく息を吸い込むように、背中が反り返った。(遊んでいるのか?)
一瞬、引き絞られた弓が解き放たれるように、彼女の上半身がくの字に曲がる。(持病の発作だろうか?)
ピシャッと音がして、何かの塊がテトラポットに突き刺さった。
状況を理解するのに数分を要したが、内容は中華系の支配する街だという事を再認識させてくれるには充分な物だった。
中国では、つばやタンを吐く事は、体の中の毒を出す良い行為だと思われている。
ここは、香港、華僑の国、ボディコンおね-ちゃんが、マッハのスピードでタンを吐くほどに。 -
旅日記
『漢民族の街』
九龍の街中には、空がなかった。
見上げれば、薄汚れたビルから生える無数の巨大看板のトンネルが空を覆い尽くす。
まるで、看板のトンネルだ。
これでもか!といわんばかりに道路にはみ出した看板の中には、肝心の店の奥行きより長いものもある。
まさに、漢民族流の自己主張のシンボルだった。
街の美観など、中華思想の前ではただの戯言にしか意味をなさないのかもしれない。
この街は、確かに今まで旅した東南アジアとはかけ離れた世界だった。
いや、今まで見てきた近代的な都市ともかけ離れていた。
道路上にはスーツを着込んだビジネスマン、気合を入れて買い物に走る観光客、そしてそれに群がる客引き。
特に、様々な路上セールをしている人間にも、様々な人種が入り乱れていた。
浅黒い顔に口ひげを生やした、アラブ系ともアジア系とも見える男達が、中華系以上に路上を埋め尽くしている。
香港は、歴史上、イギリスの植民地として栄えてきた都市だったと言う。
貴重な香木を、この港から運び出した事から、「香木の港」=「香港」となったとの事。
イギリスは、香港を統治するにあたって、当時植民地だったアラブ、インドから多数の奴隷を移住させた。
その中には、植民地の警護の為の、当時世界最強の傭兵「グルカ兵」もいたらしい。
つまり、漢民族の支配するこの街に、これほどの人種が入り乱れる事になったのはイギリスの仕業という事か!
香港名物「偽時計売り」の一人が、金ピカのロレックスを差し出して、マシンガンの如くセールス・トークを始めた。
「これは、偽者ロレックスだが、中身はSEIKOだ」
・・豪華な外観と信頼の置ける精密な造り。意外とこれはいいかもしれない。 -
香港に夜が来る。
そして、昼間あれほど自己主張していた巨大な看板が、ネオンと共に更なる自己主張をし始めた。 -
日暮れと共に、きらびやかなネオンが道路を覆う看板を飾り立てる。
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香港の街には街灯はいらない。
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<100万ドルの夜景 Part.1>
デビルズ山より望む九龍の夜景 -
<100万ドルの夜景 Part.2>
香港島の夜景 -
100万ドルの夜景 Part.3
香港島の夜景 -
<チョン・キン・マンション>
九龍は、香港の中心地と言っても過言ではなかった。
ただでさえ物価の高い香港で、この場所に安宿など普通はあるはずもない。
ところが、ここには世界中を旅する旅行者の間で有名な「チョン・キン・マンション」なる安宿ホテルがあった。
いや、正確には、最盛期には100を越えていたと言われる安宿が軒を連ねる雑居ビルの事だ。
しかも、この雑居ビルは九龍のメインストリートから歩いて10分の所にあった。
日本に例えるならば、東京の新宿駅から歩いて10分の所に位置しているようなものだ。
当然貧乏旅行者は、香港滞在中の宿として一目散にここを目指す。
当然、俺もその中にいた。
今にも壊れそうなチョン・キン・マンションの外観だが、そのビルの規模だけは、そこら辺のデパート以上の大きさだ。
当然、雑居ビルの名の通り、時計屋、服屋、肉屋、食堂、誰かの自宅、そして安ホテルがごっちゃ混ぜになって同居している。 -
旅日記
『迷子』
チョン・キン・マンションの中は真っ暗になっていた。
確か、昼間に来た時はテカテカのイルミネーションで辺り一面光り輝いていたはずなのだが?
俺はただ、夕飯を食べにはるか上の安宿がある階から、エレベーターで降りてきただけなのだが、まるで別世界のゴーストタウンに迷い込んだ気がしてきた。
昼間に見つけた肉屋の隣の食堂が見つからない。
この雑居ビルは、建て増しに継ぐ、建て増しでそこらの巨大迷路のアトラクション顔負けの複雑な造りになっていた。
よせばいいのに、つい、好奇心に駆られてうろついた結果、現在この物音一つしない薄暗い空間で迷子になっている俺がいる。
30分後、やっと1台のエレベーターを見つけた。
が、しかし、エレベーターの番号が「A」になっている。
この巨大ビルには、驚くべき事にエレベーターが4台以上あり、それぞれがまったく違う所に設置してあるという。
確か、俺が降りてきたエレベーターは、「D」じゃなかっただろうか?
が、いい!とにかく、ここから出たい!
ボタンを勢いよく押し続ける。
エレベーターのドアが、3度ほど引っかかりながら目の前で開いた。
通常なら、外界へと続くドアなのだが、チョン・キン・マンションのエレベーターはその老朽化から、今までに何度かフリーフォールの事故を起こしているという。
さて、このドアは外界へと続く
ドアなのか?
それとも、天国へと続く扉
なのだろうか?
「ゴガッ」と音がして
今、エレベーターが降りだした。 -
旅日記
偽VISA?
ある日、チョン・キン・マンションの安宿の壁に興味深い張り紙を見つけた。
「中国VISA、発行手伝います」
この後、再び中国に帰るつもりの俺には、渡りに船の張り紙だった。
なんと、値段も最初にベトナムで入手した時よりも安く、しかも、翌日発行してくれると言う。
時計、ブランド、靴、等なんでも偽者が溢れているこの国で、しかも安宿の主人が発行手続きを行うVISAとなると、多少不安が残るが、試しにやってみる事にした。
翌日、宿のおやじさんから手渡されたパスポートには、確かに中国VISAがスタンプされていた(写真右)
確かにそっくりだが、有効期限が記入されていない。
不安げな視線を投げかけられたおやじさんは、ニカッと笑顔でこう言った。
「No Problem!」 -
<香港の歴史>
旧日本軍が、3年8ヶ月もの間占領していた香港は、その後イギリス領として栄えてきた。
そして、1997年7月1日以降は、中国領として中国の特別行政区になると言う。
貿易総額世界第11位を誇る人口600万人ものこの小さな大国は、現在、「国際金融センター」として名だたる都市国家になっている。
つまり、中国としては喉から手が出るほど欲しい外貨獲得の窓口であり、何が何でも手に入れたい国らしい。
が、しかし、当の香港人にとっては、「何でもあり」の自由港が社会主義管理下に敷かれてしまうという重大事件になっている。
香港の若者の現在の夢は、「移民」。
金が貯まるとゴールドに替えて身に付け、いつでも逃げ出す準備をしているらしい。
昔、中国から広州に移動し、香港へ逃げたこの民族は、今度は何処へと放浪するのだろう?
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