1998/01/06 - 1998/01/06
109位(同エリア173件中)
北風さん
10ヶ月かけてアラスカから南下、とうとう南米大陸最南端の都市にたどり着いた!
何事も「泣き言と言い訳と頼み事」で物事が進むこの大陸で、戦後の日本人並みにセッセと働く動物がいた。
大昔の奴隷制度の様に無理やりこの地へ連れて来られ、用がなくなると害獣扱いされてもなおかつダムを建設し続けるタフ・ガイ!
「ビーバー!」
・・しかし、ビーバー・ダムを壊す時のあの妙な高揚感は何だろう?
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス
-
国立公園入り口にあったサインボードには、感慨深い表示があった。
「Alaska 17848km」
俺は10ヶ月かけてこの距離を埋めてきた。 -
公園内は、やたらと湿地帯が多かった。
聞けば、元来水はけが悪い土地でなく、この湿地帯はビーバーのせいらしい。 -
森の奥に入るにしたがい、倒木が密集してきた。
それと共に、湿地帯の水深が深くなってきている。
よく見ると、この水には流れがある。
上流へと進むと・・ -
ゆるやかな水の流れが、段々と速くなってきている。
遠くにボッカリと倒木に囲まれている空間が出現した!
・・これは、あの写真でしか見たことのない「ビーバー・ダム」なのだろうか?
こんなにでかいもんだったのか? -
でかい!
しかも幅がある!
既に田んぼの中のあぜ道みたいに固まっている場所もあった。 -
旅日記
「私とビーバーとの出会い」
白く朽ち果てた倒木が複雑に組み合わせられたダムが、まるで段々畑の様に、上流に続いていた。
「静かな湖畔の森の影から〜」と歌い出せば、どこまでもこだまが続きそうなぐらいの静けさが辺りを支配している。
何段目かのダムによじ登った時、水の流れが止まっているのに気がついた。
深い深い緑をたたえたダムの真ん中に、周りの倒木よりずいぶん短い木が積み重なった島が見える。 -
あれなのか?あれがビーバーの巣なのだろうか?
-
「バシャッ」と、水音が森に響いた。
先程の巣の周りに、波紋が広がっている。
波紋の中心に、やけにでかいねずみの顔が浮上した。
かなりでかい頭だ。ウシュアイアで見た肥満体の野良猫よりでかいかもしれない。 -
デカねずみが「スウウーッ」と、水面を滑っていく。
やけに泳ぎがうまい。
心の中で声がする。
「これが、世界一器用なねずみじゃなければ、ビーバーなるものかもしれない」 -
どうやら、本物のビーバーらしかった。
その証拠に、人間が傍にいるにもかかわらず、ダムに浮いていた小枝にかぶりついた。
すごい!ものすごい速さで枝を回転させ、木の皮だけをかじっていく!
そんなに腹が減っていたのだろうか?
確か昔見た動物百科では、ビーバーは小魚を食べるはずだったが・・ -
ひとしきり小枝をかじりきると、ビーバーらしき動物は、のそのそと地面に這い上がってきた。
やけに長い体毛が生えている。
しかも、そこら辺の猫が一日中毛繕いをしてもかなわないぐらい、きれいな毛並みだ。
水に濡れたオールバックの毛並みが、やけにセクシー!
そして、とうとう全身が浮上した!
ビーバーだ!このしゃもじの様な尻尾はねずみには絶対ついていない!
俗説だが、この尻尾、食べればタラの味がするらしい。 -
犬ならば、ここで身震いして水を切るところだろうが、この動物はそんな事に時間を使っている暇は無いらしい。
きょろきょろと周りを見渡した後、あの水の中で見せた機敏な動きとは正反対に、のそのそと森の中へ動き出した。 -
あまりにノソノソしているので、小走りに先回りして見ると、何のためらいも無くカメラの前までノソノソやって来た。
・・・どうやらこの地に彼の天敵はいないらしい。警戒心というモノがこの動物には見当たらない。 -
先程の小枝なぞとは比べられないほどの大きな木の根元に奴はいた。
どうやら、仕事の時間らしかった。
木の根元には既に大きな切り口が刻まれている。
人間で言えば、昨日やり残した仕事をかたずける様なものかもしれない。
奴の前足が幹にかかる!
頭を近づけるやいなや、ものすごい勢いでかじり出した!
「ガッ、ガッ、ガッ」、静かな森の中に、驚くほど大きな音が響き渡る。
そこら辺のチェーンソーより効率がいいのかもしれない。あっという間に、あたり一面木屑で埋まっていく。
なんて、頑丈な歯なんだ!こいつらにはりんごをかじって歯茎から血が出る事なぞ縁のない話だ。 -
かなりいい腕(いや歯なのかも?)の職人みたいだ。
10分もしない内に根元が揺らぎだした。
日本なら「タ・オ・レ・ル・ゾ〜」と声がかかる瞬間、
「ミシ、ミシ、ミシッ」、目の前で木が倒れていく。
ビーバーまたの名を、「森の破壊者」と言うらしい。 -
旅日記
「ビーバーの撮影方法」
パタゴニアのこの地方では、「石を投げればビーバーダムに入る」と言われるほどダムだらけのわりに、ビーバー自身にはなかなかお目にかかれないらしい。
そこで、ビーバーの撮影方法だが、まず、ビーバー・ダムの一番脆そうな場所を見つける事から始める。
一番脆そうな場所と言っても、木の枝が複雑に絡み重ねられている上に、土で補強してある50cm厚の堤防だったりもするが、とりあえず狙いをつけた場所を
蹴る!
蹴りつける!
蹴り倒す!
そこで堤防の側面に空いた穴に、そこら辺の倒木を突っ込んでひたすら掘り返す!
確かに、人間ではないにしろ、ビーバーが一生懸命作ったダムを決壊させるのは気が引けるかもしれないが、額に汗して崩した堤防から、昔観たパニック映画さながらに水が噴出すのを見た時のこのすがすがしい高揚感は何だろう?
(いつの時代でも、額に汗して得られた報いは千金に値する)
さて、見る見るうちにダムの水位は下がってくる。
南米に生息する生物の中で、最も働き者と言われるビーバーがこの異変を見逃すはずはない。
当然、血相変えて(血相はよくわからないのだが)巣から出てくるはず。
あなたは、目の前でダムの補修を始めるビーバーを好きなアングルから写す事ができるだろう。
・・そう、最初は妙に良心が痛んだ。しかし、現地の人間は言い放つ。
「いいんだよ!害獣なのだから!」 -
旅日記
「パタゴニアのビーバー パート2」
海外駐在員のHさんの運転するピックアップは、森の中の砂利道をまるでラリーカー並みに爆走している。
「おっ」、Hさんがつぶやいた瞬間、車はもうもうたる土煙を上げて急停車していた。
何事かと思う暇もなく、Hさんが車から駆け降りる。
・・まさか、人身事故?女の子の呟きが聞こえる中、Hさん、道路脇に駆け上がった!
「シャベル持って来て!」、とHさんが叫んでいる。
皆が集まるまでの数分間で、Hさんはビーバー・ダムに大穴を開けていた。
すごい!ゴウゴウと水が噴き出してくる!
動物愛護団体、環境保護団体が見ていたら卒倒しそうな光景かもしれない。
元来、ビーバーはパタゴニアにはいなかった動物らしい。
ところが、パタゴニアの森林保護に頭を悩ませていたアルゼンチン政府が、ビーバーダムの保水能力に目をつけ、わざわざカナダから空輸して来たとの事。
が、しかし、太古の昔からビーバーがせっせとダム造りに励んでいたカナダでは、森の木々も水浸しの土地に適応できるように進化してきたらしく、パタゴニアの木々とは根本的に違いがあったらしい。
さて、現在、ビーバーはこれといった天敵もいない上に、南米一の働き者という性格上、毎日せっせとダム拡張計画に没頭している。
水浸しとなった木々は根腐れをおこし、どうにか耐え忍んでいる大木には、ビーバーの鋭い牙が突き刺さる。
森は、急速に死んでいっているらしい。
森林保護の立役者として登場した彼らは、ふたを開けると森林破壊の第一人者になってしまっていたとの事。
うーん?どう考えてもビーバーに罪はない気がするのだが、森はこの極寒の地の守護神だからなぁ。
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