2009/11/22 - 2009/11/23
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山菜迷人さん
酒呑童子の出生については諸説ある。一説には越後の国蒲原郡中村で誕生したと伝えられるが、伊吹山の麓でスサノオと闘って敗れた八岐大蛇が近江へと逃げ、そこで富豪の娘と結婚し子をなしたが、その子が酒呑童子という説もある。出生にまつわる伝承をどこまでも手繰っていくと、とんでもないことになるので、それはまた別の機会にすることにして、京に上って以降の酒呑童子のことからこの旅行記を書き始めてみたい。
酒呑童子は、茨木童子をはじめとする多くの鬼を従え、大江山を拠点として、しばしば京都に出現し、若い貴族の姫君を誘拐して側に仕えさせたり、生のまま人を喰ったりしたという。帝の命により摂津源氏の源頼光と嵯峨源氏の渡辺綱を筆頭とする頼光四天王による討伐隊が結成され、酒呑童子の酒盛りに潜りこんだ頼光が、神様より兜とともにもらった『神便鬼毒酒』という酒を酒呑童子に飲ませ、体が動かなくなったところで寝首を掻いて成敗したのだが、その切られた首が頼光の兜に噛み付いていたといわれている。そんな鬼の頭領が住み着いた大江山連峰を北に下って行くとハクレイ酒造がある。
ハクレイ酒造といえば『酒呑童子』である。酒呑童子は日本最強の鬼と言ってよく、玉藻前で有名な白面金毛九尾の狐と、恨みによって大天狗と化した崇徳天皇と並んで、日本三大悪妖怪と謳われるほどの、妖怪界でもビッグスリーにはいる有名妖怪なのだが、よりによって妖怪界のスーパースターの名を酒の名前にしてしまったのだから、この蔵元も相当なもんである。
この酒呑童子という酒は、鬼に似合わず、豊かな香りと深い旨味のある酒で、僕の行きつけの酒屋さんでは季節になると、その酒呑童子の量り売りをしてくれるのだ。それが酒呑童子との出会いであり、いつかその故郷に行ってみたいと考えていた。
冬の日本海側は、青空の見える日が少ない。どんよりと雲が広がり、にわか雨が混じり、少し冷え込むと雪が舞い散る。そんな天候が、この地の人たちにどんな影響を与えているのだろうか。鈍色の風景の中で、人は何を感じるのだろうか・・・陰鬱、それとも・・・。
ハクレイ酒造の仕込み水の水質は超軟水であり、酒類食品技術コンサルタントをされていた故穂積さんがこの仕込み水を分析した結果、天橋立の土地の人々が元伊勢さんと呼んで尊崇する丹後一の宮籠(この)神社に湧く名泉・天の真名井(あまのまない)という霊験あらたかな泉と同質のものであったらしい。
そんな霊験あらたかな仕込み水で醸した酒が、このハクレイ酒造の酒である。酒は寒仕込、酒米が収穫される9〜10月、豊穣を祝う祭りが終わるころ、10〜11月頃から酒の仕込みが始まり、春を迎える4月の初めころまでが酒造りの季節である。冬の京都は底冷えがすると言われるが、日本海側はさらに寒さか厳しく、そこに雪が積もり、モノクロームの世界が広がる。
その厳寒の季節、蔵人たちの朝は早い。一日のうちで一番寒い早朝から酒造りが始まるのだ。精米された米を手の切れるような冷水で洗う。この時、乾燥した米に30%近い水を含ませ蒸す。麹米として蒸された米は放冷後麹室へ運ばれ麹になり、掛け米は酒母室や醪蔵に運ばれ、酒母造りや醪作りに使われる。大きな蔵ではオートメーション化されているところもあるが、小さな蔵は、これらの作業を杜氏の指揮のもと蔵人の人力によって行う。厳寒の中でさえ、汗が噴き出る決して楽ではない作業に従事するのは、近隣の農家の人であることが多い。春から秋にかけて米を作り、米作りが終わると、寒仕込の酒蔵での仕事が待っている。そんな風に日本の伝統文化としての酒造りは守られてきたのだ。
こうして厳しい風土の中で醸される酒は、その厳しさに負けない強さを持っている。味の骨格がしっかりした、冷で良し、燗で良しの旨酒が多い。ハクレイ酒造の酒呑童子もそんな酒の一つである。蔵の売店では、そんな蔵元自慢の酒を試飲させてくれる。
試飲させてもらって気づいたことだが、原酒が多い。一般的に日本酒は、アルコール度数15〜16度くらいになるよう、加水してアルコール濃度を調整している。しかし、この地方の酒は加水せず、搾ったままのアルコール度数の酒が多い。18度とか19度というアルコール濃度も日本酒の力強さの一つの要素になっている。
一杯、もう一杯と試飲を重ねるうちに体の芯から温かくなって、何だかエネルギーが満ちてくる感じがする。これが冬の京都の日本海側にある酒蔵で醸された日本酒の力である。
ハクレイ酒造から伊根町の向井酒造に回った。この蔵は、くにちゃんという女性の杜氏さんが頑張っている蔵。実に不思議なのは、蔵の倉庫のすぐ裏は海で、道路の向かいに酒造場があるという位置関係。つまり、酒を仕込んでいるところから10m余りで海なのだ。蔵のすぐ裏手は山だから、おそらく伏流水も湧いてはいるのだろうけれど、これだけ海が近いと、井戸水に塩分が混じらないのかなということ。その辺りを蔵人からお聞きしたいところだったのだが、仕込み準備に余念がなく、忙しそうにしておられ、聞きそびれてしまった。
益荒猛男(純米原酒)、京の春(生もと仕込)、生原酒(生原酒)の3本を土産に買い求め、益荒猛男を酒の師匠であるYさんにお届けしたところ、「漁師の酒というだけあって、力強さもあり、切れもよく、大変美味しいお酒でした。やや常温風で頂くと風味が増しやわらかくY好みのお酒でした。」とのメッセージをいただいた。ハクレイ酒造に負けず劣らず、この蔵の酒もまた旨い。
この地方の酒の力を再認識させられた二つの蔵元を訪ねることができて、僕の、蔵元行脚にまた新しい1ページが加えられたのだった。
- 同行者
- 家族旅行
- 一人あたり費用
- 1万円 - 3万円
- 交通手段
- 自家用車
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ハクレイ酒造の駐車場に車を停める。近畿自然歩道と呼ばれている街道の一部らしい。
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近畿自然歩道の道しるべ
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何とはなしに、殺風景な気がするのは気のせいか・・・
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この路地を入って行くと、めざすハクレイ酒造がある。
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ハクレイ酒造。暖簾をくぐると売店になっている。
ハクレイ酒造株式会社
626-0071 京都府宮津市字由良949
Tel:0772-26-0001 -
白嶺酒造、酒呑童子の看板
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この奥に試飲コーナーがあるのだ
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新しい緑色の酒林は新酒ができたというお知らせ
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蔵元自慢の酒が並ぶ
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お気に入りの一本『香田』
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仕込み水(不動山水)の来歴が書かれている
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仕込み水がポタリポタリと滴り落ちる。来歴に書かれている通り、甘さを感じる水でした。
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銘柄の由来
眼前にそびえる丹後富士(由良ケ岳)は、標高640mで大江山連峰に属する花崗岩質の山です。
『白嶺』は、厳寒の日の朝、この由良ヶ岳がすっぽりと雪に覆われた幻想的な景色に由来します。
もう一つの銘柄『酒吞童子』は、大江山の鬼伝説に因みその大江山連峰の湧き清水「不動山水」により酒を醸していることに由来します。 -
蔵元の庭
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蔵元の見事な庭木
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昔の仕込み樽
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庭への通路
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ハクレイ酒造から向井酒造に移動
向井酒造株式会社
626-0034 京都府与謝郡伊根町字平田67
Tel:0772-32-0003 -
酒蔵の倉庫
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古い酒林を軒につるしている
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向井酒造の倉庫の裏側は、伊根の舟屋の風景が広がる。
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こんな海の縁で旨い酒が造れる不思議さに感動するのだ。
ここで、デジカメの電池が切れる。もっと蔵の写真を撮りたかったのだけれど残念!!
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