エクメネの最果てへ　―サハ共和国　冬の旅―　（５）

2009/01 - 2009/01

★ 市場

　現地旅行社プラネット・ヤクーチアのサルダナさんにお願いして、市街の端にある市場へ連れて行ってもらいました。広い敷地に体育館のような大きな建物があって、屋内と屋外のそれぞれにずらりと屋台が並んでいます。これは旧ソ連の各地で典型的に見られる構造ですね。

　冬季に見学するなら、絶対に、屋外の屋台がおもしろいです。商品はほとんどが魚なのですが、一目見て衝撃を受けるくらい、日本の魚市場とは様子が違うんです。あれ、魚が立っている？！そう、無数の巨大な魚たちが、ずらりと束になって垂直に陳列されているんです。尖った頭が天を突く姿はまるで地獄の剣山のよう。

エリア その他の観光地(ロシア)

　魚たちはみな鮮魚です。もっとも、勝手にカチコチの冷凍魚になっちゃってますけど。見慣れない魚の名前はチール（ЧИР）といい、これが商品の80%くらいを占めています。北シベリアの河川に棲む大きな淡水魚で、体長1m以上にもなります。他には、ロシア語でカラシ（КАРАСЬ）という、手の平大〜30cm程度のフナなどが並んでいて、これらは全部レナ川で獲れた地元産です。

あと若干数、ウサギも売られていました。これも地元産。野生のものをワナで獲らえてくるそうです。毛皮を剥がれたウサギは、やはりカチコチに凍っていて、それと知らぬ者には、何やら赤い塊に見えるばかり。どうやって食べるのか、興味しんしんです。

　市場の屋台の店主たちは皆愛想がよくて、次々と気さくに話しかけてきました。そればかりか、頼まなくても売り物の大きなチールを抱えさせてくれて、笑顔で記念撮影に応じちゃうような素敵な人たちです。こちらは何も買わないのに、大サービスしてもらって申し訳なくなりました。（だってどの商品も、買ったら持て余すこと間違いなしですから。）でも、観光地としては異国情緒満点。自信をもってオススメします。

★ 永久凍土の世界（ЦАРСТВО ВЕЧНОЙ МЕРЗЛОТЫ）

　市街西部の河岸丘陵の一つである、チョチュール・ムーラン山（ЧОЧУР-МУРАН）中腹の崖斜面に穿たれた横穴を利用した、永久凍土に親しめる観光施設です。横穴は直径2-3mの大きさで、ちょっと歩いただけでもいくつかの分岐に出くわします。総延長数百mの規模だそうです。

　ここはかつて食料貯蔵庫として利用するために掘られた施設で、内部は年間通じてマイナス8℃前後を保つとのこと。やっぱり冬は中の方がずっと（時には30℃以上も！）暖かいんです。

　そんな穴を観光用にリメイクしたものが、この「永久凍土の世界」です。床面にはまだ、貯蔵物の運搬に使われていたトロッコの軌道が一部残っていました。壁も天井も永久凍土がむき出しで、凍土研究所の地下にあるような、大きな氷の結晶も、至る所に成長しています。

　最初に紹介した永久凍土研究所は、あくまでも学術用の施設なので、壁面や天井に触れることは厳禁でしたね。でもこちらは完全に遊びのための施設なので、触り放題です。椅子、滑り台、来訪証明書授与所などもあります。これらはすべて氷で作られています。さらに、サハ共和国内で見つかるマンモスの骨や牙（小さなパーツですが）も持ち込まれていて、自由に触らせてもらえました。

　もし夏にここへ来たら、まさに天然の冷凍庫、一年中融けない氷の世界を強く実感できるんでしょうね。

　ところで、ここを訪れた人には、名前入りの訪問証明書（A4サイズのカラー書式）を発行してもらえます。サハの冬の神様、チスハーン（Чисхаан）や、そのお供の若い娘さんの衣装をまとったキャストが、氷の祭壇（？）でもっともらしい儀式をしてくれるのですが、娘さんはまだ客慣れしていないようで、照れまくってます。（かわいい…！）

　こちらも何だか気恥ずかしくなってきたところに、キョルチャフ（КЁРЧАХ）という、牛乳を凍結させたシャーベットのようなものをふるまってくれました。ほんのり感じるシンプルな甘さが、すごくおいしいお菓子です。

　今回お世話になったサハ共和国の旅行会社プラネット・ヤクーチアの社長、イパチェフ氏作のキャッチコピーによると、「一年中さっぽろ雪まつり」。実際に雪まつりと比較してしまうと、こちらは氷像群がいささか小規模…なんですが、そんなことは大した問題ではありません。ここの本当の売りはまさに「一年中」であるところ。ぜひ夏にもう一度来てみたくなりました。