重慶　午後6時13分　0023

2007/04 - 2007/05

〜0022のつづき〜

■外でさせてくれ

　前置きをした方がなんとなく書きやすい気がするので、この旅ではない話を少し――

初めてのインドでは「手で拭く」が目的のひとつでもあり、右手でカレーを食べ、左手でおしりを拭いた。トイレの後でいくら手を洗っても気になってしまう左手指先の匂いを、自分で何度も嗅いで確めながらカルカッタの街を歩いていた

――さて、モンゴルのカラコルム。

　シーズン直前のツーリストゲル、客はオレひとり。「ここがトイレ、シャワー」と説明を受け、まともな設備に驚いた。しかしシーズンオフなのでシャワーは使えない。さすがに客ひとりのためだけにお湯を準備することはできないだろう。眠るゲルがトイレ棟からとても遠いのでその辺で用を足すのが得策だろうと理解し、従業員に確認をした。

「いいよいいよ、その辺ですれば」。

早朝、まだ星の見える頃に目覚め、トイレに行きたくなる。お腹が痛いのですぐにその辺でした方がいいのだけど、とりあえず遠くにあるトイレ棟までがんばる。ドアを開けようとしたが、予想どおり鍵が閉まっていた。この後、どこに寝ているかわからない従業員をわざわざ起こそうとするのはナンセンスだろう。｢どこでしてもいい｣と言っていたのだ。

もう少しがんばって寝床ゲルまで戻り、さらにがんばってちょうどいい場所でしゃがむ。紙は持っていたが、自然の中に捨てるのはよくないと思って傍らを流れるきれいな川に手を入れた。凍りそうな冷たさの水だったが、紙を使わないでよかった。

　後でテレルジのツーリストゲルに行った時は対照的だった。トイレは、中に入るとアンモニアが目にしみるタイプ、つまり汚くて臭いやつだった。カラコルム同様

「トイレはあるけど、どこでもいいんでしょ？」

と聞くと

「トイレはここだ」

と。

「みんなここで？」

と驚くと

「私たちはその辺で」

と笑って。OKをもらうためにしつこく聞く。

エリア カラコルム(モンゴル)

■おとぎ話の幸せな眠り

「幸せな眠り」というものがいくつかあるとすれば、ひとつはゲルの眠りだろう。

外は寒過ぎるくらいがいい。月夜、満月の夜で、雲には月光の輪がまあるく出来ている。時々吹く風がゴトゴト。ゴトゴト。ゲルの内側はストーブであたたかい。電球を消すと真っ暗になると思いきや、ゲル中心部の天井の穴から月明かり。床に就いて聴くストーブの薪のはぜる音がぱちんぱちん。ゲルの外で立ち話をしているんだろう、モンゴル語がぼそぼそ。この時その言葉を知らない方がいい。おとぎ話にまぎれこんで眠るのだ。

この眠りは、いつかリトアニアの森で経験した。草原の中のゲルではなく、樹と大雪に囲まれた小さいお家の中で。

　朝5時、従業員のお姉さんが火を熾しにやってきてくれた。寒いとは思っていたが、ストーブの火は消えていたのだ。ゲル内が限られた円型の空間のせいか、マッチ一本の火はこんなにも明るいものなのかと思った。体の大きい彼女は、「スーホの白い馬」の絵本で見たような顔をしていた。

■エルデニゾー

　遠くからのエルデニゾーは不思議な眺めだ。広い草原に108の仏塔で四角く囲まれた土地があり、そこにいくつかの寺院がある。エルデニゾーを目指す時、寺院に到達することよりも、この遠景が目的だったと思う。遠くからのエルデニゾーは不思議な眺めだ。

　敷地に入って寺の横のマニ車をくるくる回す。あぁ、これはカトマンズのスワヤンブナートでくるくるしたやつだ。マニ車にはお経が書いてあり、読み書きのできない人はこれを回してお経を唱えたことにする、と聞いた。

ひと通りくるくるした後で、偉い僧がやって来る時間が近づいてきた。火の見やぐらのような少し高い所で子どもの僧がホラ貝みたいなのを「ぷぅぉ〜〜」と吹く。高僧を迎える間ずっと鳴らし続けるのだが子僧には大変そうで、途中休み休み貝を吹いていた。

高僧が寺に入ったら僧全員で読経ライブの始まりだ。たくさんの子僧はお経の本を開いて皆と一緒に声を出す。読めない部分があったりするのだろうか、ついていけなくて遅れたり、今どこなのか探したりして。小学校の授業みたいだ。

（つづく）
http://www.jic-web.co.jp/study/jclub/info.html