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<br /> 車窓の外に広がる夕暮れの青い光は、列車が目的地に近づくにつれ急速に深みを増して行きました。<br /><br /> ようやくプラット・ホームに降り立ってみて、私はとっさに降りるべき駅を間違ったと思いました。回りを見回すと周囲には何も有りません。四角いマッチ箱の様な駅舎を除いて。しかも誰一人、気配さえ感ぜられなかったのです。<br /><br /> これはオカシイ。手に握りしめたガイドブックと駅に掲示されている Obidos という名前をもう一度確かめるように見比べました。それ とも、何処か他に同じ名の土地があるのだろうか?<br /><br /> その時、ドサッと音がして列車最前の運転席あたりから一人、中年の男性らしい人がホームに飛び降りました。両脇には大きな荷物を抱えているようです。駅の中を探ろうとしている私の側に来るとオビドスに来たのかと尋ねます。変だなと思いつつ「そうです」と答えるとその人は、静かに私の背後の上方を指差しました。振り返ってその方を見ますと、眼前の小高い山の上に、オレンジ色の照明がぼんやりと 点り、その下に城壁の一部らしきものが見えました。そしていかにも人の良さそうなそのおじさんは駅舎の2階をまた指して言葉を続けました。<br /><br /> 「私はそこに行きます。あなたはあそこに行きます。」と、一番簡単なポルトガル語で、大きなジェスチャーと笑いを交えながら。<br /><br /> そう、この人はここの駅長さんでこの上に泊り、私はあそこに行くんだ!<br /><br /> タクシーを呼ぶなら電話を…と言われましたが、私は丁寧にお礼を言ってから線路を渡り、すぐ山を登り始めました。10分もあれば着くだろうと軽く考えましたが、しかし両肩に掛けた荷物はやはり重く、ジグザグ道に転がる岩の上で何度も立ち留まらなくてはなりませんでした。ただこんなに遅く今夜の宿は見つけられるだろうかと心配しながら。<br /><br /> やがてゴツゴツした城壁の狭い門をくぐり、薄暗い教会の横を通り過ぎると ─── そこには白い瀟洒な建物とたくさんの花に飾られた、それは美しい村が私を待ち受けてくれていました。  (1992年の旅日記より)

1992/オビドス

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1992/09/19 - 1992/09/21

154位(同エリア271件中)

2

12

ギリシャ/スケッチ旅

ギリシャ/スケッチ旅さん


 車窓の外に広がる夕暮れの青い光は、列車が目的地に近づくにつれ急速に深みを増して行きました。

 ようやくプラット・ホームに降り立ってみて、私はとっさに降りるべき駅を間違ったと思いました。回りを見回すと周囲には何も有りません。四角いマッチ箱の様な駅舎を除いて。しかも誰一人、気配さえ感ぜられなかったのです。

 これはオカシイ。手に握りしめたガイドブックと駅に掲示されている Obidos という名前をもう一度確かめるように見比べました。それ とも、何処か他に同じ名の土地があるのだろうか?

 その時、ドサッと音がして列車最前の運転席あたりから一人、中年の男性らしい人がホームに飛び降りました。両脇には大きな荷物を抱えているようです。駅の中を探ろうとしている私の側に来るとオビドスに来たのかと尋ねます。変だなと思いつつ「そうです」と答えるとその人は、静かに私の背後の上方を指差しました。振り返ってその方を見ますと、眼前の小高い山の上に、オレンジ色の照明がぼんやりと 点り、その下に城壁の一部らしきものが見えました。そしていかにも人の良さそうなそのおじさんは駅舎の2階をまた指して言葉を続けました。

 「私はそこに行きます。あなたはあそこに行きます。」と、一番簡単なポルトガル語で、大きなジェスチャーと笑いを交えながら。

 そう、この人はここの駅長さんでこの上に泊り、私はあそこに行くんだ!

 タクシーを呼ぶなら電話を…と言われましたが、私は丁寧にお礼を言ってから線路を渡り、すぐ山を登り始めました。10分もあれば着くだろうと軽く考えましたが、しかし両肩に掛けた荷物はやはり重く、ジグザグ道に転がる岩の上で何度も立ち留まらなくてはなりませんでした。ただこんなに遅く今夜の宿は見つけられるだろうかと心配しながら。

 やがてゴツゴツした城壁の狭い門をくぐり、薄暗い教会の横を通り過ぎると ─── そこには白い瀟洒な建物とたくさんの花に飾られた、それは美しい村が私を待ち受けてくれていました。  (1992年の旅日記より)

  •  オビドスに私はコインブラから列車を乗りついでやって来た。<br /><br /> 今回の旅の目的の一つがオビドスだった、ある雑誌に掲載されていたオビドスの写真を偶然に見て、家の壁の下部に黄や青色に塗られている帯状の色彩に惹かれたのだ。そしてその土地に実際に行ってみたいと思った。<br /><br />駅のプラットホームから頭上を見上げてみると…。

     オビドスに私はコインブラから列車を乗りついでやって来た。

     今回の旅の目的の一つがオビドスだった、ある雑誌に掲載されていたオビドスの写真を偶然に見て、家の壁の下部に黄や青色に塗られている帯状の色彩に惹かれたのだ。そしてその土地に実際に行ってみたいと思った。

    駅のプラットホームから頭上を見上げてみると…。

  • 壁城まで登る坂の途中で後ろを振り返ってみると<br /><br />マッチ箱のような鉄道駅がポツんと一つ。<br /><br />帰りもここからシントラに向かう。<br />バックパッカー・スタイルの北欧系女性二人連れと同列車を待つ。

    壁城まで登る坂の途中で後ろを振り返ってみると

    マッチ箱のような鉄道駅がポツんと一つ。

    帰りもここからシントラに向かう。
    バックパッカー・スタイルの北欧系女性二人連れと同列車を待つ。

  • 宿は道で偶然に出会ったご婦人に、どこか良いホテルはないだろうかと訊ねたところ、連れていってくれたところは彼女の自宅だった。<br /><br />ご主人が休憩していた部屋を急遽片付けてベッドメイキングして下さった。<br /><br />2晩お世話になった。

    宿は道で偶然に出会ったご婦人に、どこか良いホテルはないだろうかと訊ねたところ、連れていってくれたところは彼女の自宅だった。

    ご主人が休憩していた部屋を急遽片付けてベッドメイキングして下さった。

    2晩お世話になった。

  • <br /><br />スケッチと



    スケッチと

  • <br /><br />実際の写真



    実際の写真

  • 地図を見るとここを上ると有名なポウザーダがある。

    地図を見るとここを上ると有名なポウザーダがある。

  • <br /><br />これがオビドスのポウザーダのはずだが、泊まっていないので正直なところよく分からなかった。<br /><br />が、他の人のホームページを見ると正解らしい。



    これがオビドスのポウザーダのはずだが、泊まっていないので正直なところよく分からなかった。

    が、他の人のホームページを見ると正解らしい。

  • <br />ハガキ大に描いたスケッチ。<br /><br />私の他にも何名か絵を描いている外国人に出会った。<br /><br />この村には時間があれば絵を描く目的だけで数日間滞在してもよいと思った。


    ハガキ大に描いたスケッチ。

    私の他にも何名か絵を描いている外国人に出会った。

    この村には時間があれば絵を描く目的だけで数日間滞在してもよいと思った。

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この旅行記へのコメント (2)

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  • バートンさん 2009/04/14 21:32:53
    懐かしいオビドス
    ギリシャ/スケッチ旅さん、こんにちは。

    1992年にオビドスへ行かれたんですね。
    私が訪れた時より10年以上の前ですが、
    まったく変りなく時間が止まっているかのようです。

    相変わらず素敵なスケッチですね。
    ギリシャ/スケッチ旅さんの絵がお写真より
    懐かしく感じさせるのはなぜでしょう。
    うまく言えないのですが。。。

    オビドス駅でのエピソードが
    この町の素朴さを表しているようで
    じーんと来てしまいました。
    このような親切に出会える旅っていいですね。

    ばーとん

    ギリシャ/スケッチ旅

    ギリシャ/スケッチ旅さん からの返信 2009/04/15 20:59:46
    RE: 懐かしいオビドス
    バートン さん

    お返事がすっかり遅くなってしまいました。
    今朝にも書き込みをしましたが、サーバーが混んでいるとか何とかで
    送信することが出来ませんでした。

    数えてみると私がオビドスを訪れた頃からだいぶん時間が経ちました。
    全体的には殆ど変わりはありませんが、印象として村が奇麗になったような気がします。
    バス停に近いアルテージョの部屋は薄暗くてとても埃っぽかったように思います。
    観光化が進み村の隅々まで手が届くようになったのでしょう。
    以前は崩れかかった壁がまだ残っていたような。
    時間の流れでしょうね。

    ポルトガルは地方に行くほど好感な素朴さが残っています。
    日本の地方は過疎化が進んでいてとても問題ですが、ポルトガルの田舎と何処が違うのか
    何とかならないのか、とそんなことを考えるようになった 地方出身の
    ギリシャ/スケッチ旅 でした。 また寄せ手ください。

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