重慶　午後6時13分　0022

2007/04 - 2007/05

〜0021のつづき〜

■馬上のケータイ

　ウランバートルを出発した車は途中バヤンヌールという所まで快調に飛ばしたが、アスファルトに工事中が増え始め、道を外れて砂ぼこりを巻き上げて走る状況になってきた。地図で確認していた道路から「ぐい」と道の無い方へ進路変更。まだ草の海は緑色でない季節、ステップの中を上下に揺れながらどこどこ走る4WD。車内に手でつかめる所が無ければ頭をぶつけるだろう。

がくがくと頭がシェイクされて脳内モルヒネが出たのか突然とても楽しくなってきて「（道なき道を走るのが）すげーすげー」と大声で叫んで笑いっぱなし。地図など見ても自分たちがどこに居るかわからず、時々「○○だ」と言われた町の名前を探す程度だった。ドライバーのオラナも「だいたい」で運転しているのである。

突然「ププー」「ププー」とクラクションを鳴らし始め、「オラナもこういう状況を楽しんでいるのだろう」と思ったが、ドライバーという仕事は私のように無責任に笑っていればいいだけではなかったようだ。私の視力では気付かなかったが、とても遠い所に人が居たのである。馬に乗って。羊を追って。オラナは彼に（彼女に？）「待ってくれ」という合図でププーとしていた事がわかった。

驚くことに彼は携帯電話を持っていて誰かと話が終わったところらしく、今考えると、広大なモンゴルの草原に有線を張りめぐらす方がアンテナ電波塔を建てるよりよっぽど大変で見映えも悪いだろう。馬上の民、ゲルの民は皆携帯電話である。民族衣装デールで馬とケータイを操る。かなり違和感のあるスタイルだがこれが現実だ。

オラナが道を尋ねると馬上の人は「あそこに○○があるからそれをこっちに曲がって、、、」と説明しているようだ。目印にするものなんて無いと思う。オラナはお礼を言って1本のタバコを渡す。馬上の人はタバコを耳に挟み、我々の車を見送っていた。このくり返しで目的地カラコルムを目指すのである。

エリア カラコルム(モンゴル)

■モンゴルにおける相撲の話題について

　カラコルムで朝青龍の看板を見た。彼の経営するツーリストゲルの宣伝だ。モンゴルの人々はリアルタイム衛星TV放送で日本の相撲を見ていて、日本人である私に相撲の話をしてくれる。私はおすもうさんに全然興味が無いので、おそらく相当詳しいであろう話がわからない。

朝青龍は知っているのだがモンゴルの人々からは「ハコ」「ハコ」という四股名がよく出てくる。知らない。しかもハコの方が人気がある。「知らないわけがない！大関のハコだぞ！」と言われても山崎ハコしか頭に浮かばない無関心。モンゴルの人々は活き活きとした顔から大変悲しそうな顔になって相撲の話をやめるのである。

ハコは置いておいて、「朝青龍は相撲は強いがビジネスはダメ」と言われており、看板のツーリストゲルも儲かっているのか不明。朝青龍がウランバートルにあるサーカス劇場を最近買い取った。「モンゴルサーカスは今世界で一番面白いサーカスなんです」という話を聞いていたため観る気満々だったが、ぼろぼろな劇場は閉鎖されていた。朝青龍には劇場改装リニューアルオープンのためにビジネスをもっとがんばってもらいたい。

　帰国後ずいぶん経ってから「新横綱誕生」というニュースを見て「ハコ」が誰だったのかわかった。

■涙のスパゲティ

　カラコルムに到着。ゲルでの夕食は驚きのメニューだ。「スパゲティミートソーススライスチーズのせ」。ゲルで食べるには洒落過ぎのメニューだが、妙にうまくできている。私は涙が出そうになりながらこれを食べていた。この複雑な感情をどう説明すればよいか――

外人ツアー客はモンゴル料理の羊肉の臭さにうんざりしているだろう。喜ばせようとしてモンゴル料理を出してもたくさんの食べ残し。無駄になるので無難なスパを出すようになる。はじめは茹で加減もぶよぶよだったかもしれないがツアー客に言われて次第に味がよくなっていく。ゲルの中でモンゴル料理の替わりにスパゲティを食べる

――そんなおいしさにとても切なくなり、涙が出そうだ。

（つづく）
http://www.jic-web.co.jp/study/jclub/info.html