2004/01/23 - 2004/02/05
18位(同エリア121件中)
ちびのぱぱさん
- ちびのぱぱさんTOP
- 旅行記273冊
- クチコミ203件
- Q&A回答37件
- 321,080アクセス
- フォロワー32人
極上の白砂ビーチにサボテンという取り合わせは、ちょっとシュールです。
それに加えて、マカロニウエスタンを彷彿させる街並み。
ここはまるで昔見た西部劇の世界だと思いました、町も景色も。
マカロニウエスタンというのはメキシコ人のよく登場するイタリア生まれの西部劇です。
ジュリアーノジェンマ、懐かしいなあ!
ガイドブックによれば、ダイビングの盛んな地でもあるようです。
きっと行ったことのある方は少ないでしょう。
その名もムレーヘ=Mulege。
何しろ辺鄙だもん。
- 同行者
- カップル・夫婦
- 一人あたり費用
- 10万円 - 15万円
- 交通手段
- 鉄道 高速・路線バス タクシー
- 航空会社
- 大韓航空
- 旅行の手配内容
- 個別手配
PR
-
「ここだよ。」
「えっ?」
バスの運転手の言葉に、私と妻は言葉を失いました。
それは、とんでもない田舎、というよりただの道ばたでした。
「降りるの?降りないの?」
「お、降ります。」
その「道ばた」には小さなたばこ屋さんがあって、おばあちゃんが店番をしていました。
そうばん、この町を逃げ出すだろうと予感して、店番のおばあちゃんに帰りのティファナ行きのバスを尋ねると、
段ボールの切れ端にマジックインキで書かれた時刻表のようなものをアゴで示しました。
英語のガイドブックで確認しておいた帰りのバスは、その時刻表にはありません。
その時刻表には、近隣行きのバスの時刻しか記されていないのです。
国道からそれて埃っぽい脇道をしばらく進むと、煉瓦造りに剥げかけた漆喰を塗ったような家々が現れました。
そこがムレーヘの町でした。
まさに子供の頃見た西部劇に出てくるのと何ら変わりないメキシコ人の町は、もうすぐ昼時だというのに人通りも少なく、ますます私らを不安な気持ちにさせたのでした。 -
小さなこの町は、西部劇だとよく撃ち合いの舞台になるメキシコチックな広場を中心にこぢんまりとまとまっています。
町には大したホテルもないようで、その広場からほど近い Hotel Vieja Hacienda というモーテルふうの安宿に、私らは少し重い気持ちで部屋を求めました。(写真) -
やる気があるのか無いのか、緩慢な動きのメキシコ人従業員、宿の主人の小さな子供が井戸の周りを走り回り、けだるい空気が流れています
シーズンオフだったので、値切って一部屋250ペソ(2500円くらい)にしてもらいました。部屋は極めて質素です。 -
部屋に荷物を置くと、妻は小さなため息をつきました。
-
ホテルは背の高い土塀に囲まれ、やけに立派な木の門がありました。
平和そのもののような町ですが、それなりに物騒なのでしょうか。
門を出ると左手に小さな雑貨屋のような店があり、入るとそこはインターネットカフェで、旧式のパソコンが薄暗い店内の壁に沿って並んでいるのが見えました。
子供たちがゲームに熱中する脇で、私らはメールを久しぶりにチェック。
残念ながら、日本語のフォントを使えず、メールの返事はローマ字でしなければなりませんでした。 -
数十通もあったメールを処理し、町に出てぶらぶらすると、ちいさな土産屋が数件並んでいる通りに出ました。
その一軒に入ると、原色を使った民芸品が並んでいて、やたらと押しの強い少年が店番をしています。
私らが、粘土の人形やお面を手に取ってみていると、そばに来ていきなりこう切り出します。
「何色のが何個ほしいの?」
「えっ?」
「何色が何個ほしい?」
彼は英語でそれを何度も繰り返すのです。
「What color? How many?」
色黒でやんちゃな顔をしていますが、英語はそれしか知らないのでしょうか、とにかく押しつけがましい口調。
しばらくは、妻とそのまねをしては笑い転げました。 -
ロンリープラネットなるその英語のガイドブックには、町外れの海岸に美味しいレストランがあると書いてあります。
その本のおおざっぱな地図を頼りに町を出てほこりっぽい道を歩いて行くと、おんぼろの車に乗った白人の中年女性が、
「乗ってく?」
と、車を停めて尋ねてくれました。
「ありがとうございます。でも、すぐそこですから。」
「そう。じゃ、グッドラック。」
また炎天下の道を歩き出すと、すぐに後悔が襲ってきます。
「やっぱり、乗せてってもらった方が良かったかもね。」 -
いい加減な地図ではすぐにも着きそうでしたが、思いの外道は遠く、道端にはこんな5?くらいあるサボテンがにょきにょきと立っていました。
このサボテンはバスからさんざん見かけましたが、ムレーヘの町外れでようやく近くでじっくり見ることができました。
まるで電信柱のような見事さ。
-
これの林立する様を夕暮れ時に見ると、宇宙人が大群で襲ってくるような感じなのです。
-
さすが本場、生き生きとしていますね、サボテン。
なんだか、美味しそう…… -
「なんで、こんな田舎のこんな辺鄙な場所にある食堂に、それも歩いて行こうとしているのだろう、自分たちはいったい何をしているのだろう」
そんな疑問が強く頭に浮かんできた頃、面白い形をした島が見える海岸に出まして、そこには確かに小さなレストランがありました。
この海は太平洋ではなく、カルフォルニア半島の東、つまり大陸側、コルテス湾なのです。
ロスカボスからはバスで400キロ以上北上しなければならないというそれはもう辺鄙な場所なのです。 -
レストランは、やっているのかいないのか人気が感じられませんが、
店内に入るとそこは、シャイな婦人と厨房からけして出ようとしないおじいさんのやっている質素なお店でした。(写真)
シャイな婦人は、それでも精一杯の笑顔を見せて注文を取ると飲み物を持ってきてくれました。
出された魚のグリルは、質素な店の構えからは想像も付かないほど美味しかったのです。
1月ですから、がらんとしているのも当然、要はシーズンオフなんでしょうね。
控えめな大きさのガラス窓の外には、青い海が静かに揺れておりました。
ロンリープラネットというガイドブックは、本当に心強い本だと、しみじみ感じました。 -
バサバサしたムレーヘの町外れの橋を渡ると、写真のように川が流れ、周囲はオアシスのようになっていました。
「やっぱり水の眺めはほっとするね。」
橋から川面を見下ろすと、流れは淀んでいますが水面下には何かの魚が泳いでいるのが見えます。
でも、私はロンリープラネットの写真にあった美しい珊瑚の海をシュノーケルしたいと思っていました。
実は、その写真に引かれてはるばるムレーヘまで来たのです。
この町に着いて以来、いったいどこにそんなものがあるのだろうかと疑いを深めていました。
町には小さな旅行代理店があって、訪ねると、よく日焼けをしたアメリカ英語を話す若い女性がにこやかに迎えてくれました。
彼女にそのシュノーケルツアーのことを尋ねてみると、少し残念そうな顔でこう答えました。
「まだ寒いのでお勧めしません。」
「だめですか。」
「やめた方が良いです。」
彼女が教えてくれた今時期の海水温は、北海道で長く暮らす身には十分な水温のようでちょっと未練がありましたが、妻もいることですし、シュノーケルツアーは諦めることにしました。
妻は、あまり泳ぎは得意ではありません。 -
さて、いったいどこに美しいビーチがあるでしょう。
ロンリープラネットにはレケッソンビーチが一番の人気だと書かれています。
ビーチまではバスかタクシー(レケッソンビーチまでは2〜30分とある)ですが、バスは本数も少なく使えませんからタクシーを使うことにしました。
ビーチにはお店は一切無いというので、飲食物を含め必要と思うものは全部町から持参することになります。
私らは地元の食料品店で買ったコッペパンを持参しました。
そのパンの袋にはBINBOと書かれていました。
「ビンボーパンか。」
「なんだか身につまされるねえ。」 -
アメリカの方たちはバスのような巨大なキャンピングカーにソーラーパネルを積んで、例のように都会と同じ生活をこの大自然の中に持ち込んでおられました。
これでどのくらい発電するのでしょうか。
日照だけは抜群の条件ですが……
私らのビンボーパンをねらってか、カラスが上空を行ったり来たり。
「おまえになんかやるか!」
妻と私は急いでほおばりましたが、タクシーと約束した時間まではまだだいぶ間があります。
焦ることはありません。
何しろ、時間がゆっくりゆっくり……
耳が気圧の変化に堪えられずにキーンとなったような、すべての音が遠くに行ってしまったような不思議な感覚に捕らわれる。 -
どこまでも抜けるような青空と白いビーチ、コバルトブルーの海。
ダイビングでは鯨やジンベイザメなどの大物が見られるようですが、わたしたちはやりませんので……、つまりノンダイバー。
「ああ、良い天気。」
がんばって、ブーメランパンツやビキニの水着姿で甲羅干ししている人たちはいましたが、さすがに1月では泳いでいる人は見かけませんでした。 -
アメリカの御用達リゾートで物価も高めですが、地元の人はちっとも遊んでいません。
まるでアメリカの植民地のよう。 -
そういえば、町中で旅行中のメキシコ人のご家族お会いしました。
人の良さそうなカウボーイハットが似合うお父さんと、やんちゃな盛りの男の子と女の子、それにお母さんに、おばあちゃん。
おんぼろの車でメキシコシティーから2000キロ以上走って観光にやってきたそうです。
キャデラックのおんぼろに、家族5人が楽しげに乗っています。
頑張れメキシコ人。 -
水は透き通り、波も穏やかです。
ゆっくり、ゆっくりと時間が流れて行く……。
-
青空と言うより、宇宙に近い感覚。
-
目もくらむようなブーゲンビリアが咲き誇っていました。
ハチドリが、しきりに花の蜜を吸っています。
これといってすることもない私らは、その様子を飽くこともなく見つめまていました。
ショッキングピンクの花とマリンブルーの空、ハチドリのブーンという羽音。
次第に現実感が乏しくなります。 -
タクシーは最初に料金を交渉して値切ったのですが、帰ってきてからやっぱり正規の料金を払ってほしいと言い出しました。
「冗談じゃない。一旦納得した値段を変えるなんてとんでもない話しだ。」
私は一歩も譲りませんでしたが、結局警察署(そんなものがあったんですね、意外に大きな町でした)まで行って話し合いましたが、
「あんたの言っていることも分かるが、ここは正規の料金を払ってやってくれないか。」
そう警察署長と思しき恰幅の良い男性に諭されるように言われ、なんだか割り切れない思いで料金を払いました。
バスもタクシーもけして安くはなく、また道は良く整備されているので、アメリカ人に見習ってレンタカー利用が良いかと思いました。 -
町に戻って、歴史的な建物がある丘を訪ねてみます。
もちろん、徒歩です。
ここは昔流刑地でもあったようで、元刑務所だった建物が記念館になっていました。 -
囚人たちは特に幽閉されることも無く、朝町に働きに出かけて夕方に刑務所に戻り、地元の人と結婚することもあったということです。
タクシーの一件では腹を立ててしまいましたが、町の人たちはとても日本に親近感を持っています。
100人いたら、100人の日本人が知らないというであろうこの町の人は、日本のことをとても良く知っていました。 -
アメリカからやってくる観光客はこの町は素通りするようで、でっかいトレーラーで海辺のビーチに繰り出しオートキャンプを楽しんでいました。
夕方になると、そういうアメリカ人たちが大挙してこの町に繰り出してくるのです。
私たちも、アメリカ人たちに人気のエルキャンディル(El Candil)というレストランで昼食(写真)を取ることにしました。
お昼もなかなか、はやっています。
わたしらの周囲は、裕福そうな中高年のアメリカ人たちが陽気にはしゃいでいます。 -
「あれ?これがメキシカンステーキ?」
妻と私は、運ばれてきた料理を見て顔を見合わせました。写真の料理は、メニューによるとメキシカンステーキというのですが、
「どう見てもトマトで煮込んだ牛肉のシチューだね……、ん……なかなかいけるわ。」
味は、ロンリープラネットが保証しているように、ほうとうに美味しかったのです。 -
夕方、エルキャンデルにマルガリータ(カクテル)を飲みに出かけました。
時間が早かったのか、客はパシフィコビールをラッパ飲みするオヤジが一人だけ。
バーカウンターの中では、渋い男性がこれから押し寄せるアメリカ人観光客に備え、忙しくしていました。
「いらっしゃい。」
笑顔がさらにしぶい!
「マルガリータ二つ。」
「へい、お待ち。」
「でかい!」
メキシコではどこに行っても飲めるという話ですが、El Candil のマルガリータはラーメンどんぶりのようにでかいサボテン型グラスに注がれ、さすが人気店だと思いました。
料理の味も、雰囲気もお勧めです。もちろん値段も手ごろ。 -
夜明け前の4時、寝静まったホテルの裏木戸を、音を立てないようにそっと開けて路地に出ます。
夜はとても冷え込みます。
全く人影のない裏道を、月が煌々と照らしていました。
宿の人には黙って出てきましたが、宿代は前払いになっていますから、まあいいでしょう。
ロンリープラネットで確かめておいた戻りのバスの時刻は、朝4時半。
当然ながら、あのたばこ屋は堅く戸を閉じています。
砂漠の中の国道は、ハロゲンランプが孤独に道を照らしていました。
「ほんとに来るのかね、バス。」
「たぶんね。」
1時間、2時間、3時間と平気で遅れるお国柄、待ちぼうけになる確率も低くはありません。
「あっ、来た!」
「ほんとだ、よかったね。」
ずうっと400キロも南のラパスを出てきたバスは、信じがたいことに、時間ぴったりにやってきました。
二人でち切れんばかりに手を振ってバスを停めた私らに、そんなにしなくても止まるよ、とあきれ顔の運転手が迎えてくれました。
※以下に行き方を簡単に記します。
アメリカとの国境の町ティファナからバスで行くことができますが15時間くらい掛かります。
ずうっと太平洋側を南下し、半島中央部あたりのゲレロネグロという町(鯨が見られます)に向かいます。
そこから今度は半島を東へ横断して、カルフォルニア湾側のサンロザリアという町に出てるのです。
途中は巨大なサボテンの林を延々と走り抜けます。
それからさらに少し南下した場所にこのムレーヘがあります。
私はバスを用いましたが、ティファナかエンセナーダでレンタカーを借りると良いと思いました。
バスは意外に高く、行きたい場所への自由もかなり制限されます。
この旅行記のタグ
利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。
この旅行記へのコメント (4)
-
- pedaruさん 2011/05/31 06:29:14
- すばらしい文章力
- はじめまして
写真ももちろん素敵ですが、ぱぱさんの文章力には感心しました。 まるで物語を読んでいるような錯覚を覚えました。 写真なしでも十分引き付けられると思います。
ほかの旅行記も見てみたいと思います。楽しみにしています。
- ちびのぱぱさん からの返信 2011/05/31 18:10:02
- RE:
- はじめまして Pedaruさん
拙文をお褒めいただきまして、はずかしいです。
いつも1月に休暇を取ってどこかに行くのですが、今年は、いろいろあってどこにも行きませんでした。
旅で出会った一コマや、感じたことを書くのも楽しみだったのですが、それもかなわず……。
これから、Pedaruさんの旅行記も読ませてください。
他人が旅行に行った話を聞くのも大好きです。
-
- nakamasananiwaさん 2010/01/21 10:43:38
- ♪♪♪
- 素敵です♪
ワクワクします、いってみたいなぁ、アメリカ
それにしてもモデルさんが素敵なのは言わずもがなですがだんなの写真は雰囲気あっておいら大好きです♪またときどき昔の写真みせてくださいね、おおきにでした
- ちびのぱぱさん からの返信 2010/01/21 17:27:12
- RE: ♪♪♪
- まいどどーも。
いつもおいでいただいて感謝します。
バハカリフォルニアは、マイナーですがなかなか良いところです。
是非、レンタカーで回られることをおすすめします。
コメントを投稿する前に
十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?
サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。
旅の計画・記録
マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?
4
28