1995/04 - 1995/04
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みどりのくつしたさん
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マイアミ空港を飛び立った飛行機は、まずバハマ上空へと向かった。
機長がアナウンスして『左側の窓からニュープロビデンス島、首都のナッソーが見えま〜す』と案内する。
観光客の多く利用する飛行機らしい、観光バスのような親切さだ。
しかし、マイクがまわってきて、唄を歌うことはしないようだった。
飛行機はどうやら西インド諸島の島伝いに飛ぶらしく、続けて飛ぶうちに『右側にプエルトリコが見えま〜す』またしばらくして『右側にマルティニークが見えま〜す』とアナウンスをする。
最初のナッソーは僕の座っている左側の窓から見えたので納得したが、あとは全部右側の窓からしか眺められず、僕の席から見るのは不可能だ。
僕はこういう時、ひょっとして神に見放されたのだろうかと、真剣に考える。
この旅行は失敗に終わるのかもしれない。
もちろん今までもずいぶんひどいところへ旅したことがあった。
例えば広東省の広州、ここは香港から鉄道で入ったが、駅前から人が多過ぎて頭が痛くなって、鉄道で上海へ移動する計画をあきらめた。
しかしその結果、広東から夜行のフェリーで香港へ戻る時、デッキで夜風に吹かれながら川の両岸に広がる工場地帯の明かりを見れたのはすばらしかった。
インドネシアからシンガポールへ船で入国した夜は、散々歩き回ってドミトリーに泊まったが、これもすぐに物価の高いシンガポールを逃れ、とっととマレーシアのマラッカへ向かい、快適な宿を見つけることが出来た。
このように、普通ならいやなところからは脱出すればいいだけだ。
ところが島は困る。
島からは、簡単に逃げようがないからだ。
フィジーへツアーで行ったのが最悪で、連日雨が降り続き、肌寒く、お土産もカレー粉しかなく、移動も出来ず、何もないホテルに閉じ込められ、結局これが原因になって夫婦の関係が悪くなり、結局離婚になってしまったという悲しい話を僕は自分のことのように知っている(自分のことなので)。
だから島という閉ざされた空間に対しては、もともと本能的な恐怖感がある。
これは旧共産圏の諸国に対する恐怖と同じ、閉ざされた国境に対しての閉塞感だ。
バルバドスの場合、どうしようもなく物価が高かった場合は、近くの島へと飛ぶつもりだ。
が、飛んだ先の島がバルバドスより快適かどうか、物価が安いのかどうか、それはわからない。
それに別の島へ飛ぶ、その飛行機運賃だって結構高いのかもしれない。
そうしたら帰国日の変更ができない切符を持ったまま、帰国日までバルバドスに閉じ込められてしまう恐れがある。
さらに心配なのが人種差別だ。
黒人国に白人の観光客、これで出来ている社会に黄色人種で貧乏な格好をした中年男が受け入れられる場所があるのだろうか?
いじめられて、射撃練習の標的がわりにされてしまわないだろうか?
考えていると、ぞーっとしてアルコールなしではいられない。
機内サービスでウィスキーを頼むと、小瓶で4ドルも取られた。
機内サービスでお金を取られるのもずいぶんと久しぶりだ。
これも、あんまり調子よくないよ。
こんな調子で夜に町に到着して、ちゃんとしたホテルを見つけられるだろうか?
いやだ、いやだ、こんな旅になんか出なきゃよかった。
『ホテル加宝』でビールを飲んで、のんびり本でも読んでいればよかったのに…。
一般人と『世界旅行者』の違いは、旅を楽しみと考えるか、苦しみと考えるかにある。
僕にとって旅は苦しみだ。
旅は、神が僕に与えた試練なのだ。
『世界旅行主義』の三位一体論によって、SEXも旅も人生も同じように解釈出来るわけだから、僕に取ってはSEXも人生も同じように苦しみである。
人生が苦しみであると悟った先輩には、ゴータマシルダッタ君もいる。
彼の教えから仏教が始まり、長い時間を経るうちにいろいろな分派、解釈が生まれ、その本質がわかりにくくなっているが、本来は単純なものだ。
つまり、生きること自体が苦しみであるという認識、そしてそれを受け入れてしまえということだ。
SEXに関して言えば、SEX自体は楽しい場合もあるかもしれないが、そのあとで女の子から『もう1回、もう1回』とせがまれると、これは苦痛になる。
下手に恋愛感情などを持たれてごたごたすると、そのために人生を棒に振ってしまうことも珍しくはない(僕が人妻が好きなのはこの理由なのだ)。
だから、当然旅行もまた人間の苦行であり、これがわかって初めて旅行者の一歩を踏み出したことになる。
一体全体、安定した居心地のいい安楽快適な生活を自ら捨てて、一人で見知らぬ土地に飛び込んで行くのが怖くない人がいるだろうか?
怖いのが当たり前だ。
これを勘違いして、『楽しい』などと考えているうちは、まだまだ一人前ではない。
僕も昔インド旅行をしていたころは、旅行初心者がよく陥る「麻薬のような全能感」に満たされていて、なんでも出来ると思いこんで、駅で寝転がったり、夜の町を歩き回ったりしていてもまったく怖くなかった。
で、こういう舞い上がった旅行初心者は、コンドームも付けずに売春婦を買ったり、出会った現地の人の家に誘われるままに泊まったり、日本では考えられないような思いきったことをしてしまう。
旅行の素人に限って自分の旅行をたいしたものだと思いこんで、どこに旅行してもすぐに大げさにびっくりしたり、安っぽく感動したりする、小学生の作文のような旅行記を出してしまう。
だから、今現在、日本で売られている旅行記というものは、旅行先は違っていてもその地名を変えてしまえばどこと言っても通用する。
こんなことを題材にして旅行記を書いているようでは、なんにもわかっていないのだ。
旅も人生もなめきっているとしか言いようがない。
旅先では本当になにが起きるかわからない。
人生も一寸先は闇だ。
ウィスキーのあとの軽い夕食にワインの小瓶(3ドル)を飲んで、少し恐怖心がやわらいだと思ったら、もうバルバドス到着のアナウンスがあった。
外はすっかり暮れて、飛行機と平行にバルバドスの首都ブリッジタウンの街の明かりが銀河のようにきらめいている。
飛行機は着陸体勢を取り、暗い海面上を低く滑って、海に落ちるかと思った瞬間に足下にアスファルトの滑走路が見えた。
エアコンの効いた機内から外に出ると、南国特有のむっと暖かい空気に包まれる。
歩いてタラップを下りターミナルビルへ入ると、これはこれは、非常に立派な建物だ。
ますます、自分がみすぼらしく思えてくる。
観光客は荷物をもらうのに時間がかかっていたが、僕はデイバッグ一つを肩にかけて、さっさと入国審査の列に並んだ。
入国審査では機内で配られたE/Dカードを提出するだけでうるさいことも聞かれず、滞在期限は出国切符の期限までくれた。
税関検査は口頭で『ナッシングトゥデクレア!』と言えば済み、僕はほとんど一番でターミナルビルの前に出た。
焦っていたのは、ここにホテル案内所があると思ったからだ。
今夜のホテルをとにかく決めなければならない。
バルバドスの空港は街から離れているので、ホテルを決めなければ動きが取れないのだ。
しかし、目の前にあるのはタクシーの列だけだ。
タクシー案内係のような黒人が『どこへ行く?』とたずねる。
おいおい、ここは到着前からホテルを予約をして、空港からホテルへタクシーで直行するのが常識の国なのかもしれないぞ…。
カリブのリゾート観光地なのだから。
血の気がスーッと引いた。
下手したら野宿か・・・。
南国の島にわざわざアーミージャケットを持ってきた心理的な理由がやっとわかった。
宿がないかもしれないという潜在的な恐怖が、南の島へ行くというのに、野宿しても大丈夫なように厚手のアーミージャケットを荷物に入れさせたのだ。
でも、まあ、なんでもわからない時は、気軽にそばにいる人に聞くのが旅行の原則だ。
タクシー乗り場で仕切っていた、一番偉そうな、体格のいい黒人のおじさんに、『すみませーん。ホテルのインフォメーションはどこでしょうか?』と聞く。
おじさんはにやーっと笑って言った。
『ここにはホテル案内所はないよ』
僕はドドッと冷や汗が出るのを感じた。
同時に、身体中が戦闘状態に入ったことを示す、アドレナリンがすーっと血管の中に放出されるのを感じた。
ようーし、ここを何とか切り抜けてみせるぞ。
ドスコイ!
http://www.midokutsu.com/w-indies/wind10.htm
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