ルーマニアの旅【１】　国民に革命の勇気を与えた、「白い妖精コマネチ」を訪ねて

2004/06/14 - 2004/06/18

ルーマニアに強い関心を持ったのは１９７６年モントリオールオリンピックで１４歳のルーマニアの少女が機械のような正確な演技で１０点満点を７回も出し、金３、銀１、銅１合計５つのメダルを獲得し、世界中をあっと言わせた時からだった。少女の名は白い妖精と呼ばれた、ナディア・コマネチ。日本ではビート・たけしの「コマネチ！」のギャグでもおなじみである。
彼女は４年後の１９８０年、モスクワオリンピックでも金２、銀２を獲得し、１９歳の若さで引退、コーチに転身した。コマネチをはじめとするルーマニア体操界の躍進は、独裁者チャウシェスクの英才教育政策にあった。チャウシェスクはスポーツで社会主義国のトップに立つことで国力をアピールしようと考えカロリーコーチに全国から才能のある子供を首都ブカレストに集めさせた。６歳の時に故郷オネスティーからブカレストに出てきたコマネチは２６人のエリート幼児の一人だった。
国民的ヒロインとなったコマネチだったが、１９８１年にカロリーコーチがアメリカに亡命してからは秘密警察に盗聴、監視される日々となり、一方チャウシェスクの次男ニクのストーカー行為に悩まされる。
１９８９年１１月２８日、命がけでルーマニア脱出を敢行、６時間歩いて地雷が埋められた国境を越えハンガリーに逃れた。しかし、ハンガリー国境警察に逮捕されてしまう。ここでも彼女は決死の脱走を計り、オーストリアに脱出しアメリカ大使館に駆け込む。１２月１日彼女はアメリカに渡り、自由を得た。
コマネチの亡命はルーマニア国民を奮い立たせ、１２月２２日、チャウシェスクの演説中群集はチャウシャスク打倒デモ隊と化した。大統領夫妻はブカレストを脱出したものの近郊のトゥルゴビシュティで逮捕、２５日に特別軍事法廷で死刑判決を受け即刻処刑された。
その後コマネチはアメリカ人の元体操金メダリストのバート・コナーと結婚式を故国ルーマニアのブカレストで挙行し、ルーマニアのイリエスク新大統領、ＩＯＣサマランチ会長、ヒラリー米大統領夫人らが出席した。命がけの逃避行の末に再びコマネチが得た栄光であったろう。
チャウシェスクに育てられ、彼の広告塔にされたコマネチは最後には命がけで抵抗し、チャウシェスク打倒の勇気をルーマニア国民に与えた。チャウシェスク夫妻の処刑後の姿は世界中に放映され権力を奪われた独裁者の悲惨な最期を見せしめとする、まるでイタリアのムッソリーニの第２次大戦時の公開処刑を思わせるショッキングなものであった。
コマネチの国民的ヒロインからどん底に突き落とされ、また這い上がった人生は崩壊した社会主義国の現実であり、ルーマニアの現在の姿そのものであろう。
チャウシェスクが国民から搾取した大金で建設した「国民の館」は彼の独裁振りと栄枯盛衰の歴史を顕著に表している。
（写真はコマネチ）

エリア ルーマニア

１９７６年モントリオールオリンピックで１４歳のルーマニアの少女が機械のような正確な演技で１０点満点を７回も出し、金３、銀１、銅１合計５つのメダルを獲得し、世界中をあっと言わせた。少女の名は白い妖精と呼ばれた、ナディア・コマネチ。彼女は４年後の１９８０年、モスクワオリンピックでも金２、銀２を獲得し、１９歳の若さで引退、コーチに転身した。その後自殺未遂、秘密警察の監視、など苦難の時期がありアメリカへの亡命をはかり成功、革命後再度ルーマニアのヒロインとなった。波乱万丈の人生を体験している。

コマネチはアメリカ人の元体操金メダリストのバート・コナーと結婚式を故国ルーマニアのブカレストで挙行し、ルーマニアのイリエスク新大統領、ＩＯＣサマランチ会長、ヒラリー米大統領夫人らが出席した。

１９８９年１２月２２日、チャウシェスクの演説中群集はチャウシャスク打倒デモ隊と化した旧共産党本部。大統領夫妻はブカレストをヘリコプターで脱出したものの近郊のトゥルゴビシュティで逮捕、２５日に特別軍事法廷で死刑判決を受け即刻処刑された。

チャウシェスクが国民から搾取した大金で建設した「国民の館」。部屋数は３１０７で世界中の官庁、宮殿建築の中ではアメリカのペンタゴンに次ぐ規模。宮殿内部は天井、壁、窓枠にいたるまで純金の装飾が施されている。コマネチも何度か招かれている。

「国民の館」の柱の彫刻。

バルカンの小パリと呼ばれていたブカレストのシンボル、凱旋門。

ブカレストの革命広場に建つクレツレスク教会。１８世紀建造のルーマニア正教教会。

ブカレストの王侯貴族の別荘地として繁栄したシナイアのペレシュ城。ルーマニア王室の夏の離宮であった。チャウシェスクの豪華な別荘も近くにある。

シナイアのペレシュ城の中庭。

１７世紀に建立されたシナイア僧院。

この旅行記へのコメント （1）

• Ｄ＆Ｔさん 2006/01/09 22:16:20

  「白い妖精コマネチ」のお話

  さすらいおじさん。
  
  ルーマニアの旅【１】を拝見させていただきました。
  
  モントリオールオリンピック当時
  小学生だった私は、自分とそれほど変わらない
  ルーマニアの少女が、次々と１０点満点を
  連発するその姿に、ＴＶに釘付けでした。
  今まで、オリンピックの体操競技で１０点満点というのは
  見たことがありませんでしたから・・。
  びっくりしましたよねー。
  でも、その少女が、何故か笑わない。ちっとも嬉しそうじゃない
  ことを、ずっと疑問に思ってました。
  
  最近になってコマネチさんの半生を紹介するＴＶの
  ドキュメンタリー番組などで、彼女の今までの苦労などを
  知り、さすらいおじさんのこの旅行記で更に
  納得することができました。
  
  コマネチの亡命によって国民が奮い立ち独裁者を倒すとは！
  歴史を変える力があったということですね。
  チャウシェスク夫妻の処刑後の写真、見たことがあります。
  ヒトラーの最期の姿も写真で見たことがあります。
  独裁者の最期というのは・・・いずれにしても悲惨ですね。
  
  「国民の館」の部屋数３１０７とは、すごいですね。
  ここは、現在何に使われてるのでしょうか。
  国民のために使われてると思いますが・・・。
  
  では、またおじゃましま〜す　(^▽^)/~~~