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旧分校の宿 カエルの学校のクチコミ
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小谷村は「雪と緑と温泉のふるさと」と呼ばれる山里で、冬はスキー、春は新緑、夏は登山、秋は紅葉がウリです。
当然に宿泊施設も多数ありますが、その多くは値段とサービスが釣り合わない残念な宿ばかりです。おそらくは、かつてのスキーバブルの時代の「黙っていても客は来る」「サービスなんかしなくても文句は言わない」といった甘い考えのまま、宿としての基本を疎かにしてダラダラやってきたためでしょう。
ついでに言えば、小谷村と言えば必ず名前のあがる某旅館も、数だけ多くてどれもいまいちな料理、特に「冷め切った天ぷら」を出され、砂を噛むような虚しさを憶えました。
そんなクズ宿ばかりの小谷村にあって、昨年オープンした「カエルの学校」は、いうなれば「基本を全うしている」稀有な例と言えます。
施設は旧分校の校舎を改装したものですが、「古臭い」「埃っぽい」「隙間風」といった負の要素は全くありません。しかし「図書室」など、かつて学校だったことを物語る部分も残されているため、独特の懐かしい味わいがあります。
そして私が驚いたのは、ここの夕食です。
食堂脇、広い板張りコーナーの囲炉裏に炭火が熾され、そこでは串を通した魚が
プスプスとはぜながら、おいしそうな香りを立ち上らせています。
皆で腰を下ろし、既に用意の自家製野菜や山菜のなますといった冷製突出しを肴に一杯やっていると、日本海糸魚川産のエビや信州サーモンの刺身が登場。焜炉も点火され、野菜と豚肉の陶板焼きが湯気を立て始めます。うーたまらん!
子供らはごはんを食い始めたが、俺は更に日本酒だ!と、そこで運ばれてきたのがアツアツの茶椀蒸し。危険なくらい熱いのだが、これをフーフーして一口食べ、「熱い!」とうめきながら冷酒を一口。おお冷酒と茶碗蒸しがこんなに合うなんて知らなかった!…思えば、どこの茶碗蒸しも「冷めてるか生ぬるいか」のどっちかだったしなあ。アツアツ茶碗蒸しは酒の肴に最高、というコペルニクス(アルキメデスか?)的な転換だ。
そうこうしているウチに、串の魚も完成のようで、ご主人が各自にサーブしてくれた。
その際に、「串のままカブりつきますか?それともお皿に取りますか?」と意向を聞いて
くださった。こういう細かな部分の配慮ができる人は、小谷村では極めて珍しく貴重だ。
魚は日本海のナントカという赤っぽいもの。「食べる所は少ないんですけど…」と主人。
そうか少ないのか~。「あとヒレにトゲが多いんで、口の中に刺さないように…」とも。
なんでこの魚なの?と一瞬は思ったけど、喰ってみて納得。うまいぜ。トゲも甲殻類みたいな旨みが酒に合う。
ふつう、山ん中の宿といば川魚を出すんだけど、今夜はあえて海の魚。つまりこれは、主人が「今日はこの魚だ!」ときちんと目利きをしていることを表す。「山=川魚」という固定観念・思考停止に陥らず、本当にうまいものを選んでいるのだろう。
その後も、野趣あふれる「フキの葉の天ぷら」や「トウモロコシ丸焼き」などが供された。天ぷらは温かく、トウモロコシは炭火で焼いてんだから当然アツアツ。子供たちも大喜びでした。
そして最後のシメは手打ちソバ&デザート杏仁豆腐。満ち足りた心で食事終了。のんべえの自分にも、食べ盛りの子供らにもなんの不満もない鉄壁の布陣…恐るべし。
…最後に言及したいのは、「子供支配人」のこと。
まあ要するにこのウチの小学生の子供なんだけど、チェックイン時の宿帳記入から、
部屋の案内、そして食事中の給仕まで、多くの場面でこの子が活躍してた。
この子、「世慣れた」感じがまったくない。ここでいう「世慣れた」ってのは、
「大人が何を期待しているのかを諒解済みで、それを全うするように演技する子」のこと。そういう子って、賢いのかもしれないけど、接してて面白くない。
一方、ここの「子供支配人」は、一挙手一投足から、そうだな…なんというか「とうちゃんの商売、俺が手伝わないとヤバいかも…」といった「幼いなりの真心」が伝わってきます。
こんな長いレビューを書いたのも、まずもってこの宿が素晴らしかったとを伝えたかったから、それにもまして、ここの商売がうまくいってくれるといいな!子供供支配人がんばれ!と言いたかったからです。
ほんとにいい宿ですよ。俺また泊まりたい。
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