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ルーマニアにはストリートチルドレンと呼ばれる、所謂子供の路上生活者が多い事をご存じだろうか。チャウシェスク大統領の妻エレーナによる愚案で富国強兵には国民を増やさないとならぬ彼女の論理で、中絶はもちろん避妊まで禁止された。こうした法律は困窮者を圧迫し、貧しい家庭では子供に売春を強要させたり、子供を捨てることが後を絶たなかった。そして捨てられた子供たちは物乞いしたり、ストリートギャングと化し生きていた・・・。そんな子供たちとサツマーレからブカレストまで向かっていた列車で遭遇した時の出来事をお話したい。<br /><br /> サツマーレからブカレストまでの移動は、夜行急行列車で14時間も要する。リクライニングしない8人掛、そして満席の2等座席に座るよりも、1000円強で6人掛リクライニングシートに座れ、快適な移動ができる一等車に私は座っていた。<br /><br /> 途中クルージュから中学生くらいの娘二人を連れた母親とその友人が私のコンパートメントに入って来た。彼らは優しそうな笑顔で「私たちには多くの友人たちが世界中にいます。もちろん日本にも。」と言いながら機関誌を見せた。機関誌はルーマニア語で書かれ、なんと言う意味が書かれていたのかわからなかったが、表紙の絵柄から彼女たちが日本でも知名度の高い新興宗教の布教活動している事はすぐに理解できた。布教活動する者達が一等座席に!?そんなビジネスになるのか??、という疑問はあったが、彼女たちは国籍の違う私に勧誘をするわけでもなく、むしろ日本人の私に大変好意的だったので、個室内は和やかな雰囲気に包まれていた。<br /><br /> 列車はブラショフを過ぎた辺りで早朝を向かえ、母親とその友人が洗面所へと向かった。その時コンパートメントに「招かざる客」が突然扉を開けて入って来た―二人のストリートチルドレン達である。男の子が8歳くらい、女の子が5歳にも満たない幼子で、服は見るに哀れな傷みきったシャツを着、靴を履いておらず素足だった。子供たちはブラショフでスキを見て列車に乗り込んだのだろう。<br /><br /> 子供たちは個室の扉を開けるとすかさず物乞いし始めた。個室では偶々皆で食料を出し合い、朝食を終えたばかりで、余りの食材を片付けていなかったので、子供たちは膝を床につけ、手を合わせながら机の上や座席の上の食材を懇願し始めた。<br /><br /> 女の子は恵んで欲しいあまりに、私の膝にキスをし、そして手を取り、甲にキスをしながら食料を乞う。何と憫れなのだろうか。この子供に対するやるせなさは、何不自由なく暮らし、こうして旅をしている自分の人生自体に罪悪感を持たせる。余りの出来事に私はシートの横に置いていたパンを彼女に手渡した。すると彼女はもう一度私の甲にキスをした。<br /><br /> 一方男の子は娘にテーブルの上にあるウィンナーをねだっていた。最初のうちは娘も子供たちを部屋から追い出そうと怒鳴っていたが、男の子に根負けし、ウィンナーを手渡した。<br /><br />ちょうどその時、母親が個室に戻って来た。そしてストリートチルドレンが室内に入っているのを見て仰天し、悲鳴をあげたかと思うと、顔色は瞬時に豹変し、ヒステリックに怒鳴り声をあげ、子供たちを一蹴するかのように個室から一気に追い出した。そして直ぐに母親は娘に向かって厳しい説教を始めた。なぜストリートチルドレン追い出さず、食事まで与えたのか、彼らが病気を持っていたらどうするのか、刃物など持っていて突然襲われたらどうするのかと。この言い草からすると、母親はストリートチルドレンを野犬や野良猫のようにしか見ていないようだ。<br /><br />何と人でなしの母親かと思う人もいるだろうが、ストリートチルドレンに対する世間の目は一般的にこうしたもので、彼らに構うことにより、リスクを負うのは、自分や身内である家族である。その為子供にこうして教え込むと言う意味で、怒るということもわからなくはない。そしてこれがもし普通の家庭であれば、ストリートチルドレンを追い出す事もまだ解る。しかしながら彼女達は世直しを考え、貧しさから人々を解放しようとする宗教に入信しているのだから、せめてこうして目の前に現れた年端の行かぬ子供たちに手を差し延べてあげるべきだったのではないだろうか?むしろ娘を褒めてやるべきではないのだろうか?そもそも布教活動を行うものが一等列車にのうのうと乗車している事自体、その人達の真意が見えているが。彼らが救わずして一体誰がこの子供達を救うのだろうか??

誰がこの子たちを救う? -ルーマニアの夜行列車の、ある情景

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1996/06 - 1996/06

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worldspan

worldspanさん

ルーマニアにはストリートチルドレンと呼ばれる、所謂子供の路上生活者が多い事をご存じだろうか。チャウシェスク大統領の妻エレーナによる愚案で富国強兵には国民を増やさないとならぬ彼女の論理で、中絶はもちろん避妊まで禁止された。こうした法律は困窮者を圧迫し、貧しい家庭では子供に売春を強要させたり、子供を捨てることが後を絶たなかった。そして捨てられた子供たちは物乞いしたり、ストリートギャングと化し生きていた・・・。そんな子供たちとサツマーレからブカレストまで向かっていた列車で遭遇した時の出来事をお話したい。

 サツマーレからブカレストまでの移動は、夜行急行列車で14時間も要する。リクライニングしない8人掛、そして満席の2等座席に座るよりも、1000円強で6人掛リクライニングシートに座れ、快適な移動ができる一等車に私は座っていた。

 途中クルージュから中学生くらいの娘二人を連れた母親とその友人が私のコンパートメントに入って来た。彼らは優しそうな笑顔で「私たちには多くの友人たちが世界中にいます。もちろん日本にも。」と言いながら機関誌を見せた。機関誌はルーマニア語で書かれ、なんと言う意味が書かれていたのかわからなかったが、表紙の絵柄から彼女たちが日本でも知名度の高い新興宗教の布教活動している事はすぐに理解できた。布教活動する者達が一等座席に!?そんなビジネスになるのか??、という疑問はあったが、彼女たちは国籍の違う私に勧誘をするわけでもなく、むしろ日本人の私に大変好意的だったので、個室内は和やかな雰囲気に包まれていた。

 列車はブラショフを過ぎた辺りで早朝を向かえ、母親とその友人が洗面所へと向かった。その時コンパートメントに「招かざる客」が突然扉を開けて入って来た―二人のストリートチルドレン達である。男の子が8歳くらい、女の子が5歳にも満たない幼子で、服は見るに哀れな傷みきったシャツを着、靴を履いておらず素足だった。子供たちはブラショフでスキを見て列車に乗り込んだのだろう。

 子供たちは個室の扉を開けるとすかさず物乞いし始めた。個室では偶々皆で食料を出し合い、朝食を終えたばかりで、余りの食材を片付けていなかったので、子供たちは膝を床につけ、手を合わせながら机の上や座席の上の食材を懇願し始めた。

 女の子は恵んで欲しいあまりに、私の膝にキスをし、そして手を取り、甲にキスをしながら食料を乞う。何と憫れなのだろうか。この子供に対するやるせなさは、何不自由なく暮らし、こうして旅をしている自分の人生自体に罪悪感を持たせる。余りの出来事に私はシートの横に置いていたパンを彼女に手渡した。すると彼女はもう一度私の甲にキスをした。

 一方男の子は娘にテーブルの上にあるウィンナーをねだっていた。最初のうちは娘も子供たちを部屋から追い出そうと怒鳴っていたが、男の子に根負けし、ウィンナーを手渡した。

ちょうどその時、母親が個室に戻って来た。そしてストリートチルドレンが室内に入っているのを見て仰天し、悲鳴をあげたかと思うと、顔色は瞬時に豹変し、ヒステリックに怒鳴り声をあげ、子供たちを一蹴するかのように個室から一気に追い出した。そして直ぐに母親は娘に向かって厳しい説教を始めた。なぜストリートチルドレン追い出さず、食事まで与えたのか、彼らが病気を持っていたらどうするのか、刃物など持っていて突然襲われたらどうするのかと。この言い草からすると、母親はストリートチルドレンを野犬や野良猫のようにしか見ていないようだ。

何と人でなしの母親かと思う人もいるだろうが、ストリートチルドレンに対する世間の目は一般的にこうしたもので、彼らに構うことにより、リスクを負うのは、自分や身内である家族である。その為子供にこうして教え込むと言う意味で、怒るということもわからなくはない。そしてこれがもし普通の家庭であれば、ストリートチルドレンを追い出す事もまだ解る。しかしながら彼女達は世直しを考え、貧しさから人々を解放しようとする宗教に入信しているのだから、せめてこうして目の前に現れた年端の行かぬ子供たちに手を差し延べてあげるべきだったのではないだろうか?むしろ娘を褒めてやるべきではないのだろうか?そもそも布教活動を行うものが一等列車にのうのうと乗車している事自体、その人達の真意が見えているが。彼らが救わずして一体誰がこの子供達を救うのだろうか??

交通手段
鉄道 高速・路線バス タクシー ヒッチハイク
航空会社
アエロフロート・ロシア航空

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  • トランシルバニア地方の中心地、ブラショフ。マジャール語表記ではブラッショーと呼ばれています。

    トランシルバニア地方の中心地、ブラショフ。マジャール語表記ではブラッショーと呼ばれています。

  • ブラショフ郊外。<br /><br />

    ブラショフ郊外。

  • ブラショフ郊外に位置するドラキュラ城、ブラン城。<br />95年2月、96年6月に二度訪れました<br /><br /><br /><br />

    ブラショフ郊外に位置するドラキュラ城、ブラン城。
    95年2月、96年6月に二度訪れました



  • 断崖に作られた城からヴラドはオスマントルコと対峙し見事撃退します。

    断崖に作られた城からヴラドはオスマントルコと対峙し見事撃退します。

  • ヴラドはトルコ軍を串刺しした死体の林の中で、赤いワインを飲み干し、それを見たトルコ軍が恐れ慄き撤退したと言われ、そこからドラキュラ伝説になったとも言われています。

    ヴラドはトルコ軍を串刺しした死体の林の中で、赤いワインを飲み干し、それを見たトルコ軍が恐れ慄き撤退したと言われ、そこからドラキュラ伝説になったとも言われています。

  • 実際にこの地域には古くから吸血鬼伝説はあったそうです

    実際にこの地域には古くから吸血鬼伝説はあったそうです

  • 馬もパーキングで小休止

    馬もパーキングで小休止

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