2009/11/28 - 2009/12/05
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ねんきん老人さん
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長男が小学校に上がる前、二人で紀伊半島まで旅行しました。
七里御浜と呼ばれる三重県熊野市の浜辺でのこと。 海に向かって小石を投げて遊んでいた息子が、土地のおばさんに凄い形相で叱られました。
あっけにとられて立ちすくむ息子に、おばさんは、
「おとろしいでぇ。 波はおとろしいでぇ」
と繰り返しました。
目の前に広がる熊野灘は水際から急に深くなっていて、不意にやってくる波にさらわれたら、大人でも岸に戻れないのだそうです。
私は心底感激し、何度もお礼を言って別れました。
あれから何度か訪れている熊野灘ですが、今回は車での一人旅です。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 観光
- 4.5
- 交通
- 3.5
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 自家用車
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-
【 瀧原宮 】
紀伊半島をドライブする人にとって、国道42号線というのは馴染みの深い道だと思います。
なにしろ静岡県の浜松から和歌山県の和歌山市まで、ほぼ海岸線に沿って500km 近くも続いているので、その番号はいやでも頭に入ってしまいます。
その42号線沿いに、道の駅「奥伊勢木つつ木館」があります。
といっても知っていた訳ではなく、偶然通りかかっただけのことですが、そこに瀧原宮という神社のパンフレットが置いてありました。伊勢内宮の別院だということです。
道の駅のすぐ横に鳥居があり、社までは600m ということ。
そのくらいの距離ならちょっと覗いてみようか、と神様には失礼ながら軽い気持ちで歩き始めました。
なんの変哲もない道を辿って行くと、また鳥居が。 ここからが神域らしく、下馬を促す札が立っています。
定
一、車馬を乗りいれること
一、魚鳥を捕えること
一、竹木を伐ること
右域内に於て禁止する
神宮司庁
なんとなく、気が引き締まります。道の駅 奥伊勢木つつ木館 道の駅
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【 参道 】
杉木立の参道に敷き詰められた玉砂利。
なるほど伊勢内宮の別院というだけあって雰囲気にも似たものがあります。
神様は杉の木を伝って降りてくるそうですが、屁っぴり腰で巨木にしがみついている姿はどうも想像しにくいですね。 -
【 境内に小さな橋が 】
参道を進むと、小さな橋が見えてきます。
橋を渡ると右に下る小路があり、「御手洗場」と書かれた木札が。
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【 御手洗場 】
清らかな流れに出ました。 これが御手洗場です。
こんなところも伊勢神宮を思い起こさせます。 -
【 瀧原宮・瀧原竝宮 】
参道に戻ってさらに進むと、伊勢神宮を小さくしたような社の前に出ました。
社殿は4棟あり、手前から「瀧原宮」「瀧原竝宮(たきはらならびのみや」「若宮神社」「長由介神社(ながゆけじんじゃ」と書かれた木札が立っています。
たまたま参拝されていたご夫婦に声をかけられ、瀧原宮は天照大御神の和魂(にぎたま)を、瀧原竝宮は同じく荒魂(あらたま)を祀っているのだと教えられました。
よくそんなことを知っているものだと感心しきりの私を見て、くっきりと分けられた白と黒の敷石は地元の人々が近くの川から拾い集めて奉納したものだと、これまた神官も驚くような知識を披露してくれました。
私はといえば、社の屋根に突き出た千木の形から、祀られた神様が女性であることを察しただけですが、そんなことは修学旅行でガイドさんが必ず教えてくれる基本中の基本ですので、知っていても自慢にはなりません。皇大神宮別宮瀧原宮 寺・神社・教会
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【 若宮神社 】
右手前が若宮神社です。
といっても、それがどういう神社なのか分かりません(ご夫婦はもういませんでしたので)。
分からないけど、お参りはしました。
ご利益を期待してのことではありません。 パンフレットにはあれこれご利益のことが書いてありましたが、私は幽霊とご利益は信じていないのです。
でも、お参りすると気持ちがいい・・・。 それだけです。 -
【 参道を戻る 】
参道を戻り、鳥居を2基くぐると、さっきの道の駅に出ます。
ここまで、さっきのご夫婦以外には誰にも会いませんでした。
恋人と一緒だったら「二人きりだね」なんぞとほざいたのでしょうが、白髪ジジイの一人歩きでは絵になりません。 -
【 和具の浜海水浴場 】
国道42号線を30分ほど南下すると、道が海岸線から離れます。
なるべく海に沿って走りたいので国道をそれ、県道734号線を東に進み、やがて紀北町にある和具の浜海水浴場に出ます。
この辺りはリアス式海岸が続き、熊野灘という名称からは想像しにくい穏やかな砂浜があちこちにあります。
ここは何年か前、立ちションをしたら風に煽られてまずいことに・・・という“思い出の地”です。和具の浜海水浴場 ビーチ
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【 楯ケ崎への小路 】
また42号線に戻り、尾鷲を過ぎて国道311号線にそれます。海に向かうためです。
熊野市に入って間もなく、道端に「楯ケ崎」と書かれた小さな木札が見つかりました。 1.9km と数字が。
路肩の草むらに車を停め、歩き出すとこれが想像以上に険しい道で、急勾配の下りが続きます。一応自然石を階段風に置いてある箇所もあるのですが、その石の並べ方が歩幅に合わないし、段差も大きいので、1段ごとに膝が痛みます。
帰りはこれをまた登ってくるのか。 そう思うと早くもうんざりした気分に。
周りは木々が生い茂り、中にはこんな木もあって、いささか不気味な空気が漂います。 -
【 路傍の花 】
救いは、たまに見かけるこんな花です。
ツツジのように見えますが、葉の形がそれらしくありません。 でもやっぱり、ツツジですね。 -
【 楯ケ崎遠望 】
1.9km とはとても思えぬ長い道をたどり、「もうすぐだろう」「もう着くだろう」と自分に言い聞かせながら歩いていると、ちょっとだけ眺望が開け、巨大な岩が見えました。
写真で見たことがある楯ケ崎です。
あそこまで降りて行くのかと溜息が出ますが、それを見に来たのですから、深呼吸してまた急坂を下ります。 -
【 楯ケ崎 】
やっとのことで水辺の岩棚に着きました。
眼前に楯ケ崎が聳えています。
楯のようには見えませんが、○○岩、△△峰といったような名前はたいていがかなり無理なこじつけですから、まあ、いいことにしましょう。
それにしても大きな岩山で、高さが80m、周囲が550m もあるそうです。 -
【 楯ケ崎近景 】
近寄ってみると、打ち寄せる波が見事なさらしを作っています。石鯛やメジナがうようよ泳いでいるのではないかと思うと血が騒ぎます。
実は私、何を隠そう、石鯛釣り歴二十数年なのです。
釣り具屋のおやじにそそのかされて高価な竿を数本、その他の道具一式を買って、各地のさらし場に出かけて行きました。次第に回数は減り、最近数年は行っていませんが。
ちなみに、その二十数年の間に釣れた石鯛の数は・・・まあ、免許を取って以来一度も運転していない人が「無事故歴○年」などと言うのですから、私の「石鯛釣り歴二十数年」というのも、嘘ではないのです。 -
【 柱状節理 】
さらに近づいてみます。見事な柱状節理に圧倒されます。
柱状節理は日本中あちこちにあり、火曜サスペンスには欠かせない岩場ですが、ここの岩場はロケにはあまり適していないと思います。
なぜなら、車を停められる場所からあまりにも遠いのです。
毎回、犯人が告白すると不思議とタイミングよく現れるパトカーですが、ここではサイレンも聞こえないほど遠くに停めなければいけないので、制服警官たちはそこから急坂を駆け降りてこなければならず、ゼイセイと息を切らせながら犯人を連行するのでは、さまにならないからです。 -
【 柱状節理 】
それはともかく、自然の造形力にはただひれ伏すしかありません。
迫力といい美しさといい、よくもまあこれだけのものを・・・と思います。
この荘厳なまでの岸壁は、玄武岩でできているそうです。
玄武岩って何かって?
うーん・・・、今ちょっと忙しいので、また今度解説します。 -
【 千畳敷 】
層になった巨岩が石畳を作っています。
ここに来る途中に「千畳敷⇒」と書かれた木札がありましたので、ここのことでしょう。
「千畳敷」と名付けられた海岸の岩場は日本中に何か所あるでしょうか。
そういえば、狸のナントカは八畳敷とか千畳敷とか言われていますが、本当でしょうか?
私の住む町には童謡『証城寺の狸囃子』の舞台になったお寺があり、町のあちこちに狸のモニュメントがあります。 見ると確かにどれも・・・おっと! 話がそれました。 -
【 二木島灯台 】
見上げると灯台が。
二木島(にぎしま)灯台というのだそうです。
景勝地に建つ人工物は、ホテルにせよ展望塔にせよ、せっかくの景色を台無しにするばかりですが、灯台だけはどこも風景に溶け込んで違和感がないのですから不思議です。 -
【 ?? 】
近くにこんなものが。
周りの岩層からして、自然にできたものとは考えられません。
クレーンが入れる場所でもなし、その場にあった岩を削ったにしては周りの岩と質が違うし・・・。
誰が、何のために、どうやって・・・??? -
【 落石 】
道を半分以上塞いで大きな岩が転がっています。いつ落ちたものか知りませんが、その場にいたらひとたまりもなかったでしょう。
車で走っているとよく、「落石注意」という標識を見かけます。 どう注意するんだよと言いたくなりますが、書かなければ書かないでまた責任論が飛び交うのでしょうね。
ここには何も書いてありませんが、上の岩を見れば誰だってここで弁当を食べようなどとは思わないでしょう。 -
【 阿古師神社 】
楯ケ崎・千畳敷からの戻りは山を一つ越えるように急坂を登り下りして、また海面のレベルまで来ます。
そこに阿古師(あこし)神社という社があり、持統天皇の時代にどうとかいう説明板が立っています。 つまり千数百年の歴史をもつ由緒ただしい神社なのでしょうが、失礼ながらそういうたたずまいはありません。
コンクリート製の四角い倉庫に“神社っぽい”屋根を載せただけの建物で、庇の梁には蜘蛛の巣が張っていました。
そばに鳥居がなければ見落としてしまいそうな神社ですが、その鳥居の先にはコンクリート製の桟橋があります。
ここでは毎年二木島祭というのがあり、阿古師神社と室古(むろこ)神社の手漕ぎ船による競漕が行われていたそうです。
沖で遭難した神武天皇の一行を助けるために村人が懸命に船を漕いだという伝説を再現しているそうで、勇壮なものだったようです。
ですが、ここもご他聞に漏れず漕ぎ手不足で、この旅行の1年後、300年続いた伝統行事は途絶えたとのこと。 なんとも残念な話です。 -
【 二木島湾 】
11月の末とはいえ、ここまでの上り下りで全身汗みずくになっています。
穏やかで透き通った海面を見ているうちに無性に泳ぎたくなりましたが、水着など持っている筈もありません。
ズボンを膝までまくり、岸辺にごろごろしている岩を伝って水に入りました。
当たり前ですが水は季節相応に冷たく、数秒で後悔。 戻ろうとして向きを変えたとたん、丸い岩に足が滑り、ズルッと太腿の辺りまで水に浸かってしまいました。
岩に手をついて這い上がりましたが、無意識に周りを見回し、誰も見ていなかったことにほっとしました。
ズボンをまくった意味はまったくなく、濡れて脚に絡みつくズボンのまま段差の不揃いな急坂を登る苦行に、腹立たしいやら情けないやら。
やっとのことで車に着いたときには、上半身は汗で、下半身は海水で、全身濡れネズミです。
運転に支障がありますし、そのままクーラーで冷えたら風邪でもひくのではないかと思って、素っ裸になって着替えました。 その最中、1台だけ車が通りましたので、慌てて車の陰にしゃがみ込んでやり過ごしましたが、もし見つかったら、その晩どこかの家庭で、
「今日さあ、国道の脇にみすぼらしい爺さんが素っ裸でしゃがんでいたよ!」
ってな話が夕食を盛り上げたことでしょう。 -
【 難破船 】
30年近く前、長男が土地のおばさんに叱られ、
「おとろしいでぇ。波はおとろしいでぇ」
と諭された場所。
私はその場所も、あの声も、深い感謝の念とともにずっと覚えています。 その後の一人旅で何度か立ち寄ってもいます。
そして今回、その場所に車を停めて車中泊をしました。無論、波からはずっと離れた国道沿いの小さな空き地にですが。
既に辺りは真っ暗でしたが、場所に間違いはありません。
朝。冷えた体を伸ばしながら車を出ると、昨夜は見えなかった海が眼前に広がっています。
そこに、鰹節でも浮かべたような物体が。
いや、大きさといい色といい、鰹節なんかではありません。 巨大な客船です。紀宝町ウミガメ公園 道の駅
-
【 座礁したフェリー 】
浜辺を歩いて船に近づきます。
つい半月ほど前、東京から鹿児島に向かうフェリー「ありあけ」(7910トン)が熊野市沖で突然傾き、そのまま漂流するという事故がありました。
海上保安本部のヘリコプターや巡視船で乗客7人と乗員21人全員を救助したものの、船はそのあと浅瀬に乗り上げ横転したということでしたが、それが今こうして目の前に横たわっているのです。
船というものをこういう角度で見たのは初めてのことで、不謹慎ながらその形はやっぱり鰹節にそっくりです。 -
【 水平な甲板が垂直に 】
さらに近づいてみます。 船体に「ありあけ」の文字が。
新聞で報道されたとき、そんな大きな船が突然傾き、乗客が床にしがみついているという、あり得ない事態にも驚きましたが、なによりもその船に乗客が7人しか乗っていないということにたいそう驚きました。 乗員が21人というのでは、採算どころではないだろうと思います。 -
【 波打ち際で見る船体 】
波打ち際まで行ってみます。
警察官がいましたので、船までの距離を訊いたところ、200m ということでした。
とてもそんな遠くには見えません。私の見当ではせいぜい50m くらいに見えましたが、比較する物が何もないので、錯覚なのでしょうか。 -
【 中和剤? を撒く船 】
フェリーから離れた海上で作業船がなにやら撒いていました。
船体から流れ出た油を中和しているのだろうと勝手に推測しましたが、本当のところは分かりません。
それにしても一見穏やかに見える海面。 今回の旅は熊野灘に沿っての移動でしたが、どこで見ても海は穏やかでした。
熊野灘が海の難所と言われるのは、そういう穏やかな表情とはうらはらに大型フェリーをも横転させてしまう潮流のせいでしょうか。
茫然と海を見ながら、私はまたしてもあのおばさんの声を思い出していました。
「おとろしいでぇ。波はおとろしいでぇ」・・・。
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この旅行記へのコメント (2)
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- 琉球熱さん 2015/08/12 13:54:06
- 鰹節ですね
- ねんきん老人さん、こんにちは
不謹慎ながら、本当に鰹節ですね。
乗員と乗客の数を見て、「ねんきん老人さん、間違ったかな?」と思ったのですが、本当に乗員の方が多かったとは。あの大きな船体で乗客が一桁では赤字どころじゃないでしょう。
海は怖いです。山も恐いです。
今、夏休みの真っ最中ですが、連日事故の報道。この時期はやはり海の事故が多くなりますが、どうも自然をなめているとしか思えません。
小さい頃から自然に親しんでいれば、感覚的にわかることだと思う話ばかりです。
たとえば、立ちションするには風を読むことが肝要、という具合に(笑)
- ねんきん老人さん からの返信 2015/08/12 16:43:30
- 書き込みありがとうございました。
- 琉球熱さん、書き込みありがとうございました。いつもながら丁寧に読んでくださって嬉しい限りです。(立ちションの件までしっかりと読んでくださったことで少々慌ててはいますが)
旅客用船舶の経営はどこも大変なようで、繁忙期の収入で閑散期の赤字を埋めているようですが、それも年々厳しくなっているとか。
公共交通の宿命として、繁忙期だけ運行するというわけにもいかないようで、ご苦労がしのばれます。
琉球熱さんは自然、とくに山には詳しい方ですので、昨今の山の事故には胸を痛めていらっしゃると思います。
小生、サンダルでも登れるような山にときどき登っていますが、琉球熱さんの旅行記の影響を受けて、よく知った山の分岐点で行くべき道を選ぶときでも自分なりの理由を意識するようになりました。
漫然と登るのと、意識をもって登るのとでは、残る記憶に大きな違いがあることも学びました。
これからもいろいろと示唆に富んだ旅行記を読ませていただきたいと思っています。
ありがとうございました。
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