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ケープポイントでの雄大な日の出を堪能した後、ケープタウンでレンタカーを返却し、再びウォーターフロントに戻り、11時発のロベン島ツアーのフェリーに乗り込んだ。ロベン島はケープタウンから約12km沖合の島であり「監獄島」とも呼ばれ、政治犯の強制収容所として使われ、ネルソン・マンデラも収監されていた。その後アパルトヘイトは1994年に廃止され、1996年に刑務所は閉鎖、翌1997年には政府の管理下で博物館として一般公開され、1999年にロベン島は人種隔離政策の記憶を伝える負の遺産としてユネスコ世界遺産に登録された。<br /><br />ロベン島を語るためには、南ア共和国の英雄、ネルソン・マンデラ(1918 - 2013)について触れないわけにはいかない。折も折、映画「マンデラ 自由への長い道」(ジャスティン・チャドウィック監督、イギリス・南アフリカ合作、原作はマンデラ自身の著書「自由への長い道 ネルソン・マンデラ自伝」(1995年))が2013年に公開され、この夏、日本の劇場でも見る機会を得た。白人の黒人に対する人種差別の醜い実態、マンデラの孤独な戦い、3度の結婚と2度の離婚など、彼の強靭な意思と人間的な両面を生々しく描いている。<br /><br />マンデラはこの映画が公開された9月から間も無い2013年12月5日、95歳の生涯を閉じたことは記憶に新しい。若くして反アパルトヘイト運動に身を投じ、1964年に国家反逆罪で終身刑の判決を受け、ロベン島に収容された。27年間に及ぶ獄中生活の後、1990年に釈放される。翌1991年にアフリカ民族会議の議長に就任。デクラーク大統領と共にアパルトヘイト撤廃に尽力、1994年に大統領に就任、アパルトヘイトの完全廃止を実現した。1993年にデクラークと共にノーベル平和賞を受賞、1999年に政治家を引退した後も勢力的な活動を続けた。<br /><br />アパルトヘイト廃止から20年、すでに歴史の一部となっているマンデラの死去がつい昨年のことであるとは信じられない思いがする。かつては南ア共和国は、アパルトヘイト政策のために経済関係すら大きな制限があり、この国に進出した企業は、他国で不買運動を受けるなど世界の汚点だった。今、小生のような一日本人が容易に訪れる時代になろうとは想像していなかった。もちろん、20年経過した今でも人種差別の悪弊が完全になくなった訳ではない。この国で多くの人と接してみて、この国の抱える問題、黒人の教育レベルの低さ、貧困が原因で犯罪率は世界でも指折り、アメリカと同じように黒人を一定の比率で登用しなくてはいけないため発生する逆差別、インフラだけ見れば先進国に引けをとらないこの国の問題が根深いことを身をもって知った。<br /><br />さて、ロベン島へはフェリーで約40分、島内はバスで移動し自由行動は許されていない。現在はロベン島は政府が所管し、島全体を博物館として整備、刑務所の元囚人がガイドとして案内業務を行っている。マンデラが収容されていた部屋は最大の見所であり、映画の中にも実物が登場する。<br /><br />ロベン島を訪れて2つの収容所を思い出した。一つはアル・カポネが収容されていたことで有名な、サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島である。地形的、機能的には本当にそっくりであり、周囲は海流が強く脱出が不可能であるなどの類似性については、フェリーで隣に居合わせたアメリカ人とも意見が一致した。<br /><br />もう一つは、不謹慎かもしれないが、人類の歴史上最大の殺人工場、ユダヤ人根絶のために建設されたアウシュビッツ強制収容所である。この収容所が存在したのは約70年前、この悪夢の時代と比較すればロベン島収容所はついふた昔前の20年前のこと、我々の時代と重なっており、幸いなことにマンデラは27年間命を失うことはなく解放された。元囚人が案内してくれた収容所にはシャワー室あり、中庭あり、島内には教会あり、モスクあり、人間性は失われておらず、アウシュビッツを思い出した後では正直ホッとさせられた。<br /><br />PS アウシュビッツを訪れた時の強烈な印象について興味をお持ちであれば以下をご参照いただきたい。<br />http://4travel.jp/travelogue/10679168l

南ア共和国の世界遺産No.4 : ネルソン・マンデラも収容されていた負の遺産「ロベン島」

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2014/06/25 - 2014/06/26

10位(同エリア36件中)

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30

ハンク

ハンクさん

ケープポイントでの雄大な日の出を堪能した後、ケープタウンでレンタカーを返却し、再びウォーターフロントに戻り、11時発のロベン島ツアーのフェリーに乗り込んだ。ロベン島はケープタウンから約12km沖合の島であり「監獄島」とも呼ばれ、政治犯の強制収容所として使われ、ネルソン・マンデラも収監されていた。その後アパルトヘイトは1994年に廃止され、1996年に刑務所は閉鎖、翌1997年には政府の管理下で博物館として一般公開され、1999年にロベン島は人種隔離政策の記憶を伝える負の遺産としてユネスコ世界遺産に登録された。

ロベン島を語るためには、南ア共和国の英雄、ネルソン・マンデラ(1918 - 2013)について触れないわけにはいかない。折も折、映画「マンデラ 自由への長い道」(ジャスティン・チャドウィック監督、イギリス・南アフリカ合作、原作はマンデラ自身の著書「自由への長い道 ネルソン・マンデラ自伝」(1995年))が2013年に公開され、この夏、日本の劇場でも見る機会を得た。白人の黒人に対する人種差別の醜い実態、マンデラの孤独な戦い、3度の結婚と2度の離婚など、彼の強靭な意思と人間的な両面を生々しく描いている。

マンデラはこの映画が公開された9月から間も無い2013年12月5日、95歳の生涯を閉じたことは記憶に新しい。若くして反アパルトヘイト運動に身を投じ、1964年に国家反逆罪で終身刑の判決を受け、ロベン島に収容された。27年間に及ぶ獄中生活の後、1990年に釈放される。翌1991年にアフリカ民族会議の議長に就任。デクラーク大統領と共にアパルトヘイト撤廃に尽力、1994年に大統領に就任、アパルトヘイトの完全廃止を実現した。1993年にデクラークと共にノーベル平和賞を受賞、1999年に政治家を引退した後も勢力的な活動を続けた。

アパルトヘイト廃止から20年、すでに歴史の一部となっているマンデラの死去がつい昨年のことであるとは信じられない思いがする。かつては南ア共和国は、アパルトヘイト政策のために経済関係すら大きな制限があり、この国に進出した企業は、他国で不買運動を受けるなど世界の汚点だった。今、小生のような一日本人が容易に訪れる時代になろうとは想像していなかった。もちろん、20年経過した今でも人種差別の悪弊が完全になくなった訳ではない。この国で多くの人と接してみて、この国の抱える問題、黒人の教育レベルの低さ、貧困が原因で犯罪率は世界でも指折り、アメリカと同じように黒人を一定の比率で登用しなくてはいけないため発生する逆差別、インフラだけ見れば先進国に引けをとらないこの国の問題が根深いことを身をもって知った。

さて、ロベン島へはフェリーで約40分、島内はバスで移動し自由行動は許されていない。現在はロベン島は政府が所管し、島全体を博物館として整備、刑務所の元囚人がガイドとして案内業務を行っている。マンデラが収容されていた部屋は最大の見所であり、映画の中にも実物が登場する。

ロベン島を訪れて2つの収容所を思い出した。一つはアル・カポネが収容されていたことで有名な、サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島である。地形的、機能的には本当にそっくりであり、周囲は海流が強く脱出が不可能であるなどの類似性については、フェリーで隣に居合わせたアメリカ人とも意見が一致した。

もう一つは、不謹慎かもしれないが、人類の歴史上最大の殺人工場、ユダヤ人根絶のために建設されたアウシュビッツ強制収容所である。この収容所が存在したのは約70年前、この悪夢の時代と比較すればロベン島収容所はついふた昔前の20年前のこと、我々の時代と重なっており、幸いなことにマンデラは27年間命を失うことはなく解放された。元囚人が案内してくれた収容所にはシャワー室あり、中庭あり、島内には教会あり、モスクあり、人間性は失われておらず、アウシュビッツを思い出した後では正直ホッとさせられた。

PS アウシュビッツを訪れた時の強烈な印象について興味をお持ちであれば以下をご参照いただきたい。
http://4travel.jp/travelogue/10679168l

旅行の満足度
4.5
観光
4.5
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
5万円 - 10万円
交通手段
高速・路線バス 徒歩 飛行機
旅行の手配内容
個別手配

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  • ウォーターフロントのロベン島博物館のファサード

    ウォーターフロントのロベン島博物館のファサード

  • 博物館内の収容所の展示

    博物館内の収容所の展示

  • ロベン島博物館の内部

    ロベン島博物館の内部

  • ロベン島博物館の内部のネルソン・マンデラに関する展示

    ロベン島博物館の内部のネルソン・マンデラに関する展示

  • ロベン島博物館の内部のネルソン・マンデラに関する展示

    ロベン島博物館の内部のネルソン・マンデラに関する展示

  • ロベン島の航空写真

    ロベン島の航空写真

  • ロベン島ツアーのフェリーに乗り込む

    ロベン島ツアーのフェリーに乗り込む

  • ロベン島に到着しフェリーから下船

    ロベン島に到着しフェリーから下船

  • ロベン島の入り口の展示

    ロベン島の入り口の展示

  • ロベン島の入り口

    ロベン島の入り口

  • ロベン島内のモスク

    ロベン島内のモスク

  • ロベン島内の墓場

    ロベン島内の墓場

  • ロベン島内の教会

    ロベン島内の教会

  • ロベン島内の建物

    ロベン島内の建物

  • 収容所内の展示

    収容所内の展示

  • 収容所内の展示、奴隷制の歴史

    収容所内の展示、奴隷制の歴史

  • ロベン島内の番犬の飼育場

    ロベン島内の番犬の飼育場

  • ロベン島内の移動はガイド付きのバス

    ロベン島内の移動はガイド付きのバス

  • 収容所の外観、アウシュビッツを思い出させる

    収容所の外観、アウシュビッツを思い出させる

  • 収容所内の中庭

    収容所内の中庭

  • 元囚人がガイドしてくれる

    元囚人がガイドしてくれる

  • 収容所内の収容室

    収容所内の収容室

  • 小さいながらシャワー室がある

    小さいながらシャワー室がある

  • 収容所内の中庭

    収容所内の中庭

  • ネルソン・マンデラが収容されていた部屋

    ネルソン・マンデラが収容されていた部屋

  • 海岸にアフリカペンギンが見える

    海岸にアフリカペンギンが見える

  • アフリカペンギンについての説明板

    アフリカペンギンについての説明板

  • スピーチするネルソン・マンデラの写真

    スピーチするネルソン・マンデラの写真

  • 帰路の船上から見るテーブルマウンテン

    帰路の船上から見るテーブルマウンテン

  • ウォーターフロントの船着場に帰着

    ウォーターフロントの船着場に帰着

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この旅行記へのコメント (3)

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  • dankeさん 2014/12/30 00:07:23
    壮絶な人生
    ハンクさん、

    メッセージありがとうございました。

    こちらの旅行記も拝見しました。27年間、マンデラ氏は本当によく絶えましたね。彼が亡くなったちょうど一年前の今の時期にBBCのポッドキャストで追悼番組を何件か聴きました。私は歴史に詳しくはないのですが、マンデラ氏の芯の強さに感銘を受けたというか… 余りにも彼の壮絶な人生を前に私みたいなちっぽけな人間が偉そうに感想を述べているみたいでそれすら恐縮しますが、忘れてはならない尊敬すべき人物だと思っております。私もハンクさんに同感で、負の遺産といわれるものにも目を向けていなかいと、人間は過ちから学ぶことができないと思います。

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2015/01/02 16:50:40
    RE: 壮絶な人生
    dankeさん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

    ガンディーやマンデラなど偉人の辿った道を尋ねるといつも発見がありますね。そんな旅をいつまでも続けていきたいと思います。

    ところで、元日の朝のBS世界ドキュメンタリーで、第二次世界大戦とヒットラーの暴挙についての特集を約4時間見てしまいました。dankeさんもドイツ贔屓ではないかと推察いたしますが、あの尊敬すべきドイツ人たちがヒットラーの暴挙を止める術を持たなかった。状況は違うとはいえ、日本も同罪であり、決して歴史が繰り返されることのないよう伝えていくのが我々の義務だと思います。

    それではまた、これからも健康で元気に旅を続けていきましょう。ハンク

    danke

    dankeさん からの返信 2015/01/03 00:11:31
    RE: RE: 壮絶な人生
    ハンクさん あけましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願いいたします。

    私はトロントに在住のためBSが見られません。以前フォートラでもKENT NAGANO氏のパフォーマンスをレポートされている方がいらっしゃるんだなぁ、と拝見したのがハンクさんの旅行記だったのです。私は音楽界に疎いのですが、NAGANO氏の抜擢はカナダの音楽界にとても斬新な風を運んだようですね。差別が比較的ないと思われているカナダでも差別はあり、その中で日系人のNAGANO氏の存在はただの指揮者以上だと思います。けれどもオバマ氏を大統領にすえている米国でさえですが、差別というのは、根強く人々の心の中に残念ながら残っていると思います。

    差別とも密接にかかわる戦争は思想や言論の自由を奪い取り、人殺しをすることがゆるされてしまう恐ろしいものです。日本でも自分の思想を説きそれが国の方針に合わないのなら非国民と言われた時代がつい最近まであったこと、確かにわすれてはいけません。

    ドイツには行ったことがないのですが、オーストリアを訪ねて、ドイツ語っていいなぁ、と思うようになり、憧憬の念をこめてハンドルをDANKEとした次第です。最近フォートラで拝見する旅行記がドイツ絡みが圧倒的に多いので、なんだかよけい感化されている気もします。ブンデスリーガの試合も見たいです。

    そうですね、お身体にお気をつけて、お互いまた旅行できるといいですね。私は昨年秋から体調を崩していましたので、今は歩くことができること、ごはんが食べられること、人に頼らなくても用事がすませること等、全てに感謝しております。

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