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厳寒のフィンランド旅行記を真夏のヨハネスバーグで投稿する成り行きになってしまった。何とか忘れないうちにと、香港からの12時間のフライトの中で書き上げた。<br /><br />サンクトペテルブルク滞在の週末、フィンランドパスの残りを利用してタンペレとハーメンリンナを訪れた。フィンランド国鉄の略称はVR、全株式をフィンランド政府が所有している株式会社だ。人口500万人ほどであり人口密度も低いフィンランドで、優秀な列車を運行させているVRは立派である。なお、3日間有効のフレキシーフィンランドパスは135ユーロ、ロヴァニエミなどの長距離列車に乗れば十分元が取れる。ただしサンクトペテルブルクとヘルシンキを結ぶ国際列車のアレグロには乗れない。<br /><br />VRとアレグロについてはフィンランド鉄道の旅No.1で詳しく書いた。軌道は標準軌(1,435mm)ではなく、ロシアと同じ広軌(1,524mm)が採用されている。アレグロは2010年12月12日から運行を開始、フィンランド国鉄(VR)社とロシア鉄道会社(OAO RZD)により毎日4往復が共同運行されており、ヘルシンキとサンクトペテルブルク間417kmの所要時間は3時間36分、最高運転速度220km/hである。車両はフィンランド国内用の高速鉄道車両ペンドリーノの改良型の交流直流両用の振り子電車で、在来線の曲線部の改良や線路の補強等により高速運行を可能とした。<br /><br />さて、タンペレの人口は約20万人、ヘルシンキの北西160kmに位置するフィンランド第2の都市である。18世紀後半にスウェーデン王のグスタフ3世のもとで建設された。フィンランドが帝政ロシアの支配下に入ったのちは、紡績業などを中心として工業が発達、ロシア社会主義・共産主義運動の中心地となり、レーニンが最初にスターリンに出会ったのがタンペレであったという。現在はネシ湖とピュハ湖の二つの湖の高低差を利用して水力発電が行われており、製紙、皮革、繊維産業などが発展、近年はノキアなどのIT産業やITを活用した機械工業の中心地となっている。<br /><br />タンペレの見所は多くはない。アルヴァ・アアルト設計の市立図書館の階下に「ムーミン谷博物館」があるが、別の建物に移転するとのことで閉鎖中。ムーミンは小生も幼い頃テレビで見ていて懐かしい。作者はフィンランド人の女流作家、画家であるトーベ・ヤンソン(1914 - 2001)という人で、ヘルシンキの生まれ、ストックホルムの工芸専門学校、ヘルシンキの芸術大学、パリの美術学校などへ通った。代表的なキャラクターのムーミン・トロールは、1944年頃から『ガルム』誌に挿絵として登場する。1966年に国際アンデルセン賞作家賞、1984年にはフィンランド国民文学賞を受賞している。<br /><br />タンペレを発って約1時間、ハーメンリンナを訪れた。この町は人口7万人、首都ヘルシンキから北に約100kmに位置している。13世紀にスウェーデン人によって築かれたハメ城が町の象徴であり、1639年にスウェーデン国王によって憲章が発効した。ハメ城の内部は公開されているが、赤煉瓦の建築を除けば見るべきものは少ない。<br /><br />そして小生の最愛の作曲家の一人であるジャン・シベリウス(1865 - 1957)がこの町で生まれており、その生家を訪れた。父は医師であったが、ジャンが2歳の時に他界。彼は苦学の末、1885年にヘルシンキ音楽院で作曲などを学び始める。1889年にベルリンに留学、さらにウィーン音楽院においてカール・ゴルトマルクに師事した。1899年に交響詩「フィンランディア」作品26を作曲、第2の国歌と言われるほどフィンランドの愛国心を揺さぶった。あまりの人気に当時支配を受けていたロシア当局の弾圧を受け、別名で演奏されたこともあるという。<br /><br />彼が誕生して150年になり、周囲は新しい建物によって取り囲まれているが、彼の生家は当時のまま保存されている。この極寒の時期に訪れる物好きは少ないようで、客は小生だけであった。管理人である音楽研究家のErkki Seppalaさんから、希望のバックグラウンドミュージックを尋ねられたので、大好きな交響詩「エン・サーガ」を希望した。それがきっかけとなってシベリウス談義が盛り上がり、時が過ぎるのも忘れてしまって列車に乗り遅れそうになった。彼はシベリウスがチャイコフスキー、ワーグナー、R.シュトラウスから影響を受けた若い頃、その後古典派やフランス印象派の様式を取り入れ、より内省的、神秘的に変化していった晩年の作風の変化を詳しく解説してくれた。また60歳以降はほとんど作品を公表しなくなってしまったが、実は交響曲第8番が書かれており、恐らくは彼自身が破棄したそうである。あの神秘的な第7番に続く交響曲が現存していたら、、、何とも好奇心を掻き立てられてしまう。<br /><br />余談になるが、シベリウスは1892年にアイノ・ヤルネフェルトと結婚、1904年にヘルシンキ郊外のヤルヴェンパーに「アイノーラ」(アイノの家)を建て、そこで作曲に専念した。91歳の1957年に脳出血により没、ヘルシンキの大聖堂で国葬が営まれ、棺はアイノーラの庭に葬られており、ここを訪れない訳にはいかないが、残念ながら冬期は5月まで閉館中だという。アイノーラを訪れることが今年の課題となった。

フィンランド鉄道の旅No.3 : タンペレのムーミン谷とハーメンリンナのシベリウス生家を訪ねる

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2014/01/25 - 2014/01/26

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ハンク

ハンクさん

厳寒のフィンランド旅行記を真夏のヨハネスバーグで投稿する成り行きになってしまった。何とか忘れないうちにと、香港からの12時間のフライトの中で書き上げた。

サンクトペテルブルク滞在の週末、フィンランドパスの残りを利用してタンペレとハーメンリンナを訪れた。フィンランド国鉄の略称はVR、全株式をフィンランド政府が所有している株式会社だ。人口500万人ほどであり人口密度も低いフィンランドで、優秀な列車を運行させているVRは立派である。なお、3日間有効のフレキシーフィンランドパスは135ユーロ、ロヴァニエミなどの長距離列車に乗れば十分元が取れる。ただしサンクトペテルブルクとヘルシンキを結ぶ国際列車のアレグロには乗れない。

VRとアレグロについてはフィンランド鉄道の旅No.1で詳しく書いた。軌道は標準軌(1,435mm)ではなく、ロシアと同じ広軌(1,524mm)が採用されている。アレグロは2010年12月12日から運行を開始、フィンランド国鉄(VR)社とロシア鉄道会社(OAO RZD)により毎日4往復が共同運行されており、ヘルシンキとサンクトペテルブルク間417kmの所要時間は3時間36分、最高運転速度220km/hである。車両はフィンランド国内用の高速鉄道車両ペンドリーノの改良型の交流直流両用の振り子電車で、在来線の曲線部の改良や線路の補強等により高速運行を可能とした。

さて、タンペレの人口は約20万人、ヘルシンキの北西160kmに位置するフィンランド第2の都市である。18世紀後半にスウェーデン王のグスタフ3世のもとで建設された。フィンランドが帝政ロシアの支配下に入ったのちは、紡績業などを中心として工業が発達、ロシア社会主義・共産主義運動の中心地となり、レーニンが最初にスターリンに出会ったのがタンペレであったという。現在はネシ湖とピュハ湖の二つの湖の高低差を利用して水力発電が行われており、製紙、皮革、繊維産業などが発展、近年はノキアなどのIT産業やITを活用した機械工業の中心地となっている。

タンペレの見所は多くはない。アルヴァ・アアルト設計の市立図書館の階下に「ムーミン谷博物館」があるが、別の建物に移転するとのことで閉鎖中。ムーミンは小生も幼い頃テレビで見ていて懐かしい。作者はフィンランド人の女流作家、画家であるトーベ・ヤンソン(1914 - 2001)という人で、ヘルシンキの生まれ、ストックホルムの工芸専門学校、ヘルシンキの芸術大学、パリの美術学校などへ通った。代表的なキャラクターのムーミン・トロールは、1944年頃から『ガルム』誌に挿絵として登場する。1966年に国際アンデルセン賞作家賞、1984年にはフィンランド国民文学賞を受賞している。

タンペレを発って約1時間、ハーメンリンナを訪れた。この町は人口7万人、首都ヘルシンキから北に約100kmに位置している。13世紀にスウェーデン人によって築かれたハメ城が町の象徴であり、1639年にスウェーデン国王によって憲章が発効した。ハメ城の内部は公開されているが、赤煉瓦の建築を除けば見るべきものは少ない。

そして小生の最愛の作曲家の一人であるジャン・シベリウス(1865 - 1957)がこの町で生まれており、その生家を訪れた。父は医師であったが、ジャンが2歳の時に他界。彼は苦学の末、1885年にヘルシンキ音楽院で作曲などを学び始める。1889年にベルリンに留学、さらにウィーン音楽院においてカール・ゴルトマルクに師事した。1899年に交響詩「フィンランディア」作品26を作曲、第2の国歌と言われるほどフィンランドの愛国心を揺さぶった。あまりの人気に当時支配を受けていたロシア当局の弾圧を受け、別名で演奏されたこともあるという。

彼が誕生して150年になり、周囲は新しい建物によって取り囲まれているが、彼の生家は当時のまま保存されている。この極寒の時期に訪れる物好きは少ないようで、客は小生だけであった。管理人である音楽研究家のErkki Seppalaさんから、希望のバックグラウンドミュージックを尋ねられたので、大好きな交響詩「エン・サーガ」を希望した。それがきっかけとなってシベリウス談義が盛り上がり、時が過ぎるのも忘れてしまって列車に乗り遅れそうになった。彼はシベリウスがチャイコフスキー、ワーグナー、R.シュトラウスから影響を受けた若い頃、その後古典派やフランス印象派の様式を取り入れ、より内省的、神秘的に変化していった晩年の作風の変化を詳しく解説してくれた。また60歳以降はほとんど作品を公表しなくなってしまったが、実は交響曲第8番が書かれており、恐らくは彼自身が破棄したそうである。あの神秘的な第7番に続く交響曲が現存していたら、、、何とも好奇心を掻き立てられてしまう。

余談になるが、シベリウスは1892年にアイノ・ヤルネフェルトと結婚、1904年にヘルシンキ郊外のヤルヴェンパーに「アイノーラ」(アイノの家)を建て、そこで作曲に専念した。91歳の1957年に脳出血により没、ヘルシンキの大聖堂で国葬が営まれ、棺はアイノーラの庭に葬られており、ここを訪れない訳にはいかないが、残念ながら冬期は5月まで閉館中だという。アイノーラを訪れることが今年の課題となった。

旅行の満足度
4.0
観光
4.0
グルメ
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
3万円 - 5万円
交通手段
鉄道 高速・路線バス 徒歩
旅行の手配内容
個別手配

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  • 早朝サンクトペテルブルクを発ちヘルシンキに到着したアレグロ

    早朝サンクトペテルブルクを発ちヘルシンキに到着したアレグロ

  • リフレッシュ工事を終えたヘルシンキ中央駅

    リフレッシュ工事を終えたヘルシンキ中央駅

  • ヘルシンキ中央駅内部の大きなホール

    ヘルシンキ中央駅内部の大きなホール

  • ヘルシンキからタンペレに向かうインターシティ

    ヘルシンキからタンペレに向かうインターシティ

  • 2階建て列車の階段

    2階建て列車の階段

  • タンペレ中央駅のファサード

    タンペレ中央駅のファサード

  • タンペレ市内の街並み

    タンペレ市内の街並み

  • 2つの湖を繋ぐ川のダムが見える

    2つの湖を繋ぐ川のダムが見える

  • タンペレ劇場のファサード

    タンペレ劇場のファサード

  • タンペレ市内の教会

    タンペレ市内の教会

  • タンペレ市内の教会

    タンペレ市内の教会

  • タンペレ市内の教会の内部

    タンペレ市内の教会の内部

  • タンペレ市内の教会の祭壇

    タンペレ市内の教会の祭壇

  • アルヴァ・アアルト設計の市立図書館

    アルヴァ・アアルト設計の市立図書館

  • ムーミンショップは開いていた

    ムーミンショップは開いていた

  • 街角のムーミンの像

    イチオシ

    街角のムーミンの像

  • ムーミンショップは開いていた

    ムーミンショップは開いていた

  • ハーメンリンナ中央駅のファサード

    ハーメンリンナ中央駅のファサード

  • ハーメンリンナ市内の建物

    ハーメンリンナ市内の建物

  • ハーメンリンナ市内の建物

    ハーメンリンナ市内の建物

  • シベリウス生家の外観

    シベリウス生家の外観

  • シベリウス生家の外観<br />

    シベリウス生家の外観

  • シベリウス生家の内部の展示

    シベリウス生家の内部の展示

  • シベリウス生家に展示されたピアノ

    シベリウス生家に展示されたピアノ

  • シベリウスの胸像の展示

    イチオシ

    シベリウスの胸像の展示

  • シベリウス生家の内部に展示されたピアノ

    シベリウス生家の内部に展示されたピアノ

  • 寝室のベッド

    寝室のベッド

  • シベリウス生家の内部

    シベリウス生家の内部

  • シベリウス生家で購入した日本語のパンフレット

    シベリウス生家で購入した日本語のパンフレット

  • シベリウスの胸像

    イチオシ

    シベリウスの胸像

  • ハメ城の遠景

    ハメ城の遠景

  • ハメ城の内部の建物、ヴェルラ製材所の建築を思い出す

    ハメ城の内部の建物、ヴェルラ製材所の建築を思い出す

  • ハメ城の外観

    ハメ城の外観

  • ハメ城の入り口

    ハメ城の入り口

  • ハメ城の中庭

    ハメ城の中庭

  • ハメ城の内部

    ハメ城の内部

  • ハメ城の博物館

    ハメ城の博物館

  • ハメ城の窓からの眺め

    ハメ城の窓からの眺め

  • ハメ城の展示室

    ハメ城の展示室

  • フィンランド国鉄のローカル列車

    フィンランド国鉄のローカル列車

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この旅行記へのコメント (6)

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  • tadさん 2014/03/02 11:37:31
    いいですね!
    シベリウスの地、まだ行っていません!行きたいところの一つです。ヘルシンキだけは行きましたが。。。

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2014/03/12 16:46:43
    RE: いいですね!
    シベリウスはお好きですか?第2交響曲は演奏したことがあり大好きですが、彼の本領は神秘的な晩年の交響曲、4番以降の作品にあると思っています。この音楽学者の言うように、シベリウスがフランス印象派、特にラヴェルに影響を受けていたと聞いて思わず納得してしまいました。それではまた。ハンク

    tad

    tadさん からの返信 2014/03/14 17:32:22
    RE: RE: いいですね!
    > シベリウスはお好きですか?第2交響曲は演奏したことがあり大好きですが、彼の本領は神秘的な晩年の交響曲、4番以降の作品にあると思っています。この音楽学者の言うように、シベリウスがフランス印象派、特にラヴェルに影響を受けていたと聞いて思わず納得してしまいました。それではまた。ハンク


    ima Vienna ni imasu. kono pasokon ha nihongo ga utenai node kikoku site mata kakitai to omoimasu. opera za konsaato wo tanosinde imasu.

    tad

    tadさん からの返信 2014/03/14 17:35:11
    RE: RE: いいですね!
    > シベリウスはお好きですか?第2交響曲は演奏したことがあり大好きですが、彼の本領は神秘的な晩年の交響曲、4番以降の作品にあると思っています。この音楽学者の言うように、シベリウスがフランス印象派、特にラヴェルに影響を受けていたと聞いて思わず納得してしまいました。それではまた。ハンク


    nao, 17 nichi kara ha mata London taizai desu. 29 nichi ni nihon ni kaerimasu.
  • さなぁさん 2014/02/25 00:07:34
    冬のフィンランド
    ハンクさん こんにちは

    冬のフィンランド、さすがにサマになりますねぇ!
    タンペレが夏にどんな景色が見れるのか、想像がつかないくらい雪景色がぴったりですね。

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2014/03/12 16:52:40
    RE: 冬のフィンランド
    さなぁさん こんにちは。

    またまたサンクトペテルブルクに滞在中ですが、記録的な暖冬のためすでに全く雪が溶けてしまっています。熊がしっかり冬眠できないことを心配している人もいます?
    また次の週末はアレグロに乗ってフィンランドで過ごす予定です。暖かくてありがたいことですが、まだ春が来るのは少し先のようです。
    それではまた、ハンク

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