海外旅行の醍醐味

2012/05/27 - 2012/06/04

　海外旅行の醍醐味は、日本では見ることのできない光景を目にしたり、日本では味わえない体験をしたり、日本では思いもつかないような事を発見することだと私は思っています。

　今回私は、ドイツのミュンヘンとオーストリアのザルツブルグを拠点に、その周辺の観光地を旅してきましたが、海外旅行の醍醐味を2度ほど味わいましたので、ここにご報告いたします。

　その①ーーーザルツブルグ近郊にサウンド・オブ・ミュージックの舞台となったザルツカンマーグートという湖水地方があるのですが、その一つの世界遺産の町、ハルシュタットを訪れた時のこと。
　この町は絵葉書から抜け出たようなきれいな町ですが、ここにバインハウスという納骨堂があるのです。
　いや～、ここは必見の場所ですね。8畳ぐらいの大きさの部屋の三方に、人間の大腿骨と思われる骨が1メートルほど積み上げられているのです。その上に、頭蓋骨が何百と並べられている。しかもその頭蓋骨には、生前の名前と生没年、バラや十字架の絵柄がきれいにペイントされているのです。
　ハルシュタットは土地が狭いため、埋葬（土葬）された遺体は10年～20年で掘り起こされ、ここに納骨されるという風習があったそうなのですが、それにしても火葬文化の日本では考えられない光景であり、しかもこれらの骨は、手を伸ばせば簡単に触れる所に整然と並べられているせいか、「おどろおどろしさ」が全く感じられないのです。
　その場にたたずんでいると、何か不思議な感覚に包まれるのでした。

　その②ーーー同じくザルツカンマーグートのザンクト・ヴォルフガングという町での出来事。
　私が通りに面したカフェで休んでいると、何やら後ろの方がワーワーと騒々しい。振り返って見ると、15人ほどのメンバー（男は3人位）がプラカードを持って歩いている。
　この町は小さいので、それほど車は通らないが、車道に出て、来る車にプラカードを掲げて止める。それを無視して走り去る車もあるけれど、なかには車を止めて、運転手が出てくることがある。
　そしてなんと、この運転手はプラカードの人たちとハグし始めたではないか。するとワーワーと歓声があがる。あたりが拍手と笑顔と異様な興奮に包まれるのです。
　プラカードはドイツ語ですが、たぶん「私とハグしていただけませんか？」というような事が書かれているのではないだろうか。そして町行く人に次々と声をかけていく。オーケーだと抱き合う。
　日本ではちょっとあり得ない光景なので、珍しいと思い写真を撮っていると、その中の男の人が私に近づいて来たのです。そして何やら声をかけてきた。私がオーケーと言うと、さっそく彼とハグ。その後、何人もの女性が来て、彼女たちと次々に抱き合ったのです。
　まわりから拍手と歓声が起こり、みな笑顔になる。そして不思議なことに、ジワジワと幸せ感がこみ上げてきたのです。
　う～ん、幸せって何だろう。それは理屈ではなく、ちょっとした行為や笑顔や言葉による心地良い気分なのではないか。

　私たちは、親愛の情を持っている人たちと握手をしたり抱き合ったりする。日本人はシャイだから、これらの行為を大っぴらにはやらないけれど、この感情は人種や国境を越えた人類共通のものなのだ。
　楽しいから笑う、という言い方もできるが、逆もまた真で、笑うから楽しい、ということも言えるのではないか。握手したり抱き合ったりすることで、それにふさわしい感情が呼び覚まされ、幸せ感が生まれた、ということなのだと思う。

　彼らの目的は何だろうか。何かの宗教団体のメンバーか？　それとも世界平和を願うボランティアグループか？
もちろん私は、こんな事で世界平和が実現できるなどという甘い考えは持ってはいない。しかし、平和への何らかの糸口になるのではないか、そんな気がしてきたのです。
　とにかく私は、このプラカードグループの活動に敬意を表したいと思います。なぜなら、ほんのちょっとした行為で、お互い幸せな気分を味わうことができたのですから。

エリア ザルツカンマーグート周辺(オーストリア)

ハルシュタットのマルクト広場。町の中心だ。

中央右にバインハウスの建物が見える。

納骨堂の内部。

頭蓋骨には名前や生没年、バラや十字架の絵柄が描かれている。

ザンクト・ヴォルフガングで出会ったプラカードを持った人たち。