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外は雨である。それも、台風の余波の雨だから、降ったりやんだり、風が強くなったり弱くなったりと不安定な天気である。<br />福井から乗ったえちぜん鉄道の車窓の、褐色ににごった九頭竜川がだいぶ近付いてきたと思ったら、終点の勝山に到着する。福井から小一時間の旅である。折角なのでアテンダントに平泉寺へのバスがあるかどうか尋ねてみる。残念ながら、いい時間のバスはないらしい。タクシーで7,8分とのことなので、駅前に待機していたタクシーに乗る。<br /><br />タクシーの運ちゃんは話好きなタイプらしい。駅と市街地を隔てる九頭竜川の長大な橋を渡りながら、駅の裏にある山の遊歩道を歩くと、勝山の町がよく分かると話し始めた。どういうことかというと、勝山の町は典型的な河岸段丘に開けた町なので、町の中に2〜3メートルほどの段丘がある。段丘に開いた田んぼを補強するために、何百年も前から石垣が築かれたところもあるという。たしかに川から垂直方向に伸びる道は、ところどころで傾斜が急になっている。<br />「雨が降って、お客さんは運がいいですよ」と運ちゃんは言う。平泉寺は苔が有名だが、この雨で潤いが出ただろうとのことである。前日までの福井はひどく暑くて、平泉寺の住民も暑いといっていたそうである。平泉寺のあたりは、標高があり、木々がうっそうとしていて直射日光にもさらされないので、いつもは夏でも涼しいのだそうだ。<br />平泉寺が近付くにつれ、道路の傾斜がつよくなり、沿道に杉の古木がうっそうとした影を落とす。車道に沿って石畳の道がところどころ並行していて、運ちゃんによると、古い参道で発掘作業中なのだそうだ。<br /><br />平泉寺の門前に到着。緩い石段がまっすぐ延びている。途中にある鳥居は、日枝神社スタイルの山形のものである。寺といいつつ、雰囲気はほぼ神社である。白山信仰の拠点である白山神社がそもそものルーツで、平泉寺はその別当寺だったとのことだが、室町時代には寺としての勢力のほうがマックスになり、その大伽藍も一向一揆で丸焼けになってからは鳴かず飛ばずとなって、明治の神仏分離で白山神社だけが残ったということである。<br />いまはすっかり長閑な神社だが、幅広い石段の参道が続くさまは荘重にして厳粛であり、折からの雨とうっすらかかる霧が幽玄かつ静謐さをかもしだす。そんな石段を登っていくと、本堂が現れる。雪国の神社らしく、板張りの壁にぐるりと囲まれて味も素っ気もないが、周囲の苔は緑の毛氈を敷き詰めたよう…という程度の陳腐な形容しかできないが、実に見事である。<br />奥社を参拝する。その奥は、白山への登山道の始点である。そこは既に山の中で、細い登山道が木々の間を縫って続いているのが見えるばかりである。山の気がすぐそばまで迫っているような気がして、ちょっとばかり怖気をふるった私は、参道を下っていったのだった。

平泉寺へ

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2010/08/11 - 2010/08/14

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jsbach

jsbachさん

外は雨である。それも、台風の余波の雨だから、降ったりやんだり、風が強くなったり弱くなったりと不安定な天気である。
福井から乗ったえちぜん鉄道の車窓の、褐色ににごった九頭竜川がだいぶ近付いてきたと思ったら、終点の勝山に到着する。福井から小一時間の旅である。折角なのでアテンダントに平泉寺へのバスがあるかどうか尋ねてみる。残念ながら、いい時間のバスはないらしい。タクシーで7,8分とのことなので、駅前に待機していたタクシーに乗る。

タクシーの運ちゃんは話好きなタイプらしい。駅と市街地を隔てる九頭竜川の長大な橋を渡りながら、駅の裏にある山の遊歩道を歩くと、勝山の町がよく分かると話し始めた。どういうことかというと、勝山の町は典型的な河岸段丘に開けた町なので、町の中に2〜3メートルほどの段丘がある。段丘に開いた田んぼを補強するために、何百年も前から石垣が築かれたところもあるという。たしかに川から垂直方向に伸びる道は、ところどころで傾斜が急になっている。
「雨が降って、お客さんは運がいいですよ」と運ちゃんは言う。平泉寺は苔が有名だが、この雨で潤いが出ただろうとのことである。前日までの福井はひどく暑くて、平泉寺の住民も暑いといっていたそうである。平泉寺のあたりは、標高があり、木々がうっそうとしていて直射日光にもさらされないので、いつもは夏でも涼しいのだそうだ。
平泉寺が近付くにつれ、道路の傾斜がつよくなり、沿道に杉の古木がうっそうとした影を落とす。車道に沿って石畳の道がところどころ並行していて、運ちゃんによると、古い参道で発掘作業中なのだそうだ。

平泉寺の門前に到着。緩い石段がまっすぐ延びている。途中にある鳥居は、日枝神社スタイルの山形のものである。寺といいつつ、雰囲気はほぼ神社である。白山信仰の拠点である白山神社がそもそものルーツで、平泉寺はその別当寺だったとのことだが、室町時代には寺としての勢力のほうがマックスになり、その大伽藍も一向一揆で丸焼けになってからは鳴かず飛ばずとなって、明治の神仏分離で白山神社だけが残ったということである。
いまはすっかり長閑な神社だが、幅広い石段の参道が続くさまは荘重にして厳粛であり、折からの雨とうっすらかかる霧が幽玄かつ静謐さをかもしだす。そんな石段を登っていくと、本堂が現れる。雪国の神社らしく、板張りの壁にぐるりと囲まれて味も素っ気もないが、周囲の苔は緑の毛氈を敷き詰めたよう…という程度の陳腐な形容しかできないが、実に見事である。
奥社を参拝する。その奥は、白山への登山道の始点である。そこは既に山の中で、細い登山道が木々の間を縫って続いているのが見えるばかりである。山の気がすぐそばまで迫っているような気がして、ちょっとばかり怖気をふるった私は、参道を下っていったのだった。

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