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<br /><br /> 「良い宿を紹介しようか。」<br /><br /> 地図を見ようと思って道路脇に寄せた私の車に、一人のトゥアレグの若者が近づいてきました。<br /><br /> モロッコのエルフードは、メルズーガ大砂丘の観光起点としてよく知られています。<br /><br /> 「宿を探しているんでしょう?だったらいい宿を紹介するよ。」<br /><br /> よく日焼けして、なかなか男前の彼はさして押しつけがましくもなく繰り返しました。<br /><br /> 正直なところ、この町に関してはほとんど何も情報を持ち合わせてはいませんでしたが、客引きにのこのこついて行くほどには困ってはいません。<br /><br /> 日も、まだ夕暮れまでには間がありそうです。<br /><br /><br /> (写真は道ばたでトカゲを売る少年たち)

大砂丘の宿は星空に埋まる

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2000/01/20 - 2000/02/05

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4

10

ちびのぱぱ

ちびのぱぱさん



 「良い宿を紹介しようか。」

 地図を見ようと思って道路脇に寄せた私の車に、一人のトゥアレグの若者が近づいてきました。

 モロッコのエルフードは、メルズーガ大砂丘の観光起点としてよく知られています。

 「宿を探しているんでしょう?だったらいい宿を紹介するよ。」

 よく日焼けして、なかなか男前の彼はさして押しつけがましくもなく繰り返しました。

 正直なところ、この町に関してはほとんど何も情報を持ち合わせてはいませんでしたが、客引きにのこのこついて行くほどには困ってはいません。

 日も、まだ夕暮れまでには間がありそうです。


 (写真は道ばたでトカゲを売る少年たち)

同行者
カップル・夫婦
交通手段
レンタカー
航空会社
KLMオランダ航空

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  •  「また会ったね。」<br /><br /> いったん彼の申し出を断って町をぐるりと廻ったものの、めぼしい宿も見あたらず、気がつけば再び彼が腰を下ろしている道ばたにやってきました。<br /><br /> 「どんな宿?」<br /><br /> と尋ねる私らの質問には答えず、彼は後部座席に乗り込むと言いました。<br /><br /> 「まずは、まっすぐ行って。」<br /><br /> 彼の案内するとおりにルノーの小型車を走らせると、すぐに町を出て広漠とした砂漠に出ました。<br /><br /> RV車の轍(ワダチ)が交差する、道もなき荒野を彼に言われるままに右に左にハンドルを切っていると<br /><br /> 「ずいぶん、車の運転がうまいね。」<br /><br /> とトウアレグ人の彼はお世辞を言います。<br /><br /> 「私の住んでいるところは、一年の半分くらい雪が降るところだからね。こういう運転は慣れてるの。」<br /><br /> 「雪か……。」<br /><br /> 彼は、遠くを見るようにそういうと<br /><br /> 「あっ、その辺はタイヤをとられやすいから気をつけて。」<br /><br /> と、再び自分の使命を思い出したように道案内を続けました。<br /><br /> 砂丘地帯にはいると、あちらこちらに様々な国のロケ隊が撮影を行っているのに遭遇。<br /><br /> 「この辺はほとんど雨が降らないから、色々なロケ隊が来るのさ。あれは、アメリカの映画、こっちのはフランスのコマーシャルの撮影だったかな。」

     「また会ったね。」

     いったん彼の申し出を断って町をぐるりと廻ったものの、めぼしい宿も見あたらず、気がつけば再び彼が腰を下ろしている道ばたにやってきました。

     「どんな宿?」

     と尋ねる私らの質問には答えず、彼は後部座席に乗り込むと言いました。

     「まずは、まっすぐ行って。」

     彼の案内するとおりにルノーの小型車を走らせると、すぐに町を出て広漠とした砂漠に出ました。

     RV車の轍(ワダチ)が交差する、道もなき荒野を彼に言われるままに右に左にハンドルを切っていると

     「ずいぶん、車の運転がうまいね。」

     とトウアレグ人の彼はお世辞を言います。

     「私の住んでいるところは、一年の半分くらい雪が降るところだからね。こういう運転は慣れてるの。」

     「雪か……。」

     彼は、遠くを見るようにそういうと

     「あっ、その辺はタイヤをとられやすいから気をつけて。」

     と、再び自分の使命を思い出したように道案内を続けました。

     砂丘地帯にはいると、あちらこちらに様々な国のロケ隊が撮影を行っているのに遭遇。

     「この辺はほとんど雨が降らないから、色々なロケ隊が来るのさ。あれは、アメリカの映画、こっちのはフランスのコマーシャルの撮影だったかな。」

  •  小一時間も砂漠の中を走って、これは帰りはいったいどうなるのだろうか、と思っていると<br /><br /> 「着いた。ここが僕のうちの宿だよ。」<br /><br /> 目の前には、メルズーガの大砂丘が夕日を浴びて広がっておりました。<br /><br /> 息をのむようなその広がる光景に、帰りの心配など消し飛んでしまいました。

     小一時間も砂漠の中を走って、これは帰りはいったいどうなるのだろうか、と思っていると

     「着いた。ここが僕のうちの宿だよ。」

     目の前には、メルズーガの大砂丘が夕日を浴びて広がっておりました。

     息をのむようなその広がる光景に、帰りの心配など消し飛んでしまいました。

  •  自分が、どこをどう走ってきたのかも分からず連れてこられたこの宿は、自家発電で営業する砂漠の中の一軒家でした。<br /><br /> レストランなどがある母屋と、囲いの中に数棟建つバンガロータイプの部屋には一応シャワーとトイレ。<br /><br /> 一部屋<br /><br /> 「10ドルでどう?」<br /><br /> 「オッケー。」<br /><br /> 部屋を決めてさっそく目の前の砂丘を散策。<br /><br /> 灼熱の太陽もすっかり傾き、波の文様の美しい赤い砂を素手でさわると<br /><br /> 「ヒンヤリしてるんだね。」<br /><br /> 少し離れたところにラクダが数頭つながれていて、<br /><br /> 「一人50ドルで一泊のらくだツアーはどう?」と、宿の男性。<br /><br /> 「いや、遠慮しておきます。」<br /><br /><br /> 

     自分が、どこをどう走ってきたのかも分からず連れてこられたこの宿は、自家発電で営業する砂漠の中の一軒家でした。

     レストランなどがある母屋と、囲いの中に数棟建つバンガロータイプの部屋には一応シャワーとトイレ。

     一部屋

     「10ドルでどう?」

     「オッケー。」

     部屋を決めてさっそく目の前の砂丘を散策。

     灼熱の太陽もすっかり傾き、波の文様の美しい赤い砂を素手でさわると

     「ヒンヤリしてるんだね。」

     少し離れたところにラクダが数頭つながれていて、

     「一人50ドルで一泊のらくだツアーはどう?」と、宿の男性。

     「いや、遠慮しておきます。」


     

  •  ホテルのテラスに腰を下ろしてミントティーを飲んでいると、中年のフランス人夫婦が話しかけてきました。<br /><br /> 「ここは良い、本当によい。」<br /><br /> 「そうですね、偶然連れてこられましたが、神に感謝しています。」<br /><br /> 「私らはエルフードの宿に荷物を置いてあるからいったん帰らなければならないけど、明日はぜったいここに泊まろうと思っています。」<br /><br /> 隣の上品な奥さんは、ちょっと不安そうな顔をしていますが、ご主人はもうすっかりその気のようでした。

     ホテルのテラスに腰を下ろしてミントティーを飲んでいると、中年のフランス人夫婦が話しかけてきました。

     「ここは良い、本当によい。」

     「そうですね、偶然連れてこられましたが、神に感謝しています。」

     「私らはエルフードの宿に荷物を置いてあるからいったん帰らなければならないけど、明日はぜったいここに泊まろうと思っています。」

     隣の上品な奥さんは、ちょっと不安そうな顔をしていますが、ご主人はもうすっかりその気のようでした。

  •  それにしても、何という景色でしょう。

     それにしても、何という景色でしょう。

  •  夕暮れになると、宿のスタッフ(どうやら皆家族のようです)は母屋の屋根の上に一列に並んで座り、飽かずに沈み行く夕日を眺めておりました。<br /><br /> 「毎日見ても飽きないのかねー。」<br /><br /> 「そうなんだろうねー。」<br /><br /> 語尾を「ねー。」とのばすのは北海道弁です。

     夕暮れになると、宿のスタッフ(どうやら皆家族のようです)は母屋の屋根の上に一列に並んで座り、飽かずに沈み行く夕日を眺めておりました。

     「毎日見ても飽きないのかねー。」

     「そうなんだろうねー。」

     語尾を「ねー。」とのばすのは北海道弁です。

  •  レストランで夕食にタジンを食べていると、ドンッという音と共に照明が落ちました。<br /><br /> 漆黒の闇の中で、自分の持っているフォークの先も見えません。<br /><br /> 「○×△□ー!!」<br /><br /> 遠くで誰かが大声で叫んでいるのが聞こえます。<br /><br /> 「電気が落ちたんだね。それにしても真っ暗。」<br /><br /> 程なくして発電機が再始動したのか、心もとない食堂の照明が点灯しました。<br /><br /> 「まあ、これもないよりましってところかな。」<br /><br /> 食事を終えてテラスに涼みに出ると、フランスのロケ隊が宴会を催しておりました。<br /><br /> 喧噪を避けて隅に席を取ると、背の高い男性が一人グラスを持って近づいてきました。<br /><br /> フランス人に見えますが、どこか東洋的な面影もあります。年は30代でしょうか。<br /><br /> 「日本の方ですか。」<br /><br /> その方がごく普通の日本語で話しかけてきたのでびっくりしてしばらく言葉が出ません。<br /><br /> やっとのこと「そうです。日本人です。」というと<br /><br /> 「フランスからコマーシャルのロケできているんですが、ちょうど先ほど終わりましてその打ち上げをしているところなんです。うるさくして済みません。」<br /><br /> とのこと。<br /><br /> 「いえいえ、どうぞご遠慮なく。」<br /><br /> この方はフランスで映像関係の仕事をしておられるとか。<br /><br /> しばらく雑談をしましたが、それにしてもヨーロッパ人に混じっても見劣りのしない堂々たる容貌。<br /><br /> 相方も見ほれていました。

     レストランで夕食にタジンを食べていると、ドンッという音と共に照明が落ちました。

     漆黒の闇の中で、自分の持っているフォークの先も見えません。

     「○×△□ー!!」

     遠くで誰かが大声で叫んでいるのが聞こえます。

     「電気が落ちたんだね。それにしても真っ暗。」

     程なくして発電機が再始動したのか、心もとない食堂の照明が点灯しました。

     「まあ、これもないよりましってところかな。」

     食事を終えてテラスに涼みに出ると、フランスのロケ隊が宴会を催しておりました。

     喧噪を避けて隅に席を取ると、背の高い男性が一人グラスを持って近づいてきました。

     フランス人に見えますが、どこか東洋的な面影もあります。年は30代でしょうか。

     「日本の方ですか。」

     その方がごく普通の日本語で話しかけてきたのでびっくりしてしばらく言葉が出ません。

     やっとのこと「そうです。日本人です。」というと

     「フランスからコマーシャルのロケできているんですが、ちょうど先ほど終わりましてその打ち上げをしているところなんです。うるさくして済みません。」

     とのこと。

     「いえいえ、どうぞご遠慮なく。」

     この方はフランスで映像関係の仕事をしておられるとか。

     しばらく雑談をしましたが、それにしてもヨーロッパ人に混じっても見劣りのしない堂々たる容貌。

     相方も見ほれていました。

  •  夜中に妻におこされました。<br /><br /> どうもお腹の具合が悪いというのです。<br /><br /> たぶん、ここ数日のあまりのカルチャーショックにお腹をやられたのだと思います。<br /><br /> そういうひとなんです。<br /><br /> 「トイレが見えないんだけど。」<br /><br /> いつの間にか宿の全ての照明は落ち、窓を開けて煌めく星の明かりを入れてもトイレの位置すら見えません。<br /><br /> 「その戸を開ければトイレだよ。」<br /><br /> 「そんなつれないこと言わず、一緒に見つけてよ。」<br /><br /> 「見つけてよったって……。」<br /><br /> 相方が用を済ますあいだ外に出てみると、未だかつて見たこともないほどの星が夜空を埋め尽くしておりました。<br /><br /> 「すごいね。」<br /><br /> いつの間にか用を済ませて出てきた相方がつぶやきます。<br /><br /> 「ほんとにすごいね。」<br /><br /> ありきたりの言葉しか出てこないのでした。<br /><br /><br /><br /> 写真は、翌朝、フランス隊と一緒にリビングで飲みつぶれた宿のスタッフの体を避けながら外に出て朝日を浴びる砂丘の散策をした時のものです。<br /><br /> 夕日との違いが分かりますかどうか。

     夜中に妻におこされました。

     どうもお腹の具合が悪いというのです。

     たぶん、ここ数日のあまりのカルチャーショックにお腹をやられたのだと思います。

     そういうひとなんです。

     「トイレが見えないんだけど。」

     いつの間にか宿の全ての照明は落ち、窓を開けて煌めく星の明かりを入れてもトイレの位置すら見えません。

     「その戸を開ければトイレだよ。」

     「そんなつれないこと言わず、一緒に見つけてよ。」

     「見つけてよったって……。」

     相方が用を済ますあいだ外に出てみると、未だかつて見たこともないほどの星が夜空を埋め尽くしておりました。

     「すごいね。」

     いつの間にか用を済ませて出てきた相方がつぶやきます。

     「ほんとにすごいね。」

     ありきたりの言葉しか出てこないのでした。



     写真は、翌朝、フランス隊と一緒にリビングで飲みつぶれた宿のスタッフの体を避けながら外に出て朝日を浴びる砂丘の散策をした時のものです。

     夕日との違いが分かりますかどうか。

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この旅行記へのコメント (4)

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  • pokoさん 2011/11/07 20:41:54
    すてきーーー^−^
    ほんと、何が起こるのかしら・・・・と、ついつい読み入ってしまいました。そして素敵・・・・・・・わくわくどきどきの先に。こんな光景が・・・・・・そして満天の星空・・・・・想像をかき立てられます。
    これは経験してみたいですね!!(難しいけど)
    いいなーーーー!

    昨日見たサボテンのお話も面白かった・・・・・どうなるのかなーーーーって!!凄い凄いご旅行をされてますね。

    これからもよろしくお願い致します^−^

    by.poko

    ちびのぱぱ

    ちびのぱぱさん からの返信 2011/11/08 15:45:00
    RE:
    pokoさん こんにちは

     ご訪問、ありがとうございます。
     こんど、大阪に行くので住吉の旅行記参考になりました。
     写真がきれいですね。

     もう、しばらく旅行もしていませんでしたので、関空からのエアアジアで、来年東南アジアに行こうと思っています。
     ついでだから、大阪も少し覗きたいと。

     また、よらせてください。
  • くまのみホヌ子さん 2010/07/20 22:20:29
    すごくおもしろかったです!
    ちびのばばさん、はじめまして!
    くまのみホヌ子です。

    短編小説を読んでいるようで
    すごくおもしろかったです。
    まるで、現実ばなれしたような砂漠の写真、
    旅で知り合ったひとたち、
    写真の少なさが想像力をかきたてられます。

    また、ちょくちょくおじゃましてもよろしいでしょうか?

      のみホ

    ちびのぱぱ

    ちびのぱぱさん からの返信 2010/07/21 13:20:37
    RE: すごくおもしろかったです!
    くまのみホヌ子さま

    感想有り難うございます!
    たいした写真もないので、なるべく出来事を中心にまとめるようにしています。
    自分でも、そういう旅行記を読みたいので……。
    くまのみさんの旅行記、おもしろいですね。
    パラオは私らも行きましたが、すてきなところですね。
    ダイバーではありませんが、いろんな出会いもあったので、いつか自分でも書いてみたいです。
    モロッコもまだ書きたいことがありますが……。
    どうぞ、時々覗いてください。
    わたしにもホヌ子さんの旅行記を拝見させてください。
    ホヌ子っておもしろいネームですね。

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