1997/04/19 - 1997/04/20
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北風さん
全米に網の目のように広がっている長距離バスの総称が「グレイハウンド」だった。
日本とは桁違いの国土面積を持つアメリカでは、ちょいとマイカーで行くのにはしんどい距離なら、中流階級の人間ならば、それほど高くない飛行機の国内線を利用するのが普通。
では、長距離バスを利用するのは・・・
格安で移動したい事情を持った人がその大半を占めていた。
庶民の乗り物と言えば聞こえはいいが、その悪評はちょっとガイドブックを広げればいくらでも収集できる。
しかし、俺も当然「格安で移動したい事情を持った人」であり、外国人が購入できる15日間有効の「アメリ・パス」なる乗り放題チケットを既にバックパックに眠らせていた。
そして、ニューヨークを出発する今日がグレイハウンド・デビューの日でもあった。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス
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旅日記
『グレイハウンド』
ニューヨーク発シカゴ行きの行きのバスは、超満員だった。
いつものように席取り合戦に敗れた俺に、神様がプレゼントしてくれたシートは、最後尾の3人掛け。
隣には金髪女性と、黒人少女、前にはインド系美少女というシチュエーションだ。
俺を入れると、黄、白、黒、茶、となり、混ぜればセピア色になりそうな気がする。
しかし、よく考えると、俺は今、世界中の若い女に囲まれている事になる。
46カ国旅してこれ程恵まれた席を頂いた事はなかった。
これ程窮屈を楽しめた事も無かったかもしれない。
神様ありがとう!
やっとバスが発車したのは、定刻より30分遅れだった。
ここら辺は、アフリカン・バスと変わらない。
が、しかし、驚くべきはドライバーの乗車確認だった。
「Yea!皆、いるか?」
・・・底抜けに明るいと聞いていたアメリカンだが、底抜けに無責任でもあるのかもしれない。
夜、黒人少女の声で目が覚めた。
妙に興奮しているのは何故なんだ?
「これは、もしかして?」などと、あらぬ期待が胸をよぎる。
でも、興奮しているのは彼女だけではなかった。
辺りを見回すと、ほとんどの乗客がエキサイトしている。
一体何事だ? -
3分後、その答えが窓越しに近づいてきた。
どうやら、このバス、大型トレーラーとカーチェイスしているらしい。
トレーラーがものすごい風圧を浴びせながら追い抜くと、乗客がバスドライバーに野次を飛ばす。
我らがバス・ドライバーは、F1レーサー並みのギヤ・チェンジを繰り返し、ターボの雄叫びをアスファルトに叩きつける!
まるでハリウッド映画だ。
前列のおっちゃんは、馬鹿でかいコークのボトルを片手にポップ・コーンを頬張りながら、カウチポテトスタイルでブーイングまでしている。
白熱のバトルの末、トレーラーが道を譲った。
なんてバスだ!
あんなでかいエンジンを積んだトレーラーに勝ってしまった。
まさにハイウェイの王者、アメリカ版佐川急便!
湧き上がる拍手、宙を舞うポップコーン!
我らがドライバーは、天を仰ぎ両手を突き出してガッツポーズで叫ぶ!
「Yes!」
時速100kmオーバーで、よそ見、手放し運転している事に何人が気づいている事だろう?
「エディ・マーフィーの弟かと思うほど、口が回る陽気なバス・ドライバー」
「フェラーリにパッシングを浴びせかける不気味に速いバス」
「国際色豊かなノリのいい観客」
グレイハウンドは、アメリカを目一杯詰め込んで、夜の闇を切り裂いていく。 -
旅日記
『シカゴ・バス・ターミナル』
ハイウェイの王者、グレイハウンドの最大の難点は、ロストラゲージ(荷物紛失)の多さだった。
今朝も眠い目をこすりながら、バスのどてっ腹から見慣れたバッグが出てくるのを祈る。
デブのモヒカンという、史上最悪のセンスを持ち合わせた兄ちゃんがポイポイ荷物を投げ出す中に、ちょっと軽い物があったらしい。
いつもの力加減で投げたつもりが、バッグは空中で一回転し1m程土煙をあげて着地した。
・・・俺のバッグだった。
複雑な心境でバッグを担ぎ、とりあえずトイレに向かう。
夜行バス用の朝の儀式を行わなければ!
顔を洗って、コンタクトを入れて、ひげを剃り、ブラッシングして、歯磨きで締めくくる途中、18〜19才の黒人少年が背後に出現!
少年が汚いポケットの中へと、いきなり手を突っ込む。
「やばい!」映画ならここで絶対拳銃を突きつけてくる場面だ。 -
目にも止まらないすばやい動作で目の前に突き出された物は、金ぴかのゴールドチェーンだった。
少年のたらこのような唇が、「安くするから買ってくれ」と動いた瞬間、俺の緊張度は別の色合いを帯びてきた。
普通の悪人ならば、早朝の薄汚いバス停のトイレで歯を磨いている東洋人に、ゴールドを買う金があるかどうか判断する脳みそぐらいはあるだろう。
とすれば、こいつは薬で頭のいかれたジャンキーなのだろうか?それとも、計算された脅し文句だろうか?
まぁ、どちらにしても無い袖はふれないが。
「悪いな。俺の国じゃ、男は真珠しか身につけられないんだ」と断り、じっと目を見る。
ここで睨んじゃだめだった。
あくまでも子供を諭す親のように、理解を示す視線がコツ。
そして一言、「No Thanks」
だいたいこれでケリがつく。
インドで身につけたこの技が、この文明国で通用しないはずがない。
どんなアメリカ人でもインド人より常識を持っているはずだ。
「OK」の一言で、少年は去って行った。
あまりの物分りのよさに、引き止めて逆に「なんて根性が無いんだ!」と説教したくなった。
肩をすくめて去っていく少年の足元に目がいった。
あれは、日本で100000円ものプレミアがついたエア・マックスじゃないんだろうか?
押し売りのガキが、エアマックスで足元を飾る国。
ここは、アメリカ。
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