2009/01 - 2009/01
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JIC旅行センターさん
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サハ共和国を含む、東北シベリア地域の降水量は、年間わずか200mm前後しかありません。例えば東京だと、年間1,500mm弱の降水量がありますから、およそ7-8倍の開きがあるわけです。日本人はつい、「寒いところ=豪雪地帯」と考えがちですが、実は世界中でも日本の北国ほど大量の雪が降るところは稀で、タイガに覆われた永久凍土地帯のほとんどは、雪もそれほど降りません。降水量から見れば、砂漠並みと言っても遜色のない「乾燥地帯」でもあるのです。
私が今登りつつある斜面が、緩やかな姿のままであることには、この降水量の少なさが大いに関係しています。降水というものは、地表面にとっては鋭い刃物にも等しい存在です。仮に、ここに大量の雨が降ったり、大量の雪が降って夏は融けるものとしましょう。それは川となります。斜面を流れる水の侵食作用はたいへん強いので、断面がV字型の谷がどんどん作られます。すると、山はたちまち彫刻刀で削りだしたような険しい姿になっていきます。実はこれが、日本の山地の典型的な姿です。削られ続けるといずれなくなってしまいますが、日本列島は、新期造山帯といって、バンバン隆起するところにあるため、いつも尖っていられるわけです。
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ちなみに、大量の降雪があって、夏にも融けずに蓄積し続ける場合、これは氷河になります。斜面にできた氷河は、断面がU字型の谷を作り、深々と地表面をえぐります。夏に地面が融けないので、こういうところには、はじめから周氷河地形はできません。
今回もまた、地形の話を長々と続けてしまいました。でも、単に自分好みの話題を読者に押し付けているだけではありませんよ(まあ、9割方そうなんですが)。人が、故郷とは違う、見慣れない地形を旅先で目にするという経験は、それ自体理屈抜きにエキゾチックだからです。
なかなか気づきにくいことですが、これは裏を返すと、我々にとってありふれた日本の山々の姿カタチにも、大変なエキゾチシズムを覚える外国人が相当数いるってことです。何も、富士山とか、突出した存在でなくていいんです。どこからどう見ても当たり前の、普通の谷、ただの斜面、見慣れた植生が、ある人々の目を通した途端に「異なもの」に化けうる。それこそ、海岸にザッパーンと波が打ち寄せているだけでも、誰かにとっては「何じゃこれ、スッゲー!」と見える。でも、こういうギャップって空気みたいなもので、文章にされる機会は多くないですね。だから、この連載では、あえてそのあたりをちょっと余計なくらいに伝えてみようと試みています。
アナトリーさんのウアズは峠のてっぺんで停まりました。進行方向右側に、ちょっとした広場があって、立派な丸木造りのあずまやがあります。サルダナさんから車を降りるよう促されました。
「ここが、シャーマンの木です」
えっ、どれ?一瞬わかりませんでした。予想していたよりもはるかにショボ…いや、スリムな木です。林業関係者が見たら、迷わず間伐材にされそうな、全身に弱々しさをみなぎらせた姿で立っています。 -
一応、シャーマンの木の名誉のためにお断りしておきますが、この木が周囲のほかの木々と比べて、顕著に小ぶりであるわけではないのです。見たところ、このあたりの気候条件では、どの木もみんな間伐材レベルまでが成長の限界、ということのようです。
つまりは、全く平均的なサイズの木でしかないのですが、なぜだかこの木が特別扱いされていることは間違いありません。何やら、色とりどりの布切れが大量にくくりつけてあって、異様な姿をしているからです。サルダナさんによると、ここを通過する人は皆それぞれ、自分で用意した布切れや供え物を置いていき、この木に敬意を表すのだそうです。
なるほどー、それは大いに結構なことなんですが、ちょっとこの木の周り、汚くないですか?ゴミ落ちてるんですけど…。特に目立つのはタバコの吸殻です。吸殻どころか空き箱まで落ちてます。本当に聖なる木として扱われているんでしょうか。
誤解を恐れず言いますが、ポイ捨てはロシアの文化です。特に大都市ではそうですが、割と市民は道端に小さなゴミを捨てています。1960-70年代頃に日本人が書いたソ連紀行文には、たいていこんなことが書いてあったものです―モスクワの町並みは美しく清潔な印象である。
特に、どこを歩いても吸殻ひとつ落ちていないのには感心した―という具合に。この手の文章が、ちょっと左側から見た、甘めの採点になっていたとしても、ほぼ、現実にその通りだったことでしょう。じゃあ今のロシア連邦の国民にモラルが低下してしまったのかというと、そうでもありません。実は昔も今も、ポイ捨てしまくりです。つまり、清掃が、行き届いているのですね。
日本人は、この30年ほどで急速に、「ポイ捨てしない国民」になりました。日本の町がきれいなのは、道端のゴミを迅速に処理するからというよりも、あまり発生させないからです。大いに誇るべき、すばらしいマナーです。少し前の日本人は、もっと町を汚しまくっていました。1980年代、私はまだ子どもでしたが、その頃でさえ、思い出すと確かに色々汚なかった…(国鉄の駅には、痰壷なるものまであったのです)。
そんな時代の日本人が、ソ連を旅行して目撃したものは何か。例えば…バスを待っている乗客達が吸殻を道に捨てる→バスが乗客を運び去る→清掃員がやってきて吸殻を掃き集め、チリトリで持ち去る→美しい町に静寂が訪れる…きっと、初めてデ○ズニーランドに来た人みたいに、感動したんじゃないかと思うのです。今でもロシア連邦の都市には、その文化が健在なのですが、かえってそのために人々は気軽にポイ捨てをします。残念ながら、めったに清掃員が来なさそうなところにでもです。
少々皮肉なことですが、このシャーマンの木、多くの人に立ち寄られ、親しまれている様子が、この吸殻の数でよくわかります。あずまやも含めて、ドライバーのちょっとした休憩所みたいな働きもしているようです。もしこれが日本なら、峠の神社に寄って、ついでに交通安全祈願を、とご神木に手を合わせていくような感覚でしょうか。 -
ところで、シャーマン信仰というと、つい、ソ連初期の有名なプロパガンダポスター(※)の文句「地元の労働者ソビエトを選択せよ。シャーマンやクラーク(富農)を野放しにするな。」を思い出してしまいます。革命の熱狂時のことですから、こういう過激な文句が出現してしまうことはままあったのでしょうが、しかしシャーマンって、クラークと並ぶ「絶滅すべき階級敵」扱いだったんですねえ…。
わずか80年前の話ですが、このサハ共和国ではどの程度、シャーマン文化が生き延びることができたんでしょうか。完全に絶滅はしていないことを、今こうして直に確認することができましたが、おそらくかなりのダメージを受けているはずです。(ちなみにクラークの方は、ソ連政府により事実上、絶滅させられました。) -
色々複雑な気持ちでシャーマンの木を後にすると、ここからはずっとヴェルホヤンスクへの下り坂です。ちょっと進むと前方の視界が大きく開けました。アナトリーさんが右前方を指差します。
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「ほら、あれがヴェルホヤンスクだよ。」
見えた!モクモクと黒い煙、白い煙を上げる煙突たち、その根元にべったりと広がる灰色の市街地。立派な町だ…。バタガイでも、ストルブィでもつぶやいた言葉が、また出てしまいました。
いよいよ次回は、憧れの寒極、ヴェルホヤンスクへ、突入です!
※デザイン:G. ハローシェフスキー(Георгий Хорошевский)、スローガンの原文は、ロシア語:Выберем в туземный совет трудящихся. Не пускай шамана и кулака. (1931)
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