1995/09/25 - 1995/09/28
2位(同エリア16件中)
北風さん
ヨーロッパを巡り始めて1ヶ月、ただ教会と美術館と観光名所で写
真を撮って過ごしていた。
何か物足りない!
いや非常に欲求不満になっている自分がいる。
この違和感は観光客になっていた自分に対してだどわかった時、
「陸の孤島、アトスへの入山は男性のみ許可される。この地にいるものは、動物にいたるまでオスだけの女人禁制の聖地だ」
との情報を手にしていた。
アトス山に行こう!
ギリシャ正教の総本山へ!
・・・仏教徒だけど・・・
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 鉄道 船
-
旅日記
「修道士への道」
真夏の強烈な日差しと、大型バイクの図太い排気音が飛び込んでくるホテルの部屋で、俺は退屈をもてあましていた。
予定では、この街で西欧の旅が終わる。
まるで、トライアスロンのように過酷な旅立ったが、いざ終わろうとすると、なにか物足りない。
俺はこの一ヶ月間、ただ教会と、美術館と、観光名所を写真に取っただけみたいな気がする。
こんな旅なら、観光ツアーに参加したのと変わらない。
これでいいんだろうか?
夕方、俺は一枚の情報誌を見つめていた。
ギリシャ正教の聖地が載っていた。
そこには、こう書いてある。
「陸の孤島、アトスへの入山は男性のみ許可される。この地にいるものは、動物にいたるまでオスだけの女人禁制の聖地だ」
翌朝、俺は、日本大使館と、ギリシア正教本部を走り回り、許可証をもらっていた。
アトスまでは、アテネから列車と船で2日かかるという。
俺は、荷つくりを始めていた。 -
旅日記
「修道士への道 2」
フェリーは地元の人間と、観光客と、修道士で満員状態だった。
入り江に鳴り響く汽笛を合図に、皆が出口へと集められる。
車の乗車口をかねている船の巨大な舳先が、ギリギリという歯車の音と共に開き始めた。
目の前に、ギリシャ正教の聖地として、2000名の修道士が暮らす「アトス」が広がる。
陸続きの半島の先端に位置するこの場所は、道路が繋がってないらしく、こうしてフェリーでしかたどり着けないほど俗世間と隔離されていると言う。 -
港の教会を見ながら、黒いぼろ布を身にまとい麻縄のベルトをした修道士が十字をきっている。
急に、こんなシリアスな聖地に興味本位で来てしまった事に罪悪感を覚えてきた。
話しかけてきた隣の修道士の目が直視できない。
彼が問いかける。
「何処から来たの?」
・・「JAPAN」
「宗教は?」
・・「仏教」
その後、会話が途絶えてしまったのは言うまでもない。 -
港を後に歩き始める。
皆それぞれ行くべき場所があるようで、大きな町の三叉路や小さな小道の分岐点で一人、また一人と消えて行った。
気がつくと誰もいない。
しかもかなりの高所まで登ってきている。
なんか、やっている事はトレッキングと変わらないなぁ・ -
旅日記
「修道士への道 3」
既に山中を、かれこれ4時間ぐらいはさまよっていた。
目指す修道院は何処にも見当たらない。
公共のサービスとは無縁のこの場所に、まともな標識などあるはずもなく、すれ違う車に道を聞こうにも、ここには車がないらしい。
山道から見える水平線に、最後の頼みの太陽さえ、ダイビングしそうな気配だ。
結論から言うと、俺は山中で道に迷って、日暮れを迎えようとしているらしい。
つまり、新聞の見出しの言葉で言うなら、「遭難」という2文字に当たる状況だ。
まさか、神に身を捧げる人々の地で、命を捧げる事になろうとは! -
森に怪しげな夜の声がこだまする。
俺は遠くに人工的な明かりを見つけた。
しかも近づいてくる。
ギリシャ正教の神は、トラクターに乗った修道士の姿で俺の前に現れた。 -
旅日記
「修道士への道 4」
夜9時、大都市の大聖堂のような豪華な装飾など一つもない質素な空間に、修道士達のうっとりするような賛美歌が響き渡る。
俺は皆と同様、胸の前で手を組んで目を閉じていた。
この雰囲気で観光客を決め込む事などできるはずもない。
トラクターに乗った修道士に助けられ、この修道院へと連れて来られた時は既に日は沈んでいた。
うやうやしく案内されたキッチンは、まるで中世のまま時が止まった様なかび臭い石造りの部屋だった。
今夜一晩泊めてほしいと訴えながら、俺は出てきた硬いパンと酸っぱいミルクを口に運んでいた。
そして現在、俺は夜のお祈りの時間に連れ出されている。
既に祈りが始まって3時間は経とうとしているのだが・・
ただひたすら祈りを捧げるという行為は、全身これ俗物の俺には結構こたえる。
これが修道士の生活か!
修道士のリーダー格に当たる道志が耳もとでささやいた。
「朝は5時からです。遅れないように」 -
1995年9月29日、ギリシャからトルコへ。
思えば、6月24日、トルコを出発しておよそ3ヶ月、とうとうヨーロッパの旅が終わった。
季節に追い立てられて旅路を急いだアジアとは違い、ヨーロッパの旅はお金に追われた旅だったのかも知れない。
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