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 バタガイの空港に着いた時、さぞかし寒いだろうと身構えていた私には、顔に刺さる空気の温度は拍子抜けするほど暖かく感じました。どういうことなんでしょう。<br /><br /> 空港は最低限の設備でできていて、エプロンも滑走路も未舗装でした。もっとも、カチカチに凍っているので舗装してあるのと大差ないのですが。もちろん到着ターミナルはありませんから、降りた飛行機からまっすぐ歩いて柵の小さな切れ目を出ると、もうそこは外です。<br /><br /> 柵の外に、灰色のウアズ(УАЗ)製四輪駆動車が1台止まっていました。ヤクーツクの旅行会社のサルダナさんがあらかじめ手配してくれた車です。この先の案内をしてくれる男性ドライバーのアナトリーさんがにこやかに迎えてくれました。<br /><br /> アナトリーさんに早速教えられます。「今日は(マイナス)32℃、暖かいよ。昨日は50℃以下だったけどね。」・・・いきなり残念なお知らせです。やっぱり、期待した寒さはそこにはなかったのです。しかもたった一日違いで50℃台を逃したという事実が、いっそう悔しさを盛り上げるではないですか。ぬるい、ぬるすぎる!と某埼玉銘菓のCMみたいなセリフ(ローカルネタですみません)を頭の中で繰り返しながら車に乗り込みました。おや、現地旅行社のサルダナさんは、アナトリーさんとヤクート語らしき言葉で会話しています。私には一言もわかりません。いくつもの言葉を使いこなすサルダナさん、かっこいい…。<br /><br /> 少し走ると、車はすぐにバタガイの市街にさしかかります。想像していたよりも大きな町並みに、少しひしゃげた木造の建物が連なっています。車窓風景でひときわ存在感を示しているのは、電信柱です。その見た目から「ハエタタキ」などと俗称されるデザインの電信柱は、日本ではかつて鉄道線路脇によく見られましたが、今ではほとんど駆逐されてしまって、限られた場所でしか見ることができません。バタガイでは、そんな電信柱が町なかの目抜き通り沿いに延々と立っているのです。何とも壮観。素朴な木造建築群に不釣合いなほど無骨な造形が、すぐ軒先で接しているところが、すごーくソビエト的で、イイ!<br /><br /> ちょっと残念ですが、バタガイの町は素通りします。全体に色彩の乏しいモノトーンの風景が続きますが、案外、人も車もたくさん往来があって活気があるみたいです。おや、そう言えば、すれ違う車はみんなウアズ製だ!連載の第1回で、サルダナさんが言っていた通りです。サハではウアズの信頼性が高く買われているんですね。

エクメネの最果てへ ―サハ共和国 冬の旅― (8)

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2009/01 - 2009/01

244位(同エリア341件中)

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3

JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 バタガイの空港に着いた時、さぞかし寒いだろうと身構えていた私には、顔に刺さる空気の温度は拍子抜けするほど暖かく感じました。どういうことなんでしょう。

 空港は最低限の設備でできていて、エプロンも滑走路も未舗装でした。もっとも、カチカチに凍っているので舗装してあるのと大差ないのですが。もちろん到着ターミナルはありませんから、降りた飛行機からまっすぐ歩いて柵の小さな切れ目を出ると、もうそこは外です。

 柵の外に、灰色のウアズ(УАЗ)製四輪駆動車が1台止まっていました。ヤクーツクの旅行会社のサルダナさんがあらかじめ手配してくれた車です。この先の案内をしてくれる男性ドライバーのアナトリーさんがにこやかに迎えてくれました。

 アナトリーさんに早速教えられます。「今日は(マイナス)32℃、暖かいよ。昨日は50℃以下だったけどね。」・・・いきなり残念なお知らせです。やっぱり、期待した寒さはそこにはなかったのです。しかもたった一日違いで50℃台を逃したという事実が、いっそう悔しさを盛り上げるではないですか。ぬるい、ぬるすぎる!と某埼玉銘菓のCMみたいなセリフ(ローカルネタですみません)を頭の中で繰り返しながら車に乗り込みました。おや、現地旅行社のサルダナさんは、アナトリーさんとヤクート語らしき言葉で会話しています。私には一言もわかりません。いくつもの言葉を使いこなすサルダナさん、かっこいい…。

 少し走ると、車はすぐにバタガイの市街にさしかかります。想像していたよりも大きな町並みに、少しひしゃげた木造の建物が連なっています。車窓風景でひときわ存在感を示しているのは、電信柱です。その見た目から「ハエタタキ」などと俗称されるデザインの電信柱は、日本ではかつて鉄道線路脇によく見られましたが、今ではほとんど駆逐されてしまって、限られた場所でしか見ることができません。バタガイでは、そんな電信柱が町なかの目抜き通り沿いに延々と立っているのです。何とも壮観。素朴な木造建築群に不釣合いなほど無骨な造形が、すぐ軒先で接しているところが、すごーくソビエト的で、イイ!

 ちょっと残念ですが、バタガイの町は素通りします。全体に色彩の乏しいモノトーンの風景が続きますが、案外、人も車もたくさん往来があって活気があるみたいです。おや、そう言えば、すれ違う車はみんなウアズ製だ!連載の第1回で、サルダナさんが言っていた通りです。サハではウアズの信頼性が高く買われているんですね。

  •  ところで先ほど、木造の建物がちょっとひしゃげていると書きましたが、建物ばかりではありません。実は電信柱も結構ばらばらの方向へ傾いているのです。これは、ロシア人やヤクート人がテキトーに建設したから、というわけでは(多分)ありません。永久凍土の上に作られた建造物は、はじめはピシッと造ってあっても、だんだんとゆがんでしまうことがよくあるのです。<br /><br /> 永久凍土はその名の通り、半永久的に融けない凍りついた土ですが、地表面まで全部凍ったままではありません。地下ある程度の深さまでは、気温が上がると融けます。永久凍土の上には、こんな風に夏に融け、冬に凍るサイクルを繰り返す層が乗っていて、これを活動層(active layer)といいます。この活動層が、地上の建造物をゆがめてしまうのです。<br /><br />地面は凍ると、凍上現象という隆起をすることがあります。日本でも北海道などでは、冬季の凍上現象は悩みのタネの一つで、建物を持ち上げたり、水道管をちぎったり、色々と悪さをしていますので、イメージしやすい読者の方もいらっしゃることでしょう。逆に、凍った地面は融ける際に沈下するという傾向も持っています。永久凍土上の活動層の場合、その変異量は大きくて、時に数mに及ぶこともあります。<br /><br />しかも、こういった挙動は不均一に発生するので、活動層は毎年凍結と融解を繰り返すたびに、ぐにゃぐにゃと気ままな動きでその形を変えていきます。まさに、「活動」層なのです。そんなところに、人工物を恒久的に設置するのがどんなに難しいか。そう、舗装道路だってうかつには作れません。すぐにズタズタです。そんな次第ですから、このとき私は案外立派な道路だなと感心しながらヴェルホヤンスクへの道を進んでいたのです。贅沢にも、大型車がすれ違える道幅がずっと続いています。それほどでこぼこもしていない、快適な道路です。<br /><br />「ずっとヴェルホヤンスクまでこんないい道なんですか。」<br /><br />「まさか、すぐに悪路になるよ。」<br /><br /> 前方からバスがやってきました。さっきからゆがんだ建物ばかり見てきたせいで、平衡感覚がおかしくなっているのでしょうか、バスまでが、ものすごく傾いて見えます。…と思ったら、本当に傾いていました。うーんさすがに、これは永久凍土のせいではないでしょう(笑)。

     ところで先ほど、木造の建物がちょっとひしゃげていると書きましたが、建物ばかりではありません。実は電信柱も結構ばらばらの方向へ傾いているのです。これは、ロシア人やヤクート人がテキトーに建設したから、というわけでは(多分)ありません。永久凍土の上に作られた建造物は、はじめはピシッと造ってあっても、だんだんとゆがんでしまうことがよくあるのです。

     永久凍土はその名の通り、半永久的に融けない凍りついた土ですが、地表面まで全部凍ったままではありません。地下ある程度の深さまでは、気温が上がると融けます。永久凍土の上には、こんな風に夏に融け、冬に凍るサイクルを繰り返す層が乗っていて、これを活動層(active layer)といいます。この活動層が、地上の建造物をゆがめてしまうのです。

    地面は凍ると、凍上現象という隆起をすることがあります。日本でも北海道などでは、冬季の凍上現象は悩みのタネの一つで、建物を持ち上げたり、水道管をちぎったり、色々と悪さをしていますので、イメージしやすい読者の方もいらっしゃることでしょう。逆に、凍った地面は融ける際に沈下するという傾向も持っています。永久凍土上の活動層の場合、その変異量は大きくて、時に数mに及ぶこともあります。

    しかも、こういった挙動は不均一に発生するので、活動層は毎年凍結と融解を繰り返すたびに、ぐにゃぐにゃと気ままな動きでその形を変えていきます。まさに、「活動」層なのです。そんなところに、人工物を恒久的に設置するのがどんなに難しいか。そう、舗装道路だってうかつには作れません。すぐにズタズタです。そんな次第ですから、このとき私は案外立派な道路だなと感心しながらヴェルホヤンスクへの道を進んでいたのです。贅沢にも、大型車がすれ違える道幅がずっと続いています。それほどでこぼこもしていない、快適な道路です。

    「ずっとヴェルホヤンスクまでこんないい道なんですか。」

    「まさか、すぐに悪路になるよ。」

     前方からバスがやってきました。さっきからゆがんだ建物ばかり見てきたせいで、平衡感覚がおかしくなっているのでしょうか、バスまでが、ものすごく傾いて見えます。…と思ったら、本当に傾いていました。うーんさすがに、これは永久凍土のせいではないでしょう(笑)。

  •  ところで、まさかバタガイにバスが走っているとは思いませんでした。車体はベラルーシのマズ(МАЗ)製で、ソ連時代にかなり広範囲に普及した小型のバスです。一体どこから来たのでしょうか。アナトリーさんに聞いてみると、すぐ近くから、とのこと。あとで地図を見てみると、この先にはエセ-ハイヤという町があり、スズが採れる鉱山町のようです。私としたことが、全然知りませんでした。バスはここから来たのでしょうか。悔しいですが、いまだに判らずじまいです。<br /><br /> ほどなく現れた道路の分岐を右に曲がると、道はすぐに車1台分の幅へと狭くなりました。心なしか、路面の凹凸も多くなったように感じます。<br /><br />「これが、ヴェルホヤンスクへの道だよ。」<br /><br />と、アナトリーさん。一方、さっきの分岐を曲がらずに直進する道は、広くて立派なまま続くようです。その時はいぶかしく思いましたが、この先が鉱山町であるなら重量物の運搬のためにそれなりのインフラが必要なのも合点がいきます。少々道が悪くなったって、さすが我々の乗ったウアズはへっちゃらです。暖房もよく効きます(ちょっと効きすぎるくらい…)。<br /><br />真っ白な地面、葉のないまばらな灰色の樹木、曇天の空、という具合に、風景は単調です。そんな中を、たまに、巨大なウサギがちょろっと駈けていくのを、アナトリーさんが「ほら」と教えてくれるのですが、これまた全身真っ白なので容易には目が追いつきません。

     ところで、まさかバタガイにバスが走っているとは思いませんでした。車体はベラルーシのマズ(МАЗ)製で、ソ連時代にかなり広範囲に普及した小型のバスです。一体どこから来たのでしょうか。アナトリーさんに聞いてみると、すぐ近くから、とのこと。あとで地図を見てみると、この先にはエセ-ハイヤという町があり、スズが採れる鉱山町のようです。私としたことが、全然知りませんでした。バスはここから来たのでしょうか。悔しいですが、いまだに判らずじまいです。

     ほどなく現れた道路の分岐を右に曲がると、道はすぐに車1台分の幅へと狭くなりました。心なしか、路面の凹凸も多くなったように感じます。

    「これが、ヴェルホヤンスクへの道だよ。」

    と、アナトリーさん。一方、さっきの分岐を曲がらずに直進する道は、広くて立派なまま続くようです。その時はいぶかしく思いましたが、この先が鉱山町であるなら重量物の運搬のためにそれなりのインフラが必要なのも合点がいきます。少々道が悪くなったって、さすが我々の乗ったウアズはへっちゃらです。暖房もよく効きます(ちょっと効きすぎるくらい…)。

    真っ白な地面、葉のないまばらな灰色の樹木、曇天の空、という具合に、風景は単調です。そんな中を、たまに、巨大なウサギがちょろっと駈けていくのを、アナトリーさんが「ほら」と教えてくれるのですが、これまた全身真っ白なので容易には目が追いつきません。

  •  今走っている経路の、地形の話をしておきましょう。バタガイの市街はヤーナ川の右岸にあり、およそ標高150mから200mの緩やかな斜面に広がっています。目指すヴェルホヤンスクはそこからずっと西方向、ヤーナ川を上流へ直線距離約70kmさかのぼったところです。ヤーナ川の谷はくねくねと激しく蛇行していて、標高500-1000m級の山々に囲まれていますが、日本人の目から見ると、ゆるやかな山容のためにほとんど高さを感じさせません。<br /><br /> 車が進むヴェルホヤンスクへの道は、そんな谷の、氾濫原より少し高い丘陵の上に延びています。川の右岸を上流に向かって進むわけですから、川の位置は車窓右方向になります。でもそれなりに距離があるせいか、川は道中ほとんど見えませんでした。<br /><br /> 植生はほとんど全部針葉樹林です。いわゆるタイガですが、樹木の1本1本が小ぶりで密度もまばらです。永久凍土上の樹林は活動層の範囲までしか根を張れません。ですから、樹木の大きさも活動層の厚みの制約を受けるのです。小さな木々の姿は、それだけこのあたりの活動層が薄い、つまり地表からかなり浅いところまで永久凍土が分布していることを示唆します。もちろん、気候や日照条件も植生を支配する重要な要因ですが。

     今走っている経路の、地形の話をしておきましょう。バタガイの市街はヤーナ川の右岸にあり、およそ標高150mから200mの緩やかな斜面に広がっています。目指すヴェルホヤンスクはそこからずっと西方向、ヤーナ川を上流へ直線距離約70kmさかのぼったところです。ヤーナ川の谷はくねくねと激しく蛇行していて、標高500-1000m級の山々に囲まれていますが、日本人の目から見ると、ゆるやかな山容のためにほとんど高さを感じさせません。

     車が進むヴェルホヤンスクへの道は、そんな谷の、氾濫原より少し高い丘陵の上に延びています。川の右岸を上流に向かって進むわけですから、川の位置は車窓右方向になります。でもそれなりに距離があるせいか、川は道中ほとんど見えませんでした。

     植生はほとんど全部針葉樹林です。いわゆるタイガですが、樹木の1本1本が小ぶりで密度もまばらです。永久凍土上の樹林は活動層の範囲までしか根を張れません。ですから、樹木の大きさも活動層の厚みの制約を受けるのです。小さな木々の姿は、それだけこのあたりの活動層が薄い、つまり地表からかなり浅いところまで永久凍土が分布していることを示唆します。もちろん、気候や日照条件も植生を支配する重要な要因ですが。

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