1997/03/22 - 1997/03/23
163位(同エリア266件中)
北風さん
アラスカ夜物語の主役は「オーロラ」。
アラスカ昼物語の主役は、「ハスキー犬」。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 鉄道
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フェアバンクスのメイン・ストリートでは、年一回の犬ぞりレース「YUKON QUEST」が行われていた。
さすが、アラスカ!レース競技も一味違う。 -
たかが犬ぞりと思っていたら、大間違い。
これが速い!
-15℃の中、舌を突き出した格好で、ものすごいスピードで走り去っていく。 -
レース場には、犬を運ぶ特殊トレーラーが、あちこちにとまっていた。
犬用カプセルホテルといってもいいだろう。
知り合いになったおっちゃんが、自宅の犬の訓練所に連れて行ってくれると誘ってくれた。 -
何だ?ここは?
一面獣臭い匂いが立ち込めて、遠くからでもわかるぐらい野生の犬の雄たけびコーラスが響き渡る。
おっちゃんが犬ぞりのセッティングをする為に姿を消すと同時に、皆さん一斉にこちらをにらんで低く唸りだされた。
もしかして東洋人が嫌い?
腹が減っていらっしゃる?
和食がお好き? -
「How to make Dog Sleder(犬ぞりの作り方)」
① そりに牽引用ハーネスをセットし、地面に犬の配置通りに首輪を並べる。
② 犬を適当にみつくろい(本当は適正があるらしいが)、嫌がる犬の首根っこを押さえて、ハーネスを取り付ける。
③ 真冬には犬用の皮手袋?を履かせるそうだが、今回はなし。
ハーネスをピンと伸ばすと出来上がり! -
犬ぞりでも人間でもこんだけ集まれば意見の食い違いもあるだろう。
「あんな奴と同じグループで仕事なんかやれねえ」
なんて大工の親方みたいな台詞を吐いていそうな吠え方でケンカをし始める野生の犬達とその末端に少々青ざめた白人の観光客のおばちゃんがセットされた。 -
「オーロラは街の光が届かない郊外で見るべし!」
との教えに従い、白樺の森の中にひっそりとたたずむユースホステルにやって来た。
オーナーのトムが、自ら建てあげたログハウスは、驚嘆に値するほどの居心地のよさを提供してくれている。
が、しかし、この山小屋は俺と同じように、寒くなると縮んでしまう。
今朝も寒さで収縮して、なかなか開きたがらないドアに身体ごとぶつかり、ようやく白銀の世界に第一歩を記した。
ロッジの前に放置された犬ぞりが「BAW!」と吼えた。
見ると、犬ぞりの上に積もった雪の中から、「ベア」が顔をのぞかせている。
なんて犬だ!-40℃の星空の下、こいつはここでごろ寝していたらしい。
実は背中にジッパーでもあって、中にアザラシでも入っているんじゃないだろうか?
「ベア」の学術名は、「アラスカンハスキー」、抜群の耐寒性能を誇る極地犬として、2日間飲まず食わずで、犬ぞりを引っ張る体力があるとの事。 -
犬ぞりに近づくと、ベアがじゃれてきた。後ろ足で立ち上がり、俺の肩にガシッと前足を乗せる。
ん、ちょっと待て!何故犬ごときが、立っている俺の肩に、足を乗せられるんだ?
・・つまり、こいつは体長150cm以上はあるのか?
こいつ、目はクリッとしてかわいいが、肩を抑えられ、斜め45度から首を傾げられながら「BAW!」と吼えられると、俺の歯の3倍はありそうなキングサイズの牙の群れが、違う現実を呼び起こしてくる。
現在の状況は、どう見ても渋谷でチーマーに脅されているオヤジそっくりかもしれない。
俺は今、こいつに生かされているんだろうか?
こいつの腹の減り具合が、非常に気になる。
いいタイミングでトムが登場!
「そいつ、散歩に出たがっているんだ。ちょっと、連れて行ってくれないか?」と、頼まれてしまった。
それから10分後、水上スキーで使うようなでかいハーネスを腰に巻き、1トンまで耐えるロープでベアと繋がれた俺がいた。 -
トムが姿を消すのと、奴が走り出したのは同時だった。
「うぉぉぉっ」あまりのダッシュに、ロープを押さえた
皮手袋が焦げた。これは、腕力だけじゃ話にならない。
腰のハーネスごと引っ張られていく。
ベアにとって、俺の体重など屁でもないらしい。
ベア、気が狂ったかのように走る!
その3m後方には、半分肺が凍りかけた東洋人が、今までの人生を思い返す暇も無く引きづられて行く。
と、急にベアが白樺の林の方へ横っ飛びした。
「ベア、待て!そっちの斜面は除雪されてはいない・・」と、叫ぶ口一杯に、かき氷が飛び込んできた。
腰までの深さの雪の斜面を、ラッセル車の様な殺人犬に引っ張られ、ただただ雪山の事故のシーン同様、転がり落ちる。
レッドツェッペリンの、「天国への階段」が聞こえてきた。
何分後だろう?天国からの使者が急停車をした。低く「うぅうぅうぅ」と、唸ってもいる。
どうした事だ?運動の後に、急に腹が減ったならば、俺にとって別の危険が追加された事にもなるのだが?
不安と共に前方を見下ろすと、茶色い巨大な塊がもそもそ動いていた。茶色い艶やかな毛並みが朝日を反射している。パラポラアンテナの様な、巨大な角がついていた。
野生の「ムース」だった!すごい!普通の1.5倍程ある。これで鹿なのか?
馬鹿犬が、また「BAW!」と吼えた。
茶色い塊は、鮮やかに身を翻し、森の奥へと走り始める。
非難の視線をこめて、ベアを振り返ると、
・・・「去る者は、追う」という、犬の習性に国境は無いらしい。馬鹿犬は、本能の赴くままにギアをトップに入れていた。
「BAW!BAW!BAW!」雪が飛び散る。手袋が焦げる。周りの景色が、再び回転し始める。
アラスカの一日は、始まったばかり。
あとどれぐらい肺は持つのだろうか?
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