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旨いもの紀行 けんちん汁

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1980/11/10 - 1980/11/11

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miyabi-do

miyabi-doさん

【けんちん汁】    新潟県北魚沼郡・編

 東京生まれの東京育ちで、故郷のない者にとって、ふるさとの味って何だろうと考えてみた。
 いわゆる江戸前の鮨や佃煮、浅草海苔に深川丼など、東京名物を並べてみても、ふるさとの味という懐かしさは湧いてこない。

 むしろ、それ等は郷愁とは無縁のもので、さらに考えあぐねて得た結論は、ふるさとの味イコールおふくろの味ということである。
 それも特別なハレの日に作るご馳走ではなく、なんでもない日常に作るご飯のおかずがいい。

 だが、頼みの母はすでにこの世になく、その味を引き継ぐべき妻もない一人身にとって、もはやふるさとの味もおふくろの味も、幻でしかない。

 無駄と知りつつ、瞼に残るおふくろの味を、思い描いてみた。
 釜の底にこびりついたお焦げのおにぎりに、自家製の漬け物と味噌汁の3点セットがあれば、いうことなし。

 タマネギとじゃがいもに、たっぷりの挽き肉を混ぜた、メンチカツとコロッケの中間のような、ジューシーな特製コロッケも捨てがたい。
 しかし瞼に残るおふくろの味、堂々の1位に輝いたのは、家にあった一番大きな鍋で作った、けんちん汁である。

 少しずつ秋が深まるこの季節、「おふくろの作った、あのけんちん汁が食べたい」と、突如として思うことがある。
 しかし、同じ具、同じ調味料をそろえても、あの味にはどうしてもならないのである。

 どう逆立ちしても無理ならば、奥只見郷の湯之谷村で見つけた、「山菜入りいなか鍋」と書かれたけんちん汁(820g)の缶詰を試すことにした。

 缶の中身は、わらびに油揚げ、車麩にコンニャクをはじめ、大根人参ジャガイモ牛蒡鶏肉キノコ類と、文字通りの具沢山。
 中身を鍋にあけ、温めるだけでOKなのだが、缶詰をそのまま食べるのは、どこまでも侘しさがつきまとう。

 作った人には申しわけないが、ひと工夫加えさせてもらった。
 冷蔵庫にあった里芋と椎茸を加え、火を止める寸前に胡麻油を数滴垂らしたら、缶の中で窒息(?)していた味が蘇った。

 この方が栄養的にも味覚的にもいいし、レディメイドながらも、わが家の味になる。
 ふるさとの味を中心に加工食品を製造販売している、大沢加工の森山淳さんに話を伺った。

「けんちん汁は、20年以上も前から続くロングセラー商品なんです。お客様から、『豆腐を加えたら味が良くなった』とか、『うどんや餅を入れて食べてます』などの声が届き、皆さんわが家の味にして楽しんでいるようです。業務用の3kgサイズも、キャンプでの即席野外料理として重宝がられています。
 また姉妹品に、トン汁やまたぎ汁もありますので、そちらもぜひお試しください」

 さらに同社には、もつ煮込に肉じゃが、豚角煮大根に筑前煮など、居酒屋定番の品々もある。
 もともと業務用に作ったものだが、個人向けに“おふくろのおそうざい”(5品10袋セット3000円。注:取材当時)シリーズとして発売したところ、好評を博しているそうだ。

 おふくろの味は、いつか確実に幻になる。この教訓を胸に、せいぜい親孝行して下さい。


DATA:製造元・大沢加工

同行者
一人旅
交通手段
新幹線

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