1962年1月6日（土）<br /><br />一日、一点の雲もない快晴。<br /><br />こんな上天気は、スペイン入国以来始めてのことだ。<br /><br />標高650ｍのグラナダは寒く、霜が真っ白に降りている。<br /><br />バレンシア行の急行ディーゼル･カーは、８時５分発。<br /><br />スペイン第四の都市バレンシアまで、６００キロ１３時間の旅が、これから始まる。<br /><br />優等列車なので、３等車は付いていない。<br /><br />よほど線路が悪いのだろう。<br /><br />ディーゼルカーは上下左右に、波打ちながら、距離と時間を刻んで行く。<br /><br />シエラ･ネバダの白雪をはるかに望みながら、列車は寒々とした原野をひた走る。<br /><br />付近の山には木が一本もなく、赤茶けた山肌は、風化の跡が痛々しいばかり。<br /><br />人家はほとんどなく、時に岸壁の穴に住む人を見つける。<br /><br />いまどきこんな暮らしをしている人がいるとは、不思議な感じがする。<br /><br />川はすっかり枯れきって、谷ばかりいたずらに深い。<br /><br />しかし、標高が下がるにしたがい、この荒れ果てた光景に、少しずつ緑が交じってくる。<br /><br />最初に現われたのは、サボテン。<br /><br />それから次第にヤシが交じるようになる。<br /><br />やがて民家が現われ、その周辺には、色とりどりの花が目立ってくる。<br /><br />サクラに似た木が、満開の花をつけている。<br /><br />おそらく、アーモンドではなかろうか。<br /><br />このあたり、春の気配が濃厚だ。<br /><br />ここら一帯、勾配の斜面が南に向いているので、春が早いのだろう。<br /><br />もう少し南には、ヨーロッパ切ってのリゾート「コスタ・デル・ソル」がある。<br /><br />線路端に野生するサボテンには、つぼみと思われる赤い突起が不気味だ。<br />

1962年のパリ便り【722】寒々とした冬景色から花咲く南国へ鉄道の旅

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1962/01/06 - 1962/01/06

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#その他

ソフィさん

1962年1月6日（土）

一日、一点の雲もない快晴。

こんな上天気は、スペイン入国以来始めてのことだ。

標高650ｍのグラナダは寒く、霜が真っ白に降りている。

バレンシア行の急行ディーゼル･カーは、８時５分発。

スペイン第四の都市バレンシアまで、６００キロ１３時間の旅が、これから始まる。

優等列車なので、３等車は付いていない。

よほど線路が悪いのだろう。

ディーゼルカーは上下左右に、波打ちながら、距離と時間を刻んで行く。

シエラ･ネバダの白雪をはるかに望みながら、列車は寒々とした原野をひた走る。

付近の山には木が一本もなく、赤茶けた山肌は、風化の跡が痛々しいばかり。

人家はほとんどなく、時に岸壁の穴に住む人を見つける。

いまどきこんな暮らしをしている人がいるとは、不思議な感じがする。

川はすっかり枯れきって、谷ばかりいたずらに深い。

しかし、標高が下がるにしたがい、この荒れ果てた光景に、少しずつ緑が交じってくる。

最初に現われたのは、サボテン。

それから次第にヤシが交じるようになる。

やがて民家が現われ、その周辺には、色とりどりの花が目立ってくる。

サクラに似た木が、満開の花をつけている。

おそらく、アーモンドではなかろうか。

このあたり、春の気配が濃厚だ。

ここら一帯、勾配の斜面が南に向いているので、春が早いのだろう。

もう少し南には、ヨーロッパ切ってのリゾート「コスタ・デル・ソル」がある。

線路端に野生するサボテンには、つぼみと思われる赤い突起が不気味だ。