2007/08/18 - 2007/08/18
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フーテンの若さんさん
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重い腰を上げてカトマンズを発つことになった。
向かった先は世界遺産に登録されたチトワン国立公園があるソウラハという町。何でも象に乗りながら野性のインドサイやバイソンが見れる人気の観光地であるらしい。カトマンズを離れられるなら別に何処でも良かったのだが、旅行会社があまりにも熱心に薦めるものだから適当に此処に決めてしまったのだった。
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バスに乗るため早起きして窓の外を眺めると、今日も朝からシトシト雨が降っていた。ドンヨリした空模様と同じく、僕のテンションもイマイチ盛り上がらない。天気は人の精神にまで深く影響するというのは本当のようだ。
ソウラハで泊まったホテルは「ジャングル・ワイルド・ロッジ」という何処にでもありそうな有触れた名前で、その名の通り町から離れたジャングルのなかにある大きな川のそばにあった。
ホテルに着いてからも、雨はほとんど止むことがなく一日中降り続いていた。連日の豪雨のため、川は氾濫し、周辺の民家は浸水しているほど酷い状態だという。この雨では外に出てもやることは何もない(というか危険だ)。そこで、ホテルに篭って一人本を読むことにした。結局、カトマンズを離れてみてもやることは同じ。
手に取った本はバンコクで購入した五木寛之の紀行本「仏教の旅」。
この本によると、世の中には「呼ばれる人」と「呼ばれない人」がいるという。以前から興味があって、ぜひ行きたいと熱望しながら、なぜか縁がなくてその機会が得られないということがある。そういう人を「呼ばれない人」というらしい。反対に、一度でかけて帰って来て、もう二度とあんな国いくものかと心に決めながら、どういわけか二度、三度訪れることになったりする。そういうのは「呼ばれる人」だ。とある。 -
そう考えると、僕はこの「ネパール」という国に呼ばれたのである。
そもそも「ネパール」に行くことなどまったく予定していなかった。バンコクから「スリランカ」へ行ってサーフィンを楽しもうという計画を元々立てていたのだ。しかし、ある旅行者からスリランカ北部の治安が悪化していることを聞き、別のある人からは実際にバスで強盗に遭った経験談を聞かされて、目的地をあっさり変えたのであった。「ネパール」に決めたのは、同じヒンドュー教国ということと、行きたかった「ブータン」への足かがりになると思ったからで、大した理由はなく、本当に偶然に過ぎなかった。
その呼ばれた「ネパール」に来てからの僕は、ほとんど何もしていない状態だった。
連日の雨のため、ほとんどホテルに篭って本を読んでいるか、近くのレストランで日本食モドキを食べるという怠惰な毎日を過ごしている(ネパールではやたらと日本食レストランが多い)。
はて、何のために僕はこの地に呼ばれたのだろうか。
そんなことも考えながら本を読んでいると、いつのまにか今日も寝入ってしまっていた。目が覚めると真っ暗で、静かな夜が訪れていた。時計を確認すると午後19時過ぎ。電気を点けようと電燈のスイッチを押すがまったく反応しない。どうやら停電しているようだ。トイレに行き、水を流そうとしても流れない。断水もしている。停電も断水もネパールではさして珍しいことではない。ましてやこの豪雨であれば文句をいっても仕方がない。お腹が空いたので宿のレストランへ向かう。電気や水が無くても、料理は何かできるだろうと思った。とりあえずテーブルに蝋燭の明かりを灯してもらい、停電のため冷えていないであろうビールを注文する。
料理はなかなか出てこなかった。電気がないと料理にも時間がかかるのかもしれない。ぼーと蝋燭の明かりを眺めながら料理を待っていると、蝋燭の光に吸い寄せられる虫たちの姿が目に映った。一心不乱に突っ込んでいく姿は滑稽なように見えて、なぜか少し悲しげだった。彼らも何かに呼ばれて蝋燭の光に辿りついたのだ。
何ゆえに彼らは光を求めるのか。そこに待ち受けているのは最終的には死の世界。虫たちにとって安住の輝きは、実は身を滅ぼす悪の熱でもある。ボロボロになりながらも、彼らは光のいい面だけを求めて力の続く限り飛び込んでいく。
僕も「ネパール」という光に呼ばれてこの地に飛び込んできた。
今は雨ばかりでその光そのものもさっぱり見えない状況が続いている。でも、もう少し光を求めて「ネパール」を彷徨ってみたい。僕を呼んだものが何なのか、この地に来たからには、しかとそれを確かめてみたいのだ。近づきすぎて火傷したとしても、身を滅ぼすほど熱い光だとしても、僕は一瞬でもいいからその光に触れてみたいと思うのだ。
雨はそのまま降り続いた。雨の音が気になって、夜半過ぎまで僕は眠ることができなかった。その雨は、音から想像するに一生止むことはないのではと思えるほどのものであった。
今は雨ばかり。光はまだ見えてこない。
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