2002/06 - 2002/06
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あるぱかちゃんさん
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インドの安宿である旅人に教わった。世界には「3大バカ国」があるそうな。それは、「インド」、「モロッコ」、そして「エジプト」だそうだ。北インドの都市を一巡した僕は、第一のバカ国に別れを告げ、トルコのイスタンブールまで飛行機で移動し、そこからシリア、ヨルダンと南下して、ついには紅海をフェリーで渡ることになった。そう、あのインドと同じバカ国の称号をもつエジプトに行くために。
高速フェリーをケチり、ローカルフェリーに乗った。まわりはアラブ人ばかりで、ツーリストは他に見当たらない。彼らは好奇心が強い。自分に視線が集まっているのがわかる。だけど、美しい紅海を静かに眺めていたかった僕は、彼らと目をあわさないことにした。そうして、船の上から透き通る水を泳ぐ魚の群れをのぞいていた。旅の移動に疲れていた僕は、とてもリラックスできた。しかし、それもほんのつかの間。ちょっとトイレに行ってデッキに戻ると男がしっかり僕の席に座って待っている。まったく英語をしゃべれない初老のイラク人。「ジャパニーズ」「イラク」「コーヒー」、通じたのはそれだけ。会話が成立しなくても構わないようだ。彼が買ってきた一杯のコーヒーを交互に口にしながら、また時は過ぎていった。ふいに男が海を指差した。海を跳ねながらフェリーを追いかけてくる、イルカの親子がいた。
エジプトのヌエバに着くと、すでに目的地ダハブ行きのバスは終わってしまっていた。ここは港町で何もないから、結局タクシーを拾って何十キロも離れたダハブまで行かなければならない。浮かしたフェリー代がかえって高くつくはめになってしまったが、初老のイラク人と一緒に、イルカに胸ときめかすなんてこともそうないだろう。せめてタクシー代を値切ろうと、運転手と何度も交渉し、50ポンド(2002年当時、約1,500円)でしぶしぶ承知させた。車は平均時速150キロで、陽の暮れ始めた岩砂漠を疾走する。岩の合間を縫うように、道はときどき大きく曲がりくねる。対向車は20分に1台くらい、後続車はゼロ。つまり、この広い砂漠の中に僕と運転手の二人だけ。岩陰で僕を殺し、全財産を奪って、早々と引き返したほうが彼にとってどれほどてっとり早く、大金を稼げるだろうか。しかし、しっかり目的地にまで送り届けた運転手は卑屈な顔で、今晩の飯が食えないからあと5ポンド(150円)多くほしいと言う。僕は砂漠に捨てられた自分の死体を想像し、10ポンド余計に渡した。彼は、完全に闇と化した砂漠を、またあのスピードで帰っていくのだろう。
ダイバー憧れの海といわれるだけあって、珊瑚の美しさが放浪者をも虜にしてしまう。ダハブで過ごした日々は本当に素晴らしかった。このあと、ウザい、ウザいと悪評判のカイロに行くのだと思うと憂鬱になる。ここは楽園だ。こうして2,3日の滞在のつもりが半月ものんびりしてしまった。ダイビングのライセンスを取り、毎日海に潜った。そこで出会った仲間たちと美しい海を眺めて過ごした。
ここの海が、紅海(英名:RED SEA)と名づけられた所以は、海の水が赤いからではなく、両岸の砂漠が赤いかららしい。だけど、僕は一度だけ、海が夕日で真っ赤に染まるのをみた。対岸のサウジアラビアまで、まるで紅い砂漠でつながってしまったかのようにそれは映った。そんなダハブの生活に別れを告げ、ついに僕はカイロへと向かった。
ピラミッド、シタデル、ハンハーリ、一通りカイロを見物してから、今度は列車でルクソールに行き王家の谷やカルナック神殿を見て、そして再びカイロに戻ってきた。いつの間にかまた半月が過ぎていた。1ヶ月でエジプトビザは切れる。延長を申請しようと何度も考えたが、僕はイタリアに向かうことを決めた。確かにエジプトはインドと同じバカ国だった。そう、愛すべきバカ国なのである。それは物売りがしつこいとか、ぼったくるとか、バクシーシを求めるとか、そういうことだ。相手にしていると確かに疲れることが多いが、そんな彼らのパワーから生きるということが何かを教わる気がする。カイロもまた最高の場所だった。
カイロの街に陽が落ちる頃、風が心地よく吹きはじめる。すると、いつの間にかそこかしこに人が溢れ、昼間とは違う賑わいをみせてくれる。僕は噴水のある広場まで出かけていって、アイスクリーム片手に、そんなカイロを飽きることなく眺めた。あの涼しい風のことを思い出すと、あの時、少しだけ旅を急いでしまったことを後悔する。
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