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 ガンガーが流れる。<br /><br /> 洗濯をする。 頭を洗う。 体を洗う。 口をゆすぐ。 歯を磨く。 泳ぐ。 祈る。<br /><br /> 死体が運ばれる。 河に浸される。 泣く。 木が組まれる。 燃える。 甘い匂いがする。 みつめる。 煙が昇る。 犬がうろつく。<br /><br /> パイサが山積みにある。<br /><br /> たくさんの神々が売られる。 子供がついてくる。<br /><br />『ラジャ・ヒンドゥスタニ』が聴こえてくる。 『クミコハウス』の文字がある。<br /><br /> 舟がゆっくりとすべる。 イルカの背中が見える。 ガートと人が見える。 シヴァ神が見える。 太陽が昇る。<br /><br /><br /> 太陽が沈む。<br /><br /> 牛がうろつく。 緑色の小さいケーラーを売っている。 病いの犬がよだれを垂らす。 寺院があらわれる。 細い細い路地を歩く。 迷路を歩く。 建物の隙間から河が見えるとほっとする。<br /><br /> <br /> ターリーを食べていた。 ダールをすすっていた。 チャーイを飲んでいた。 プーリーを食べていた。 ケーラーを食べていた。 リムカを飲んでいた。 サムズアップを飲んでいた。<br /> <br /><br /><br /> そんな町だった。もう陽が昇りはじめている。河で体を洗っている男に近づいていった。ジャパニが話しかけると彼の表情は厳しいものになった。<br /><br />─ 河に入っても良いか<br /><br /> と聞くと男の顔は和らぎ、そして手招きをした。下着一枚の姿になり河に足を入れる。水は温かい。ガートをもう一段降りる。下は苔かなにかで滑りやすくなっていた。もう一段降りる。そして、ゆっくりと平泳ぎを始めた。ガートから西洋人が「fool !」と声をあげる。まわりの男たちは少しだけはしゃいで水を飛ばしてくる、、、<br /><br /> 気持ちの悪いことはなかった、、、いや、素直に、気分が良かった。<br /><br /> 白くて大きな墓を抱える町へ来たのは、その二日後だった。<br /><br /> 駅のリタイアリングルームが空いていたため、泊まる予定で金を支払ったが、結局そのベッドは、一度もジャパニの身体につぶされることはなかった。なぜならその夜、ジャパニの身体は、近くの小さな病院のベッド上にあったのだから。<br /><br /> ロクな診察も受けずに病床につくことになってしまっていた。自分勝手に「ただの腹痛」ということにして納得するしかなかった。今まで泊まってきた中で、最もキレイなベッドの上。看護婦が最後に点滴の針を腕に刺したところで、合計3回の恐怖は終わった。<br /><br />─ What&#39;s this ?<br />─ What&#39;s this ?<br />─ What&#39;s this ?<br /><br /> 血管に流れるであろう、その3種類の薬品のラベルの英語を、シリンジに注入する前にいちいち読んでチェックした。しまいに看護婦は怒り出した。「イチイチ、イチイチうるさい患者だ」と。傍らにいる健康なネオムスリムの男に捲し立てる。朦朧とした頭に彼女の英語が響いてくる。こんな状態でもまだ、言っていることの大半は理解できた。<br /><br /> ネオムスリムは看護婦が退室すると、すぐに話しかけてきた。<br /><br />─ 彼女を怒らせるなよ。カワイイだろう。今の看護婦は美人だと思わないか?<br /><br /> 正直に言える意識は持っていたが、それを抑える理性もまだ持ち合わせていたらしい。言葉を濁した。<br /><br /> 彼は病室内にあるテレビをつけた。プログラムは「MTV」。大勢の踊りを見ながら、大音量のキンキン声がスピーカーで割れている。<br /><br /> ボリウムは下げてもらったものの、今度は彼の友人2人が病室に入ってきてテレビを見ながら、歌ったり踊ったり、とびきりキレイなベッドで跳ね始めた。不安のドン底で横たわっているジャパニのベッドで。<br /><br /> 睡眠薬も入っていたのだろう。眠くなってくる。彼らのたくさんの質問に答えるのもそろそろ限界だ、、、<br /><br /><br /> 覚めた目に夕日が入ってきた。そして、病室に誰も人が居ないことを知り、安心してまた眠った。<br /><br /><br /> 覚めた目に太陽の光は入ってこなかった。もう夜になっていた。今夜の宿はこの小さな病院に決まってしまったらしい。何もせず、何も考えず、ただベッドに横たわって天井を見ていた。<br /><br />「MTVでも見るか」と考え始めた時、さっきとは違う看護婦がひとり、部屋に入ってきた。<br /><br />─ You eat something ?<br /><br /> 確かに空腹だった。注射針からのグルコースだけでは満腹にはならない。食事を頼むことにした。<br /><br /> すぐにやってきた盆の上には、カレーと生野菜とチャパティがなんのためらいもなく並んでいる。「腹痛」ということは伝わっているはずだが。一瞬にして食欲はなくなっていた。しかし、持ってきてくれた手前、手をつけないわけにはいかない。カレーをひとくち食べ、チャパティをちぎってもぐもぐもぐもぐとしていた。さすがに、健康な時でさえ食べることに抵抗のあった生のタマネギには手を出さなかった。<br /><br />─ enough.<br /><br /> 看護婦は大量に残されている盆などには頓着せず、さっさと片づけた。そして何か言った。聞き取れなかったが、その中に「money」という単語が入っていた。彼女はチップを要求しているのだ。彼女は白衣の胸元を少しはだけさせ、胸の間、白い下着からボロボロなルピー札を数枚取り出し、ジャパニに見せた。物欲しげな目をして、再びその単語を口にした。<br /><br />─ money ?<br /><br /> 体調はもう良くなっているようだった。いや、良かろうが悪かろうが、この病院から抜け出したかった。駅のリタイアリングルームで眠るべきなのだ。<br /><br />─ I&#39;m all right. I want to go to the station.<br />─ Now ?<br />─ Yes !<br />─ The doctor is not here. He went home. You can&#39;t go out.<br /><br /> 時間がわからないが夜が続いている。静かだ。知らないうちに眠っていたようだ。グルコースで気分が悪くなっていた。もう点滴は必要ない。あと瓶に半分以上も栄養が残っている。誰か点滴の針を抜いてくれないか。<br /><br /> 点滴の瓶を持ったまま部屋の外へ出た。たった今まで床で眠っていた男が慌てて近づいてきた。ボロボロのクリーム色の服を着ている。この男は誰なのだろう。<br /><br />─ Where you go ?<br /><br /> 男にベッドに戻されながらも、体調を説明し、「点滴を止めてくれ」「駅に帰らせてくれ」ということを言った。どうやら、病院にはもう、看護婦も医院長も居ない時間らしいのだ。男はさっきまで床に触れていた手で、ジャパニの腕の針を抜こうとした。<br /><br />─ NO!<br /><br /> 朝まで待つしかない。医院長が来るのを待つしかない。医院長が来たらすぐにここを出よう、、、<br /><br /> <br /> <br /> 夜は長かった。<br /><br /> 静かな音が聞こえる。<br /><br /> 外は暗い。<br /><br /> 建物の影。<br /><br /> 今、どこにいるのだろう。<br /><br /> この国はこんなに静、、、<br /><br /><br /><br /> 夜が続く。<br /><br />http://www.geocities.jp/kanaibon/

Good times Bad times #4

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1997/02 - 1997/03

9593位(同エリア9754件中)

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kanai jic tokyo

kanai jic tokyoさん

 ガンガーが流れる。

 洗濯をする。 頭を洗う。 体を洗う。 口をゆすぐ。 歯を磨く。 泳ぐ。 祈る。

 死体が運ばれる。 河に浸される。 泣く。 木が組まれる。 燃える。 甘い匂いがする。 みつめる。 煙が昇る。 犬がうろつく。

 パイサが山積みにある。

 たくさんの神々が売られる。 子供がついてくる。

『ラジャ・ヒンドゥスタニ』が聴こえてくる。 『クミコハウス』の文字がある。

 舟がゆっくりとすべる。 イルカの背中が見える。 ガートと人が見える。 シヴァ神が見える。 太陽が昇る。


 太陽が沈む。

 牛がうろつく。 緑色の小さいケーラーを売っている。 病いの犬がよだれを垂らす。 寺院があらわれる。 細い細い路地を歩く。 迷路を歩く。 建物の隙間から河が見えるとほっとする。

 
 ターリーを食べていた。 ダールをすすっていた。 チャーイを飲んでいた。 プーリーを食べていた。 ケーラーを食べていた。 リムカを飲んでいた。 サムズアップを飲んでいた。
 


 そんな町だった。もう陽が昇りはじめている。河で体を洗っている男に近づいていった。ジャパニが話しかけると彼の表情は厳しいものになった。

─ 河に入っても良いか

 と聞くと男の顔は和らぎ、そして手招きをした。下着一枚の姿になり河に足を入れる。水は温かい。ガートをもう一段降りる。下は苔かなにかで滑りやすくなっていた。もう一段降りる。そして、ゆっくりと平泳ぎを始めた。ガートから西洋人が「fool !」と声をあげる。まわりの男たちは少しだけはしゃいで水を飛ばしてくる、、、

 気持ちの悪いことはなかった、、、いや、素直に、気分が良かった。

 白くて大きな墓を抱える町へ来たのは、その二日後だった。

 駅のリタイアリングルームが空いていたため、泊まる予定で金を支払ったが、結局そのベッドは、一度もジャパニの身体につぶされることはなかった。なぜならその夜、ジャパニの身体は、近くの小さな病院のベッド上にあったのだから。

 ロクな診察も受けずに病床につくことになってしまっていた。自分勝手に「ただの腹痛」ということにして納得するしかなかった。今まで泊まってきた中で、最もキレイなベッドの上。看護婦が最後に点滴の針を腕に刺したところで、合計3回の恐怖は終わった。

─ What's this ?
─ What's this ?
─ What's this ?

 血管に流れるであろう、その3種類の薬品のラベルの英語を、シリンジに注入する前にいちいち読んでチェックした。しまいに看護婦は怒り出した。「イチイチ、イチイチうるさい患者だ」と。傍らにいる健康なネオムスリムの男に捲し立てる。朦朧とした頭に彼女の英語が響いてくる。こんな状態でもまだ、言っていることの大半は理解できた。

 ネオムスリムは看護婦が退室すると、すぐに話しかけてきた。

─ 彼女を怒らせるなよ。カワイイだろう。今の看護婦は美人だと思わないか?

 正直に言える意識は持っていたが、それを抑える理性もまだ持ち合わせていたらしい。言葉を濁した。

 彼は病室内にあるテレビをつけた。プログラムは「MTV」。大勢の踊りを見ながら、大音量のキンキン声がスピーカーで割れている。

 ボリウムは下げてもらったものの、今度は彼の友人2人が病室に入ってきてテレビを見ながら、歌ったり踊ったり、とびきりキレイなベッドで跳ね始めた。不安のドン底で横たわっているジャパニのベッドで。

 睡眠薬も入っていたのだろう。眠くなってくる。彼らのたくさんの質問に答えるのもそろそろ限界だ、、、


 覚めた目に夕日が入ってきた。そして、病室に誰も人が居ないことを知り、安心してまた眠った。


 覚めた目に太陽の光は入ってこなかった。もう夜になっていた。今夜の宿はこの小さな病院に決まってしまったらしい。何もせず、何も考えず、ただベッドに横たわって天井を見ていた。

「MTVでも見るか」と考え始めた時、さっきとは違う看護婦がひとり、部屋に入ってきた。

─ You eat something ?

 確かに空腹だった。注射針からのグルコースだけでは満腹にはならない。食事を頼むことにした。

 すぐにやってきた盆の上には、カレーと生野菜とチャパティがなんのためらいもなく並んでいる。「腹痛」ということは伝わっているはずだが。一瞬にして食欲はなくなっていた。しかし、持ってきてくれた手前、手をつけないわけにはいかない。カレーをひとくち食べ、チャパティをちぎってもぐもぐもぐもぐとしていた。さすがに、健康な時でさえ食べることに抵抗のあった生のタマネギには手を出さなかった。

─ enough.

 看護婦は大量に残されている盆などには頓着せず、さっさと片づけた。そして何か言った。聞き取れなかったが、その中に「money」という単語が入っていた。彼女はチップを要求しているのだ。彼女は白衣の胸元を少しはだけさせ、胸の間、白い下着からボロボロなルピー札を数枚取り出し、ジャパニに見せた。物欲しげな目をして、再びその単語を口にした。

─ money ?

 体調はもう良くなっているようだった。いや、良かろうが悪かろうが、この病院から抜け出したかった。駅のリタイアリングルームで眠るべきなのだ。

─ I'm all right. I want to go to the station.
─ Now ?
─ Yes !
─ The doctor is not here. He went home. You can't go out.

 時間がわからないが夜が続いている。静かだ。知らないうちに眠っていたようだ。グルコースで気分が悪くなっていた。もう点滴は必要ない。あと瓶に半分以上も栄養が残っている。誰か点滴の針を抜いてくれないか。

 点滴の瓶を持ったまま部屋の外へ出た。たった今まで床で眠っていた男が慌てて近づいてきた。ボロボロのクリーム色の服を着ている。この男は誰なのだろう。

─ Where you go ?

 男にベッドに戻されながらも、体調を説明し、「点滴を止めてくれ」「駅に帰らせてくれ」ということを言った。どうやら、病院にはもう、看護婦も医院長も居ない時間らしいのだ。男はさっきまで床に触れていた手で、ジャパニの腕の針を抜こうとした。

─ NO!

 朝まで待つしかない。医院長が来るのを待つしかない。医院長が来たらすぐにここを出よう、、、

 
 
 夜は長かった。

 静かな音が聞こえる。

 外は暗い。

 建物の影。

 今、どこにいるのだろう。

 この国はこんなに静、、、



 夜が続く。

http://www.geocities.jp/kanaibon/

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