2007/03/31 - 2007/07/01
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captainさん
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アレッポからシリア北部の草原を抜け、トルコ国境へ。
ドライブスルーな感じで国境を抜け、そのままガジアンテップ。
バスに乗り換えディヤルバクルへ到着する。
同じバスに乗っていた大学生のジハド君の助けもあり、
ディヤルバクル滞在は内容の濃いものになった。
旧市街のウルジャミィではムスリムの包囲を受け英訳のコーランや数珠を買い与えられ、前述のジハド君宅に夕食に招かれたりと、エキサイティングな日々だった。
ディヤルバクルは歴史ある街だが、いくつかのガイドブックでは「治安が悪く、夜間は注意が必要」と紹介されている。
この街では1980年代のPKK(クルド人労働者党)のテロ活動が盛んだった。
PKKの武力闘争は2000年に終結宣言が出されたが、この街は依然トルコの典型的な「クルド人」の街だ。
僕は2006年にトルコを訪れてからめっきりトルコファンで、月刊「トルコ」が創刊されれば間違いなく定期購読を申し込む。
だが、しばらくファンを続けるとこの国の持つ暗部にも気付くのである。
ここからの旅は、この問題を意識しないではいられなかった。
クルドの人
現在のトルコ共和国は、オスマン帝国が解体されてから成立したもので、
その達成にはムスタファ・ケマル・アタチュルクという天才指導者の存在と、
トルコ国民の果敢な努力があった。
さて、遡ること18世紀の終わり。フランス革命が起きてからは、ヨーロッパでは「国民国家」という新しい概念が生まれた。徴兵制による常備軍を運用できるこの体制は、産業革命による火器の進化と相まって、熟練した少数の戦闘集団を筆頭に兵を短期間で運用する君主制国家を脅かすことになる。国民国家「Nation」という思想は、その実効性も相まってヨーロッパに波及することになる。僕たちが「民族問題」と耳にすると何世紀にも渡る民族の衝突を連想しがちだが「民族という単位で国家を形成して自決する」という発想は存外新しいものだ。
オスマン帝国には「トルコ人の帝国」という発想が無く、地方領主や国家の重臣には他民族出身の人が多く存在した。現在のトルコの南東部にはもともとクルド人領主が治めていた土地が多くあり、「クルド人の街」というのはそういうバックグラウンドがあるわけだ。領主はオスマン家に忠誠を誓う主従関係が存在するものの、オスマン王朝に従するのであって「トルコ人」に従するわけではない。これは概念の問題から発するが、本質的な問題とも言える。
19世紀の終わり頃、早々に国民国家を設立し、さらなる植民地の獲得に覇を唱えるヨーロッパ諸国は、オスマンの支配下にあった国々に「独立民族国家」という大義名分を与え、それを後押しすることによってオスマン帝国の切り崩しにかかる。有名な「アラビアのロレンス」は、そんな流れの中でヨルダンの独立をサポートしたイギリスの軍人の一人だ。「栄光ある民族国家の独立」と言えば聞こえは良いが、諸国の利権と思惑が交錯する独立劇が残した爪痕は、コソボ内戦、中東戦争、と枚挙に暇が無い。
さて、このような切り崩しと第一次大戦の敗戦が決定打となり、オスマン帝国はまさに「存亡の危機」に陥る。かつて、南はエジプト、東はイラク、西はウィーンまで包囲した大帝国「オスマン朝」は、アナトリアを保持することさえ困難な状態におかれた。その時、凋落したオスマン朝に見切りを付け、国家の立て直しに武器を取り立ち上がったのが、前述のムスタファ・ケマル・アタチュルクなのである。
彼は天才的な軍事家であり政治家でもあるが「国家設立」の理念に、当時の国家思想のメインストリームであった「民族国家」という概念を採用した。オスマン家の支配の元に他民族が共存していたはずの帝国滅亡の跡に成立したのは、トルコ人の民族国家だったわけだ。
状況が悪い時、人が必要とするのはロマンだ。トルコ民族の誇りを!という国民の団結と意識の高揚を得るために高らかに内側に謳い上げる時、その外側には排斥に近い感情が起こるのは必至だ。ここに差別感情が発生し、
危機的状況にある国家は中央集権を強めざるを得ないから、利権も中央に偏りがちになる。教育に、就職に、そして資本に差が出始め、権力が偏る。
デモ活動は騒乱罪に近い扱いを受け、先が閉ざされてテロが起き、恐怖心が差別意識を加速させる。
「民族」は概念に過ぎない。
パンが手に入らない時、人は怒る。
でもパンのことで怒るのは恥ずかしいから、大きな理念で怒りを表現しようとする。
僕はパンの怒りこそが真っ当な怒りなんじゃないかなと思う。
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