2007/05/24 - 2007/05/24
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フーテンの若さんさん
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スペインの北部バスク地方の中心都市ビルバオにやってきた。
この地を訪れた目的は専らサーフィンである。ビルバオ近郊のビーチ、ムンダッカはWTCの大会が毎年行われるほど世界的に有名なポイントだ。北部の海岸線には他にも有数のサーフポイントがたくさん点在するとあって、夏になるとヨーロッパ諸外国から多くのサーファーがひっきりなしに押し寄せるらしい。ここでは、イースター島で出会った旅行者から紹介してもらったビルバオ在住の日本人サーファーとも会えることなっていたので、到着前からとても楽しみにしていた(コウキチさん、ありがとう、ちゃんとお会いできましたよ!)。
到着した朝にさっそく彼に電話を掛けると、1時間も待たずに泊まっているユースホステルまで車で迎えに来てくれた。彼の名前は「たくさん」。神戸出身でビルバオ在住6年。現在は独立してピアノの調律師をしている。仕事の手が空いて都合がつくときは、僕のような旅行者を無償で案内してくれているのだという。
小柄で、僕とほとんど同じ背丈。年齢は34歳とこれまた僕と同じであった。僕の質問にかなり眠そうに答えているので尋ねると、昨夜寝る前にコーヒーをガブ飲みしたため、5時まで眠れなかったのだという。
それでも、たくさんは「家に戻って、波の状況をネットで確認し、もしよければ海に一緒に行こう。」と誘ってくれた。そこで一旦別れ、また午後に会うことにする。15時頃、彼に電話すると、すでに現地の友人と波に入っていた。カレントが激しく、今日の波はあまり良くないという。
なので、今日のサーフィンは諦めることにし、これからパリに発つ彼の友人(日本人旅行者)をバス停まで一緒に見送りにいくことになった。教会の前で待っていたA子ちゃんは、周りにいたスペイン人と比べると、まるで子供のように見えた。おそらく155センチぐらい。去年もビルバオに長期で来ていたようで、たくさんとは兄妹のように仲がよかった。
バスの出発時間までバルを梯子することになった。たくさんオススメのタパスが美味しいバルへ入る。A子ちゃんは東京出身で、石垣島の飲食店で働いていたらしい。年齢を尋ねると、なんと彼女も34歳。日本人同い年3人(しかも全員小柄)が、ビルバオのカウンターで並んで酒を飲んでいるなんて!なんとも奇遇な出会いを感じる。
A子ちゃんはこれからパリへ行き、インテリアや小物などを買う予定。「若いときは買えなかったけど、もうそろそろ買ってもいい歳でしょう。後の人生のため、ずっと使えるちゃんとしたものを買いたいの」という。
そう聞いて、「僕ら34歳って、いろいろ考える年頃ですよね?」と僕が投げかける。
結婚、仕事、子供、家族、自分の人生について。20代〜30代前半までの若いときのように試行錯誤している段階でなくて、これからの道筋をきちんと決めないといけない歳だと思う。
たくさんは「これからスタートできる歳だ」と言う。彼は、29歳のときビルバオに来てから苦労が多く、住む家を転々と変えた。シャワーのない家、隣人が狂っている家、騒音が絶えない家。最初は給料の低いサラリーマンをしていたが、2年前に独立した。最近、高台にある素敵な家も見つかった。仕事も軌道に乗り始め、やっとスタート台に立てたと思えるのがこの歳なのだという。
彼はかつて大阪で働いていた。昔を懐かしんで大阪が恋しい時代もあったが、完全に振り切れたのも34歳になってからのようだ。もう日本へ戻って仕事する気など更々ない。今月末にはスペインの永住権が下りるらしい。これからもずっとビルバオで暮らす予定だ。
A子ちゃんは元々東京の浅草生まれなんだけど、石垣島で働いていた。青い海でのんびりというのがとても性に合っているのだという。彼女が詳しく話す前に、たくさんが「彼女は島のビーチに住む子なんや。それがめっちゃ合うとうねん!」と口を挟む。「そうそう」とのんびりした口調でゆっくり相槌を打つ彼女の姿を見ているだけで、それがよく理解できた。
彼らは導かれるように自分の居場所を見つけたようだ。世界にある自分だけの居場所。僕は33歳の終わりから、世界放浪の旅を続けているが、もうすぐ35歳になろうとしている。いつまでもこんな旅を続けてはいられない。そろそろ自分の居場所を決めないといけないのはよくわかっている。僕が安住すべき地は何処なのだろうか・・・。
A子ちゃんと見送った後は、たくさんの知り合いのバルへ行き、欧州チャンピオンズリーグ決勝を観戦することになった。昼飯代を賭け、たくさんはミラン。僕はリバプールを応援する。
いい試合だった。残念ながら僕のリバは負け、ミランが優勝した。この試合で2得点を挙げたベテランのインザーギがマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
実は彼も34歳だった。毎年、引退や移籍が囁かれる中、最後の最後に大仕事をやってのけた。賭けには負けたが、同じ34歳が活躍したと合って気分がいい夜であった。
34歳はまだこれから一花咲かせることができる歳でもあるのだ。僕もまだまだ負けていられない。
そして、自分の居場所は、自分の力で切り開くものである。そう彼ら3人から教えてもらったような気がした一日だった。
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『旅にあるならば、いま浸りこんでいる風景に読む本の質をあえて合わせない』
そう言ったのは、確か辺見庸だと記憶している。
彼のポリシーに合わせたわけではないのだが、僕も訪れている国とそのとき読む本をなるだけ合わせないようにしている。僕は影響を受けやすいタイプだから、著者の行動や考えを丸呑みしてしまい、旅が自分のものではなくなってしまうと思っていたからだ。
だから、今読んでいる本もスペインとはまったく関係のない本だった。妹尾河童の『少年H』(サンパウロの在住日本人用図書館で古本購入したもの)。
小説の舞台は、太平洋戦争真っ只中の神戸。B29の空襲により、町が火で包まれる中、少年Hは母の手を取り、生き延びるため必死で駆け抜けていく。
ビルバオのサーフビーチで寝転がって、一人で読んでいると、いつしか本の世界に没頭してしまっていた。
ふと空を見上げると、頭上をパラグライダーがゆっくり迂回する姿が目に入った。ちょうど焼夷弾が空から降ってくるシーンを読んでいていたので、一瞬ドキッとしてしまう。
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本を閉じ、周りの風景に目をやる。丘の上でビール片手にじゃれ合う若いカップル、犬を連れ添ってゆっくり散歩する老夫婦、サーフィン後で水浴びしている若者たち。本にある戦争の情景と目の前にあるのどかな風景がまったく結びつかない。
当たり前と思っていた平和は、実はとても貴重なものなんだなと思う。
この時代に生まれてきたことに感謝し、こんな平和な場所へ旅できる幸福をかみ締める。やはり、『旅にあるならば、いま浸りこんでいる風景に読む本の質をあえて合わせない』ほうがいい。その方が感じるものがいっぱいあるのだから。
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