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  マラケシュからサハラ砂漠への入り口、ワルザザードという町へやって来た。<br /><br /> 僕はちょっと疲れていた。マラケシュは面白い町なのだけど、連日の休みない喧騒と強引な客引きで、気苦労も多かったからだ。なので、砂漠への中継地点となるこの小さな町でゆっくり体を休めたいと思っていた。<br /><br /> この町には、20年前にベルベル人女性と結婚した日本人建築家の森分さんという方がやっている宿(兼お家)があるという。そういえば素顔のモロッコ人とまだ納得するだけ話をしたことがない。モロッコに住む人たちは、普段どんな暮らしをしているのだろうか。そう思い、日本語が通じる上、リアルなホームステイ体験ができるという、その宿に泊まる事にした。<br /><br /> 残念ながら森分さん自身は出張中で不在だった。奥さんと双子の娘さんと息子さんは日本語、英語はほとんど話せない。そして、僕もフランス語がまったく話せないので、深いコミュニケーションはなかなか難しかった。子供たちの方は、どちらかというと衛星放送が写るテレビのほうに夢中で、日本から訪れるたくさんの観光客のうちの一人としての僕は、さして珍しい存在でもないようだった。<br /><br /> それでも家の居心地はよく、食事も美味しいため、体を休めるには持って来いの環境だった。<br /><br /> お家の周辺を一人で散歩していると、ワルザザードの町でも日本語でよく声を掛けられた。これまでの経験からそのほとんどが客引きなので軽く受け流すことにしていたのだが、日本の友達に手紙を書きたいから手伝ってくれという奴だけは、面白そうなので、つい足を止め、彼の店にうっかり立ち寄ってしまった。<br /><br /> 彼の英語を聞きながら、日本語の文章に落としていく。「今度来たときは、靴をもって来てくれ」、「日本語の勉強素材を送って欲しい」とか、友達に送る手紙にしては強気な内容ばかりで、どうもオカシイ。しかも、書き終わった手紙は、日本に戻ったら僕のお金で投函しておいてくれという。案の定、結局は自分の店の商品紹介と相成った(ミントティーだけご馳走してもらい、何も買わなかった)。<br /><br /> その帰り道、畑の中を歩いていると、若者たちに声を掛けられた。手にはウイスキーとコーラのペットボトルを持っている。土塀に隠れてコークハイを飲んでいるようだった。モスリムたちは、公に酒は飲めないはず。大丈夫なのかと聞くと、「俺たちはモスリム・ライトなのさ。コーラやマルボロにもライトがあるだろう。もちろんモスリム教徒なんだけど、酒も飲むし、タバコも吸うし、人生も大いに楽しむ人間なのさ。」<br /><br /> なるほど。今風のこういう若者たちもいるのだ。もっと話を聞きたいと思ったが、彼らも結局、砂漠ツアーの勧誘をし始めた。僕が断って、別のところへ行く予定だというと、そこの悪口ばかりを言う。聞いてて飽き飽きしてしまったので、適当に切り上げて逃げるように去ってしまった。はぁ〜、とても残念だ。<br /><br /> 家では、森分さんのところへ出入りしているモハメドという男性が待っていた。彼も例外なくガイドのような斡旋業をしていて、僕に会うなり「明日は何処へ行く予定だ?」と聞いてきた。ジャッケットのポケットのなかには過去に会った日本人の写真や手紙がたくさんあり、これで俺を信用しろという。<br /><br /> 彼も悪い人間ではないと思うのだが、何故ここまで仕事について積極的なのか。僕はもっと普通の会話がしたいのだ。目の前にいたモハメドに、ちょっと切れ気味にその憤りをぶつけてみた。彼はたどたどしい英語でゆっくり自分にも言い聞かせるように答えた。<br /><br /> 「モロッコ人は仕事がないんだ。たとえば大学まで行って4年間勉強したとしよう。卒業したその多くは、みな家にいる。何故かというと、まともな職が見つからないからだ。結果、男は結婚したくてもできない。結婚は家族を食べさせたり、育児にと金がかかるからだ。モロッコでは結婚したら、息子は家を新たに建てるのが普通なんだけど、そんな金なんてとてもじゃなけどない。だから、最近では30過ぎで独身なんてザラにいて、40過ぎで独身なんて奴も多いんだ。俺も金がなくて結婚できないという、そのうちの一人さ。<br /><br /> そんななか、ヨーロッパや日本からたくさんの観光客が訪れる。彼らはたくさんのマネーを持っている。君たちを目当てにせざる負えない状況もあるのさ。」<br /><br /> 話ながら次第にモハメドは熱くなっていた。<br /><br /> そうか。だからモロッコ人は外国人を見たら、必死で食い下がる訳か。そして外国人に取り入られるため、みな外国語を勉強する。僕らは現地のモロッコ人と交流したいと思って、観光に来ている。しかし、彼らからしたら数日しか滞在しない外国人と金にならない交流を目的にするよりも先に、外国人から金を得るビジネスチャンスだと考えることは、致し方のない事なのかもしれない。 <br /><br /> そのとき、大人しくうんうんと聞いていた僕のことを、自分たちのことをよく理解してくれた素直な日本人だと、モハメドは勘違いしたのかもしれない。というのも彼は、次の日から僕が外へ出かける度に、頼んでもいないのにずっと一緒にくっ着いて来たのだ。<br /><br /> アイト・ベン・ハッドゥ遺跡という世界遺産の観光地にはガイド役として。近所のハマムには道案内役として。そして、早朝5時のバスターミナル行きタクシーのなかまで同乗して着いて来た。<br /><br /> 僕がバスに乗り込む前に、「俺はオマエのためにたくさんの仕事をした。」と暗にチップを要求するような発言をしてきた。<br /><br /> 普通の日本人であれば情が入って、払ってしまうところだろう。しかし、僕は握手とお礼だけ言い、お金は一銭も渡さなかった。少し迷ったのだが、仕事といえるような大したことはほとんどしてもらっていないと思ったからだ。彼のまっ黒な顔は、あからさまにがっかりとわかる残念な表情でいっぱいだった。<br /><br /> モロッコ人を知れば知るほど、日本との環境の違いを知り、そしてお金に対する貪欲さを知る。しかも、イスラムでは、富める者が貧しい者に分け与えよという教えが昔からあるからなおさらなのだ。<br /><br /> 複雑な心境のまま、僕はさらにサハラ砂漠よりのエルフードという町へ向かうバスに飛び乗った。見送りに立っていたモハメドの黒い顔は、バスの座席のなかからだと辺りの暗さに紛れて、もうわからない。それとも彼は金を払わなかった僕の見送りなどせず、さっさと家へ帰ってしまったのだろうか。<br /><br /> 席に着くなり、奥の方に座っている誰かからすぐに「コンニチワ、トモダチ」と声を掛けられた。溢れんばかりの人を乗せてバスは発車した。時計を見るとまだ定刻5分前だった。

モロッコ人への入り口@ワルザザード

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2007/05/05 - 2007/05/05

252位(同エリア264件中)

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フーテンの若さん

フーテンの若さんさん

マラケシュからサハラ砂漠への入り口、ワルザザードという町へやって来た。

 僕はちょっと疲れていた。マラケシュは面白い町なのだけど、連日の休みない喧騒と強引な客引きで、気苦労も多かったからだ。なので、砂漠への中継地点となるこの小さな町でゆっくり体を休めたいと思っていた。

 この町には、20年前にベルベル人女性と結婚した日本人建築家の森分さんという方がやっている宿(兼お家)があるという。そういえば素顔のモロッコ人とまだ納得するだけ話をしたことがない。モロッコに住む人たちは、普段どんな暮らしをしているのだろうか。そう思い、日本語が通じる上、リアルなホームステイ体験ができるという、その宿に泊まる事にした。

 残念ながら森分さん自身は出張中で不在だった。奥さんと双子の娘さんと息子さんは日本語、英語はほとんど話せない。そして、僕もフランス語がまったく話せないので、深いコミュニケーションはなかなか難しかった。子供たちの方は、どちらかというと衛星放送が写るテレビのほうに夢中で、日本から訪れるたくさんの観光客のうちの一人としての僕は、さして珍しい存在でもないようだった。

 それでも家の居心地はよく、食事も美味しいため、体を休めるには持って来いの環境だった。

 お家の周辺を一人で散歩していると、ワルザザードの町でも日本語でよく声を掛けられた。これまでの経験からそのほとんどが客引きなので軽く受け流すことにしていたのだが、日本の友達に手紙を書きたいから手伝ってくれという奴だけは、面白そうなので、つい足を止め、彼の店にうっかり立ち寄ってしまった。

 彼の英語を聞きながら、日本語の文章に落としていく。「今度来たときは、靴をもって来てくれ」、「日本語の勉強素材を送って欲しい」とか、友達に送る手紙にしては強気な内容ばかりで、どうもオカシイ。しかも、書き終わった手紙は、日本に戻ったら僕のお金で投函しておいてくれという。案の定、結局は自分の店の商品紹介と相成った(ミントティーだけご馳走してもらい、何も買わなかった)。

 その帰り道、畑の中を歩いていると、若者たちに声を掛けられた。手にはウイスキーとコーラのペットボトルを持っている。土塀に隠れてコークハイを飲んでいるようだった。モスリムたちは、公に酒は飲めないはず。大丈夫なのかと聞くと、「俺たちはモスリム・ライトなのさ。コーラやマルボロにもライトがあるだろう。もちろんモスリム教徒なんだけど、酒も飲むし、タバコも吸うし、人生も大いに楽しむ人間なのさ。」

 なるほど。今風のこういう若者たちもいるのだ。もっと話を聞きたいと思ったが、彼らも結局、砂漠ツアーの勧誘をし始めた。僕が断って、別のところへ行く予定だというと、そこの悪口ばかりを言う。聞いてて飽き飽きしてしまったので、適当に切り上げて逃げるように去ってしまった。はぁ〜、とても残念だ。

 家では、森分さんのところへ出入りしているモハメドという男性が待っていた。彼も例外なくガイドのような斡旋業をしていて、僕に会うなり「明日は何処へ行く予定だ?」と聞いてきた。ジャッケットのポケットのなかには過去に会った日本人の写真や手紙がたくさんあり、これで俺を信用しろという。

 彼も悪い人間ではないと思うのだが、何故ここまで仕事について積極的なのか。僕はもっと普通の会話がしたいのだ。目の前にいたモハメドに、ちょっと切れ気味にその憤りをぶつけてみた。彼はたどたどしい英語でゆっくり自分にも言い聞かせるように答えた。

 「モロッコ人は仕事がないんだ。たとえば大学まで行って4年間勉強したとしよう。卒業したその多くは、みな家にいる。何故かというと、まともな職が見つからないからだ。結果、男は結婚したくてもできない。結婚は家族を食べさせたり、育児にと金がかかるからだ。モロッコでは結婚したら、息子は家を新たに建てるのが普通なんだけど、そんな金なんてとてもじゃなけどない。だから、最近では30過ぎで独身なんてザラにいて、40過ぎで独身なんて奴も多いんだ。俺も金がなくて結婚できないという、そのうちの一人さ。

 そんななか、ヨーロッパや日本からたくさんの観光客が訪れる。彼らはたくさんのマネーを持っている。君たちを目当てにせざる負えない状況もあるのさ。」

 話ながら次第にモハメドは熱くなっていた。

 そうか。だからモロッコ人は外国人を見たら、必死で食い下がる訳か。そして外国人に取り入られるため、みな外国語を勉強する。僕らは現地のモロッコ人と交流したいと思って、観光に来ている。しかし、彼らからしたら数日しか滞在しない外国人と金にならない交流を目的にするよりも先に、外国人から金を得るビジネスチャンスだと考えることは、致し方のない事なのかもしれない。 

 そのとき、大人しくうんうんと聞いていた僕のことを、自分たちのことをよく理解してくれた素直な日本人だと、モハメドは勘違いしたのかもしれない。というのも彼は、次の日から僕が外へ出かける度に、頼んでもいないのにずっと一緒にくっ着いて来たのだ。

 アイト・ベン・ハッドゥ遺跡という世界遺産の観光地にはガイド役として。近所のハマムには道案内役として。そして、早朝5時のバスターミナル行きタクシーのなかまで同乗して着いて来た。

 僕がバスに乗り込む前に、「俺はオマエのためにたくさんの仕事をした。」と暗にチップを要求するような発言をしてきた。

 普通の日本人であれば情が入って、払ってしまうところだろう。しかし、僕は握手とお礼だけ言い、お金は一銭も渡さなかった。少し迷ったのだが、仕事といえるような大したことはほとんどしてもらっていないと思ったからだ。彼のまっ黒な顔は、あからさまにがっかりとわかる残念な表情でいっぱいだった。

 モロッコ人を知れば知るほど、日本との環境の違いを知り、そしてお金に対する貪欲さを知る。しかも、イスラムでは、富める者が貧しい者に分け与えよという教えが昔からあるからなおさらなのだ。

 複雑な心境のまま、僕はさらにサハラ砂漠よりのエルフードという町へ向かうバスに飛び乗った。見送りに立っていたモハメドの黒い顔は、バスの座席のなかからだと辺りの暗さに紛れて、もうわからない。それとも彼は金を払わなかった僕の見送りなどせず、さっさと家へ帰ってしまったのだろうか。

 席に着くなり、奥の方に座っている誰かからすぐに「コンニチワ、トモダチ」と声を掛けられた。溢れんばかりの人を乗せてバスは発車した。時計を見るとまだ定刻5分前だった。

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この旅行記へのコメント (2)

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  • YUKI☆さん 2007/05/09 01:23:40
    こんにちわ。
    若さん、お返事ありがとうございます。
    今回のラクダの写真と少しお疲れ気味?な、お話を読んで
    昔(趣味で)で書いた詩を思い出したんでカキコします。

    「オアシス」
            
    オアシスを見つけた時、
    僕のコブに腰掛ける主人が喜ぶ
    僕も喜ぶ
    求めていた情熱がそれではなくても
    ふと安らげる瞬間
    心が穏やかになる瞬間
    主人のゴールは何なのか
    僕のゴールは何なのか
    いったいゴールとは何なのか
    渇いた道の中
    僕の心も渇いていた
    いつしかゴールを目指し
    僕は歩いていた
    歩けない時は尻を叩かれ
    めまいがした時は頭を叩かれた
    情けないと思っても
    僕は僕でいた
    暑さが体にこたえた
    果てしない道のりに主人は疲れていた
    僕も疲れていた


    これを書いた当時は少し心にストレスがありましたな(笑)

    ちなみに私は旅行会社に勤めています。
    今は国内担当ですけど、前に海外旅行の担当もしてました。
    確かに損得を考えるような繋がりは悲しくなりますね。
    でもこれも文化の違い。
    その違いを超えられるような素敵が出会いがあるといいですね。

    応援してます(^-^)


    フーテンの若さん

    フーテンの若さんさん からの返信 2007/05/09 21:28:12
    RE: こんにちわ。
    YUKI☆さん

    素敵なポエムありがとう。ちょうど今日砂漠ツアーから帰ってきたばかりで、すごく内容が伝わりましたぁ!!ラクダってすごく従順でおとなしいんですよね。

    なんだか僕もラクダのように疲れてしまったのかもしれません。

    しかしYUKI☆さん、とてもいいセンスしていますねぇ。ご自分で作成されたのですか。すばらしい、ぜひYUKI☆さん のような人に旅行を手配してもらいですよ!!

    ちなみに僕はだいぶ元気でましたっ。ありがとうございます!!

    ではでは!!

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