2007/04/29 - 2007/04/29
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フーテンの若さんさん
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僕は、2006年5月から放浪の旅に出たのでちょうど丸1年となる(何度か日本に帰国はしているが)。つまり、会社を辞めてから1年経ったということだ。
現在、僕はリオ・デ・ジェネイロから飛行機で西アフリカにあるモロッコの経済の中心地カサブランカにいる。ここに来たのには、実は僕なりの理由があった。かつての会社でお世話になった女性の先輩からモロッコ行きを強く薦められたからだった。
話はちょうど1年前に遡る。
その夜は、六本木の小さな居酒屋で、ごく親しい同僚たちと最後の送別会を開いてもらっていた。女性先輩は直属の上司ではなかったのだけど、いつも何かと気遣って助けてくれる面倒見のいい姐御的存在だった。何でも首を突っ込む性格で、管轄違いの問題もよく相談に乗ってもらっていた。どんなピンチに陥ったときでも、彼女の漫才のようなコテコテの関西弁でアドバイスを聞いていると、まあ何とかなるさと、前向きな気持ちになれてしまう。そして、実際何度かは何とかなったりもした。社内外での幅広い人脈を駆使して、彼女が裏で動いてくれることも多かったからだ。でもそれを表立って自分がやったとは決して言わない、控えめな優しさを持った先輩だった。
件の送別会が程なく終了すると、女性先輩は僕だけバーに誘ってくれた。今思えば、先輩と二人きりで飲むのはそれが初めてのことだった。
「わかぁ、あんた本当にこれからどうすんの?」
いつものゆったりした特徴ある関西弁でズバリ質問される。
「へへ。まぁ、しばらく世界をどーんと見てきますよ。」
かなりへべれけに酔っていたのであまり記憶は定かではないが、僕はそう答えたと思う。
「いや、どーんって・・・?本当に大丈夫なん。その後とか、人生どうすんの?」
「まぁ、大丈夫ひゅよ。人生どんぶり勘定で何とかなりますぅわ。どーんと胸張って生きていきまひゅよ(意味不明)。」
*
ほとんどの友人は、あまりにも将来何も考えていない僕の発言に対して、ほとほと呆れ果てていた。いや、ただ返す言葉がないといった表現の方が適切かもしれない。33歳で自ら無職となり、貯金すら心許ないのに、海外へ独り旅立っていく。
「いったい何を求めているのやら?」そう、みんな思っていたに違いない。
僕は10年間に渡り、営業職をしていた。新卒で入社した会社では関西勤務。東京にやっと出て来れたのが30歳。念願だったIT系ベンチャーに転職し、揉まれながらも3年勤めた。東京の生活にも慣れ始め、役職者に昇進し、数人の部下も付いた。後は結婚して子供を生み、家やマンションを買うなりローンを組んで、30年ばかし勤め上げればよい。
しかし、本当に僕の人生はこれでいいのだろうか?
振り返って考えると、これまで積み上げてきたものは何だったのだろうかと思う。自分なりに仕事だけは一所懸命にやってきたので、それなりの実績は残せたのかもしれない。しかし、それは僕でなくとも他の誰かが代わりに出来たことのような気もする。
ただ一つ言える事は、本当に自分がやりたいと思うことは、何一つやっていないということだ。
頭を下げるのはクライアントのため。機嫌をとるのは上司のため。親睦を深めるのは組織のため。仕事を獲って利益を生むのは会社のため。
当たり前だが給料を貰っている以上、それは仕方のないことだ。だけど、一度でいいから人生で自分がやりたいことだけをやってみたい。子供の頃から夢見ていたことに挑戦してみたい。社会人に成りきれていない学生のような考えであることはよくわかっている。30半ばのオッサンが考えることではない。でも、今のタイミングで逃すと、これからの人生ずっと後悔しそうでならない。
そう思って旅に出ることにした。
子供の頃、わくわくして眺めていた世界の地図。そこにある国は実際どうなっているのだろう。そこに住む人たちをはどんな人たちなのか。長年の願望を、大人になって叶えてみたい。若い時とはまた違った心境で何か新たに感じるものがあるではなかろうか。その旅では何も持たない、誰の指図も受けない、ただ自分の心の声に従ってしたいことだけをする。
こうして僕は、自らゼロになることを望んだのだ。
*
話は六本木のバーでの女性先輩との会話に戻る。
彼女は僕の心中を知ってか知らずか、静かにこう話した。
「世界を見るかぁ。。。あんた、それやったら、モロッコ行きぃ。西アフリカの。」
えっ、モロッコっひゅか。あの砂漠とラクダで有名なところ?
女性先輩はあまり旅が好きそうでもないのに、モロッコという辺鄙な場所が出てきて僕はちょっと驚いた。
「そう、昔行ってんけどな。めっちゃ感動してん。ほんであそこの砂漠。サハラ砂漠をな、じっくり見てきてみぃ。
砂漠って、ほんまに何もないところやねん。人もいない、動物もいない、植物もない。何もない世界。無の境地ってまさにあそこのことやと思う。そこで私が感じたことは、いっぱいあんねんけど。それは自分自身で行って感じてみぃ。あそこに行けば、自然に感じるものがいっぱいあると思うわ。それは、人生観すら変わるような大きな何かやねん。
うん、絶対行っとき。いや、今のあんたは行かなあかんところやわ。」
・・・行かなあかんところですか。
僕はその発言の中身よりも、ここまで親身に思ってくれる先輩に感動していた。誰からも理解されない僕の行動に対して、深く詮索するわけでもなく、行きべき先を教えてくれた。肯定してくれた数少ない理解者だと思えた。
ほな、行きまひゅわ。モロッコ。そしてサハラ砂漠。絶対いきまひゅから任せてくらはい!どーんと、胸張って行ってきましゅね!!行って100倍、何かを感じてきますぅから〜。
「あんた、ほんまに大丈夫かいな。そろそろ帰ろか?」
*
あちこち寄り道ばかりしてここにたどり着くのに1年も掛かってしまったけど、当時の約束を守って僕はモロッコへ来た。思えば、自分の意思以外で訪れた初めての国である。
あちこち寄り道ばかりしてここにたどり着くのに1年も掛かってしまったけど、当時の約束を守って僕はモロッコへ来た。思えば、自分の意思以外で訪れた初めての国である。
何も持たない身分で、何もないという砂漠へと向かう。いま、僕は風のように身軽だ。少なくとも会社勤めしていたとき、こんな高揚感はかつて感じたことはない。果たして僕はこの国の、その砂漠で、何を感じることができるのであろうか。思う存分、感じてやろうではないかと思う。約束の地はどーんと待っててくれていたのだから。
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