1976年3月00日<br /><br />ブレーキが利かない車を運転しながら、命がけで到着した空港ロビーは、この時間帯ひっそりしていた。<br /><br />だがいくら探し回っても、息子の姿は見つからない。<br />この何が起こるかわからないアフリカの地「どこかに誘拐されたのではないだろうか」<br />悪い予感が、先にたつ。<br /><br />「日本人の子供を見かけなかったか」<br />あちこち必死で聞きまわっていると、「ああ彼かもしれない」と教えてくれた人がいた。<br /><br />部屋の目立たない片隅のベンチに、息子は静かに座っていた。<br />「そのうち迎えに来てくれるだろうと安心していたのさ」<br /><br />もう4〜5時間も待っていたのに、息子は思いのほか平然としている。<br />私の慌てぶりが、彼には理解されていない。<br /><br />早速してくれたのは、税関でマタビシをしつこく要求されながら、ついに一円も払わずにパスした手柄話だった。<br />何年かぶりに使うフランス語が通用するので、愉快でたまらないらしい。<br /><br />それにしても、途中ブラッセルで乗り換えながら、遠い道のりをよくも独りで来れたものだ。<br /><br />彼にとっては、生まれて始めての南半球、アフリカである。<br />見るもの、聞くこと、すべてが珍しく、面白いに相違ない。<br /><br />親父の日常生活、ここに働く日本人の暮らしやものの見方なども、彼の好奇心の対象だった。<br /><br />とくに、外交官や商社マンと出会うことで、自らの将来の参考にしたいと思っているようだ。<br />

片瀬貴文のキンシャサ日記【465】息子のあっけなさに間が合わない

0いいね！

1976/03 - 1976/03

37位(同エリア82件中)

#カルチャー体験

ソフィさん

1976年3月00日

ブレーキが利かない車を運転しながら、命がけで到着した空港ロビーは、この時間帯ひっそりしていた。

だがいくら探し回っても、息子の姿は見つからない。
この何が起こるかわからないアフリカの地「どこかに誘拐されたのではないだろうか」
悪い予感が、先にたつ。

「日本人の子供を見かけなかったか」
あちこち必死で聞きまわっていると、「ああ彼かもしれない」と教えてくれた人がいた。

部屋の目立たない片隅のベンチに、息子は静かに座っていた。
「そのうち迎えに来てくれるだろうと安心していたのさ」

もう4〜5時間も待っていたのに、息子は思いのほか平然としている。
私の慌てぶりが、彼には理解されていない。

早速してくれたのは、税関でマタビシをしつこく要求されながら、ついに一円も払わずにパスした手柄話だった。
何年かぶりに使うフランス語が通用するので、愉快でたまらないらしい。

それにしても、途中ブラッセルで乗り換えながら、遠い道のりをよくも独りで来れたものだ。

彼にとっては、生まれて始めての南半球、アフリカである。
見るもの、聞くこと、すべてが珍しく、面白いに相違ない。

親父の日常生活、ここに働く日本人の暮らしやものの見方なども、彼の好奇心の対象だった。

とくに、外交官や商社マンと出会うことで、自らの将来の参考にしたいと思っているようだ。