胃カメラでのぞく旅＠名古屋

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　生まれて始めて胃カメラを飲んだ。いや飲まされた。


　事前にネットで調べると「今の技術は進歩していてぜんぜん楽勝」なんて書いてあったけど、とんでもない。カメラは予想以上に大きく、リアルだった。テレビによく出てくるＣＣＤカメラそのまま。おえっ。とてもじゃないけどこんなもの飲み込めない。しかも、どうしても意識してしまう。マトリックスの主人公ネオの口のなかに虫が入り込む、映画のシーンを。結局飲めず３度も吐き出した。「先生、また今度にしましょう」と言いたくても、マウスピースが邪魔で話せない。４度目は強引に押し込まれた。激痛と気持ち悪さで年甲斐もなく大泣きしてしまった。



　帰国してからの僕は体調不良が続いていた。お腹がずっと張る状態。いわゆる「膨満感」。長期にこの症状が続くと何らかの病気が隠れている可能性が高いらしい。町医者に薦められるまま、胃カメラの検査に至ったというわけだ。

　検査の結果、幸いにも癌や潰瘍は発見されなかった。では原因は何だったのだろう。考えられる理由はひとつ。ストレスだ。

「働きたい。社会に貢献したい。普通の家庭を築きたい。」

　社会において大人がすべき当たり前のことを僕は渇望するようになった。東京で働いていたときは

「働きたくねぇー。社会？どうでもいいやん。結婚なんて面倒くせー。」

という全く逆の考えで反社会的だった。

　そして会社を辞め、旅に出た。何か違うものを求めて。しかし帰国後は、嫌っていた当たり前の生活をなにより望むようになった。７ヶ月に渡る放浪を経て僕は変わったのだ。

　異国の地に触れ、異国の言葉で外国人と話し新しい経験をする。毎日は驚きの連続。でも何処まで行っても僕は旅行者であった。非日常を感じるからこそ、海外旅行は楽しいのだ。生活をする。家庭をつくる。仕事をする。子孫を残す。社会と触れ合う。そういった地に足をつけ根付いた日常生活を行うのは、やはり日本。どんなところへ旅しているときも僕の心は日本にあった。日本というベースがあるから旅できているのであって、海外はその代わりにはならなかった。

　わかったこと。今いるここではない別の場所に移動することだけが旅ではない。日々の生活だって、今日から明日という未来へ向かう旅なのだ。実は日常のなかにも旅は潜んでいる。それは各人の考え方次第。そういう意味では誰もが未来へ向かう旅人に違いないのだ。僕は前を向いて未来に向かう旅をそろそろしたくなった。


　放浪の結果、自身の内面がさらけ出され、新たな自分を発見した。僕は普通に戻りたい。日常にかえりたい。当たり前になりたい。


　だけどデキナイ。ナ・ゼ・カ？


　僕がメキシコから帰国したチケットはマイレージ。往復チケットなので日本⇒メキシコの片道が残っている。さらに周遊チケットを買ってしまっていた。メキシコ⇒南米⇒ヨーロッパのチケットを。こちらはまだ未使用。

　つまり日本にいたいのに、また旅に出なくてはならない。このジレンマがストレスに変わり、胃を刺激し「膨満感」の原因になっていた。あぁ、なんて無計画。身から出たサビ。ばかばか僕のバカ。この暴慢カン野郎（意味不明）。


　「旅したくねぇー。海外？どうでもいいやん。外国語なんて面倒くせー。」

　こんなテンションで旅行、大丈夫かしらん。次の放浪では何が発見できるのか？無理に探さなくても答えは既にでているような気がするが。


　ということで今度は早めに戻ってきます。いや戻りたいです。また非日常の旅へ。