1970/04/17 - 1970/04/18
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貧乏客船の35日(3)
4月17日の午後、船は香港を離れた。
このあとサイゴン(ホーチミン)、シンガポール、コロンボ、ボンベイ(ムンバイ)と、東南アジアの海を進む。
ぼくたちの船室には、香港から三人乗ってきた。
一人は香港人のおとなしそうなオッサンと、あと二人はパキスタン人の若い兄弟。
これで満室になった。
香港とは筆談で何とか話は通じるし、パキスタンは英語を話した。
パキスタンの兄のほうは議論好きで、その上めちゃめちゃド真面目で、政治、教育、宗教などというぼくたちの英語力ではとても手におえないようなテーマが好きらしく、ヒマにまかせて毎日議論を繰り返す。
ぼくは英語力のこともあり、少し面倒になって二日目にはもうこの国際会議から降りてしまったが、ぼくより少し英語力のある曽我部と、英語力などにはお構いなく押しまくる北川は、結構ムキになってやり合っていた。
北川などはあまりのド真面目さにときどき下手なギャグなんかまじえてからかうのだが、テキはあくまで真面目で、そんな北川にムッとした表情さえ見せる。
ぼくはどうやら同じ思いらしいパキスタンの弟のほうと、ニヤニヤしながらそんな議論を眺めていた。
三日目、議論は宗教の話になり、イスラムの信仰についてパキスタンの熱心な「解説」が始まった。
そして仏教の場合はどうなんだ、などと迫る。
そしてそれをまた北川がからかう。
「豚肉は食べないんだな。じゃソーセージはどうなる?」
「豚肉が入ってなければ食べる」
「そんなことどうやって確認するんだ。豚肉は入ってない、と言えばそれを信用するのか」
「……」
「豚の骨で出しを採ったスープはどうなんだ?」
そんなふうにやり込めて北川は楽しんでいる。
そして北川はついに究極のいたずらを思いついた。
兄弟のイスラム信仰は、やっぱり兄のほうが熱心で、1日に何回かメッカのほうを向いて祈る。
ところが周囲が海ばかりではそのメッカの方向がわからないので、北川がたまたま持っていた方位磁石に頼るのである。
それも自分では使えないらしく、時間が来ると北川に聞く。
「メッカはどっちだ?」
で、北川はおもむろに磁石を取り出して、逆の方向を教えたのである。
パキスタンは部屋の狭い床に這いつくばり、いつものように大仰に両手を振りかざして、メッカに尻を向けて祈った。
ぼくたちはそれを見て廊下に飛び出し、笑い転げた。
「でもあれはちょっと悪いよ」
「そうやな、ちょっとタチ悪いな」
「アラーの神のバチが当るでぇ」
他人の信仰をそんなふうに茶化していいのかということも考えないわけではないが、それにしても彼には何かからかいたくなるようなゆとりのなさがあるのも事実だった。
そして弟のほうは、ぼくたちのようすを見て事情を理解したようで、いっしょになってニヤニヤしていた。
船は島影の多い多島海といわれる海域に入っていた。明日の朝はサイゴンに着く。
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