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国道2号線に通じる54号線沿いを、路面電車が走る。午前1時過ぎ、広島市。コンビニに行った帰り、歩道の柵に腰掛けた女がいる。タバコを吸い、どうやら人待ちでもなさそうで、目の前にあわよくば拾おうとするタクシーが一台、信号は青。僕は水色。<br /><br />「何してるんですか」<br /><br />僕はまったくの純粋な気持ちから、こんな夜中にただ座っているこのおそらく20代前半の女が何をしているのか聞きたかった。女は僕に目をやって、そのまま無言で視線を遊ばせた。<br /><br />「コーヒーでもどうぞ」<br /><br />僕はコンビニで買ったジョージアを一本、女にあげた。<br /><br />「どうも」<br /><br />女は遠慮なく(本当に遠慮の「え」の字もなかった)、コーヒーをひとくち飲み、タバコを2本吸って、それから気だるそうに口を開いた。<br /><br />「別に何もしてないよ。強いて言えば、何もしないことをしているの」<br /><br />彼女は静かに笑った。夜が少しだけ明るくなったような笑顔だった。<br /><br />「ここの人じゃないでしょ?」<br /><br />「東京から来た。仕事でね。君は?」<br /><br />彼女ははにかんで、煙を吐いた。救急車が一台目の前を通り過ぎ、そのあとまた静寂が訪れた。彼女の足元にタバコの吸い殻が5本散らばって、僕はミンティアを17粒食べた。その間に、いくつかの退屈な会話を交わした。退屈だけどそれは時間が経つのを忘れさせる退屈さだった。世の中にはそういう種類の退屈な会話がしばしば発生する。<br /><br />それから僕はホテルに戻り、ビールを飲んだ。たいてい一人で飲むときは、500mlを一缶飲み切ることができない。<br /><br />★――★――★<br /><br />国道2号線。<br /><br />大学生の頃、友人O氏と大阪から広島県福山市の友人Y氏の家まで自転車で行ったときに、僕らにとってのシルクロードだった。晩夏に38時間かけて、大阪〜兵庫〜岡山〜広島のルートを辿ったのだ。補給した水分はすべて汗になり、小便すら出ない。尻は異様に痛く、足は自分のものではないロボットのようにペダルを踏み続けた。<br /><br />「トイレとは、思考(シッコ)と空想(クソ)をするところだ」<br /><br />モザイク広場に書きなぐった学生時代のスピリットは、まだそこで日の光を浴びているのだろうか。<br /><br />広島入りした次の日、仕事を終えると帰りの飛行機に飛び乗り、東京へ向かった。同期のみんなと飲むためだ。聞けば新橋に集合しているらしい。広島での滞在は、いつも短い。きっと誰かが、そう仕向けているのだろう。<br /><br />2号線沿いに、身を走らせる日を、また待つことにする。

★広島の夜★

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2004/05/29 - 2004/05/31

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kazuma

kazumaさん

国道2号線に通じる54号線沿いを、路面電車が走る。午前1時過ぎ、広島市。コンビニに行った帰り、歩道の柵に腰掛けた女がいる。タバコを吸い、どうやら人待ちでもなさそうで、目の前にあわよくば拾おうとするタクシーが一台、信号は青。僕は水色。

「何してるんですか」

僕はまったくの純粋な気持ちから、こんな夜中にただ座っているこのおそらく20代前半の女が何をしているのか聞きたかった。女は僕に目をやって、そのまま無言で視線を遊ばせた。

「コーヒーでもどうぞ」

僕はコンビニで買ったジョージアを一本、女にあげた。

「どうも」

女は遠慮なく(本当に遠慮の「え」の字もなかった)、コーヒーをひとくち飲み、タバコを2本吸って、それから気だるそうに口を開いた。

「別に何もしてないよ。強いて言えば、何もしないことをしているの」

彼女は静かに笑った。夜が少しだけ明るくなったような笑顔だった。

「ここの人じゃないでしょ?」

「東京から来た。仕事でね。君は?」

彼女ははにかんで、煙を吐いた。救急車が一台目の前を通り過ぎ、そのあとまた静寂が訪れた。彼女の足元にタバコの吸い殻が5本散らばって、僕はミンティアを17粒食べた。その間に、いくつかの退屈な会話を交わした。退屈だけどそれは時間が経つのを忘れさせる退屈さだった。世の中にはそういう種類の退屈な会話がしばしば発生する。

それから僕はホテルに戻り、ビールを飲んだ。たいてい一人で飲むときは、500mlを一缶飲み切ることができない。

★――★――★

国道2号線。

大学生の頃、友人O氏と大阪から広島県福山市の友人Y氏の家まで自転車で行ったときに、僕らにとってのシルクロードだった。晩夏に38時間かけて、大阪〜兵庫〜岡山〜広島のルートを辿ったのだ。補給した水分はすべて汗になり、小便すら出ない。尻は異様に痛く、足は自分のものではないロボットのようにペダルを踏み続けた。

「トイレとは、思考(シッコ)と空想(クソ)をするところだ」

モザイク広場に書きなぐった学生時代のスピリットは、まだそこで日の光を浴びているのだろうか。

広島入りした次の日、仕事を終えると帰りの飛行機に飛び乗り、東京へ向かった。同期のみんなと飲むためだ。聞けば新橋に集合しているらしい。広島での滞在は、いつも短い。きっと誰かが、そう仕向けているのだろう。

2号線沿いに、身を走らせる日を、また待つことにする。

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