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  翌朝8時半にリガのホテルを後にしてリトアニアの首都ビリニュスへ向けて出発した。 国境の街シャリアイの検問所でパスポートのチェックを受けリトアニア領内へ入った。国境を越えて暫く単調なドライブが続き十字架の丘へ到着した。<br /><br /> ここは小高い丘の上に大小様々な十字架が夥しい数量建てられている。丘だけでは足りなくなって丘の両翼に十字架の群れは増え続けている。その起源は1831年に帝政ロシアの圧政に抗して反乱が起きたとき、ニコライ一世によって弾圧された犠牲者を悼んでこの地に十字架がたてられたのが最初であると云われている。その後ロシア革命政府により1920年にリトアニアは独立を承認されたが、1939年8月に締結された独ソ不可侵条約の秘密議定書によって他のバルト諸国とともに再びソ連に併合されてしまった。これを不当だとしてリトアニアではソ連からの独立運動が広く展開されるようになった。運動の過程で弾圧され犠牲となったリトアニア人の霊を慰めるため再び秘かにこの地に十字架が建てられるようになり、次々と十字架が増えていった。ソ連当局は建てられる十字架を取り払い続けたが後を絶たなかった。独立の機が熟したと見て、90年三月にリトアニア議会は独立宣言を採択したがモスコーはこれを認めなかった。91年1月13日には独立運動にソ連軍が介入し血の日曜事件が発生した。この事件の後、十字架はますます増えていった。93年8月にロシア軍が撤退したあともこの地はリストニア独立運動の聖地として十字架は増え続けているのである。<br /><br /> そして今では近隣の若い男女が結婚した時には式が終わるとこの地を訪れ十字架を備えて前途の多幸を祈る習慣が定着したのである。我々が訪れた日は結婚式の多い土曜日であったせいか、何組もの新婚カップルが礼装で十字架を供え十字を切っている姿を目撃した。リトアニア人の独立を達成し維持するための執念のようなものを感じ身の引き締まる思いであった。        <br /><br />  朝ビリニュス市内の観光に出掛け、杉原通り、月の光記念碑、聖ペテロ・パウロ教会、ゲディミノ城、聖アンナ教会、KGB博物館、トラカイ城を見学した。<br /><br />  杉原通りというのはビリニュスの中心街から西北の住宅街にある通りで、杉原千畝氏の名前を刻んだ小さな記念碑が建っているだけの何の変哲もない通りである。地名の源である杉原千畝氏は、第二次世界大戦のときリトアニアのカウナスの日本領事館で副領事をしていた外交官である。ナチスの迫害を受けてポーランドからリトアニアに逃げ込み、ここから更に米国その他の外国へ逃げようとしたユダヤ人3000人に一週間不眠不休でビザを手書きして発給し、6000人のユダヤ人の命を救った人物としてその秘話が紹介されるに及んで日本でも一躍その名が知られるようになつた人物である。 <br /><br />  月の光記念碑は杉原千畝氏が住んでいたという木造の民家の下の広場に氏の功績を讃えて建てられた石碑である。月の形をした石塊を両手で支えている人間の形をした石像が設置されている。日独伊三国防共協定を締結していた当時の出先機関の日本人外交官としては命を賭ける決意でこの仕事に従事したのであろうと思うと人間を愛する氏のヒューマニティーと勇気に深甚の敬意を表したいものと厳粛な気持ちで記念碑に手を合わせた。氏が住んでいたという民家には今は氏と全然無関係の外国人が住んでいるという。<br /><br />  KGB博物館は旧KGB本部が引き払った後の地下収容所を手は加えずそのまま公開しており、監獄や拷問場に残された備品や壁や床に付着した血痕が生々しく、見ていると重苦しい気持ちにさせられる。バルト三国の人達がロシアの国を毛嫌いしている気持ちがよく理解できるような気がした。<br /><br />  バルト三国の国々は何れもその地理的な条件からデンマーク、スウェ−デン、ロシア、ドイツ、ソ連等の欧州列強の好餌として狙われ、常にこれら強国の支配下に置かれて屈辱と忍従に耐えてきた歴史を持つ国々であり、特にソ連にはシベリアへ強制移住させられる等、近年ひどく痛めつけられた苦い経験を持つ国ばかりである。<br /><br />  そうした国々の現状を今回瞥見した限りでは、民衆は自由を謳歌し、経済状態もロシアよりは余程改善されており、新生の意気に燃えて新しい国作りに励んでいる活気のようなものが社会全体に漲っているのを感得できた。そして、国家の独立を素直に喜んでいる空気が感じられ共感することが多かった。<br /><br />

十字架の丘に集う新婚カップル達

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2000/10/21 - 2000/10/21

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早島 潮

早島 潮さん

翌朝8時半にリガのホテルを後にしてリトアニアの首都ビリニュスへ向けて出発した。 国境の街シャリアイの検問所でパスポートのチェックを受けリトアニア領内へ入った。国境を越えて暫く単調なドライブが続き十字架の丘へ到着した。

 ここは小高い丘の上に大小様々な十字架が夥しい数量建てられている。丘だけでは足りなくなって丘の両翼に十字架の群れは増え続けている。その起源は1831年に帝政ロシアの圧政に抗して反乱が起きたとき、ニコライ一世によって弾圧された犠牲者を悼んでこの地に十字架がたてられたのが最初であると云われている。その後ロシア革命政府により1920年にリトアニアは独立を承認されたが、1939年8月に締結された独ソ不可侵条約の秘密議定書によって他のバルト諸国とともに再びソ連に併合されてしまった。これを不当だとしてリトアニアではソ連からの独立運動が広く展開されるようになった。運動の過程で弾圧され犠牲となったリトアニア人の霊を慰めるため再び秘かにこの地に十字架が建てられるようになり、次々と十字架が増えていった。ソ連当局は建てられる十字架を取り払い続けたが後を絶たなかった。独立の機が熟したと見て、90年三月にリトアニア議会は独立宣言を採択したがモスコーはこれを認めなかった。91年1月13日には独立運動にソ連軍が介入し血の日曜事件が発生した。この事件の後、十字架はますます増えていった。93年8月にロシア軍が撤退したあともこの地はリストニア独立運動の聖地として十字架は増え続けているのである。

 そして今では近隣の若い男女が結婚した時には式が終わるとこの地を訪れ十字架を備えて前途の多幸を祈る習慣が定着したのである。我々が訪れた日は結婚式の多い土曜日であったせいか、何組もの新婚カップルが礼装で十字架を供え十字を切っている姿を目撃した。リトアニア人の独立を達成し維持するための執念のようなものを感じ身の引き締まる思いであった。        

朝ビリニュス市内の観光に出掛け、杉原通り、月の光記念碑、聖ペテロ・パウロ教会、ゲディミノ城、聖アンナ教会、KGB博物館、トラカイ城を見学した。

杉原通りというのはビリニュスの中心街から西北の住宅街にある通りで、杉原千畝氏の名前を刻んだ小さな記念碑が建っているだけの何の変哲もない通りである。地名の源である杉原千畝氏は、第二次世界大戦のときリトアニアのカウナスの日本領事館で副領事をしていた外交官である。ナチスの迫害を受けてポーランドからリトアニアに逃げ込み、ここから更に米国その他の外国へ逃げようとしたユダヤ人3000人に一週間不眠不休でビザを手書きして発給し、6000人のユダヤ人の命を救った人物としてその秘話が紹介されるに及んで日本でも一躍その名が知られるようになつた人物である。 

月の光記念碑は杉原千畝氏が住んでいたという木造の民家の下の広場に氏の功績を讃えて建てられた石碑である。月の形をした石塊を両手で支えている人間の形をした石像が設置されている。日独伊三国防共協定を締結していた当時の出先機関の日本人外交官としては命を賭ける決意でこの仕事に従事したのであろうと思うと人間を愛する氏のヒューマニティーと勇気に深甚の敬意を表したいものと厳粛な気持ちで記念碑に手を合わせた。氏が住んでいたという民家には今は氏と全然無関係の外国人が住んでいるという。

KGB博物館は旧KGB本部が引き払った後の地下収容所を手は加えずそのまま公開しており、監獄や拷問場に残された備品や壁や床に付着した血痕が生々しく、見ていると重苦しい気持ちにさせられる。バルト三国の人達がロシアの国を毛嫌いしている気持ちがよく理解できるような気がした。

バルト三国の国々は何れもその地理的な条件からデンマーク、スウェ−デン、ロシア、ドイツ、ソ連等の欧州列強の好餌として狙われ、常にこれら強国の支配下に置かれて屈辱と忍従に耐えてきた歴史を持つ国々であり、特にソ連にはシベリアへ強制移住させられる等、近年ひどく痛めつけられた苦い経験を持つ国ばかりである。

そうした国々の現状を今回瞥見した限りでは、民衆は自由を謳歌し、経済状態もロシアよりは余程改善されており、新生の意気に燃えて新しい国作りに励んでいる活気のようなものが社会全体に漲っているのを感得できた。そして、国家の独立を素直に喜んでいる空気が感じられ共感することが多かった。

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  • ビリニュス。聖アンナ教会

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  • 十字架の丘の新婚さん

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