グランカナリアの歴史を留める名建築、さらに島でも最も格の高いホテルなので泊まって損はありません。ただ問題は、何かが、ないのです、ここには。
例えばロビー入り口で目を光らせているドアマン(の服を着た男)。
さながらギャングのような形相で、宿泊客以外の人(たとえばこの島の人々)を排除するためだけに目を光らせている様子です。
フロントは「慇懃無礼」を絵に描いた、馬鹿丁寧な物言いとエレガントな身のこなしで、どこか言葉が私たちの心に響きません。応対が定型的で空虚で、どこか古い映画のなかのホテルシーンに迷い込んだようです。
すべては表層的なサービスをただ型式通りになぞっているだけなので、たぶんこの島のエリート層なのでしょう、レセプショニストたちは。
もっと広く海外の一流ホテルを体験してほしいです、このホテルのフロントの人々には。
それに比べて実際に客室に出入りするボーイさん、ポーター、お掃除の女性たちは実に人間的で素敵な面々。気取りがなく本心からの誠意が、このホテルでは宝石のように輝いて感じられます。
豪華なホテル施設は「旅の舞台背景」程度として活用するのをお薦めします。
朝食ブッフェには朝からシャンパンの並ぶ華麗さながら、ウェイターたちはコーヒー一杯すら注いではくれません。完全なセルフ。世界一豪華な「社食」と思った方が諦めがつきます。宿泊客たちはめいめい、コーヒーを注ぐマシーンの前に配給を待つ貧民のようにおとなしく並んでいますので、あるいはスィートでルームサービス朝食を頼む客層だけを「客」と判断しているのかもしれません。
世にも珍しい華麗なホテルは、どこかソ連時代の高級ホテルを彷彿させます。
いったい何がどうなったらこうした砦ができあがってしまったのでしょう。
人間的で優しい気風のカナリア諸島の人々の中で、このホテルは「上から目線」で異彩を放っていました。