1995/04/14 - 1995/04/30
18位(同エリア28件中)
みどくつさん
バルバドス。
夜明けとともに目が覚めて、ホテルの前の道路を越えてビーチへと歩く。
近くの高級ホテルに泊まっているらしい老夫婦がゆっくりと波打ち際を散歩しているほかは、人の姿が見えない。
午前6時半。
このビーチは入り江になっていて、少し沖に出た岩場の上に小さな航路標識がある。
その岩場へむかって、ゆっくりとクロールで泳ぐ。
途中で浮き身をして身体をゆったりと伸ばす。
今日もバルバドスには、どこまでも真っ青な空が広がっている。
陸の方を見ると白い砂浜の向こうに木々の緑とその間にホテルや長期滞在のアパートが見える。
それを眺めながらゆっくりと平泳ぎでビーチへ戻る。
バルバドスは確かにきれいなところだ。
しかし、一人で一日のんびり過ごすには退屈かもしれない。
カップルでやって来て、朝ひと泳ぎして、昼下がりにのんびりして、昼寝して、夕方に泳いで、夜レストランで食事するという一日を基本にして、レンタカーを借りて島を探険して歩くというのなら、1週間は気持ちよく過ごせる。
でも、それならアジアのリゾート地の方が物価も安いし日本からも近い。
日本からわざわざ来る意味はないかもしれない。
考えられる利点としては、日本人が少ないので日本人のカップル同士が出会う確率が低く、カップル間の見栄の張り合い(日本人カップルの多いツアーは人間関係が大変なのだ)もないので、他人を気にせず、思い切り、一日中SEX出来ることだろうか。
一般的には中年男性一人で来るところではないかもしれない。
もちろん、『世界旅行者』はどこに行ってもその風景の中に溶け込むものなのだが。
1時間ほど軽く泳いで心地よい疲れを残して、部屋へ戻り、シャワーを浴びた。
それから、ホテルの横にあるミニマートへ行った。
昨夜、このミニマートで地元のビールBANKS(B$1.60) を4本買った時に栓抜きを借りていたので返しに行ったのだ。
海外旅行に必要なものは、ビールのための栓抜き、ワインのためのコルクぬき、オレンジの皮むきのためのナイフ、缶詰を開
ける缶切り、鼻毛を切るための小さなハサミ、と相場が決まっているのだが、これはもちろん全部スイスアーミーナイフ1本で間に合う。
ところが日本の成田空港では、機内持ち込みのバッグの中のアーミーナイフの定番チャンピオンが発見されて機長預かりになってしまう(僕はフィジーへ行く時とLAへ行く時、2回経験がある)。
荷物を預ける場合はその中に入れればいいのだが、身軽に旅行する時は手荷物に入れることになり、身軽に旅行するのは到着した空港でとっとと行動出来るのが理由なのだから、わざわざアーミーナイフを手渡されるのを待ち続けるのは意味がない。
アーミーナイフの果物ナイフでハイジャック出来ると考える方がおかしいが、これは現代日本にはびこる杓子定規な官僚主義の行き着くところなのだ。
世界一周中は常にデイバッグの中にナイフを入れていたが、海外では一度も文句を言われたことはなかったのだから。
空港のセキュリティがナイフの制限をはっきり発表するか、それとも『日本仕様』として特にナイフの小さいアーミーナイフを開発してもらわないと、これは旅行者に取っては問題だ。
そこで空港の待合室のお土産屋でバルバドスの名前の入った栓抜きを買った。
絵ハガキと切手もこの機会に入手しておいた。
というのはアメリカへ戻る明後日のフライトが午前8時25分なので、その時間に店が開いているかどうかわからないからだ。
カリブエキスプレスは出発がすこし遅れた。
セントルシアはセントビンセントの北にある島で、バルバドスからの距離ではセントビンセントよりは遠い。
飛行時間が約40分、到着は予定より30分遅い午前11時半になった。
飛行機は続いてフランスの海外県マルチニックへ向かうのだが、ほとんどの乗客はセントルシアで降りるようだ。
セントルシアの空港滑走路は海岸と平行に走っていて、ターミナルビルも海岸線に平行に細長い白い平家の建物だ。
今までは一応宿泊するホテルの名前を入国カードに書いていたが、今度は完全に知識がないので、空白にした。
入国管理官は「外の観光案内所でホテルを決めろ」と無愛想に言って、入国許可をくれた。
ドアを開けるとそこには観光案内所のカウンターがある。
中年の白人のおばさんに「町とビーチに近くて安いところ」と言うと"SUNDALE GUESTHOUSE" を勧めてくれた。
両替のための銀行の場所を聞くと「ゲストハウスに行けばなんでもある」とのつっけんどんな返事だ。
今度の旅行では一番愛想が悪い国だ。
タクシーはU$5でほんの数分走り、ゲストハウスの玄関に着けた。
ベランダがまわりを取り巻く、ゲストハウスの2階へと階段を上って声をかけると、でっぷり太った白人男性が汗をかきながら出てきた。
彼がこの民宿の主人だった。
このゲストハウスはツィンの部屋で1泊U$25。
T/Cで払おうとしたが、受けつけず、ドルキャッシュでなければいやだと言う。
セントビンセントの黒人オーナーでもT/Cを受け取ってお釣りをECでくれたのに、融通のきかないおっさんだ。
銀行の場所を聞くと「ショッピングモールへ行けばなんでもある」との返事。
そのショッピングモールはどこなのか聞くと「すぐそこ」なのだそうだ。
確かに2階のベランダに出ると、アメリカ風のショッピングモールが大きな駐車場と一緒に目に入ってきた。
ショッピングモールの中の銀行で50ドルのT/Cを2枚、ドルキャッシュにした。
今までもバルバドスでもセントビンセントでもドルキャッシュは現地通貨と同じように使えたし、この島にはたった1日しかいないので、ホテル代を除いては使うところがなく、50ドルをECに替えても使い切れないと考えたからだ。
このモールはまさしくアメリカそのもので、スーパーマーケットも電気屋も本屋も郵便局もあり、中庭を取り囲むように小さなファーストフードの店も4つほどある。
中華料理の店で、べたべたしたヌードルにべたべたしたチキン乗せてもらい、これに現地のビール"PITON" を3本飲んだ。
もちろん中華料理とはいっても中華の味はしない。
どうもこの西印度諸島では中華料理のレベルはかなり低いようだね。
このショッピングモールの前には屋根付きのバス停がある。
そこからミニバスでセントルシアの首都、CASTRIESへ向かう。
空港を通り過ぎてすぐにミニバスが通りにごちゃごちゃ止まっているところに着いた。
そこから人通りの多そうな方へ道を尋ねながら歩くと、小さな商店が道の両側にたくさん集まっている通りへ出る。
なんとなく雰囲気的に、インドのベナレスを思い出すが、ここの商人は僕が見るかぎりでは全部黒人だ。
町の中心部は碁盤の目状に区切られているので非常に歩きやすい。
この町は中心に公園があり、昔風のシティホールも裁判所もカトリック教会もある。
カトリック教会があるということはもともとイギリス領ではなかったということだよ。
町の名前もバルバドスのブリッジタウン、セントビンセントのキングスタウン、に比べると変だ。
空港の観光案内所でもらった島の地図を見ると南の方にVIEUX FORT(フランス語で「古い要塞」)という町があり、ほかの地名にもフランス語起源のものが多い。
単純に考えるとこの島は以前はフランス領で、それをイギリスが奪ったのだろう。
セントルシアの北のマルティニックはフランスの海外県だし、バルバドスももともとはスペイン人が名付けたものだ。
コロンビアのカリブ海沿岸の城塞都市カルタヘナを訪れた時、カリブ海を荒らしまわったイギリス海賊の活躍の激しさを知ったが、そのようにしてイギリス人がこの西インド諸島の島々を奪い取っていったのだと考える。
イギリス、フランス、スペインと各国の旧植民地を旅行しての僕の感想としては、フランスやスペインのようなラテン系民族の旧支配地域の方がおもしろい。
つまり、大聖堂や教会など、旅行者にとって見るものが多いのだ。
ここのカトリック教会もなかなか興味深く、いつものようにひざまずいて神に祈った。
町のお土産屋を数軒冷やかした後、ミニバスを降りたところへ戻った。
いかにもイギリス植民地風の制服を着たおまわりさんにショッピングモール行きのミニバスを教えてもらい、無事にモールへ帰った。
モールから道路を渡った海岸沿いはリゾートホテルで、しばらく道沿いに歩いてホテルの敷地からはずれたビーチへ行ってみた。
砂の色は黒みがかっているが、椰子の林の並ぶ海岸線は人もいず、なかなかいい景色だ。
新しい島に来たら一応は泳ぐのが主義だが、それは明日にしてゲストハウスへ戻った。
ゲストハウスにはドイツ人らしい若者が2人いたが、タイプが違うのをすぐに認識したので、軽く挨拶をしただけで互いに無視した。
旅先で出会うドイツ人はなかなか話が合うものだが、ここに泊まっているドイツ人は旅行者ではなくて、まるきり観光客の雰囲気なのだ。
部屋でこの旅行記の元になっている詳細なメモを書いた。
たいしたことのない一日だったが、まあ新しい国を訪れた。
バルバドスでぼけっとしてなにもしないよりはましだろう。
これで旅行した国の数を91に増やしたのだから。
たいした国ではなくても、数を増やしていけばそれは意味のある質に転化する。
もちろん数を増やしながら、そこで考えるべきことを考えたらの話だが。
スーパーマーケットで買った、セントルシアでライセンス生産をしているというハイネケン(2.29EC)とギネス(2.89EC)を飲んだ。
明日はバルバドスの『バンクス』を飲める。
旅を続けて世界各地でいろんなビールを飲んだあとで、最近になって日本のビールが大好きになった。
おいしくないビールを飲むから日本のビールのうまさがわかる。
面白くない国を旅するから、面白い国の良さがわかる。
さて、明後日にはLAで『一番絞り』を飲めるだろう。
- 旅行の満足度
- 2.5
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