2015/10/30 - 2015/10/30
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アムールヤマネコさん
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神道集(しんとうしゅう)という南北朝期に編纂された説話集がある。仏教でいうジャータカのように垂迹神(すいじゃくしん)の前世を描いた、いわゆる本地物(ほんじもの)。その7-36話と10-50話には、同じ元ねた話が載る。
内容は、インドの美女が上野国一宮(いまの群馬県富岡市にある貫前(ぬきさき)神社)の祭神になるというもの。同書には、彼女が日本の神へと垂迹した地が、いまの荒船山(あらふねやま:旧名は笹岡山(さこやま:逆鉾山))だと記されている。
おそらくは「山に神が降りるのをみた」とする近在からの報告を受けた編纂だろうが、降りてきたものが「なぜ神だと分かったのか」等、今では確かめようもないことが多い。が、垂迹してくる神を拝むことがムリでも、当時、降りてくる神の方から見えたであろう景色は、いま見てもあまり変わらないのではないか、そう私は想った。
*荒船山(あらふねやま)は群馬と長野の県境を跨ぐ標高1423mの山。雨水で堆積層が浸食され固い火山層だけが残ったメサ地形(西部劇に出てくるテーブル台地)が人気の御山。(トイレを早く改修してね<m(__)m>)
- 旅行の満足度
- 5.0
- 同行者
- カップル・夫婦(シニア)
- 交通手段
- 自家用車
-
貫前(ぬきさき)神社の御祭神を、今は抜鉾(ばつむ)大明神とは呼ばない。代替わりかどうかはともかく、この説話が流布された頃にはそう呼ばれていた神(信仰対象:象徴界)が居たということだ。
固有名詞の正誤はともかく、海外の美女が日本のあまたある山の中からわざわざ荒船山を選んで垂迹し、後に上野国を代表する一の宮にもなった。どういう因縁(さまざまな選択肢の繋がり)なのかは私の理解を超える。が、それは当時の人々にとってあたりまえに受け入れられる出来事だった(説話として今に残る)。
*参考文献:貴志正造訳『神道集』(「東洋文庫」昭和42・7 平凡社)から転載:拡大して読んでみてネ! -
水域図を眺めれば、この辺りが信濃川と利根川の源流域のひとつだと分かる。荒船山は日本の二大河川(信濃川・利根川)の源、俗にいう「分水嶺(ぶんすいれい)」になっている。
*参考:YAHOO水域図から加工 -
1200万年ほど前、この辺り一帯(10km四方)が陥没した。そこに土砂が堆積し、後には再度の隆起。さらに周辺の噴火によって溶岩が降り積もった。
そういう積み重ねの土地の大部分が、700万年ほど前に再度の陥没をしたらしい。この二度目の陥没で残った縁部(段差の上)が今の荒船山にあたる。
*陥没地域にあたる現在の富岡市一宮町付近(背後は稲含山(いなふくみやま)) -
陥没地(麓)と残された台地上(荒船山)との標高差は千メートルほどにもなるが、前述した変遷は露出している地層にしっかり残されている。
*現地の地層案内表示から転載 -
AM6時半。群馬と長野の県境から、我々は登り始めた。
*朝焼けの荒船山 -
山の上は既に紅葉も終わり、が積雪は未だというこの時期。木々からは葉が落ち見通しがきく。上から麓を眺めるのには当にベストシーズンという訳だ。
*左側の露出は堆積火山灰に角い礫(れき:岩石破片)が混ざる角礫凝灰岩(かくれきぎょうかいがん:前掲の地層案内版を参照)。 -
落ち葉に滑る山道トレッキングから、一変してアスレチック感覚の鎖場。
歩きながらの妄想癖がある私には、むしろ急峻な崖地の方が両手で鎖を握るだけ安全なのかもしれない。
*登山道 -
残された菩薩の刻みから天台系の修験跡と想われる。天井の薄い煤跡を見ながら、上下に連なる洞窟内で休憩をとる。
*修験道場跡(ガイドブックによる)の洞窟 -
礎石に使われているのは地面と同じ凝灰岩。素人造りには思えない細やかさだが、現地生産なのだろうか。
*修験の御堂跡に残る礎石(先の洞窟並び) -
堆積している凝灰岩層(水成の角礫凝灰岩:前掲した現地の地層案内版を参照)
*修験窟のある岩壁(下の道路は江戸時代には姫街道と呼ばれた中山道の脇往還にあたる国道254線) -
*ガイドブックには兜の形でそう呼ばれると載っていた兜岩山(かぶといわやま)。
この山の形(兜に例えて)は、多くの人が兜にイメージする円山(えんざん:折り紙の兜)よりも阿古陀(あこだ)に近い。「阿古陀形(あこだなり:頂上がくぼんだ平らな形)兜は室町期のものだが、神道集の編纂より100年は遅れる。 -
少し登るとガラス質安山岩(荒船溶岩:前掲の地層案内版を参照)
*一杯水(いっぱいみず)辺りからみた艫岩(ともいわ)岩壁 -
予定より早く艫岩(ともいわ)に到着。台地上は木々がきれいに葉を落としている。
*看板のマツダランプ(旧東芝の白熱電球)は光の神アウラ・マズダ(興福寺にもある阿修羅(あしゅら))が語源。垂迹神とはインド繋がりだが、まあ関係なかろう。 -
台地の上は落ち葉と熊笹に覆われた平坦路。それらを踏みしめ蹴散らし滑りながらも、のんびりと歩ける。
*艫岩の上① -
ただし木々が途切れ、行く手の視界が開ける場所は、
*艫岩の上②(熊笹のまま突然切れている所にはトラロープが張ってある) -
段差がとても大きい崖縁だったりもする。もちろん手前に柵、とかはない。
*艫岩の上③(高低差は200mほどもあるらしい) -
注意するように促されている(トイレも早く改修してね<m(__)m>)。
*艫(とも:舟の後ろ)岩の展望(方位盤)台。 -
800年前(室町)とか2700年前(仏陀期)あたりの遡りでなく、おそらくは数万年の太古から変わらぬ風景。
ならば、もちろん神道集に出てくる神話の主も「此の儘の風景を、まま」観たのだろう。
*艫岩展望台から信州側(雲がなければ槍とか北アルプスも見えるらしい) -
奥で裾を広げた山が浅間(煙が出ている)。その右奥が白根。
つまり左が長野で右が群馬。
*艫岩展望台から上信国境(軽井沢方向をみている) -
右奥が赤城で手前が妙義。その左は榛名で奥は三国のどこか、なのだろうなあ。
*艫岩展望台から上州側(下の道路は国道254号) -
艫岩(ともいわ)から荒船頂上へは、台上を2kmほど歩き急坂を50mくらい登る。
*荒船山の頂上とされる行塚山(ぎょうづかやま:経塚山) -
*で、登頂記念。
-
小枝が邪魔だが、それなりに周辺を眺めつつ1時間のお弁当タイム。
*それなりの行塚山からの上州側眺望 -
一段下がれば、南アルプスまで見通せる。
*それなりの行塚山からの信州側眺望
-
この山には、神々が戦いの矛を収めた地との言い伝えも残る。それで本邦初の終戦記念碑がここに建つ。
*昭和九年に地元有志が建立した修武(しゅうぶ)の碑 -
貫前(ぬきさき)神社の旧社地とされる咲前(さきさき)神社には、同社がこの戦いでの行在地(ぎょうざいち:前線基地)だったとする話が伝わる。
古代の英雄タケミナカタ(諏訪神)を共通項に、荒船山へは男女の貫前神が関わる訳だ。
*台地上の案内看板 -
山の麓に湧く泉はあたりまえだが、荒船山では山上に水が湧き出ている。溶岩台地内で起こるサイフォンの原理。科学力のない私に出来る調査をした(=湧き水を飲んだ)。
調査結果:金気(かなけ:鉄気)は強いが毒ではない、らしい(未だ体調に変化なし)。
*台上にある荒船明神の脇 -
台上だけでなく、麓にあたる扇状地の末端(富岡市一宮)からも水が湧き出ている。その地に、今の貫前神社がある。
*富岡市の蓬が丘(よもぎがおか:舌状台地)にある菖蒲ケ谷(あやめがたに) -
その貫前(ぬきさき)神社の祓戸(はらえど)として、市内には今も小舟(こふね)という神社がある(道路拡張で位置は数百メートル移動)。
故尾崎喜左雄(おざききさお)先生によれば、いまの貫前神社が在る所は「荒船山&小舟神社を結ぶラインと稲含山(いなふくみやま)&咲前(さきさき)神社を結ぶラインとの、ふたつのライン線が交わる交点」だという。
*小舟神社にある現地案内掲示板 -
私が興味を抱いたのは、このラインの精度(筆記具の太さ)とかでなく、その各ライン線を引く(ライン自体が持つ)本来の意味(必然性や道理)にある。
つまり荒船山は人々の生活に欠かせない水源であると共に……(ここから先が私の言いたいこと。少し意地悪だけど頂上から周りを眺めてね。)。
*現在の古舟神社本殿 -
荒船山の姿が、近代発想の軍艦や航空母艦ではなく神話に書かれている通りの「舟を伏せた形」で拝める方角がある。その方から仰ぐ艫岩(ともいわ)は、その名の通り舟の最後尾にある艫(とも)にあたる。
直線に例えれば、点と点の二点は必ず直線で結ぶことが出来る。その直線上に、関連する三点目を見つけたならば、それは大発見か或いは線を引く筆記具が太かった(精度が低い)または、単なる偶然かもしれない。
が、その延長線上に四・五点と関連する点が観えたなら…。各点が地図上で繋がる意味、それを探してみたいよね。
*荒船シルエット -
荒船山を源にする鏑(かぶら)川。それに妙義山から流れる高田(たかた)川が合わさり、その鏑(かぶら)川は此処から20kmほどの間に烏(からす)川や神流(かんな)川へと他の河川に合流するたびに名を変え、最後は利根川の本流に合わさる。
かつて外から倭と呼ばれた国々が、和を掛け声に大和(やまと)へと繋がったように…。
*富岡市高瀬付近(旅行記、Nさんに謹呈)
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