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ここ数年言われているように、サンクトペテルブルク周辺の温暖化は顕著であり、今年は氷点下15℃を下回る日はほとんど無かったそうだ。2月23日からの滞在は、ありがたいことにプラスの日が続き、雪もほとんど残っていない。そんなサンクトペテルブルク滞在中の週末、日帰りが可能なロシア国境に隣接するエストニアのナルヴァを訪れた。サンクトペテルブルクから西へ約135km、バスで2時間半ほどの距離であるが、国境を越えるために更に1時間近くを要する。バスは日に9便走っており、料金は往復で27ユーロと安い。列車も日1便あるが、料金は約倍であり時間もかかる。<br /><br />ナルヴァはエストニア最東部の都市であり、ナルヴァ川を境としてロシアのイヴァンゴロドと国境を接する。人口は約7万人、タリン、タルトゥに次ぐエストニア第3の都市である。港湾都市であり、周辺でオイルシェール(油母頁岩)が産出されることもあり、エストニア屈指の工業地域となっている。かつては「バルト海の真珠」と称される美しい街並みを誇ったが、18世紀前半には大北方戦争の、また第二次世界大戦において主戦場となり、その歴史的な街並みの多くは失われた。その後のソ連への編入により、タリンやタルトゥと並び称された美しい街並みは再建されず、ソ連流の味気ない街となってしまった。<br /><br />エストニアとロシアを比べると、面積は380分の1、人口は110分の1、国力は比較にならない。ナルヴァの街の人口の95%が、国内では少数民族であるロシア系住民が占めている。エストニアでは、その歴史的経緯から反ロシア感情が強く、この街が第2のクリミア半島、または東ウクライナとなりかねない危険をはらんでいる。<br /><br />ナルヴァは中世から重要な交易の拠点であり、12世紀のノヴゴロド年代記にその名が現れる。その後デンマーク、モスクワ大公国のイヴァン4世(雷帝)、スウェーデンの支配下に入った。1700年に勃発した大北方戦争ではスウェーデン、次いでロシアがこの地を占領、第一次世界大戦では、ドイツ軍がバルト海東岸地域にまで進出し、ドイツ軍の支配下におかれた。<br /><br />1918年にエストニアは独立を宣言するが、ドイツ軍、続いてソヴィエト・ロシアの支配を受ける。1920年にタルトゥ条約を結び、ソヴィエトから独立を確定させ、ナルヴァはエストニアに属することが確定した。第二次世界大戦が勃発すると、1940年にソヴィエト連邦に、その後ドイツ軍に占領される。逆襲するソ連軍が空爆をおこなったため、ナルヴァは徹底的に破壊された。ドイツの敗戦後、ソ連の統治下ではナルヴァへエストニア人が帰還することは禁止され、街はほぼロシア人のみとなった。<br /><br />ソヴィエト崩壊後の1991年にエストニアが独立を果たし、ナルヴァもエストニアに属することになった。ナルヴァにいるロシア系住民の多くは、外国人として扱われることになり、永続的に居住するためにエストニア語の能力試験の合格が義務づけられた。不満を抱く住民との間に紛争が絶えない状態にあるという。<br /><br />かつて「バルト海の真珠」と称された旧市街は旧市庁舎のみがその面影を伝えており、現在の街並みは見る影もない。街の唯一の観光地であるナルヴァ城は、かつてデンマークが建てたものである。世界大戦で破壊されたが、1991年のエストニア独立後に復興され、現在は博物館になっている。ナルヴァ川を境としてロシアのイヴァンゴロド城と対峙し、塔の上からはロシア側を見下ろしている。ナルヴァ川にかかる国境の橋は、買い出しに行く多くのロシア人が徒歩で行き来している。<br /><br />バルト海に面するドイツ、ポーランド、カリーニングラード、バルト三国、ロシアには戦争の傷跡が今に残り、暗い気持ちにさせられることが多い。メルケル独首相とオーランド仏大統領の尽力で実現した、プーチン露大統領とポロシェンコ・ウクライナ大統領のミンスク会談の結果、ウクライナ紛争は何とか停戦の方向に向かっている。帰りのバスの中で夕日を眺めながら、この種の紛争がバルト海の小国、エストニアの地で発生しないことを一人祈った。

エストニア第3の都市ナルヴァ:ロシアとの紛争の危険をはらんだ、歴史に翻弄された国境の街

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2015/03/01 - 2015/03/02

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ハンク

ハンクさん

ここ数年言われているように、サンクトペテルブルク周辺の温暖化は顕著であり、今年は氷点下15℃を下回る日はほとんど無かったそうだ。2月23日からの滞在は、ありがたいことにプラスの日が続き、雪もほとんど残っていない。そんなサンクトペテルブルク滞在中の週末、日帰りが可能なロシア国境に隣接するエストニアのナルヴァを訪れた。サンクトペテルブルクから西へ約135km、バスで2時間半ほどの距離であるが、国境を越えるために更に1時間近くを要する。バスは日に9便走っており、料金は往復で27ユーロと安い。列車も日1便あるが、料金は約倍であり時間もかかる。

ナルヴァはエストニア最東部の都市であり、ナルヴァ川を境としてロシアのイヴァンゴロドと国境を接する。人口は約7万人、タリン、タルトゥに次ぐエストニア第3の都市である。港湾都市であり、周辺でオイルシェール(油母頁岩)が産出されることもあり、エストニア屈指の工業地域となっている。かつては「バルト海の真珠」と称される美しい街並みを誇ったが、18世紀前半には大北方戦争の、また第二次世界大戦において主戦場となり、その歴史的な街並みの多くは失われた。その後のソ連への編入により、タリンやタルトゥと並び称された美しい街並みは再建されず、ソ連流の味気ない街となってしまった。

エストニアとロシアを比べると、面積は380分の1、人口は110分の1、国力は比較にならない。ナルヴァの街の人口の95%が、国内では少数民族であるロシア系住民が占めている。エストニアでは、その歴史的経緯から反ロシア感情が強く、この街が第2のクリミア半島、または東ウクライナとなりかねない危険をはらんでいる。

ナルヴァは中世から重要な交易の拠点であり、12世紀のノヴゴロド年代記にその名が現れる。その後デンマーク、モスクワ大公国のイヴァン4世(雷帝)、スウェーデンの支配下に入った。1700年に勃発した大北方戦争ではスウェーデン、次いでロシアがこの地を占領、第一次世界大戦では、ドイツ軍がバルト海東岸地域にまで進出し、ドイツ軍の支配下におかれた。

1918年にエストニアは独立を宣言するが、ドイツ軍、続いてソヴィエト・ロシアの支配を受ける。1920年にタルトゥ条約を結び、ソヴィエトから独立を確定させ、ナルヴァはエストニアに属することが確定した。第二次世界大戦が勃発すると、1940年にソヴィエト連邦に、その後ドイツ軍に占領される。逆襲するソ連軍が空爆をおこなったため、ナルヴァは徹底的に破壊された。ドイツの敗戦後、ソ連の統治下ではナルヴァへエストニア人が帰還することは禁止され、街はほぼロシア人のみとなった。

ソヴィエト崩壊後の1991年にエストニアが独立を果たし、ナルヴァもエストニアに属することになった。ナルヴァにいるロシア系住民の多くは、外国人として扱われることになり、永続的に居住するためにエストニア語の能力試験の合格が義務づけられた。不満を抱く住民との間に紛争が絶えない状態にあるという。

かつて「バルト海の真珠」と称された旧市街は旧市庁舎のみがその面影を伝えており、現在の街並みは見る影もない。街の唯一の観光地であるナルヴァ城は、かつてデンマークが建てたものである。世界大戦で破壊されたが、1991年のエストニア独立後に復興され、現在は博物館になっている。ナルヴァ川を境としてロシアのイヴァンゴロド城と対峙し、塔の上からはロシア側を見下ろしている。ナルヴァ川にかかる国境の橋は、買い出しに行く多くのロシア人が徒歩で行き来している。

バルト海に面するドイツ、ポーランド、カリーニングラード、バルト三国、ロシアには戦争の傷跡が今に残り、暗い気持ちにさせられることが多い。メルケル独首相とオーランド仏大統領の尽力で実現した、プーチン露大統領とポロシェンコ・ウクライナ大統領のミンスク会談の結果、ウクライナ紛争は何とか停戦の方向に向かっている。帰りのバスの中で夕日を眺めながら、この種の紛争がバルト海の小国、エストニアの地で発生しないことを一人祈った。

旅行の満足度
3.5
観光
3.5
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
1万円未満
交通手段
高速・路線バス 徒歩
旅行の手配内容
個別手配
  • バルト3国方面のバスは、サンクトペテルブルクのバルチック駅前のバスターミナルから出発する

    バルト3国方面のバスは、サンクトペテルブルクのバルチック駅前のバスターミナルから出発する

  • バルチック駅前のバスターミナル

    バルチック駅前のバスターミナル

  • シンプル・エクスプレスバスの車内、7割方埋まっていた

    シンプル・エクスプレスバスの車内、7割方埋まっていた

  • ナルヴァ駅、サンクトペテルブルクからは1便、タリンなどから数便が行き来するのみ

    ナルヴァ駅、サンクトペテルブルクからは1便、タリンなどから数便が行き来するのみ

  • ナルヴァ駅のロシアの列車

    ナルヴァ駅のロシアの列車

  • エストニア国鉄の最新型のディーゼルカー

    エストニア国鉄の最新型のディーゼルカー

  • アレキサンダー教会のファサード

    アレキサンダー教会のファサード

  • アレキサンダー教会に隣接するロシア総領事館

    アレキサンダー教会に隣接するロシア総領事館

  • エストニアはEUの一員である、ナルヴァの至るところで見かける看板

    エストニアはEUの一員である、ナルヴァの至るところで見かける看板

  • スウェーデンのライオン記念碑

    スウェーデンのライオン記念碑

  • ロシア正教教会のファサード

    ロシア正教教会のファサード

  • ロシア正教教会の内部

    ロシア正教教会の内部

  • 街中のプーシキン通りのプーシキン像

    街中のプーシキン通りのプーシキン像

  • わずかに旧市街の面影を残す旧市庁舎、ひと気はない

    わずかに旧市街の面影を残す旧市庁舎、ひと気はない

  • 市庁舎前の雪で遊ぶ少女

    市庁舎前の雪で遊ぶ少女

  • 市庁舎以外は味気ないソヴィエト流の建物

    市庁舎以外は味気ないソヴィエト流の建物

  • 国境のナルヴァ川、ナルヴァ城とイヴァンゴロド城が対峙する

    国境のナルヴァ川、ナルヴァ城とイヴァンゴロド城が対峙する

  • 国境のナルヴァ川にかかる橋、徒歩で渡る人も多い

    国境のナルヴァ川にかかる橋、徒歩で渡る人も多い

  • 対岸のロシアのイヴァンゴロド城

    対岸のロシアのイヴァンゴロド城

  • 国境の検問所

    国境の検問所

  • ナルヴァ城の塔

    ナルヴァ城の塔

  • ありがたくないはずのスターリン像

    ありがたくないはずのスターリン像

  • ナルヴァ川、水は黒く濁っている

    ナルヴァ川、水は黒く濁っている

  • ナルヴァ城の塔に登る階段

    ナルヴァ城の塔に登る階段

  • ナルヴァ城内部の博物館

    ナルヴァ城内部の博物館

  • ナルヴァ城内部の博物館

    ナルヴァ城内部の博物館

  • ナルヴァ城内部の博物館

    ナルヴァ城内部の博物館

  • ナルヴァ城内部の旧市街の模型

    ナルヴァ城内部の旧市街の模型

  • ナルヴァ城内部の博物館の展示品

    ナルヴァ城内部の博物館の展示品

  • ナルヴァ城内部の博物館

    ナルヴァ城内部の博物館

  • かつてのナルヴァ旧市街の写真、今は見る影もない

    かつてのナルヴァ旧市街の写真、今は見る影もない

  • かつてのナルヴァ旧市街の写真、今は見る影もない

    かつてのナルヴァ旧市街の写真、今は見る影もない

  • ナルヴァ城の塔から見下ろすロシア側のイヴァンゴロド城

    ナルヴァ城の塔から見下ろすロシア側のイヴァンゴロド城

  • ナルヴァ城からの眺め

    ナルヴァ城からの眺め

  • ナルヴァ城の断面図

    ナルヴァ城の断面図

  • 城壁の通路

    城壁の通路

  • ナルヴァ城の城壁

    ナルヴァ城の城壁

  • 帰りのバスからの夕日の眺め

    帰りのバスからの夕日の眺め

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この旅行記へのコメント (1)

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  • dankeさん 2015/03/10 10:01:20
    寒くて重い雰囲気
    ハンクさん お久しぶりです。

    今年のサンクトペテルブルクは極寒ではなかったのですね?私はトロントにいますが、今年の2月はここでは珍しくマイナス15度を下回る日が連続してつい3日前までブルブルでした。昨日から夏時間の週末からようやく日中かろうじてプラスにいき嬉しいです。もうハンクさんは帰国されたのでしょうか。

    先日ウクライナ出身の方とお話していましたが、本とうにニュースにならない一般市民の犠牲者がどんなに多いことが、そして同じ家庭や市内の人の間でも支持する思想により亀裂が入ったりと、本当に暗い現実があります。確かにハンクさんの言われるように、バルト三国もこのような状況にはなってほしくありませんね、重い戦歴の後でまた。。。

    考えさせられる旅行記をありがとうございました。

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