2014/02/10 - 2014/02/10
251位(同エリア1654件中)
がりさん
沢木耕太郎さんのノンフィクション『一瞬の夏』の主人公として、そしてアリスの名曲「チャンピオン」のモデルとして知られる、伝説のボクサー・カシアス内藤。
類い稀な才能を持ちながら、世界タイトルを獲ることはできなかった、そんなカシアス内藤の息子が今、ボクサーとしてリングの上で戦っている。
彼の夢は、父が成し得なかった、世界チャンピオンになること。
世界への夢は、彼…内藤律樹に引き継がれた。
そしてこの夜…、律樹が日本タイトルを獲ったこの夜、『一瞬の夏』の物語の続きは、再び大きく動き始めたのかもしれない。
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2014年2月10日。
日本スーパーフェザー級王座決定戦と東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチのダブルタイトルマッチが行われたこの日、初めて後楽園ホールの中へ足を踏み入れた。
「格闘技の聖地」と言われる後楽園ホールには不思議な異空間が存在する。
それが、夥しい数の落書きが書き込まれた裏階段。
いったい、何年前、いや何十年前から落書きが書かれてきたのだろう。
他人の悪口や卑猥な言葉が書かれているものも多いが、熱狂的な格闘技ファンによる落書きも多く見られ、さながらこの後楽園ホールの歴史を表しているようにも思える。
後楽園ホールを初めて訪れた人はぜひ覗いてほしい、一見の価値がある空間だ。 -
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それにしても、後楽園ホールは思っていたより随分小さいな〜、と感じた。
『笑点』の収録会場としてもおなじみで、もっと大きいイメージがあったけれど、実際はとても小ぢんまりした所だった。
僕の席は南側の中ほどの席だったけど、それでもリングがすごく近く感じる。
もうひとつ驚いたのは、ボクシングのファン層の多彩さだった。
なんとなくボクシングは男性ファンだけのものというイメージがあったけれど、若い女性も来ていれば、子供連れの人や年配の人まで、いろんな人たちが観戦や応援に訪れていた。
僕にとって、ボクシングは初観戦。
この夜はどうしても、間近で応援したい選手がいた。 -
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目の前で初めて観るボクシングは、実にスリリングだった。
この後楽園ホールでは選手を間近に見ることができるので、本当に迫力を感じさせる。
選手がパンチを出すときに発する「シュッ、シュッ!」という声、そのパンチが顔面に当たったときの「ビシッ!バンッ!」という音…。
そんな声や音とともに、飛び散る汗や血の匂いがこちらにまで伝わってくるような気がした。 -
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この日のメインイベントとなったのが、東洋太平洋スーパーバンタム級のタイトルマッチ。
和氣慎吾が3度目の防衛戦に挑み、見事2ラウンドKOで防衛を果たした。
相手を圧倒する俊敏な速さもすごかったけど、ダウンを奪うことになった左フックがまたすごかった。
強烈な一発で相手を沈めることができる、ボクシングの面白さが表れた試合だった。
試合後に和氣選手が記念グッズを観客席に投げ入れてくれて、幸運にもゲットすることができた♪
これからは和氣選手のことも応援しよう(笑)。 -
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でもこの夜、僕が本当に観たかった試合は、セミファイナルの日本スーパーフェザー級王座決定戦の方だった。
金子大樹の王座返上によって空位となった日本スーパーフェザー級の王座を懸けて、同級1位の内藤律樹と同級2位の松崎博保が戦ったのだ。
内藤律樹はアマチュア時代から気になっていた選手だった。
彼の父・カシアス内藤のことは、沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』を通じて知っていて、傑出した才能を持ちながら世界チャンピオンにはなれなかった、そんなカシアス内藤の人生には深い感銘を受けていた。
カシアス内藤はボクサーとして、あまりに心が優しすぎたのだ。
そんなカシアス内藤が2005年、地元の横浜に念願だったボクシングジムを開設した。
自身ががんに襲われるなか開設されたそのジムは、沢木さんをはじめ多くの人の支援で作ることができた、石川町駅の近くのビルの2階にある小さなジムだった。
そしてそのジムは、トレーナーだったエディ・タウンゼントと約束した「いつかジムを開設して、そこからチャンピオンを誕生させる」という夢を叶えるためのものだった。
アリスの名曲「チャンピオン」のモデルでもあるカシアス内藤は、若きボクサーに新たな「チャンピオン」誕生の夢を託したのだ…。 -
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若きチャンピオンを誕生させる夢は、思いがけないところに転がっていた。
それが、カシアス内藤の息子である、内藤律樹だった。
父のジム開設をきっかけにボクシングを始めた律樹は、高校3年の2009年、アマチュアとして高校3冠を達成するまでに成長する。
一時はロンドン五輪の出場を目指していたが、律樹はアマチュアとしてのボクサーから、2011年にプロのボクサーとしてデビューを果たす。
そしてそこからの快進撃は、僕もジムのブログなどでチェックしていた。
律樹はプロデビューから4KOを含む実に8連勝で、日本タイトルへの挑戦権を獲得したのだ。
そしてこの夜、その日本タイトルを懸けた試合が行われた。
ジムが開設されてから9年、ジムにとって初めての「タイトルマッチ」だった。 -
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イチオシ
試合は序盤から内藤律樹の攻勢が続いた。
父譲りのサウスポーの律樹から左の強打が放たれ、松崎に何度も連打を浴びせる場面があった。
律樹は動きが俊敏で速く、巧みなジャブと左ストレートで相手を翻弄する。
そして、まだ経験の少ない22歳のボクサーとは思えないほど、確かな自信に満ち溢れて見えた。
満員の観客席から嘆声がいくつも聞こえ、多くの観客が律樹の華麗なテクニックに魅せられていることがわかった。
やはりこの才能も、父譲りのものなのだろうか…。 -
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相手の松崎は31歳、生命保険会社に勤務しながらプロとして活躍するボクサーだった。
経験値では遥かに上回るその松崎を、律樹は若さとテクニックで圧倒する。
それは対照的でありながら、それぞれのボクサーに物語がある…ということを感じさせるものだった。
そして、松崎のダウンも近いのではないかと思われた8ラウンドが終了したとき、不意に松崎サイドからタオルが投げ込まれた。
内藤律樹の8ラウンドTKO、圧倒的な勝利だった。
新たな日本チャンピオン誕生の瞬間、後楽園ホールは大歓声に包まれた…。 -
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父であるカシアス内藤が日本チャンピオンになってから44年、息子である内藤律樹が親子2代の日本チャンピオンになった瞬間だった。
律樹は圧倒的な勝利ではありながら、少しホッとしたような表情を見せた。
父のカシアス内藤がリングの上で語った…。
ジムの開設のときに支援をしてくれた人たちを試合に招待することができたこと。
ジムからチャンピオンを誕生させるという夢を叶えることができたこと。
そして、そのチャンピオンが、自分の息子であったこと。
今日は3つの喜びです、と。 -
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イチオシ
もちろん、内藤律樹の「夢」はもっともっと高いところにある。
それは、父が成し得ることができなかった、世界タイトルを獲ることだ。
律樹はリングの上で語った。
「僕の夢はこの日本で1番強いボクサーになることです。世界タイトルを獲って、父を超えていきたい」
この夜、『一瞬の夏』の物語は再び大きく動き始めたのかもしれない。
カシアス内藤が世界チャンピオンを目指した物語は、息子の内藤律樹によって再び世界チャンピオンという「夢」へ向かって動き始めた…。
その夢は、内藤律樹の夢であり、カシアス内藤の夢であり、かつてカシアス内藤に魅了されたすべての人の夢でもある。
いつか、その「夢」が叶う瞬間…、僕もその場で目撃者になりたい、と思った。 -
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この旅行記へのコメント (6)
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- fuzzさん 2014/02/26 10:31:34
- こんにちは(#^.^#)
- がりさん、オリンピック終わりましたね。
真央ちゃんメダルが取れずに、と言いますか、金メダル以外は取らなくてもいいのです。
後悔ない表情にも見えましたが、ハーフハーフの心境とか。
新作のボクシング。
私の父が若い頃、ボクシングのアマチュアレフリーだったので、高校でコーチをしていたり、高総体で審判をしたりしてました。
私の地元・岩手では八重樫東という選手がおります。
父がレフリーだったとは言え、私は全然詳しくないのですが、私が男の子だったらボクシングをさせたかったと幼い頃に言われました(*_*)
夢って人に無理強いされるのではなく、自分の強い意思ですね。
内藤選手が世界チャンプになる日を目撃できたらイイですね。
fuzz
- がりさん からの返信 2014/02/26 22:57:43
- RE: こんにちは(#^.^#)
- fuzzさん、こんばんは!
旅行記を読んで下さり、ありがとうございます♪
> がりさん、オリンピック終わりましたね。
あっという間に終わってしまいましたね〜。
祭りの後の寂しさというか、ソチロスというやつでしょうか(笑)。
たくさんの感動をありがとう〜という気持ちとともに、4年後は現地観戦に行きたい!という気持ちにもなりました。
それにしても、ユニフォームを岩手で作っているとは知りませんでした。
仙台では羽生選手の凱旋パレードを行うという話もあるし、東北の人羨ましい!と思ってます。
> 真央ちゃんメダルが取れずに、と言いますか、金メダル以外は取らなくてもいいのです。
> 後悔ない表情にも見えましたが、ハーフハーフの心境とか。
真央ちゃんのフリーの演技には感動しました♪
よくあの状況から、あれだけの素晴らしい演技を見せてくれました。
オリンピックであれだけの演技ができたんだからもう悔いなく引退できるかな?とも思いましたが、もちろんそれを決めるのは本人ですよね。
どんな決断をするにしても、これからも応援していきたいですね〜。
> 父がレフリーだったとは言え、私は全然詳しくないのですが、私が男の子だったらボクシングをさせたかったと幼い頃に言われました(*_*)
お父様がレフェリーをされていたのですね。
やはり子供は親の影響を受けるもの…、男の子だったらボクシング、ってわかります〜。
旅行記で紹介した内藤選手は、日本では2組目の親子2代チャンピオンなんです。
やはりお父さんの影響でボクシングを初めて、今はお父さんが果たせなかった「夢」へ向かって挑戦をしている…。
父から子へと、夢が引き継がれていくなんて素敵だな〜と感じました♪
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- エンリケさん 2014/02/23 23:42:37
- 新境地の開拓ですね!
- がりさん
こんばんは。今回の旅行記はボクシングとは・・・またチャレンジングな試みですね!
わたしはナマで見たことがないのですが、ビシッ!バシッ!という音が生々しいとはよく聞きますね。
まさにがりさんのコメントも、その生々しさをよく表現されていて、読んでいるこちらにも伝わってくるものがありました。
がりさんは毎回旅行記で新たな試みをされていて、本当に感心させられますね。
わたしも最近旅行記が単調になってきたので、もう一工夫加えたいところです。
実は今度、タイでも行ってムエタイでも観戦しようかと思っていたところなのですが、例のデモが長引いていて、銃器や手榴弾も使われている模様・・・。
エジプトやウイグル、ウクライナもそうですが、少し前まで平和だったのに、あちこち物騒な感じになってきましたね・・・。
世界のニュースを聞くたびに、つくづく日本が平和なことを実感させられますね。
- がりさん からの返信 2014/02/24 23:54:25
- RE: 新境地の開拓ですね!
- エンリケさん、こんばんは!
いつもありがとうございます♪
> わたしはナマで見たことがないのですが、ビシッ!バシッ!という音が生々しいとはよく聞きますね。
生で見るボクシングはとても迫力ありますよ〜。
後楽園ホールはどの席からもリングが間近に見えて、会場全体の応援の熱気とかもすごいです。
日本ではボクシングって最近の亀田騒動などのおかげでイメージが悪くなってるところもありますが、実際は良いボクサーが日本にはたくさんいますね。
メディアももっとそういうボクサーを取り上げて、ボクシングの人気が広まっていくといいと思います。
> 実は今度、タイでも行ってムエタイでも観戦しようかと思っていたところなのですが、例のデモが長引いていて、銃器や手榴弾も使われている模様・・・。
タイでムエタイですか〜、面白そうですね!
でもタイもまた政情が不安定になってきて、デモが長引いてるようですね。
そういえば、先日フォートラのアンケート調査で、2014年に行きたい旅行先の第1位がタイだった、という記事を見ました。
調査した時期がデモが大きくなる前だったせいもあると思いますが、やはり日本人にとってタイは魅力的な国なんでしょうね。
僕も東南アジアは、タイ、カンボジア、ベトナムなど行ってみたい国がたくさんあります♪
これからもお互いに、新しい感動を求めて旅をしていきましょう〜。
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- pedaruさん 2014/02/20 05:55:42
- 人に歴史あり、スポーツにドラマあり
- がりさん お早うございます。
ソチオリンピックが盛り上がっている最中ですが、選手それぞれにドラマがあり、それが紹介されていました。
がりさんの内藤選手にかける熱い思いが伝わってきました。ボクシングは映画でもテーマになっているほどドラマチックなスポーツですね。pedaruは古い人間なのでポール・ニューマンの「ギズだらけの栄光」のファンでした。
「あしたのジョー」や「はじめの一歩」のファンでもあります。この旅行記を引き立てているのは、何と言ってもがりさんの名文でしょうね。大変おもしろく拝見しました。
pedaru
- がりさん からの返信 2014/02/20 23:51:37
- RE: 人に歴史あり、スポーツにドラマあり
- pedaruさん、こんばんは!
旅行記を読んで下さり、ありがとうございます♪
> ソチオリンピックが盛り上がっている最中ですが、選手それぞれにドラマがあり、それが紹介されていました。
僕もソチ五輪、連日観戦しています〜。
女子フィギュアは思いがけない展開で、やはりスポーツは始まってみないとわからないな…、と感じました。
選手それぞれにドラマがあって、でもメダルを獲れるのは3人だけ…、オリンピックには勝者と敗者がいて、だからこそ惹きつけられるんだなと感じています。
> がりさんの内藤選手にかける熱い思いが伝わってきました。ボクシングは映画でもテーマになっているほどドラマチックなスポーツですね。pedaruは古い人間なのでポール・ニューマンの「ギズだらけの栄光」のファンでした。
ボクシング、普段はあまり見ないのですが、実際に観戦すると、とても面白いスポーツだと感じました。
原始的であり、誰が見てもわかりやすく、そしてスリリング…。
劣勢に戦っていても、一発のパンチで相手をKOさせることもできるところにドラマがありますよね。
日本にはいいボクサーがたくさんいますね。
内藤選手がいつか世界タイトルを獲ってくれたら、本当に最高のドラマだな〜と感じます。
僕もまた観戦に行くことになりそうです♪
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