1994/10/31 - 1994/10/31
64位(同エリア166件中)
北風さん
急性高山病により、エベレストより高い所へ、頭に輪っかをつけて昇天するギリギリで、どうにかラサにたどり着いた。
・・・が、それから丸一日、安ホテルのベッドで2日酔いの頭を乾燥機に放り込んだ様な脳痛の2回戦が待っていた。
幽体離脱じゃなく、自分の足でラサの街に出掛けるには、それからさらに1日かかった。
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旅日記
『高山病 Round 2』
数え切れないぐらいの嘔吐と頭痛の中、身体が必死になって3600mの高地に順応しようとあがいていた。
この歳になるまで富士山に登った事もなく、こんな標高のこんな薄い空気と気圧の中で生活した事などあるわけない。
平地の芳醇な空気しか知らない身体が、血液中に必要な酸素量を欲しがって、いつもの倍ぐらい心臓を動かす。
当然、呼吸数も倍になる。
つまり、一呼吸で得られる酸素量がいつもの半分なら、いつもの2倍呼吸すればいいわけだ。
言葉にすれば簡単だが、絵にすればベッドに寝ながら全力疾走している状態だ。
息が上がっても身体が休憩させてくれない。「つらい!」
「人はパンのみにて生くる者に非ず」
・・・確かに、空気も必要だった。
(マタイ伝の言いたい事とは相違するだろうが・・)
急激に気圧が減少した環境とは裏腹に、体内圧力は平地のまま。
結果、体内圧力で顔はむくみ、腹はパンパン。
平地で膨らませた風船を山の上に持っていくと、気圧の違いで破裂する映像を、昔NHKの理科の実験でやっていたが、現在、あれと同じ状況が俺の身体の中で起こっているらしかった。
膨張した体内圧力は、逃げ場を求めて、人間の主な2つの排気口に出口を求める。
結果、嘔吐、ゲップ、下痢、おなら、という最低お下品野郎が出来上がる。
現在、俺は人生最大の痛みを味わっていると思う。
映像にすれば、ベッドの上で頭を抱えてエビのように丸くなり、
「ハッ、ハッ、ハッ、ゲプッ」
「ハッ、ハッ、ハッ、ブピッ」
「ハッ、ハッ、ハッ、グェッ」
と効果音が入るのかもしれない。
『高山病』・・・これほど手強い相手だったとは!
<後日談>
3日後、トーマスが、俺達のバス・ルートに関する情報を持ってやって来た。
やはり、あのルートでは何人かの旅行者が高山病で死んでいるらしい。
旅行情報誌には、「殺人ルート」とまで書いてあるとの事。
ラッキーな事に俺は生き残ったらしい。
あと少しで、「無謀」という言葉で飾られた3面記事に載る所だったが、どうにか「冒険」という言葉を使って日記をつける事が出来そうだ。 -
<ラサ(拉薩)>
チベットの首都「ラサ」は、3700mの高地に広がる街だった。 -
日本で言えば、富士山の頂上に町があるようなものだ。
街を少し歩いただけで、すぐに息があがるほど空気が薄い。 -
ホテルの掲示板には、「酸素が必要な方は、どうぞここまで・・・」との紙切れが!
なんとこの街には、アメリカの有名なホテルチェーン
「ホリディイン」があり、そこで携帯用酸素ボンベを売っているらしい。
空港について、そのまま高山病で倒れる旅行者も少なくないこの環境では、空気は立派な商品になっている。 -
ホテルの庭には、ブリキで作ったパラポラアンテナみたいな物が所狭しと並んでいた。
ピカピカに磨かれた反射板から伸びる棒には、やかんがかけられている。
これは、もしかして、・・・ソーラーシステムの湯沸し器?
太陽光をさえぎる空気が薄いここでは、強力な陽射しにすぐに湯が沸き始める。 -
街は意外と整備されているが、あちこちに中国公安(警察)の姿が・・・
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ここに住む民族は一般に「チベッタン」と呼ばれ、まるで遠山の金さん張りに、どてらのような服の肩袖を脱いで着ていた。
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チベットは中国が強引に奪った国という事で知られているが、中国支配下に置かれたチベッタンは迫害により、死に物狂いでエベレストを越え、ネパールに亡命する人も多いと聞く。
現状、続々と中国人が移住してきており、ネパール、インドとの交易を狙っているらしい。 -
街中には何故か野良牛の姿を多く見かける。
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そして街角では、高度からくる寒さをしのぐ為の毛皮があちこちで取引されていた。
一人の毛皮商人が、なにやら叫んで通りすがりの牛を指差している。
言葉はわからないが、なんとなく言っている事はわかりそうな気がする。
「この皮って、牛革なのか?」 -
チベット密教の総本山があるラサは、巡礼者で溢れていた。
街角では、数々の密教グッズが所狭しと並べられ、人々が静かに静かに品定めをしている。
一体何に使うんだろう? -
<大昭寺(トゥルナン寺)>
街のど真ん中にあるチベット3大寺の一つ「大昭寺」は、大勢の巡礼者で賑わっていた。 -
寺の周辺は、独特の匂いで満たされている。
匂いの出所は、あの寺の両脇に据えられたモウモウと白煙を上げる煙突らしきものだと思うのだが・・・ -
これは、
この匂いは、
・・・マリファナじゃないのか? -
信者の身体が「ザザザッ」と地面に投げ出されたかと思うと、再び立ち上がる。
チベット密教独特の祈りのポーズ「五体倒地」だった。
人々はいつ終わるとも知れない祈りを無心で続けている。 -
(余談)
後日、大昭寺内に観光に来て迷子になってしまった。
きょろきょろしながら、寺院内をさまよっていると、後ろからいきなり、寺の小坊主に丸太でぶったたかれた。
どうも中国人と間違われたらしい。
それにしても、チベット坊主は気が荒い。
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