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2019年8月14-15日。<br />ハノイ郊外のザーラム駅から国際寝台列車に乗って広西チワン族自治区の南寧へ。

ハノイから国際寝台列車で南寧へ

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2019/08/12 - 2019/08/18

36位(同エリア52件中)

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21

ドがつく無能さん

2019年8月14-15日。
ハノイ郊外のザーラム駅から国際寝台列車に乗って広西チワン族自治区の南寧へ。

旅行の満足度
5.0
観光
4.0
ホテル
4.0
交通
5.0
  • <br /><br /> 19時過ぎ、配車アプリの「grab」で呼んだ車は5分ほどでゲストハウスにやってきた。乗り込んだ車は、ここ二日間、猛暑に包まれながら歩いたハノイの旧市街を抜け、大きな橋に差しかかった。川を越えた先は、旧市街とは対称的に高いビルや商店が建ち並んでいて、きっと国境を越える国際列車はこのような郊外の現代的な駅から出るのだろう、と予想した。しかし、じきに車は片側三車線もある大通りから細い脇道に入り、これは抜け道かなにかかと思わされたところの薄暗い裏町で停車した。



     19時過ぎ、配車アプリの「grab」で呼んだ車は5分ほどでゲストハウスにやってきた。乗り込んだ車は、ここ二日間、猛暑に包まれながら歩いたハノイの旧市街を抜け、大きな橋に差しかかった。川を越えた先は、旧市街とは対称的に高いビルや商店が建ち並んでいて、きっと国境を越える国際列車はこのような郊外の現代的な駅から出るのだろう、と予想した。しかし、じきに車は片側三車線もある大通りから細い脇道に入り、これは抜け道かなにかかと思わされたところの薄暗い裏町で停車した。

  • <br /> 小さな商店が三軒ほど並んで、両替やSIMカードと書かれた中国語の看板を掲げている。その向かいにある、地元の客しか乗降しなさそうにみえる平屋の駅舎。そこが中国へ向かう国際寝台列車の始発駅、ザーラムだった。


     小さな商店が三軒ほど並んで、両替やSIMカードと書かれた中国語の看板を掲げている。その向かいにある、地元の客しか乗降しなさそうにみえる平屋の駅舎。そこが中国へ向かう国際寝台列車の始発駅、ザーラムだった。

  • <br /> 所々席の埋まる待合所を横目に、一つしか開いていない窓口に向かう。カウンターの前では旅行代理店のスタッフらしき女性が対応を待っている様子だったが、どうぞ、と譲るような仕草をされたので、あらかじめプリントアウトしてきたチケットの予約確認書を窓口の女性職員に手渡した。職員はそれを一瞥してこちらに戻し、ベトナム語でなにか言った。こちら側の女性も書類をちらりと覗き、今度は中国語でなにか言った。「八点」という単語だけが聞き取れたので、夜8時以降に来いということなのだろう。<br /> 発車予定時刻は21時20分。まだ1時間半以上もあるし、駅を出て散歩することにした。


     所々席の埋まる待合所を横目に、一つしか開いていない窓口に向かう。カウンターの前では旅行代理店のスタッフらしき女性が対応を待っている様子だったが、どうぞ、と譲るような仕草をされたので、あらかじめプリントアウトしてきたチケットの予約確認書を窓口の女性職員に手渡した。職員はそれを一瞥してこちらに戻し、ベトナム語でなにか言った。こちら側の女性も書類をちらりと覗き、今度は中国語でなにか言った。「八点」という単語だけが聞き取れたので、夜8時以降に来いということなのだろう。
     発車予定時刻は21時20分。まだ1時間半以上もあるし、駅を出て散歩することにした。

  • <br /> 駅のすぐ横には小さな踏切があった。このあたりで線路を越えるのに重宝するのだろう、ひっきりなしにバイクが行き交っている。ふと、事前にネットでみた記事を思いだし線路を確かめてみると、なるほどベトナムの鉄道と中国の鉄道、双方の軌間の違いに対応するためにレールが三本になっている。さほど鉄道に興味のない私でも、これには少し心が湧いた。


     駅のすぐ横には小さな踏切があった。このあたりで線路を越えるのに重宝するのだろう、ひっきりなしにバイクが行き交っている。ふと、事前にネットでみた記事を思いだし線路を確かめてみると、なるほどベトナムの鉄道と中国の鉄道、双方の軌間の違いに対応するためにレールが三本になっている。さほど鉄道に興味のない私でも、これには少し心が湧いた。

  • <br /> 大通りまで歩き、しばらくくつろげそうなカフェに入った。私はアボカドのスムージーを、同行のMはフルーツテイストのアイスティーを、それぞれ飲んで時計を見ると、20時過ぎになっていた。<br /><br /> そろそろかと駅に戻り、再び窓口に向かったところで若い女性に声をかけられた。私の手元の予約確認書を指さしているので、席を代わってくれ、とでも言っているのかと思ったが、彼女がこちらに見せたスマホの画面には、私達の名前と予約番号が表示されていた。彼女が私の確認書を手に取り、窓口で職員とやりとりするのを見てやっと気づいた。彼女は「BAOLAU」のスタッフだ。<br /> ベトナムの鉄道予約サイト「BAOLAU」では、日本にいながらクレジットカード払いで席を予約できた。すぐに送信された確認書を見て、なんと便利なシステムかと感心したものだったが、まさかそのスタッフが眼前でポシェットから現金を取り出し窓口で切符を受け取るのに立ち会うとは思わなかった。


     大通りまで歩き、しばらくくつろげそうなカフェに入った。私はアボカドのスムージーを、同行のMはフルーツテイストのアイスティーを、それぞれ飲んで時計を見ると、20時過ぎになっていた。

     そろそろかと駅に戻り、再び窓口に向かったところで若い女性に声をかけられた。私の手元の予約確認書を指さしているので、席を代わってくれ、とでも言っているのかと思ったが、彼女がこちらに見せたスマホの画面には、私達の名前と予約番号が表示されていた。彼女が私の確認書を手に取り、窓口で職員とやりとりするのを見てやっと気づいた。彼女は「BAOLAU」のスタッフだ。
     ベトナムの鉄道予約サイト「BAOLAU」では、日本にいながらクレジットカード払いで席を予約できた。すぐに送信された確認書を見て、なんと便利なシステムかと感心したものだったが、まさかそのスタッフが眼前でポシェットから現金を取り出し窓口で切符を受け取るのに立ち会うとは思わなかった。

  • <br /> ベトナム語と中国語とロシア語が書かれた切符を私達に手渡すと、彼女はすぐに駅舎を出ていった。初めに窓口を訪れたとき、代理店らしき女性から中国語で言われたのは、同業他社にあたる「BAOLAU」のスタッフが大抵夜8時頃に来ることを知った上での説明だったのかもしれない。顧客が日本人であることしか分からないまま、駅舎で顔のわからぬ二人組を探し待っていたのだとすると、スタッフの彼女には申し訳ないことをしたと思った。<br /><br /> 切符を手に、先程より混みあってきた待合所の席に座る。後ろに座っていたのは、中国の大学名の入ったシャツを着たインド人らしき学生のグループだったが、その他の乗客は大半が中国人らしく見えた。


     ベトナム語と中国語とロシア語が書かれた切符を私達に手渡すと、彼女はすぐに駅舎を出ていった。初めに窓口を訪れたとき、代理店らしき女性から中国語で言われたのは、同業他社にあたる「BAOLAU」のスタッフが大抵夜8時頃に来ることを知った上での説明だったのかもしれない。顧客が日本人であることしか分からないまま、駅舎で顔のわからぬ二人組を探し待っていたのだとすると、スタッフの彼女には申し訳ないことをしたと思った。

     切符を手に、先程より混みあってきた待合所の席に座る。後ろに座っていたのは、中国の大学名の入ったシャツを着たインド人らしき学生のグループだったが、その他の乗客は大半が中国人らしく見えた。

  • <br /> 21時前になって改札が開き、皆がホームに出た。ホームは低く、嵩上げされていない。切符に書かれた4号車を見つけ乗務員に切符を示し、ステップを登って乗り込んだ。<br /> <br /> デッキの部分で別の乗務員に切符を手渡し、ベッドの番号が書かれたカードと交換する。番号を頼りにたどり着いたコンパートメントには、同室の先客がすでに居た。中国人の男性で、少し目線を合わせたが特に言葉を交わすこともなく、私は向かいの下段のベッドへ、同行のMは上段のベッドに上がった。以前に中国の列車で「硬臥」の寝台に乗ったことがあるが、今回は「軟臥」である。確かに床が柔らかく、長時間乗ってもさほど辛くはないだろう。


     21時前になって改札が開き、皆がホームに出た。ホームは低く、嵩上げされていない。切符に書かれた4号車を見つけ乗務員に切符を示し、ステップを登って乗り込んだ。
     
     デッキの部分で別の乗務員に切符を手渡し、ベッドの番号が書かれたカードと交換する。番号を頼りにたどり着いたコンパートメントには、同室の先客がすでに居た。中国人の男性で、少し目線を合わせたが特に言葉を交わすこともなく、私は向かいの下段のベッドへ、同行のMは上段のベッドに上がった。以前に中国の列車で「硬臥」の寝台に乗ったことがあるが、今回は「軟臥」である。確かに床が柔らかく、長時間乗ってもさほど辛くはないだろう。

  • <br /> ベッドに足を伸ばし、待合所で買ったビア・サイゴンをそっと開けたところで列車は動き出した。それから15分ほどして乗務員が巡回にやって来る。調べられるのは切符ではなく、パスポートと人民登録証。そして行き先を尋ねられた。すべての乗客が終点の南寧に行くわけではないらしい。<br /><br /> カーテンを少し捲り、動く景色を眺めてみたが、当然ながら暗闇でさほど見るべきものはない。それでも線路脇すぐに建っている灯りのついた家をみると、この家に住む人は毎晩この列車の音を聞き、時々は隣国を意識したりするんだろうか、などと思った。<br /> 車内のエアコンは効きすぎるくらいに効いていたので薄い布団を被ったが、常に現在地が気になってスマホの地図を眺めたりしていると、益々眠気も遠のいた。


     ベッドに足を伸ばし、待合所で買ったビア・サイゴンをそっと開けたところで列車は動き出した。それから15分ほどして乗務員が巡回にやって来る。調べられるのは切符ではなく、パスポートと人民登録証。そして行き先を尋ねられた。すべての乗客が終点の南寧に行くわけではないらしい。

     カーテンを少し捲り、動く景色を眺めてみたが、当然ながら暗闇でさほど見るべきものはない。それでも線路脇すぐに建っている灯りのついた家をみると、この家に住む人は毎晩この列車の音を聞き、時々は隣国を意識したりするんだろうか、などと思った。
     車内のエアコンは効きすぎるくらいに効いていたので薄い布団を被ったが、常に現在地が気になってスマホの地図を眺めたりしていると、益々眠気も遠のいた。

  • <br /> 1時前になると、乗務員が声をあげなからやって来て、乗客に降りる準備を促して廻った。全ての荷物を持って降りるとのことだったので、簡単に片付けを済ます。やがて列車が停まり、荷物を抱えた乗客達が通路に並んだ。飛行機の到着時のように皆が我先にと急ぐ様子がないのは、どうせ全員の出国手続きと列車の準備が済まない限り、出発できないことを知っているからなのだろう。


     1時前になると、乗務員が声をあげなからやって来て、乗客に降りる準備を促して廻った。全ての荷物を持って降りるとのことだったので、簡単に片付けを済ます。やがて列車が停まり、荷物を抱えた乗客達が通路に並んだ。飛行機の到着時のように皆が我先にと急ぐ様子がないのは、どうせ全員の出国手続きと列車の準備が済まない限り、出発できないことを知っているからなのだろう。

  • <br /> ベトナム最後の駅、ドンダンの駅舎はアーチが夜空に青く浮かび上がり、ハノイ旧市街で何度も感じた旧宗主国フランスの影響を思い返させた。乗客達は慣れた様子で駅舎に入り、飛行機の搭乗時に比べると遥かに簡易な、中国の地下鉄で見られるような検査機に荷物を通していく。


     ベトナム最後の駅、ドンダンの駅舎はアーチが夜空に青く浮かび上がり、ハノイ旧市街で何度も感じた旧宗主国フランスの影響を思い返させた。乗客達は慣れた様子で駅舎に入り、飛行機の搭乗時に比べると遥かに簡易な、中国の地下鉄で見られるような検査機に荷物を通していく。

  • <br /> 荷物を受け取ると、そのまま出国審査の列に並ぶ。順番を待ちながら駅舎内を眺めたとき、何より目をひいたのは、今年2月にこの駅に降り立った金正恩の写真パネルだった。装飾された列車のタラップもそのまま展示されているのを見ると、彼に対するここの人達の歓待ぶりも、また今や観光資源にさえしている様子も感じられた。<br /><br /> 米朝首脳会談のニュースを当時戸惑いながら眺めていた私にとっては、理解しがたい光景だった。そういえばハノイ旧市街の土産物屋には、トランプと金正恩の顔写真に「PEACE」とプリントされたTシャツが売られていて、皮肉か本気の楽観か、判別に迷ったことを思い出す。


     荷物を受け取ると、そのまま出国審査の列に並ぶ。順番を待ちながら駅舎内を眺めたとき、何より目をひいたのは、今年2月にこの駅に降り立った金正恩の写真パネルだった。装飾された列車のタラップもそのまま展示されているのを見ると、彼に対するここの人達の歓待ぶりも、また今や観光資源にさえしている様子も感じられた。

     米朝首脳会談のニュースを当時戸惑いながら眺めていた私にとっては、理解しがたい光景だった。そういえばハノイ旧市街の土産物屋には、トランプと金正恩の顔写真に「PEACE」とプリントされたTシャツが売られていて、皮肉か本気の楽観か、判別に迷ったことを思い出す。

  • <br /> かつて南北に分断され資本主義陣営と闘ったという共通の経験をもつ両国には、相応のシンパシーもあるのだろう。とはいえ経済開放政策が進み観光客で賑わうベトナムと、未だに世襲の独裁政権が綱渡りの外交を続ける北朝鮮、両国の社会環境の隔たりは、華やかな友好ムードで眩ませられるほど小さくない。<br /> <br /> ようやくたどり着いた出国審査の窓口でパスポートを提示する。係官はページをひとしきりめくると「No visa?」と尋ねてきた。「Yes」と答えると、隣の窓口に居合わせた中国人の若い女性が、日本人はビザがいらないのか?と英語で訊いてきた。言われてみれば私達は、随分お手軽に国境を越えられるものだ。


     かつて南北に分断され資本主義陣営と闘ったという共通の経験をもつ両国には、相応のシンパシーもあるのだろう。とはいえ経済開放政策が進み観光客で賑わうベトナムと、未だに世襲の独裁政権が綱渡りの外交を続ける北朝鮮、両国の社会環境の隔たりは、華やかな友好ムードで眩ませられるほど小さくない。
     
     ようやくたどり着いた出国審査の窓口でパスポートを提示する。係官はページをひとしきりめくると「No visa?」と尋ねてきた。「Yes」と答えると、隣の窓口に居合わせた中国人の若い女性が、日本人はビザがいらないのか?と英語で訊いてきた。言われてみれば私達は、随分お手軽に国境を越えられるものだ。

  • <br /> 駅舎を出て、暗いホームを歩いて列車に戻る。反対側の線路にも同じタイプの列車が停まっていて、目を凝らすと「河内-南宁」(ハノイ-南寧)という表示が見えた。ハノイに向かうのだろうか。もしかすると乗務員が乗り替わるのかもしれない。<br /> <br /> 手続きを待っていたのか定刻を待っていたのかわからないが、2時50分、列車は再び動き出した。車輪とレールの軋む音が響く。地図で確認すると、蛇行しながらゆっくりと山を登っているようだ。


     駅舎を出て、暗いホームを歩いて列車に戻る。反対側の線路にも同じタイプの列車が停まっていて、目を凝らすと「河内-南宁」(ハノイ-南寧)という表示が見えた。ハノイに向かうのだろうか。もしかすると乗務員が乗り替わるのかもしれない。
     
     手続きを待っていたのか定刻を待っていたのかわからないが、2時50分、列車は再び動き出した。車輪とレールの軋む音が響く。地図で確認すると、蛇行しながらゆっくりと山を登っているようだ。

  • <br /> 3時06分、画面上で現在位置を示す点が国境を跨いだ。そのまま中国側の駅に着くのかと思っていたが、国境を越えて少し進んだところでまた停車した。携帯の電波はいつの間にかChina mobileに切り替わっており、1時間の時差も自動的に修正されている。


     3時06分、画面上で現在位置を示す点が国境を跨いだ。そのまま中国側の駅に着くのかと思っていたが、国境を越えて少し進んだところでまた停車した。携帯の電波はいつの間にかChina mobileに切り替わっており、1時間の時差も自動的に修正されている。

  • <br /> 中国時間の4時半頃、列車は中国側の最初の駅、憑祥(凭祥)に停車した。ベトナム出国時と同様、一旦、皆が荷物を持って列車を降りる。<br /> 私達の荷物はそれほどでもないが、大きなスーツケースを抱えて乗り降りする人達は、さぞかし面倒なことだろう。これまでの細切れの時間で、皆どれだけ眠れているのだろうか。ゆっくり進む入国審査の列に並ぶ人達は、皆しずかだ。<br /><br /> そんななか私の少し前方に立つ男性は、一人せわしなく鞄から取り出したパンをかじっていた。やがてそれを食べ終えると、くしゃくしゃと丸めたパンの包装を列のはずれに置かれたゴミ箱に投げ入れようとして失敗した。床に落ちたゴミは、列に沿ってある規制線の向こうにあるからか、男はわざわざ拾いに行かない。一部始終を側で見ていた制服姿のスタッフも、ゴミを拾うことはないし、男に注意することもない。<br /> 皆が入国に際して記入するカードを一枚づつ取っていくなか、男が大量のカードの束を取り、鞄のポケットに詰め込むのを見て、いよいよ私は可笑しくなってきた。まるでそういう役柄を演じる名優のように、せわしなく傍若無人な男の仕草は完全に板についていた。やっと入国審査の窓口にたどり着いた彼は、つとめて無表情な審査官に「你好」と声をかけ、なにやら相談を始めたようだった。特別な事情でもあるのかと他人事ながら心配させられたが、彼は無事審査を通過し、ひときわ大きな荷物をひいて列車に戻っていった。


     中国時間の4時半頃、列車は中国側の最初の駅、憑祥(凭祥)に停車した。ベトナム出国時と同様、一旦、皆が荷物を持って列車を降りる。
     私達の荷物はそれほどでもないが、大きなスーツケースを抱えて乗り降りする人達は、さぞかし面倒なことだろう。これまでの細切れの時間で、皆どれだけ眠れているのだろうか。ゆっくり進む入国審査の列に並ぶ人達は、皆しずかだ。

     そんななか私の少し前方に立つ男性は、一人せわしなく鞄から取り出したパンをかじっていた。やがてそれを食べ終えると、くしゃくしゃと丸めたパンの包装を列のはずれに置かれたゴミ箱に投げ入れようとして失敗した。床に落ちたゴミは、列に沿ってある規制線の向こうにあるからか、男はわざわざ拾いに行かない。一部始終を側で見ていた制服姿のスタッフも、ゴミを拾うことはないし、男に注意することもない。
     皆が入国に際して記入するカードを一枚づつ取っていくなか、男が大量のカードの束を取り、鞄のポケットに詰め込むのを見て、いよいよ私は可笑しくなってきた。まるでそういう役柄を演じる名優のように、せわしなく傍若無人な男の仕草は完全に板についていた。やっと入国審査の窓口にたどり着いた彼は、つとめて無表情な審査官に「你好」と声をかけ、なにやら相談を始めたようだった。特別な事情でもあるのかと他人事ながら心配させられたが、彼は無事審査を通過し、ひときわ大きな荷物をひいて列車に戻っていった。

  • <br /> 入国審査官に「ニーハオ」って。<br /> 列車に戻った私は、車両のデッキで煙草を吸いながら、さっきの男を思い出し愉しんでいた。大量に入国カードを持っていった彼は、しょっちゅう国境を越えているのだろうか。もしかすると友人に配るのかもしれない。「ベトナムに行くならこれを持って行け。列車で事前に記入しておけば、入国の時に慌てずにすむだろう」とでも言いながら。<br /> 彼のせわしなさと傍若無人さを、周りの人は迷惑に思うかもしれない。しかし、その仕草の板についた名優ぶりが、国家のシステムたらんとする審査官氏の演技力に一歩も退かないところを見ると、私は痛快に思えてくるのだ。彼のような人物は私の周りにも一人二人思い当たる。名優達はおそらく全ての国境の内そとにいて、それぞれの板についた仕草で毎日を過ごしているのだろう。<br /><br /> 見るべきものは見た。動き出した列車も、あとは南寧を目指すだけだ。部屋に戻って横になると、私はじきに眠り就いた。


     入国審査官に「ニーハオ」って。
     列車に戻った私は、車両のデッキで煙草を吸いながら、さっきの男を思い出し愉しんでいた。大量に入国カードを持っていった彼は、しょっちゅう国境を越えているのだろうか。もしかすると友人に配るのかもしれない。「ベトナムに行くならこれを持って行け。列車で事前に記入しておけば、入国の時に慌てずにすむだろう」とでも言いながら。
     彼のせわしなさと傍若無人さを、周りの人は迷惑に思うかもしれない。しかし、その仕草の板についた名優ぶりが、国家のシステムたらんとする審査官氏の演技力に一歩も退かないところを見ると、私は痛快に思えてくるのだ。彼のような人物は私の周りにも一人二人思い当たる。名優達はおそらく全ての国境の内そとにいて、それぞれの板についた仕草で毎日を過ごしているのだろう。

     見るべきものは見た。動き出した列車も、あとは南寧を目指すだけだ。部屋に戻って横になると、私はじきに眠り就いた。

  • <br /> 目が覚めると窓の外はすっかり明るくなっていて、緑の畑と唐突に突き出た山が見えた。農村の景色はベッドから起き上がるたびに都会になってゆき、午前10時、ついに列車は終着駅に到着した。


     目が覚めると窓の外はすっかり明るくなっていて、緑の畑と唐突に突き出た山が見えた。農村の景色はベッドから起き上がるたびに都会になってゆき、午前10時、ついに列車は終着駅に到着した。

  • <br /> ホームに降りた乗客は、みな同じ方向に歩いてく。改札口は一ヶ所しかないらしい。人混みの中に、件の男を見かけた。他の列車から降りて来たらしい乗客達も一緒になり一層大きな流れになった私達は、地下道からスロープを上がり、吐き出されるようにして南寧の街に降り立った。


     ホームに降りた乗客は、みな同じ方向に歩いてく。改札口は一ヶ所しかないらしい。人混みの中に、件の男を見かけた。他の列車から降りて来たらしい乗客達も一緒になり一層大きな流れになった私達は、地下道からスロープを上がり、吐き出されるようにして南寧の街に降り立った。

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