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フィレンツェの旅行記です。約1ヶ月かけてイタリアを縦断しましたが、いちばん印象深かったフィレンツェのホテル・ビジューでの出来事を書き残そうと思います。<br /><br />* * *<br /><br />ホテル・ビジューの朝はとにかく早い。<br /><br />まだ誰もいないガランとした食堂でティナが1人、忙しなく動き回っている。この娘は本当によく働く。朝食もサーブすればフロント業務もこなす。年老いた宿泊客にインターネットの使い方を説明したりもする。<br /><br />「ボンジョルノ」と声をかけてボクはいつもの席に座る。生ハムにサラミにチーズの盛り合わせ。それにクロワッサンなど数種類のパン。さらにミルクとオレンジジュース。どこのホテルでも代わり映えしないこんなメニューが、イタリアでは何故か美味くてたまらない。<br /><br />朝食が終わる頃に、ティナがカプチーノを運んでくる。彼女は時には立ったまま、時にはテーブルの向かいの椅子に腰掛けて話してくる。<br /><br />「今日はどこに行くのか」と聞くので「川に行く」と答える。「また川か」と言うので「そうだ」と答える。<br /><br />「明日はクリスマスでショップもレストランも美術館も休みだから、今日中にウッフィツィ美術館には行っておけ」と言うので、「分かった」と答える。<br /><br />ティナの言ったことは本当で、翌日の12月25日、街中がゴーストタウンのように静かだった。やることのないボクはフィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅の側のバールで赤ワインを2本買い、ホテル・ビジューの屋上で飲んだ。ワインオープナーがなかったので、ティナに借りた。彼女はワインオープナーと一緒に小さなグラスを1つ持ってきたので、「ありがとう、でも要らないよ」と言うと、「これは私のだ」と笑った。<br /><br />凍えるようなホテルの屋上で、2人でワインを2本空けた。ドゥオーモ(大聖堂)からの眺めが絵葉書の世界ならば、ティナのホテルの屋上からは市井の生活が見える。中庭に干された洗濯物、ベランダに転がるシャンパンのコルク。そんなものを眺めながら、よく知らない女性と互いの出自や趣味、仕事のことを話しつつ、寒さに震えて過ごすクリスマスは悪くなかった。<br /><br />フィレンツェには結局、2週間ほど滞在した。最後の日も、朝食後の日課になったアルノ川への散歩に向った。川下の方向からジョガーがやってきたので、すれ違いざまに「ボンジョルノ」と声をかけてみた。するとジョガーは黙って右手を挙げて応えてくれた。その数秒後、ベッキオ橋を真っ黒く染めて、遥か向こうから穏やかな冬の太陽が昇ってきた。<br /><br />* * *<br /><br />フィレンツェは花の都と言われている、と最近になって知りました。<br />

ティナのフィレンツェ

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2015/12/02 - 2016/01/06

2952位(同エリア3770件中)

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ぞろめさん

フィレンツェの旅行記です。約1ヶ月かけてイタリアを縦断しましたが、いちばん印象深かったフィレンツェのホテル・ビジューでの出来事を書き残そうと思います。

* * *

ホテル・ビジューの朝はとにかく早い。

まだ誰もいないガランとした食堂でティナが1人、忙しなく動き回っている。この娘は本当によく働く。朝食もサーブすればフロント業務もこなす。年老いた宿泊客にインターネットの使い方を説明したりもする。

「ボンジョルノ」と声をかけてボクはいつもの席に座る。生ハムにサラミにチーズの盛り合わせ。それにクロワッサンなど数種類のパン。さらにミルクとオレンジジュース。どこのホテルでも代わり映えしないこんなメニューが、イタリアでは何故か美味くてたまらない。

朝食が終わる頃に、ティナがカプチーノを運んでくる。彼女は時には立ったまま、時にはテーブルの向かいの椅子に腰掛けて話してくる。

「今日はどこに行くのか」と聞くので「川に行く」と答える。「また川か」と言うので「そうだ」と答える。

「明日はクリスマスでショップもレストランも美術館も休みだから、今日中にウッフィツィ美術館には行っておけ」と言うので、「分かった」と答える。

ティナの言ったことは本当で、翌日の12月25日、街中がゴーストタウンのように静かだった。やることのないボクはフィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅の側のバールで赤ワインを2本買い、ホテル・ビジューの屋上で飲んだ。ワインオープナーがなかったので、ティナに借りた。彼女はワインオープナーと一緒に小さなグラスを1つ持ってきたので、「ありがとう、でも要らないよ」と言うと、「これは私のだ」と笑った。

凍えるようなホテルの屋上で、2人でワインを2本空けた。ドゥオーモ(大聖堂)からの眺めが絵葉書の世界ならば、ティナのホテルの屋上からは市井の生活が見える。中庭に干された洗濯物、ベランダに転がるシャンパンのコルク。そんなものを眺めながら、よく知らない女性と互いの出自や趣味、仕事のことを話しつつ、寒さに震えて過ごすクリスマスは悪くなかった。

フィレンツェには結局、2週間ほど滞在した。最後の日も、朝食後の日課になったアルノ川への散歩に向った。川下の方向からジョガーがやってきたので、すれ違いざまに「ボンジョルノ」と声をかけてみた。するとジョガーは黙って右手を挙げて応えてくれた。その数秒後、ベッキオ橋を真っ黒く染めて、遥か向こうから穏やかな冬の太陽が昇ってきた。

* * *

フィレンツェは花の都と言われている、と最近になって知りました。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
5.0
グルメ
5.0
ショッピング
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
100万円以上
交通手段
鉄道
旅行の手配内容
個別手配

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  • アルノ川越しに見る冬の朝日。

    アルノ川越しに見る冬の朝日。

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