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レソトという名の王国があることをご存知の方がどれほどいるだろうか?少なくとも小生は、南ア共和国を訪れるまではこの名すら聞いたことがなかった。アフリカ大陸は小生にとって全く縁のない、未知の世界だった。この国を初めて訪れた(恐らくは最初で最後)印象を記憶が薄れないうちに書き留めておこうと思う。<br /><br />レソト王国は、周囲を南アフリカ共和国に囲まれた内陸国で、イギリス連邦加盟国である。国家元首は、世襲制の国王のレツィエ3世で、立憲君主制、国民統合の象徴的地位で、政治的権力を有さない。1966年にイギリスから独立した。全土がドラケンスバーグ山脈の山中に位置するため平地が一切なく、全土の標高が1400mを超え、「アフリカのスイス」とも呼ばれるそうだ。最高峰は標高3482mのタバナントレニャナ山で、アフリカ大陸南部の最高峰でもある。<br /><br />レソトの人口は約220万人、面積約3万平方km(スイスがそれぞれ約800万人、約4.1万平方kmである)、首都はマセルで人口は約23万人、ガイドによれば唯一の都市だそうで、他には村落しかない。マセルには国際空港があるが、ダーバンからは反対側の国の西の端にあり、今回は訪れてはいない。<br /><br />南ア人の同僚に誘われてツアーに参加してしまったが、驚きの連続だ。南ア共和国との国境は世界遺産に登録されているドラケンスバーグ公園の中にある。この南ア版グランド・キャニオンについては次の旅行記でご紹介する。ダーバンでボランティア活動をしているというオランダ人の若者たちを含む総勢7人のツアー客は、サニ・パスと言う急勾配の未舗装の砂利道を四駆で登って行く。気温は一気に下がり、途中の滝は凍結している。坂を登り切った所に標高2,874mのアフリカ最高地を謳い文句にするパブがあり、レソトの入国管理はこのパブの横にある。世界でも最も簡素ではないか、と思われる入国管理局でスタンプを一つ押してもらうと、そこはタイムマシンの世界だった。<br /><br />一気に高地にのぼったため、しばらくは息苦しく、耳鳴りと頭痛に悩まされる。そこには電気がなく、農業と牧畜で生活をする、恐らくは数百年変わらぬ生活を営む人々がいた。国境から1時間ほど砂利道を走って、タバナ・ントレンヤーナという民宿?に着いた(日本語にはンで始まる言葉がないのでしりとりゲームが成立するが、アフリカにはンで始まる言葉がたくさんある)。石積みの壁と、茅葺の丸い民家の中にある二段ベッドが今日の宿だという。夜は氷点下になると言うが暖房らしいものは見当たらない。今はまだ耐えられるが、夜が思いやられる。<br /><br />夕食まで周辺をドライブする、と言うのでランドローバーに乗り込んだ。未舗装の道路を30分ほど走るとモコトロンと言う最も近い集落に着いた。ここには文明社会があり、電気も通じていた。中国人の経営するマーケットがあり、生活用品、食品が売られていた。そう言えば、道路舗装工事などを施工しているのは全て中国の車両だ。こんな所まで中国が影響力を広げているのを見て恐ろしい気がした。<br /><br />やがて日が暮れ、星がまたたきだした。電気がないため漆黒の闇だ。天の川が手の届きそうな所に流れ、その中には神々しいまでに光り輝く南十字星が浮かび上がった。これほどの星空は初めて見た。ハワイ、モーリシャスなど世界一の星空を自称する地点は数多いが、光のない標高2900mのここレソトの村に勝る所は多くはないと思う。食事の前にカルチャー・ダンスなるものを焚き火の回りで踊って見せてくれた。ドラムと笛と、音程も定かでないチェロのような弦楽器で奏でられる原始的な音楽とダンスであるが、この星空の元では神秘的な力を持って伝わってくる。<br /><br />夕食はクスクス、芋、豆類、野菜類の鍋物と、ソーセージなどを煮込んだ簡素なものだ。まずまず美味しい、と言える食事だ。食後はガイド達と談笑しながらインスタントのコーヒーを飲んだ。なお、湯や鍋料理はボンベのプロパンガスを使って調理されている。あまりの寒さに、間もなく床に入った。身につけられる衣類は全て着込んで、毛布にくるまって寝た。早朝に目覚めて、川岸にある別棟のトイレに行くが、恐怖の寒さだ。手洗い用のプラスチックボトルの水は凍結しており、お湯を入れてくれるまでは手も洗えない。<br /><br />翌日は乗馬をして幾つかの民家を訪問、女占い師と個別の面談やら粉挽き体験やら、ここでもダンスや音楽が不可欠だ。しばらくは散策をして過ごし、簡素な昼食をとって、再びサニ・パスを下って下界に降りた。慌ただしい日々に戻って数日が経つが、写真に撮ることができなかったあの夜の星空は、本当にうつつだったのかすでに定かでなくなってきた。

「天空の王国」レソト : 標高2,870m、灯りのない村で見た天の川と南十字星

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2014/06/21 - 2014/06/22

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30

ハンク

ハンクさん

レソトという名の王国があることをご存知の方がどれほどいるだろうか?少なくとも小生は、南ア共和国を訪れるまではこの名すら聞いたことがなかった。アフリカ大陸は小生にとって全く縁のない、未知の世界だった。この国を初めて訪れた(恐らくは最初で最後)印象を記憶が薄れないうちに書き留めておこうと思う。

レソト王国は、周囲を南アフリカ共和国に囲まれた内陸国で、イギリス連邦加盟国である。国家元首は、世襲制の国王のレツィエ3世で、立憲君主制、国民統合の象徴的地位で、政治的権力を有さない。1966年にイギリスから独立した。全土がドラケンスバーグ山脈の山中に位置するため平地が一切なく、全土の標高が1400mを超え、「アフリカのスイス」とも呼ばれるそうだ。最高峰は標高3482mのタバナントレニャナ山で、アフリカ大陸南部の最高峰でもある。

レソトの人口は約220万人、面積約3万平方km(スイスがそれぞれ約800万人、約4.1万平方kmである)、首都はマセルで人口は約23万人、ガイドによれば唯一の都市だそうで、他には村落しかない。マセルには国際空港があるが、ダーバンからは反対側の国の西の端にあり、今回は訪れてはいない。

南ア人の同僚に誘われてツアーに参加してしまったが、驚きの連続だ。南ア共和国との国境は世界遺産に登録されているドラケンスバーグ公園の中にある。この南ア版グランド・キャニオンについては次の旅行記でご紹介する。ダーバンでボランティア活動をしているというオランダ人の若者たちを含む総勢7人のツアー客は、サニ・パスと言う急勾配の未舗装の砂利道を四駆で登って行く。気温は一気に下がり、途中の滝は凍結している。坂を登り切った所に標高2,874mのアフリカ最高地を謳い文句にするパブがあり、レソトの入国管理はこのパブの横にある。世界でも最も簡素ではないか、と思われる入国管理局でスタンプを一つ押してもらうと、そこはタイムマシンの世界だった。

一気に高地にのぼったため、しばらくは息苦しく、耳鳴りと頭痛に悩まされる。そこには電気がなく、農業と牧畜で生活をする、恐らくは数百年変わらぬ生活を営む人々がいた。国境から1時間ほど砂利道を走って、タバナ・ントレンヤーナという民宿?に着いた(日本語にはンで始まる言葉がないのでしりとりゲームが成立するが、アフリカにはンで始まる言葉がたくさんある)。石積みの壁と、茅葺の丸い民家の中にある二段ベッドが今日の宿だという。夜は氷点下になると言うが暖房らしいものは見当たらない。今はまだ耐えられるが、夜が思いやられる。

夕食まで周辺をドライブする、と言うのでランドローバーに乗り込んだ。未舗装の道路を30分ほど走るとモコトロンと言う最も近い集落に着いた。ここには文明社会があり、電気も通じていた。中国人の経営するマーケットがあり、生活用品、食品が売られていた。そう言えば、道路舗装工事などを施工しているのは全て中国の車両だ。こんな所まで中国が影響力を広げているのを見て恐ろしい気がした。

やがて日が暮れ、星がまたたきだした。電気がないため漆黒の闇だ。天の川が手の届きそうな所に流れ、その中には神々しいまでに光り輝く南十字星が浮かび上がった。これほどの星空は初めて見た。ハワイ、モーリシャスなど世界一の星空を自称する地点は数多いが、光のない標高2900mのここレソトの村に勝る所は多くはないと思う。食事の前にカルチャー・ダンスなるものを焚き火の回りで踊って見せてくれた。ドラムと笛と、音程も定かでないチェロのような弦楽器で奏でられる原始的な音楽とダンスであるが、この星空の元では神秘的な力を持って伝わってくる。

夕食はクスクス、芋、豆類、野菜類の鍋物と、ソーセージなどを煮込んだ簡素なものだ。まずまず美味しい、と言える食事だ。食後はガイド達と談笑しながらインスタントのコーヒーを飲んだ。なお、湯や鍋料理はボンベのプロパンガスを使って調理されている。あまりの寒さに、間もなく床に入った。身につけられる衣類は全て着込んで、毛布にくるまって寝た。早朝に目覚めて、川岸にある別棟のトイレに行くが、恐怖の寒さだ。手洗い用のプラスチックボトルの水は凍結しており、お湯を入れてくれるまでは手も洗えない。

翌日は乗馬をして幾つかの民家を訪問、女占い師と個別の面談やら粉挽き体験やら、ここでもダンスや音楽が不可欠だ。しばらくは散策をして過ごし、簡素な昼食をとって、再びサニ・パスを下って下界に降りた。慌ただしい日々に戻って数日が経つが、写真に撮ることができなかったあの夜の星空は、本当にうつつだったのかすでに定かでなくなってきた。

旅行の満足度
4.0
観光
4.0
ホテル
3.0
グルメ
3.0
交通
3.0
同行者
友人
一人あたり費用
1万円 - 3万円
交通手段
高速・路線バス レンタカー 徒歩
航空会社
南アフリカ航空
旅行の手配内容
個別手配
  • 南ア共和国の出入国事務所

    南ア共和国の出入国事務所

  • サニ・パスの山道を四駆で超えていく

    サニ・パスの山道を四駆で超えていく

  • サニ・パスの南ア共和国の出入国事務所

    サニ・パスの南ア共和国の出入国事務所

  • 途中の滝は凍結している

    途中の滝は凍結している

  • サニ・パスの終点は2,865mの高地

    サニ・パスの終点は2,865mの高地

  • レソトの出入国管理事務所

    レソトの出入国管理事務所

  • 転落した自動車を置いて注意喚起

    転落した自動車を置いて注意喚起

  • 標高2,874m、アフリカ最高地にあるパブ

    イチオシ

    標高2,874m、アフリカ最高地にあるパブ

  • タバナ・ントレンヤーナという民宿?

    タバナ・ントレンヤーナという民宿?

  • 今日の宿は空調のない2段ベッド

    今日の宿は空調のない2段ベッド

  • 民家の調理場、プロパンガスはあるが電気はない

    民家の調理場、プロパンガスはあるが電気はない

  • 川沿いにあるトイレ、早朝は恐怖の寒さだ

    川沿いにあるトイレ、早朝は恐怖の寒さだ

  • 民族衣装にくるまった地元の人

    民族衣装にくるまった地元の人

  • 民族衣装にくるまった地元の人々

    民族衣装にくるまった地元の人々

  • 牧草を運ぶロバ

    牧草を運ぶロバ

  • 牛の群れを追う少年

    イチオシ

    牛の群れを追う少年

  • モコトロンの町のショッピングセンター前に停まるタクシー

    モコトロンの町のショッピングセンター前に停まるタクシー

  • モコトロンのショッピングセンター

    モコトロンのショッピングセンター

  • 夕陽に染まる山

    夕陽に染まる山

  • 調理場で夕食の準備

    調理場で夕食の準備

  • 簡素なディナーテーブル

    簡素なディナーテーブル

  • カルチャーダンスを披露してくれる地元の人々

    カルチャーダンスを披露してくれる地元の人々

  • カルチャーダンスを披露してくれる地元の人々

    カルチャーダンスを披露してくれる地元の人々

  • 夕食のクスクス、ソーセージのスープ煮、野菜など

    夕食のクスクス、ソーセージのスープ煮、野菜など

  • 盛り付けた夕食のクスクス、ソーセージのスープ煮、野菜など

    盛り付けた夕食のクスクス、ソーセージのスープ煮、野菜など

  • レソトの民家

    レソトの民家

  • 山の斜面を馬が歩む

    山の斜面を馬が歩む

  • 粉を挽きながら踊る人々

    粉を挽きながら踊る人々

  • ドラムをたたく子供たち

    ドラムをたたく子供たち

  • タバナ・ントレンヤーナという民宿に別れを告げる

    タバナ・ントレンヤーナという民宿に別れを告げる

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この旅行記へのコメント (1)

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  • tadさん 2014/07/09 00:27:50
    すばらしい!
    さすがのハンクさんでも、珍しいタイプの旅行記ですね!星空がすばらしかった話しはさもあらんと思いましたね。私の記憶するベストの星空はカルフォーニアの砂漠の真ん中で、自動車を深夜近くに止めて、空を見たときの記憶です。ハンクさんの見られたものほどではなかったかも知れませんが、湿度のない砂漠の星空も怖いほど、星が見えました。星がまったくちらつかないので、怖いほどでした。。。
    あれ以来星はたくさん見えればいいというものでもないと思っています。

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