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大口市恒例、春の市へ・・

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1989/04/05 - 1989/04/06

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 初めて来た鹿児島なのに、市内には向かわず、空港からそのまま路線バスで北上。熊本県境にほど近い大口市にやってきた。

 市恒例の“春の市”には露店が数百mも並び、久しぶりに長閑な気分で縁日を楽しんだ。
 焼酎の試飲に薩摩しゃもの焼鳥、植木に竹籠売りなど、都会では余り見られなくなった出店が、旅情をいや増してくれる。

 そぞろ歩いていると、昔懐かしい啖呵売が聞こえてきた。
 この道50年、“フーテンの寅”さんと同じく、口上ひとつで鋸を売りさばく、弥吉一夫さんが声の主だった。

「まぁ買う買わんは別。見るだけ見てやって下さい。黙って持っていかなければ、よかじゃから・・。気に入らにゃあ、鼻くそのひとつもひっ着けて下さい」

 見事な話芸に昇華した名調子は、今も目を閉じれば耳の底で蘇る。
 バスを待つ間、大口ふれあいセンターを覗いてみた。売店で地元産の土産物を物色してみたが、なかなかこれはと思うものがない。店内を1周半したところで、店員の女性が話しかけてきた。

「どこから来たの?」
「東京から」
「なにしに?」
「ふらっと」
「これからどこへ?」
「これといって決めてません」
「なら温泉でも行けば・・」

 こんな会話をしているうちに、カウンターの下から取り出したのが、「更生之素」なる缶詰だった。
 値段も、1缶250円と安いのも嬉しい。

「これね、地元の高校で昔から作ってて、1人3個までしか売れない限定品なの。市販の豚みそより安いし、お奨めよ」

 確かに製造元の欄には、鹿児島県立伊佐農林高等学校と印刷してある。奇妙な商品名といいい、曰くありげなラベルも気になるので、試しに買い求めることにした。

 食べてみると、味もなかなかイケル。
 熱々ご飯にのせてもいいし、チャーハンの味つけにもグッド。そのまま舐めれば酒の肴にもなり、すっかり気に入ってしまった。

 謎を解明するべく、高校に問い合わせたところ、小原正俊校長から丁重なFAXを戴いた。しかも、驚くべきことが書かれてある。

「昭和初期、農村の肥料自給のために、豚を3頭ずつ飼わせる政策が取られたが、豚が成長し繁殖するにつれて、市場の豚肉の値が暴落。困ったあげく、加工品にしてさばこうと缶詰にし、農村経済の更生と健康の願いを込めて、『更生之素』と命名しました」

 原料は、豚の挽き肉に麦味噌、そして砂糖に生姜。
 昭和7年発売時の生産量は、年間わずか960個しかなかった。
 しかし3年後、支那事変に出征した兵士の慰問袋に、この缶詰が入っていたことから、事態が一変する。

 兵士から、伊佐高校宛にこんな手紙が届いた。
「野戦に無二の好副食物と存じ候(将校一同の賞賛を博し申候)。
 誠に不躾ながら、小包便にて御送付方、御依頼申上る次第にて候」

 この噂が次第に広まり、ついには軍本部の耳に届き、軍用品として正式に採用される。
 さらに時の総理大臣・斎藤実にも注目され、
「農村の更生に役立つのみならず、国民の体位向上にも資する」
 と、絶賛。
 『更生之素』と書いた扁額も贈って、激賞した。

 その結果、生産量は一気に2万個に跳ね上がってしまう。
 全国農学校作品展でも銀牌を受賞し、専売特許も取得した、由緒正しき鹿児島県の特産品なのである。

 50年間の特許期限が切れ、今では他の農業高校や、土産業者でも作っているが、総理大臣のお墨付きの、正真正銘・元祖の品に巡り会えた幸運に、感謝しておこう。

 http://www.edu.pref.kagoshima.jp/sh/Isa/



 

同行者
一人旅
交通手段
高速・路線バス

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