1996/01/14 - 1996/01/29
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ちびのぱぱさん
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たった一枚の広告が、ずうっと脳裏に焼き付いている
青い碧い海の上を、道路が走っている
どこまでも、どこまでも
きっと、合成写真なのだと思っていました。
二十歳になったばかりの私は、こんな海の上をどこまでも走る道など、この世に存在するわけがないとあたまから否定していたのです。
でも、本当にそんな場所があるのだということを、数年たったある日、本屋で立ち読みしたガイドブックで知りました。
それからまた十年が過ぎた1996年……。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 同行者
- カップル・夫婦
- 交通手段
- レンタカー
- 航空会社
- ユナイテッド航空
- 旅行の手配内容
- 個別手配
PR
-
レンタカーを借り出すのは、いくつもの書類にサインをしなければならない、面倒で気疲れする作業だけど、映画女優みたいなきれいな女性が、パンフレットを見せながら、あれやこれやとオプションを説明しつつ手続きを進めてくれます。
吸い込まれるような瞳に、言われるままに、イニシャルのサインを、いくつも記入して、ようやく借りられた車はフォードのコンパクトカーで、これといって特徴のない、まるで日本車のように無愛想なやつでした。
無意味にでかい、アメリカ的自己顕示の象徴のような車に乗って、
ラジオからウルフマン・ジャックのDJががんがん流れている、
そんなドライブをちょっとでも想像していたとすれば、
わたしはアメリカに来るのが遅すぎたと言わなければなりません。
私らは、プロレスラーのような黒人のクルーから車を受けとると、そのまま東へ東へと、つまり大西洋岸に向かって突き進みました。
アメリカ旅行の途上、フロリダ半島を三日ほどドライブ。
全長2390マイルのアメリカ国道一号線。
そのどんづまりは、ヘミングウェイが最後の1ペニーまで使い果たした(と言った)キーウェスト。
そこで車を捨て、
海の上の滑走路から飛行機で飛び立ったら、
きっと自分は、アメリカの、
はぐれ雲のひとつになってしまうのではないか……
そんな、期待が胸を突きました。
でも、今はもう忘れてしまった何かの理由で、マイアミ空港までもどることにしました。
アメリカでレンタカーは、空港で借りて空港で返すのが一番簡単です。
レンタカー屋でもらったフロリダの地図には、ディズニーワールドとかあるオーランドから、フロリダ528号が、真東にのびています。
そのずっと先に、大西洋岸に沿って皮下脂肪のように、潟が広がっていました。
南北100キロにわたるホワイトホース湾です。
歴とした国土をあらわすには、あまりにも大人げない地形に思え、そこはいったいどのような景色になっているのか、どうしても見てみたくなりました。
もあっとして、とらえどころのないの道端には、随所に田舎くさいフル−ツスタンドがあって、おばさんがいかにも普段着で店番をしています。
このとき店先に並んでいたのはオレンジで、1ドルも出せば10個ほどつまった袋をもらえます。
「おいしいわよ。買ってきなさいよ。」
買ったオレンジはつぶぞろいが悪く、農家のおばさんのかわいい笑顔に、いわばだまされたカタチです。
車は、つきぬけた青天下の一本道をどんどん進みます。
やがて前方に、ロケットが見えてきました。 -
地図で確認してみると、そこはケープカナベラルでした。
名前はよく知っていましたが、こんなところにあるのは正直知りませんでした。
「スペースキャンプ」などのハリウッド映画に登場した宇宙船の発射基地です。
映画「スペースキャンプ」は、まちがって、少年少女が宇宙にいっちゃうんですけど、力を合わせて地球に帰ってくるんですね。
そしてその経験を通して、大人へと成長してゆく。
十五少年漂流記の宇宙版かな。
荒唐無稽にならないところが、ハリウッド映画の底力です。 -
だだ広い駐車場に、ナンバーを覚えてやらねば見失いそうな無表情なフォードを置いてゆくのは、ちょっと不安で、何度か振り返ってしまう。
照りつけるフロリダの太陽の下、てくてく歩いて、敷地を囲む大きな堀を渡るとき、何か動くものが水面に浮かんできました。
写真ではわかりにくいですが、甲羅だけで50センチはあろうかという「スッポン」でした。
すっぽん料理はおろか、日本でさえ、野生のスッポンなどというものには、お目にかかったことがないので、目がくぎ付けです。
しかも、奴らは凶暴で、たくましい生命力を持つというイメージを、宝仙堂の新聞広告で植え付けられています。
調べてみると、このあたりのものはフロリダスッポンという固有種で、日本などで見かけるキョクトウスッポンより、かなり大きくなるようです。
スペースセンターで巨大スッポンを見ることになるとは、夢にも思いませんでした。 -
スッポン観察にも飽きてきたので、基地内に入ると、大勢の見学者が訪れ、レストランやスペースシャトルはじめ様々な展示物があり、ちょっとしたテーマパークのようです。
-
スペースシャトルの実物が展示。
中を見学することができます。
少し離れたところに、大きな御影石の石碑があって、それはちょうど10年前の1986年、スペースシャトル、チャレンジャーの事故によって失われた人々の名が刻まれていました。
そこには初の日系飛行士だったオニヅカ氏の名前も見いだされました。
スペースシャトルチャレンジャーの事故……、チャレンジには犠牲はつきもの、なのでしょうか。 -
宇宙服というのは、色々な意味で重そうです。
考えてみれば、これで宇宙空間を泳いだり、月面を歩いたりするわけです。
この生命維持装置つきワンピースに、絶対の信頼を置いていなければ、すべての懐かしいものから孤絶した宇宙空間に飛び出すなど、とうていできないことだと、ひとり何度も合点しました。 -
ホワイトホース湾は、ようは変哲のない水たまりであり、ただ大きなだけでした。
わたくしは、何を期待していたのでしょう。 -
それでも、
左に大西洋、右にどこまでも続く広大な潟、というドライブは、
すぐに飽きて退屈するという欠点がなければ、
それなりに感動ものです。 -
マイアミに着くころには日が傾き、
見上げると、
宣伝用の飛行船が、
ゆっくりと上空を通過してゆきます。
潟のほうにゆっくりと沈んでゆく夕日、
大西洋上空で電光板を点滅させる飛行船、
そのコントラストが引き金となって、もの悲しい気持ちに捕らわれました。 -
マイアミアッパーイーストに入る少し手前に、インターナショナルインと言うちょっと憂鬱な構えのモーテルがあって、ひとり20ドルくらいで朝食込み。
チェックインした部屋をみまわすと、調度類は古く少しがたがきており、幾重にも塗り重ねられた配管の塗料が、ひびわれています。
荷を解いてベッドに腰を下ろすと、どうしたものか、とつぜん、里心が付きました。
なにやらむしょうに、日本が恋しくなったのです。
先ほど見た飛行船のせいだろうか……
日本を出て10日ほどしかたっていないのに。
フロリダというのはほんとうに果ての果てなのです。
気がつくと、おなかがすいていますし、ひどく疲れている。
おっくうですが再び車に乗り、桟橋(J.Fケネディコーズウェイ)を通って町に出てみると、すぐに大きなスーパーがありました。
午後8時をまわって客足の遠のいた店内は、店じまいの気配があります。
すぐに食べられるものを探して総菜コーナーに行くと、なんとパックに入った寿司が売られていました。
「すしだよ!」
「ほんとだ、こんなアメリカの果てに寿司があるなんて!」
当時は、まだ珍しかったと思います。
エビとマグロの握りと……
いったいこの地の果てで、だれがこんなものをつくっているのでしょう。
よく冷えたバドワイザーと一緒に買い込んで、ホテルの部屋に帰ってやらかしました。
今から考えると、シャリも硬く、たいした寿司ではなかったと思いますが、そのときのわたしには、涙が出るほどうれしく感じられました。
やがて空腹が満たされ、ビールの酔いがまわるにつれ、
先ほどの景色は打って変わり、
灯がともるホテル前のウォーターフロントは、
まるでベニスのサンマルコ広場のように、
思えてくるのでした。 -
翌朝、あらためて見ると、豪華ホテルではありませんが、それなりにリゾートしてます。
ウォーターフロントですし、そういえば夜には灯りがともってなかなか雰囲気ありました。 -
思えば、ホテル代が安くないマイアミでは、このような宿の存在は助かります。
-
マイアミのビーチに車を走らせると、朝日にきらめく波が、冬の海とは思えない暖かな色で踊っています。
波打ち際には千鳥の群れが、寄せては返す波にあわせて、チドリ足。
イヤホンをつけてなにかのミュージックを聴きながら、脇目もふらずウオーキングをする水着の女性。
と思ったら、サングラスごしにこちらに目を向けていました。
妻は、波に引き寄せられるように、脱いだサンダルを手に持って歩いてゆきます。 -
ビーチの近く、アールデコのおしゃれな旧市街にを走り、
-
コーズウェイを通り、豪華客船の停泊するハーバーをぬけて進めば、マイアミのダウンタウン。
驚くような大都会で、光り輝く摩天楼に見とれているうちに、フォードはいつの間にか国道1号線に踏み込んでいました。
「あれ、これ1号線だ。」
道ばたのサインに教えられました。
あこがれの国道1号線、心の準備もなにもあったものではないです。
遠くカナダの国境から、遙か南の海上のキーウェストまで延々と続く道……。
その途上に、あのセブンマイルブリッジもあるのでしょう。 -
地図で見ると、フロリダキーズと呼ばれる島々をつないで、ほんとうに海の上を300キロも伝って、キーウェストまでゆくのです。
いったいいつ頃こんなものを作ったのかと調べてみると……
かのロックフェラーの右腕だったヘンリー・フラグラーという実業家が、フロリダの観光地としてのポテンシャルに目をつけ、
19世紀から20世紀に変わる頃、フロリダ東海岸鉄道という線路を一気に海の上に延ばして、キーウェストまでつなげたと言います。
もう、百年も昔に、海の上を延々と走る汽車が存在したのです!
海の上を駈ける列車、それはどんな乗り物だったのか……
想像するだけで、胸が高鳴ります。
人々は、この乗り物に、熱狂したことでしょう。 -
国道1号線を南下すると、しばらくは殺風景な景色を進みますが、やがて海の香りがしてきます。
明日の午後のマイアミ発の飛行機で発つことになっていますから、びゅんびゅんとばしていたいましたが、
島嶼部に入ってまもなく右手に“マリーナ”の表示が見えたので、そこを折れて、ちょっと寄り道してみることにしました。
「わあー、すてきー。」
静かな運河のようなマリーナには、クルーザーやボートが繋がれていました。
キーマイアというこの島の地元の人と話をすると、ここではみんなボートを持っていて、車代わりで使っているのだと言う。
「本当ですか。」
「ああ。バックカントリーはもう行ったかい?」
「えっ。バッ、バッ?」
「バックカントリーさ。運がよけりゃ、マナティーやワニとか見れるんだよ。」
「へえ、そんな良いところなんだ。」
“Back Country ”
最近になって日本でも耳にするようになった言葉ですが、「奥地」とでもいうのでしょうか。
こちらの人の使い方では、自然の豊かな場所、みたいな感じで使ってました。
彼の名はデイブといって、厚木の基地にいたこともあると言いました。
しばらく経って、彼が日本に送ってくれた写真には、巨大な魚を釣り上げてガッツポーズをするご本人が写ってました。
-
海の上に出た1号線は、キーウエストを目指します。
本当に、どこまでもどこまでも海の上を行くのです。
そして、その途中の島々がすばらしいのです!
もし、これらの島をひとつずつ寄り道していたら、ひと月でもかかってしまうでしょう。
はじめは無愛想と思っていたフォードが、醤油顔というのでしょうか……なんだか、少し味のあるやつにおもえてきました。
その醤油顔が、やがて、かのセブンマイルブリッヂに差し掛かります。
「ここにずっと前から来たかった。」
「ふしぎなところだね、よくこんな道つくったね。」
写真はこんなのしかありませんが、いま走っているのが有名なセブンマイルブリッジです。
前方が、たぶん船舶の通行用に、道が跨線橋になっています。 -
海上を走っていた道がぐんぐん上っていって、そのまま空へ飛んでいってしまうかと思うと頂上に達し、その頂上からの眺めがすばらしい!
まるでジェットコースターです。
「この頂上で車を停めて景色を眺めたら、やっぱりおこられるかな。」
それは思いとどまりましたが、きっと、ここを通った誰もが、一度はそんなことを考えるのではないかと思うのでした。
右手には、かつて走っていた東海岸鉄道の名残が残されていて、釣り人が点々と糸を垂れているのが見えます。
この鉄道は、1935年にフロリダをおそったレーバーデイハリケーンで、破壊されてしまいました。
その2年後には鉄道のかわりに、自動車道路がつくられたのです。
時代の流れですね。 -
そして、このセブンマイルブリッジは1982年5月24日に開通しました。
つまり私が目にしたタバコのコマーシャルは、この橋ができて間もなく撮られたものだったのか…… -
キーウェスト。
ヘミングウェイの家。
彼がここに住んでいたのは、1928〜39年の12年たらず。
そのあいだに、フロリダ東海岸鉄道はハリケーンで壊されて、道路へと変わりました。 -
アーネスト・ミラー・ヘミングウェイの六本指のネコと、観光客が歩き回る敷地には、足を踏み入れませんでした。
文豪というのは、元来ネコ好きなのです。 -
キーウェスト島内を走る観光用のトロリー。
フロリダ東海岸鉄道を走っていたのが、
こんな機関車だったとしたら、
強風にあおられて、一人や二人の乗客が、
海に落ちたのかも知れないと……
想像してみました。 -
一月の海辺に出ると……
-
ゲイのカップル……
-
この時期のキーウェストの宿はどこも値が張ります。
しかたなく、今来た海の上を戻って、
海と空を真っ赤に染めた太陽が、
水平線の近くの雲の中にゆっくり消えたころ、
マラトンという島に手頃な宿を見つけました。 -
夜……
近くのコンビニで買った
「カップ ア ラーメン」とバドワイザーを
涼しくなったベランダで食べると、
うるさいほどの虫の声を従えた明るい月が、
夜空にぽっかりと浮かんでいました。 -
よくあさ
-
宿の前ではペリカンが海の上に出た細い棒の上に上手にとまって羽を休めています。
いつか見たタバコの広告に惹かれてやってきたフロリダキーズですが、たった1泊ではあまりにもったいない。
「いつか、もっとゆっくり来たいね。」
「そうだね。」 -
-
言い忘れましたが、わたしは勘違いしておりました。
アメリカ国道1号線は、キーウェストが終点ではありません。
キーウェストが起点なのです。
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